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第十三章 双子
こちらの問題
とりあえず、今日はあまりにも疲れたから、一旦休んで明日から本格的に動き出そう。
そう考えたルーチェは、普段執務室として使っている部屋のベッドへ横になると、自分の腕を枕にして目を閉じた。
本当なら、こんな風に休んでいる暇はないのかもしれない。こうしている間にも、さらってきた少女と一緒にいた赤い魔性が、血眼になって彼女を探しているかもしれないのだから。
けれど、いくら双子の片割れの能力を全て手に入れ、完全体になったといえど、自分が不完全な存在であることだけはどうにもできない。だからこそ、こうして──たとえ短時間でも──休息を取る必要があるのだ。
いかに無理してことを成し遂げようとしたところで、自分の身体は魔性のように不眠・不休で動けるようにはできていないのだから。
「こんな時、いっそ自分が純血種の天使であったなら……もしくは血の半分が魔性であったなら、眠る必要はなかったんだろうな……」
半分以上、眠りの淵へと意識を誘われながら、ルーチェはふとそんなことを呟く。
何故自分は純血種ではないのだろう。何故母は、人間などと関係を持ったのか。
ミースヴァル島の歴史から天使と人間が懇意にしてきたことを知ってはいるが、それでも、種族も寿命も違う二種間で愛し合うなどあり得ないし、ましてや子を儲けるなど、互いに正常な思考であればあり得ないことと彼は思った。
それなのに──その〝あり得ない結果”として、自分達双子が存在している。
「その結果……人間の王にしかなれないなんて、馬鹿げてる。中途半端な状態の能力だって、僕の力は十分とはいえないまでも、一応は魔性に通用したんだ。完全体となった今なら、もしかして……」
そこまで言ったところで、ルーチェの意識は夢の底へ沈んだ。
眠りから覚めた時には、天使としての完全なる能力に目覚めた自分の姿を想像しながら──。
※※※※
「……奏、分かっていると思うが、くれぐれも他者の命を軽んじるような発言は御法度だぞ」
至近距離から奏の真っ赤な瞳を見つめ、真剣な表情でそう告げてくる透耶。
それに対し、言われた当人である奏は、なんともめんどくさそうに肩を竦めながら頷きを返した。
「わーかってるって。そんなに何度も言わなくても、記憶力はいい方だから大丈夫だって言ってるだろ。むしろあんまりしつこくされると、言うこと聞く方が嫌になるわ」
「でしたらまた同じような発言をして、今度こそラズリ殿との関係を修復不可能なものとしますか?」
あまりにもしつこい透耶を黙らせるため、半分脅しのようなことを口にすれば、それには闇がきつい口調で言い返してくる。
奏とてこのままラズリと仲違いしたままなのは嫌なので、仲直りしたい気持ちは大いにあるが、こうも自分ばかり悪いと言われるのは納得いかない──実際問題、悪いのは奏で間違いないのだが──というか、一人だけ集中攻撃されるのは面白くない。
なので先ほどから何とか反撃を試みてはいるものの、透耶はともかく闇と青麻はよほど奏より口が達者で、言い負かされてばかりだ。
「あちらには少々手強い魔性が一人ついたようですし、こちらも本気でいかないと万が一のこともありますから──」
「ならば余も共に行こうではないか」
機嫌よく割り込んできた声に、闇の瞳が鋭く光った。
「……馬鹿なことを仰るのは、やめていただきたいのですが?」
この真剣な場面で何を言い出すのかと、殺意さえ含まれていそうな冷たい瞳に、睨みつけられた透耶だけでなく、奏までも言葉を失う。
しかし、それでも挫けることなく言葉を紡ぐことができた透耶は、さすが長年にわたり闇を自身の配下にと望み、断られ続けても諦めない強靭な精神力を持っていた。
「ば、馬鹿なこととは……余は其方達のことを思って言ってやったのに、その言い方はないのではないか⁉︎ 魔神である余が手を貸せば、おそらく何の苦労もなく──」
「申し訳ありませんが、これは私達の問題です。それに……」
透耶の言葉を遮った闇が、申し訳なさげな視線を一瞬だけ青麻に向ける。
それだけで、奏は闇が次に何を言いたいのかを察し、ぽん、と透耶の肩を叩いた。
「青麻はまだ、動かさない方がいい。それに……追い詰められた向こうの魔性が、また手を出してこないとも限らないしな」
だからお前は、自分の配下を守ることだけに集中しろ──。
