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第十三章 双子
意地悪な男
死灰栖が部屋に来た気配を感じて、ルーチェは目を覚ました。
正直言うともう少し眠りたかったが、今は色々と切迫した状況であるため、自らを叱咤して身体を起こす。
「……彼女は大丈夫かい?」
まず最初に尋ねたのは、血を分けた自分の半身である双子の妹のことだった。
無言で頷く死灰栖を見て、ルーチェは安堵したように小さなため息を吐く。
既に用無しと言えば用無しと言えなくもない存在であるが、万が一のため、もう暫く手元に置いて様子を見る必要があるからだ。
それに──能力を自分に奪われた彼女がただの人間に成り果ててしまうのか、魔性のように砂粒となって消えてしまうのかにも興味があった。
ルーチェの母親は、死ぬと同時に金色の砂粒となって消えた。それはそうだろう。彼女は完全なる天使であったから、そうなるのは当然のことだった。
けれど自分は? 天使と人間の間の子である自分は、母親のように消滅することができるのだろうか?
ふと抱いた、そんな疑問。
いくら天使と人間の間の子とはいえ、見た目的には完全に天使寄りとなって生まれたルーチェは、自らの容姿に絶対的な自信を持っていた。
サラサラと音を立てて流れる髪、魔神──には会ったことも見たこともないが──とも見紛うほどに整った容貌、美しい声。
その全てが、ルーチェの生まれ持った〝魅了”の能力を使わずとも周囲の人間達の心を捉え、束縛し、彼を崇拝する集団へと導いていった。ある意味それが彼自身に妙な自信をつけさせ、驕り高ぶらせ、元々捻くれていた性格を更に悪い方向へと捩れさせてしまったと言っても過言ではないだろう。
そうした日々を過ごすうち、彼は日に日に強く思うようになっていったのだ。
他人に自分の醜い姿は見せられない、と──。
故に最初は純粋に力を求めていただけだったルーチェは、気づけば双子の妹の全てを我が身に取り込んでしまおうと画策するようになっていた。
能力だけでは足りない。彼女自身を余すことなくこの身に取り込まなければ、天使として完璧にはなれない。むしろ彼女を取り込みさえすれば、今より更に身体は天使寄りに傾くはずだ……。
見た目的には、どう贔屓目に見ても人間寄りであるとしか思えない妹。だが彼女の命が潰える時、たとえ身体が残ることになったとしても、彼女の中の天使である部分だけは金の粒子となって空中に弾き出されるはずだとルーチェには妙な確信があった。
ただ、その粒子が消える前に集めて取り込む方法が、まだ分からない。
さっきのあれで、全て取り込めていれば問題ないんだけど……確認のしようがないしね……。
いっそ殺してしまおうか──と思うも、一か八かでやるには危険すぎる賭けだ。
彼女の体内に天使としての欠片が今なお大量に残されていた場合、それら全てが金の粒となって消えてしまったら、それこそ取り返しのつかないことになってしまう。
「ここはやっぱり、時間をかけてやるしかないか……」
あてもなく探していた以前とは違い、今は彼女自身が手元にいるのだから、焦る必要はない。
彼女と一緒にいたという──恐らく今この時も彼女を探していると思われる──赤い魔性さえ始末してしまえば、時間は好きなだけあるのだ。
それまで彼女を生かさず、殺さずのまま維持し続ければ、何の問題もないだろう。
「とにかく一度、僕も彼女の様子を見に行くよ」
そう死灰栖に告げ、ルーチェが上着を羽織った瞬間──室内の空気が変わった。
「っ⁉︎」
異変を感じ、咄嗟に枕元の札に手を伸ばすも、無風であるはずの室内に突如吹いた風によりつかみ損ねる。
「くっ……!」
慌てて札を追い、再度つかもうとするも、「えー、風に飛ばされてるもん追いかけてる姿って……なんかカッコわる!」との言葉に、顔を赤くして動きを止めた。
この僕に、こんなことを言ってくるのは……。
怒りによって身体を震わせ、ルーチェはぐっと歯を食いしばる。
ここで声を荒げたら、あの男の思う壺だ。僕は優秀な天使の末裔なんだ。あんなふざけた魔性なんかに馬鹿にされるような存在じゃない……。
懸命に自分へと言い聞かせ、深呼吸を繰り返し、なんとか気持ちを落ち着けようと努める。
だが──。
「あれ? なんか俺、怒らせちゃったみたい? でもカッコ悪かったのは本当だから、悪かったな」
真っ赤な髪と瞳を持つ男は、壊滅的に意地が悪かった──。
正直言うともう少し眠りたかったが、今は色々と切迫した状況であるため、自らを叱咤して身体を起こす。
「……彼女は大丈夫かい?」
まず最初に尋ねたのは、血を分けた自分の半身である双子の妹のことだった。
無言で頷く死灰栖を見て、ルーチェは安堵したように小さなため息を吐く。
既に用無しと言えば用無しと言えなくもない存在であるが、万が一のため、もう暫く手元に置いて様子を見る必要があるからだ。
それに──能力を自分に奪われた彼女がただの人間に成り果ててしまうのか、魔性のように砂粒となって消えてしまうのかにも興味があった。
ルーチェの母親は、死ぬと同時に金色の砂粒となって消えた。それはそうだろう。彼女は完全なる天使であったから、そうなるのは当然のことだった。
けれど自分は? 天使と人間の間の子である自分は、母親のように消滅することができるのだろうか?
