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第十二章 譲れないもの
苛まれる者
闇を見て、札を見て、青麻を見る。
そしてまた闇を見て、札を見て、青麻を──そんなことを繰り返していたら、呆れたような奏の声が頭上から降ってきた。
「なーにやってんだ? あいつのことなんて気にしなくて良いから、パパッとその札貼っちまえよ」
「で、でも、これを貼ったらあの人は……」
また苦しむんじゃないの? とは言えずに、ラズリは俯き、唇を引き結ぶ。
下手なことを言ったら、また透耶が怒るかもしれないと思ったからだ。先ほどは怒鳴られるだけで済んだが、次に怒らせたら、今度こそこちらに危害を加えてくるかもしれない。
そうなったら自分達はもちろんのこと、宿屋だって──若しくは街だって──無事ではいられないだろう。
自分が不用意に発した一言が引き金となって、そんなことになるのはごめんだし、できることなら回避したいと考えるのは当然だ。だからこそ、敢えて皆まで言わなかったというのに──。
「別に青麻はそもそも透耶の配下なんだから、あそこまで言われて助けてやる義理なんかない。だからさっさとそれ、戻しちまおうぜ」
せっかくのラズリの気遣いを、サラッと無にしてしまう奏。
思ったことを素直に口にするのはある意味美徳かもしれないが、彼の場合はあまりにも素直に言いすぎているような気がする。
せめてもう少しぐらい歯に衣着せてくれたら、少しは自分の精神的負担も減るだろうに。
「時に、貴様……その紙切れのようなものは、一体なんだ?」
複雑なラズリの心境に気付いてくれたのか、どうなのか──恐らく違うと思うが──そこでようやく透耶が、ラズリの手の中にある札へ興味を示した。
それからふとラズリの背後へと視線を移し、「そっちにも一枚同じような物が落ちてるな」と続ける。
「もしやそれが……先ほど貴様が──」
「青氷の魔神殿。〝貴様″ではなく〝ラズリ殿″です。よろしいですか?」
間髪容れず突っ込んだ闇に、ラズリは内心で「ひえっ」と声を上げたが、透耶は特に何も思わなかったらしい。素直に「う、うむ。分かった」と答えると、律儀に言い直してきた。
「ラ、ラズリよ。そなたの持つ紙切れが、先ほどまで青麻に貼り付けられていた物ということで相違ないか?」
「は、はい。そうです……」
つい先ほどまで怒っていたのに、どういう心境の変化なのだろうか。結果的には良かったが、突然彼が怒りを収めた理由が分からない。
魔性の感情の起伏は難しい──と思いつつ、ラズリは若干まだ怯えながらも精一杯の愛想笑いを浮かべた。
これで妙な文句や難癖をつけられなければ、平和的な解決が望めそうだ。
どうか、何事もなく話が進みますように……!
ほぼ毎回火種を蒔き散らす奏に一度目線をやってから、ラズリは心底からそう願った。
※※※※
──魔力が、抜き取られていく。
どのような仕掛けになっているのかよく分からないが、腕に貼り付けられた紙切れから、再び魔力が抜き取られていくような感覚がする。
何故? この紙切れが吸収する魔力には、限度があるのではなかったのか?
加えて、妙な呼び声も際限なく続いていて、どうにかそれを断ち切るため、大声で叫び出したい衝動にも駆られている。
うるさい……身体から力が抜ける……もう静かにしてくれ。
静かで、音のない、平穏な時間に戻してほしい。我の溢れ出る魔力を返してくれ──。
死灰栖はそう、切に願い続ける。
貴様から奪った女魔性は、もう返しただろう? 貴様はそれ以上、何を望むというのだ?