と、青麻本人には聞こえないよう、奏は小さな声で囁いたのだった。
そう考えたルーチェは、普段執務室として使っている部屋のベッドへ横になると、自分の腕を枕にして目を閉じた。
本当なら、こんな風に休んでいる暇はないのかもしれない。こうしている間にも、さらってきた少女と一緒にいた赤い魔性が、血眼になって彼女を探しているかもしれないのだから。
けれど、いくら双子の片割れの能力を全て手に入れ、完全体になったといえど、自分が不完全な存在であることだけはどうにもできない。だからこそ、こうして──たとえ短時間でも──休息を取る必要があるのだ。
いかに無理してことを成し遂げようとしたところで、自分の身体は魔性のように不眠・不休で動けるようにはできていないのだから。
「こんな時、いっそ自分が純血種の天使であったなら……もしくは血の半分が魔性であったなら、眠る必要はなかったんだろうな……」
半分以上、眠りの淵へと意識を誘われながら、ルーチェはふとそんなことを呟く。
何故自分は純血種ではないのだろう。何故母は、人間などと関係を持ったのか。
ミースヴァル島の歴史から天使と人間が懇意にしてきたことを知ってはいるが、それでも、種族も寿命も違う二種間で愛し合うなどあり得ないし、ましてや子を儲けるなど、互いに正常な思考であればあり得ないことと彼は思った。
それなのに──その〝あり得ない結果”として、自分達双子が存在している。
「その結果……人間の王にしかなれないなんて、馬鹿げてる。中途半端な状態の能力だって、僕の力は十分とはいえないまでも、一応は魔性に通用したんだ。完全体となった今なら、もしかして……」
そこまで言ったところで、ルーチェの意識は夢の底へ沈んだ。
眠りから覚めた時には、天使としての完全なる能力に目覚めた自分の姿を想像しながら──。
※※※※
「……奏、分かっていると思うが、くれぐれも他者の命を軽んじるような発言は御法度だぞ」
至近距離から奏の真っ赤な瞳を見つめ、真剣な表情でそう告げてくる透耶。
それに対し、言われた当人である奏は、なんともめんどくさそうに肩を竦めながら頷きを返した。
「わーかってるって。そんなに何度も言わなくても、記憶力はいい方だから大丈夫だって言ってるだろ。むしろあんまりしつこくされると、言うこと聞く方が嫌になるわ」
「でしたらまた同じような発言をして、今度こそラズリ殿との関係を修復不可能なものとしますか?」
あまりにもしつこい透耶を黙らせるため、半分脅しのようなことを口にすれば、それには闇がきつい口調で言い返してくる。
奏とてこのままラズリと仲違いしたままなのは嫌なので、仲直りしたい気持ちは大いにあるが、こうも自分ばかり悪いと言われるのは納得いかない──実際問題、悪いのは奏で間違いないのだが──というか、一人だけ集中攻撃されるのは面白くない。
なので先ほどから何とか反撃を試みてはいるものの、透耶はともかく闇と青麻はよほど奏より口が達者で、言い負かされてばかりだ。
「あちらには少々手強い魔性が一人ついたようですし、こちらも本気でいかないと万が一のこともありますから──」
「ならば余も共に行こうではないか」
機嫌よく割り込んできた声に、闇の瞳が鋭く光った。
「……馬鹿なことを仰るのは、やめていただきたいのですが?」
この真剣な場面で何を言い出すのかと、殺意さえ含まれていそうな冷たい瞳に、睨みつけられた透耶だけでなく、奏までも言葉を失う。
しかし、それでも挫けることなく言葉を紡ぐことができた透耶は、さすが長年にわたり闇を自身の配下にと望み、断られ続けても諦めない強靭な精神力を持っていた。
「ば、馬鹿なこととは……余は其方達のことを思って言ってやったのに、その言い方はないのではないか⁉︎ 魔神である余が手を貸せば、おそらく何の苦労もなく──」
「申し訳ありませんが、これは私達の問題です。それに……」
透耶の言葉を遮った闇が、申し訳なさげな視線を一瞬だけ青麻に向ける。
それだけで、奏は闇が次に何を言いたいのかを察し、ぽん、と透耶の肩を叩いた。
「青麻はまだ、動かさない方がいい。それに……追い詰められた向こうの魔性が、また手を出してこないとも限らないしな」
だからお前は、自分の配下を守ることだけに集中しろ──。
と、青麻本人には聞こえないよう、奏は小さな声で囁いたのだった。
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