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第十二章 譲れないもの
恩知らず
「えっ……何? 一体何が起こったの?」
透耶の視線が他へ向いたことにより、金縛りから解放されたような感覚になったラズリは、驚いて奏の後ろから顔を出した。
と同時に、目に飛び込んできた光景を見て、大きく目を見開く。
「いたっ! いたた……っ、この、なんだこの鳥は? 何故こんな生き物が室内にいるのだ」
驚くべきことに、ラズリが自分の体内から排出した黒い靄で作った鳥が、どうしてだか透耶の頭をつついている。自分は何も言っていないし、部屋の隅で大人しくしているものと思っていたのに。
ど、どうしてあの鳥が……!
驚いたのは束の間。次の瞬間には『ヤバい』と思い至り、ラズリは鳥を止めるために飛び出そうとして──寸前で腕を横に広げた奏によって、止められた。
「奏! なんで……!」
このままじゃ、あの子が青氷の魔神に──!
と続けようとしたラズリの言葉を遮ったのは、この場の雰囲気に似つかわしくない、穏やかな闇の声だった。
「こらこら、いくら腹が立ったとはいえ、人をつついてはいけませんよ。ね? ピーちゃん」
いつの間に名前を付けたのか──闇は透耶が追い払おうと必死になっている鳥の首を片手でがっしりとつかむと、無理やり手元へと引き寄せる。
「青氷の魔神殿。この子はラズリ殿が大切にしている鳥なのです。ですからどうか今回の無礼は、許してあげてはいただけませんか?」
若干上目遣いで──鳥にも同じ角度を強要しながら──闇は透耶に許しを請う。
普段の彼であれば、たとえ自分以外の魔神の配下とはいえ、お気に入りの闇が頼んできたのなら、受け入れたかもしれない。だが今日は殊のほか機嫌が悪く、どんなに闇に頼まれようとも受け入れる気にはなれなかった。
「悪いが、今日だけは無理だ。そこの人間の女も、鳥も、奏のやつも、余に対し不敬な態度をとった。これだけの者どもに侮辱されたにも拘わらず、それを許しては余の権威に関わる。故に絶対に許すことは──」
「そうですか」
まだ喋り続けていた透耶の言葉を、唐突に闇が遮る。
「お、おい闇。まだ余が──」
「もう良いです。貴方の話など、これ以上聞く気はありません」
慌てて言葉を続けようとする透耶を、またも闇は遮ってしまう。
「先ほどの言葉と貴方のラズリ殿に対する態度だけで、貴方がいかに恩知らずで物事をよく見ておらず、その場の状況のみで判断する方なのかということがよく分かりました。これにより、私が貴方の配下となることは永遠にないと裏付けられる結果になったと思います」
「ええっ⁉︎ ちょ、ちょっと闇、それはどういうことだ?」
予想外の言葉が闇の口から飛び出し、目に見えて透耶が慌てる。が、もう遅い。
闇の瞳は、既に透耶からラズリの方へと向いていた。
「……ラズリ殿、非常に心苦しいお願いなのですが、先ほど青麻殿から剥がしていただいた札を、元に戻していただいてもよろしいですか?」
「えっ⁉︎」
剥がした札を、また彼に──?
にわかには信じがたいことを言われ、ラズリは闇と札と青麻を順々に見てしまう。
剥がした札を元に戻すということは──もう一度貼り付けるということで良いのだろうか。でもそんなことをしたら、今度こそ彼は消滅してしまうのでは?
せっかく今は落ち着いているように見えるのに、札を貼り付けたら、きっとまた彼は苦しむはずで。
「それが……分かってるのに?」
消え入りそうな声で尋ねると、闇は大きくうなずいた。
透耶の視線が他へ向いたことにより、金縛りから解放されたような感覚になったラズリは、驚いて奏の後ろから顔を出した。
と同時に、目に飛び込んできた光景を見て、大きく目を見開く。
「いたっ! いたた……っ、この、なんだこの鳥は? 何故こんな生き物が室内にいるのだ」
驚くべきことに、ラズリが自分の体内から排出した黒い靄で作った鳥が、どうしてだか透耶の頭をつついている。自分は何も言っていないし、部屋の隅で大人しくしているものと思っていたのに。
ど、どうしてあの鳥が……!
驚いたのは束の間。次の瞬間には『ヤバい』と思い至り、ラズリは鳥を止めるために飛び出そうとして──寸前で腕を横に広げた奏によって、止められた。
「奏! なんで……!」
このままじゃ、あの子が青氷の魔神に──!
と続けようとしたラズリの言葉を遮ったのは、この場の雰囲気に似つかわしくない、穏やかな闇の声だった。
「こらこら、いくら腹が立ったとはいえ、人をつついてはいけませんよ。ね? ピーちゃん」
いつの間に名前を付けたのか──闇は透耶が追い払おうと必死になっている鳥の首を片手でがっしりとつかむと、無理やり手元へと引き寄せる。
「青氷の魔神殿。この子はラズリ殿が大切にしている鳥なのです。ですからどうか今回の無礼は、許してあげてはいただけませんか?」
若干上目遣いで──鳥にも同じ角度を強要しながら──闇は透耶に許しを請う。
普段の彼であれば、たとえ自分以外の魔神の配下とはいえ、お気に入りの闇が頼んできたのなら、受け入れたかもしれない。だが今日は殊のほか機嫌が悪く、どんなに闇に頼まれようとも受け入れる気にはなれなかった。
「悪いが、今日だけは無理だ。そこの人間の女も、鳥も、奏のやつも、余に対し不敬な態度をとった。これだけの者どもに侮辱されたにも拘わらず、それを許しては余の権威に関わる。故に絶対に許すことは──」
「そうですか」
まだ喋り続けていた透耶の言葉を、唐突に闇が遮る。
「お、おい闇。まだ余が──」
「もう良いです。貴方の話など、これ以上聞く気はありません」
慌てて言葉を続けようとする透耶を、またも闇は遮ってしまう。
「先ほどの言葉と貴方のラズリ殿に対する態度だけで、貴方がいかに恩知らずで物事をよく見ておらず、その場の状況のみで判断する方なのかということがよく分かりました。これにより、私が貴方の配下となることは永遠にないと裏付けられる結果になったと思います」
「ええっ⁉︎ ちょ、ちょっと闇、それはどういうことだ?」
予想外の言葉が闇の口から飛び出し、目に見えて透耶が慌てる。が、もう遅い。
闇の瞳は、既に透耶からラズリの方へと向いていた。
「……ラズリ殿、非常に心苦しいお願いなのですが、先ほど青麻殿から剥がしていただいた札を、元に戻していただいてもよろしいですか?」
「えっ⁉︎」
剥がした札を、また彼に──?
にわかには信じがたいことを言われ、ラズリは闇と札と青麻を順々に見てしまう。
剥がした札を元に戻すということは──もう一度貼り付けるということで良いのだろうか。でもそんなことをしたら、今度こそ彼は消滅してしまうのでは?
せっかく今は落ち着いているように見えるのに、札を貼り付けたら、きっとまた彼は苦しむはずで。
「それが……分かってるのに?」
消え入りそうな声で尋ねると、闇は大きくうなずいた。
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