脳裏に浮かぶ、美しい青年。人間のくせに、妙な能力を持ったその存在──。
「いい加減にしてくれ……」
呟き、死灰栖は頭を抱える。
激しい頭痛と倦怠感──両方に苛まれ、彼はその場で蹲ることしかできなかった──。
そしてまた闇を見て、札を見て、青麻を──そんなことを繰り返していたら、呆れたような奏の声が頭上から降ってきた。
「なーにやってんだ? あいつのことなんて気にしなくて良いから、パパッとその札貼っちまえよ」
「で、でも、これを貼ったらあの人は……」
また苦しむんじゃないの? とは言えずに、ラズリは俯き、唇を引き結ぶ。
下手なことを言ったら、また透耶が怒るかもしれないと思ったからだ。先ほどは怒鳴られるだけで済んだが、次に怒らせたら、今度こそこちらに危害を加えてくるかもしれない。
そうなったら自分達はもちろんのこと、宿屋だって──若しくは街だって──無事ではいられないだろう。
自分が不用意に発した一言が引き金となって、そんなことになるのはごめんだし、できることなら回避したいと考えるのは当然だ。だからこそ、敢えて皆まで言わなかったというのに──。
「別に青麻はそもそも透耶の配下なんだから、あそこまで言われて助けてやる義理なんかない。だからさっさとそれ、戻しちまおうぜ」
せっかくのラズリの気遣いを、サラッと無にしてしまう奏。
思ったことを素直に口にするのはある意味美徳かもしれないが、彼の場合はあまりにも素直に言いすぎているような気がする。
せめてもう少しぐらい歯に衣着せてくれたら、少しは自分の精神的負担も減るだろうに。
「時に、貴様……その紙切れのようなものは、一体なんだ?」
複雑なラズリの心境に気付いてくれたのか、どうなのか──恐らく違うと思うが──そこでようやく透耶が、ラズリの手の中にある札へ興味を示した。
それからふとラズリの背後へと視線を移し、「そっちにも一枚同じような物が落ちてるな」と続ける。
「もしやそれが……先ほど貴様が──」
「青氷の魔神殿。〝貴様″ではなく〝ラズリ殿″です。よろしいですか?」
間髪容れず突っ込んだ闇に、ラズリは内心で「ひえっ」と声を上げたが、透耶は特に何も思わなかったらしい。素直に「う、うむ。分かった」と答えると、律儀に言い直してきた。
「ラ、ラズリよ。そなたの持つ紙切れが、先ほどまで青麻に貼り付けられていた物ということで相違ないか?」
「は、はい。そうです……」
つい先ほどまで怒っていたのに、どういう心境の変化なのだろうか。結果的には良かったが、突然彼が怒りを収めた理由が分からない。
魔性の感情の起伏は難しい──と思いつつ、ラズリは若干まだ怯えながらも精一杯の愛想笑いを浮かべた。
これで妙な文句や難癖をつけられなければ、平和的な解決が望めそうだ。
どうか、何事もなく話が進みますように……!
ほぼ毎回火種を蒔き散らす奏に一度目線をやってから、ラズリは心底からそう願った。
※※※※
──魔力が、抜き取られていく。
どのような仕掛けになっているのかよく分からないが、腕に貼り付けられた紙切れから、再び魔力が抜き取られていくような感覚がする。
何故? この紙切れが吸収する魔力には、限度があるのではなかったのか?
加えて、妙な呼び声も際限なく続いていて、どうにかそれを断ち切るため、大声で叫び出したい衝動にも駆られている。
うるさい……身体から力が抜ける……もう静かにしてくれ。
静かで、音のない、平穏な時間に戻してほしい。我の溢れ出る魔力を返してくれ──。
死灰栖はそう、切に願い続ける。
貴様から奪った女魔性は、もう返しただろう? 貴様はそれ以上、何を望むというのだ?
脳裏に浮かぶ、美しい青年。人間のくせに、妙な能力を持ったその存在──。
「いい加減にしてくれ……」
呟き、死灰栖は頭を抱える。
激しい頭痛と倦怠感──両方に苛まれ、彼はその場で蹲ることしかできなかった──。
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