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第十二章 譲れないもの
夢物語
まだ、間に合う──。
奏の口から放たれた、予想外の一言。
本来であれば、喜び勇んで飛びついただろう、その言葉。
けれど、いつになく真剣な彼の表情に不安が生まれ、ラズリはすぐに返事をすることができなかった。
「ピーちゃんを助けられるのなら、もちろん助けたいって思うけど……奏はどうしてそんな顔をしてるの?」
これだけは聞いておかなければ、この先へ話を進めてはいけない。何せ、こんなにも真剣な顔をした奏は初めて見るのだ。
いくらピーちゃんのことを心配してくれているからといっても、それだけでこんな表情をするなんてあり得ない。というより彼にとっては、ピーちゃんなんてどうでもいい存在のような気がする。
だからこそ、有耶無耶にしてはいけない、と思った。
なのに奏は──そんなラズリの気持ちを知ってか知らずか、不思議そうに首を傾げる。
「えーと、そんな顔ってどんな? 俺、なんか変な顔してたか?」
どうやら、本人には自覚がなかったらしい。
ガックリと項垂れつつラズリが説明しようとすると、その前に闇が口を開いた。
「してましたよ、思いっきり。大方ラズリ殿に対する迷いやら葛藤やらが、抑えきれず表面に出てきてしまったのでしょう。私としては既に見慣れた表情でしたので何とも思いませんでしたが、ラズリ殿や青氷の魔神殿であれば十分驚かれるレベルの顔をなさっておられましたよ?」
「だから、そこは透耶と呼べと言ってるだろう……」
しつこく「青氷の魔神ではなく、透耶と呼べ」と繰り返す魔神のことは完全に無視して、闇はラズリに対しニコリと微笑みかける。
「奏は別に機嫌が悪いとか、実はピーちゃんを助けたくないのにとか、そういったことを考えて、あのような表情になっているわけではありません。ピーちゃんを助けるためにはラズリ殿の能力が必要であり、けれどもそれを貴女に使わせたくないという気持ちもあるため、それらがせめぎ合って、あの顔になった──というだけですので」
「そ、そうなんだ……。ありがとう」
「こら、闇! 勝手に人の心情を語るな!」
声を荒げた奏が闇につかみかかっていくが、闇は一瞬で透耶の背後に移動し、「あとはお願いします」と言い残して姿を消してしまう。
「あ、こら闇! 逃げるな!」
咄嗟に奏は後を追おうとするも、透耶──とラズリ──にすぐさま腕をつかまれてしまい、そこから移動することは叶わなかった。
「ちょ、……もおぉ、なんで邪魔するんだよぉ」
自分の腕をつかんでいるのが透耶だけであったなら、恐らく奏は情け容赦なく振り払って闇を追いかけたに違いない──実際透耶は、即座に吹っ飛ばされていた。
けれど、やっぱり奏はラズリにだけは優しくて、邪魔されたことによって不機嫌な顔をしつつも、彼は自身の腕をつかむラズリの手に、そっと手を重ねてくれた。
「……どうした、ラズリ? こういう時、お前が俺を引き止めるのって珍しいよな。何か俺を引き止めたいわけでもあったか?」
顔を近づけられ、囁くように尋ねられて恥ずかしくなる。
今はピーちゃんを一刻も早く助けるために、照れている場合じゃないのに。
「えっと……その、ピーちゃんを……」
言った瞬間、奏は大きく目を見開き、それから大きなため息を吐いた。
「ああ、そういえばそうだったな。そいつを助けるためには……ラズリ、お前の能力が必要だ」
話の途中で突如として声色が変わり、ラズリはビクリと肩を震わせる。
「で、でも、私には能力なんて──」
「そうだぞ、奏。たかが人間でしかないその女に、能力なんてものあるわけがないであろう」
いつの間に復活したのか、横から茶々を入れてくる透耶。
「お前は黙ってろ」
そんな彼を睨みつけて黙らせた後、奏は数回深呼吸してから、真っ直ぐラズリの瞳を見つめて言った。
「これから俺が話すことは、八割方真実だ。後の二割は、この話には生き証人がいないことと、証明する術がない、ということが理由で確証には至らないためだと思って欲しい」
「う、うん……」
こんなにも真剣な表情と声音で、一体なんの話をされるんだろうと身構える。
生唾を飲み込み、緊張した瞳を奏へ向けると、彼の口から飛び出したのは、到底信じがたい夢物語のような話だった──。
