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最終章 飛翔
経験の差
「アイツ……っ!」
ルーチェの考えにいちはやく気付いた奏は、妨害しようと力を放つ。が、それはルーチェの身体に届く前に、灰色の刃に阻まれ霧散した。
「くそっ。邪魔してんじゃねぇよ!」
奏は忌々しげに死灰栖を睨み、次々に力を放つが、それらは全て死灰栖によって阻まれ、一つたりともルーチェに届くことはない。
こんななのか、俺は?
自分自身に失望し、奏は内心で自嘲する。
魔神ではないが魔神級の魔力を持つ男と、ただの魔人である自分。
元から能力差は理解していたつもりだったが、ラズリの双子の兄だという男の作った札に相手はかなりの量の魔力が吸い取られ、弱っていると聞いていた。だったら今の自分でも勝算はあると思い、魔力を取り戻される前にと仕掛けることにしたのだが、それでもこうも歯が立たないとは。
あの札一枚にどれだけの魔力が吸収されるのか知らないが、その内部に閉じ込められていた魔力をラズリが変換し、変異させたカラスは、かなりの魔力を体内に宿していた。あれと同じ量の魔力をもう一枚にも吸収されているというのなら、たとえ魔神対魔人といえど、拮抗した勝負になると考えた自分が浅慮だったのだろうか。
「いや……そんなはずはねぇよな」
いくら何でも自分と奴に、そこまでの魔力差があるとは思えない。
あるとするなら──所謂〝経験の差”だ。
魔性として生きてきた年数ももちろん関係するとは思うが、奏には圧倒的に経験というものが足りないという自覚があった。なにしろそれは以前から、配下である闇が常々自分に言っていたことでもあるのだから。
『ご自分の能力を嫌悪するのは構いませんが、それでも最低限は扱えるようになっておかなければ、いずれ苦労するのは貴方様ですよ』
と──。
それを軽く聞き流し、何度もしつこく言ってくる闇を適当にあしらっていた結果がこれだ。
今更後悔しても、全て自業自得のため救われようがないし、責任転嫁で他人を責めてもどうにもならない。
「自分の尻は自分で拭け……か。確かにその通りだよな。けど、俺は……」
グッと拳を握り締め、歯を食いしばる。
今の状況を覆す方法が一つだけ思い浮かぶも、それを実行する気にはなれなかった。
あれをすれば、全てが終わる……そんなことは分かってる。だけどどうしても、どうしてもあれだけは……。
思い出したくない過去の出来事が脳裏をよぎり、奏はそれを振り払うため死灰栖から視線を外し、頭を横に振った。
その、瞬間──。
「札に吸収された魔力よ、元の持ち主の元へと戻るがいい!」
高らかに響き渡ったルーチェの声に、ハッとして力を放つが、遅かった。
札から湧き出た黒い靄は、奏の目の前で死灰栖の身体へと何事もなく吸収され、同時に死灰栖の放つ魔性の気配を色濃いものへと変化させた。
「嘘……だろ?」
これじゃあ、ますます俺に勝ち目なんて……。
一瞬弱気なことを考えるも、〝逃げる”選択肢は、奏の頭の中には浮かばない。
どんな時だって、どんな相手に対してだって、逃げるなんて情けないこと、絶対にしたくはなかった。
「それに……逃げたなんてラズリに知られたら、恥ずかしくて顔向けできなくなっちまうしな」
ペロリと唇を舐め、奏は不敵な態度で微笑う。
勝負はまだ、これからだ。
ラズリへの興味が尽きるまで、自分が先に死ぬわけにはいかないのだから──。
ルーチェの考えにいちはやく気付いた奏は、妨害しようと力を放つ。が、それはルーチェの身体に届く前に、灰色の刃に阻まれ霧散した。
「くそっ。邪魔してんじゃねぇよ!」
奏は忌々しげに死灰栖を睨み、次々に力を放つが、それらは全て死灰栖によって阻まれ、一つたりともルーチェに届くことはない。
こんななのか、俺は?
自分自身に失望し、奏は内心で自嘲する。
魔神ではないが魔神級の魔力を持つ男と、ただの魔人である自分。
元から能力差は理解していたつもりだったが、ラズリの双子の兄だという男の作った札に相手はかなりの量の魔力が吸い取られ、弱っていると聞いていた。だったら今の自分でも勝算はあると思い、魔力を取り戻される前にと仕掛けることにしたのだが、それでもこうも歯が立たないとは。
あの札一枚にどれだけの魔力が吸収されるのか知らないが、その内部に閉じ込められていた魔力をラズリが変換し、変異させたカラスは、かなりの魔力を体内に宿していた。あれと同じ量の魔力をもう一枚にも吸収されているというのなら、たとえ魔神対魔人といえど、拮抗した勝負になると考えた自分が浅慮だったのだろうか。
「いや……そんなはずはねぇよな」
いくら何でも自分と奴に、そこまでの魔力差があるとは思えない。
あるとするなら──所謂〝経験の差”だ。
魔性として生きてきた年数ももちろん関係するとは思うが、奏には圧倒的に経験というものが足りないという自覚があった。なにしろそれは以前から、配下である闇が常々自分に言っていたことでもあるのだから。
『ご自分の能力を嫌悪するのは構いませんが、それでも最低限は扱えるようになっておかなければ、いずれ苦労するのは貴方様ですよ』
と──。
それを軽く聞き流し、何度もしつこく言ってくる闇を適当にあしらっていた結果がこれだ。
今更後悔しても、全て自業自得のため救われようがないし、責任転嫁で他人を責めてもどうにもならない。
「自分の尻は自分で拭け……か。確かにその通りだよな。けど、俺は……」
グッと拳を握り締め、歯を食いしばる。
今の状況を覆す方法が一つだけ思い浮かぶも、それを実行する気にはなれなかった。
あれをすれば、全てが終わる……そんなことは分かってる。だけどどうしても、どうしてもあれだけは……。
思い出したくない過去の出来事が脳裏をよぎり、奏はそれを振り払うため死灰栖から視線を外し、頭を横に振った。
その、瞬間──。
「札に吸収された魔力よ、元の持ち主の元へと戻るがいい!」
高らかに響き渡ったルーチェの声に、ハッとして力を放つが、遅かった。
札から湧き出た黒い靄は、奏の目の前で死灰栖の身体へと何事もなく吸収され、同時に死灰栖の放つ魔性の気配を色濃いものへと変化させた。
「嘘……だろ?」
これじゃあ、ますます俺に勝ち目なんて……。
一瞬弱気なことを考えるも、〝逃げる”選択肢は、奏の頭の中には浮かばない。
どんな時だって、どんな相手に対してだって、逃げるなんて情けないこと、絶対にしたくはなかった。
「それに……逃げたなんてラズリに知られたら、恥ずかしくて顔向けできなくなっちまうしな」
ペロリと唇を舐め、奏は不敵な態度で微笑う。
勝負はまだ、これからだ。
ラズリへの興味が尽きるまで、自分が先に死ぬわけにはいかないのだから──。
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