ふと抱いた、そんな疑問。
いくら天使と人間の間の子とはいえ、見た目的には完全に天使寄りとなって生まれたルーチェは、自らの容姿に絶対的な自信を持っていた。
サラサラと音を立てて流れる髪、魔神──には会ったことも見たこともないが──とも見紛うほどに整った容貌、美しい声。
その全てが、ルーチェの生まれ持った〝魅了”の能力を使わずとも周囲の人間達の心を捉え、束縛し、彼を崇拝する集団へと導いていった。ある意味それが彼自身に妙な自信をつけさせ、驕り高ぶらせ、元々捻くれていた性格を更に悪い方向へと捩れさせてしまったと言っても過言ではないだろう。
そうした日々を過ごすうち、彼は日に日に強く思うようになっていったのだ。
他人に自分の醜い姿は見せられない、と──。
故に最初は純粋に力を求めていただけだったルーチェは、気づけば双子の妹の全てを我が身に取り込んでしまおうと画策するようになっていた。
能力だけでは足りない。彼女自身を余すことなくこの身に取り込まなければ、天使として完璧にはなれない。むしろ彼女を取り込みさえすれば、今より更に身体は天使寄りに傾くはずだ……。
見た目的には、どう贔屓目に見ても人間寄りであるとしか思えない妹。だが彼女の命が潰える時、たとえ身体が残ることになったとしても、彼女の中の天使である部分だけは金の粒子となって空中に弾き出されるはずだとルーチェには妙な確信があった。
ただ、その粒子が消える前に集めて取り込む方法が、まだ分からない。
さっきのあれで、全て取り込めていれば問題ないんだけど……確認のしようがないしね……。
いっそ殺してしまおうか──と思うも、一か八かでやるには危険すぎる賭けだ。
彼女の体内に天使としての欠片が今なお大量に残されていた場合、それら全てが金の粒となって消えてしまったら、それこそ取り返しのつかないことになってしまう。
「ここはやっぱり、時間をかけてやるしかないか……」
あてもなく探していた以前とは違い、今は彼女自身が手元にいるのだから、焦る必要はない。
彼女と一緒にいたという──恐らく今この時も彼女を探していると思われる──赤い魔性さえ始末してしまえば、時間は好きなだけあるのだ。
それまで彼女を生かさず、殺さずのまま維持し続ければ、何の問題もないだろう。
「とにかく一度、僕も彼女の様子を見に行くよ」
そう死灰栖に告げ、ルーチェが上着を羽織った瞬間──室内の空気が変わった。
「っ⁉︎」
異変を感じ、咄嗟に枕元の札に手を伸ばすも、無風であるはずの室内に突如吹いた風によりつかみ損ねる。
「くっ……!」
慌てて札を追い、再度つかもうとするも、「えー、風に飛ばされてるもん追いかけてる姿って……なんかカッコわる!」との言葉に、顔を赤くして動きを止めた。
この僕に、こんなことを言ってくるのは……。
怒りによって身体を震わせ、ルーチェはぐっと歯を食いしばる。
ここで声を荒げたら、あの男の思う壺だ。僕は優秀な天使の末裔なんだ。あんなふざけた魔性なんかに馬鹿にされるような存在じゃない……。
懸命に自分へと言い聞かせ、深呼吸を繰り返し、なんとか気持ちを落ち着けようと努める。
だが──。
「あれ? なんか俺、怒らせちゃったみたい? でもカッコ悪かったのは本当だから、悪かったな」
真っ赤な髪と瞳を持つ男は、壊滅的に意地が悪かった──。
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