奏の口から放たれた、予想外の一言。
本来であれば、喜び勇んで飛びついただろう、その言葉。
けれど、いつになく真剣な彼の表情に不安が生まれ、ラズリはすぐに返事をすることができなかった。
「ピーちゃんを助けられるのなら、もちろん助けたいって思うけど……奏はどうしてそんな顔をしてるの?」
これだけは聞いておかなければ、この先へ話を進めてはいけない。何せ、こんなにも真剣な顔をした奏は初めて見るのだ。
いくらピーちゃんのことを心配してくれているからといっても、それだけでこんな表情をするなんてあり得ない。というより彼にとっては、ピーちゃんなんてどうでもいい存在のような気がする。
だからこそ、有耶無耶にしてはいけない、と思った。
なのに奏は──そんなラズリの気持ちを知ってか知らずか、不思議そうに首を傾げる。
「えーと、そんな顔ってどんな? 俺、なんか変な顔してたか?」
どうやら、本人には自覚がなかったらしい。
ガックリと項垂れつつラズリが説明しようとすると、その前に闇が口を開いた。
「してましたよ、思いっきり。大方ラズリ殿に対する迷いやら葛藤やらが、抑えきれず表面に出てきてしまったのでしょう。私としては既に見慣れた表情でしたので何とも思いませんでしたが、ラズリ殿や青氷の魔神殿であれば十分驚かれるレベルの顔をなさっておられましたよ?」
「だから、そこは透耶と呼べと言ってるだろう……」
しつこく「青氷の魔神ではなく、透耶と呼べ」と繰り返す魔神のことは完全に無視して、闇はラズリに対しニコリと微笑みかける。
「奏は別に機嫌が悪いとか、実はピーちゃんを助けたくないのにとか、そういったことを考えて、あのような表情になっているわけではありません。ピーちゃんを助けるためにはラズリ殿の能力が必要であり、けれどもそれを貴女に使わせたくないという気持ちもあるため、それらがせめぎ合って、あの顔になった──というだけですので」
「そ、そうなんだ……。ありがとう」
「こら、闇! 勝手に人の心情を語るな!」
声を荒げた奏が闇につかみかかっていくが、闇は一瞬で透耶の背後に移動し、「あとはお願いします」と言い残して姿を消してしまう。
「あ、こら闇! 逃げるな!」
咄嗟に奏は後を追おうとするも、透耶──とラズリ──にすぐさま腕をつかまれてしまい、そこから移動することは叶わなかった。
「ちょ、……もおぉ、なんで邪魔するんだよぉ」
自分の腕をつかんでいるのが透耶だけであったなら、恐らく奏は情け容赦なく振り払って闇を追いかけたに違いない──実際透耶は、即座に吹っ飛ばされていた。
けれど、やっぱり奏はラズリにだけは優しくて、邪魔されたことによって不機嫌な顔をしつつも、彼は自身の腕をつかむラズリの手に、そっと手を重ねてくれた。
「……どうした、ラズリ? こういう時、お前が俺を引き止めるのって珍しいよな。何か俺を引き止めたいわけでもあったか?」
顔を近づけられ、囁くように尋ねられて恥ずかしくなる。
今はピーちゃんを一刻も早く助けるために、照れている場合じゃないのに。
「えっと……その、ピーちゃんを……」
言った瞬間、奏は大きく目を見開き、それから大きなため息を吐いた。
「ああ、そういえばそうだったな。そいつを助けるためには……ラズリ、お前の能力が必要だ」
話の途中で突如として声色が変わり、ラズリはビクリと肩を震わせる。
「で、でも、私には能力なんて──」
「そうだぞ、奏。たかが人間でしかないその女に、能力なんてものあるわけがないであろう」
いつの間に復活したのか、横から茶々を入れてくる透耶。
「お前は黙ってろ」
そんな彼を睨みつけて黙らせた後、奏は数回深呼吸してから、真っ直ぐラズリの瞳を見つめて言った。
「これから俺が話すことは、八割方真実だ。後の二割は、この話には生き証人がいないことと、証明する術がない、ということが理由で確証には至らないためだと思って欲しい」
「う、うん……」
こんなにも真剣な表情と声音で、一体なんの話をされるんだろうと身構える。
生唾を飲み込み、緊張した瞳を奏へ向けると、彼の口から飛び出したのは、到底信じがたい夢物語のような話だった──。
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