【完】天涯孤独になった筈が、周りで奪い合いが起きているようです

迦陵 れん

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最終章 飛翔

奏の過去

「闇……ごめんな」

 呟きとも囁きとも取れるような声で謝罪を口にすると、奏はそっと闇の身体を腕から離し、床へと横たえた。

 もう時間はほぼ残されていない。早急に闇の傷を癒やさなければ、取り返しのつかないことになってしまう。

 だが、これから自分がしようとしていることは、闇の望んでいないことだ。彼を助けるために自分がそれをしたとして、命が助かった後、彼はどう思うのだろう? 

 普段は他人の気持ちなど全くと言っていいほど考えない奏であったが、何故かこういう時に限って、やたらとそんなことが気になった。

 しかしどちらにしろ、このままでは闇は助からない。おそらく持って数分──もしかしたら、数分もないかもしれない。

 今の奏にとって何より優先すべき事項は、闇の命を助けることだ。ならば悩んでいる場合ではないだろう。

「文句なら目が覚めた後ゆっくり聞くから、今は勘弁してくれよな」

 闇の傷に両手を添えて眉を下げると、奏はゆっくりと目を閉じた。

 そのまま、己の内に眠る力を解放するため、体内に施した自らの封印へと手を伸ばす。

 この封印は、どれほど前に施したものであったか──奏自身、既に覚えてはいない。だがこの封印があったからこそ、自分はこれまで『普通の魔性』として生きてくることができた。もしそれがなければ、おそらく今とは真逆の生き方を強いられることになっていただろう。

 俺は……そんなの嫌だった。他の魔神達のように、配下を引き連れて好きに使って……なんて、何の魅力も感じなかったし、俺は自分の好きなように生きたかったから……。

 魔神として他者に認められるだけの能力と魔力を持ち、どう見ても〝只者”に見えなかったかつての奏は、魔性世界の生きづらさに、悩み続けていた。

 生まれた当時の魔力自体は、別に大したことはなかったのだ。この世に生を受け──ある程度成長するまでは、奏とて普通の魔人であった。

 だが不運であったのは、彼の父親が魔性の中でもほぼ存在を知られていない『やみの能力』を持っていたこと。

 物質を燃やしたり、切り刻んだり、埋もれさせたりする一般の能力と違い、やみは全てを呑み込み、消失させてしまう。故に魔性の中でも最強と謳われる能力であり、だからこそ穏やかな暮らしを望む奏の家族は、他の魔性達から隠れるようにして暮らさなければならなかった。

 たとえそれがどんなに窮屈な生活であろうとも、奏達家族はそれで満足していたのだ。

 だが、そんなある日──奏が家に帰ると、我が家が灰と化していた。

「え……」

 信じられない出来事に奏はしばらく呆然とした後、慌てて家のあった場所へと駆け寄り、必死に手で灰を掻き分け、両親の姿を探した。

「父上、母上……!」

 無論、家が灰となっていた時点で大方の事情は察していたし、父と母が絶望的な状況にあることも分かっていたが、それでも諦められず、奏は小さな子供の手で、身体中が灰だらけになっても両親の姿を探し続けた。

「二人とも待ってて。僕がすぐに見つけて……え?」

 その時ふと、空中に散った灰に混ざって、両親の纏っていた色と同色の粉が空中に舞うのが目に入った。

 それを見て動きを止めた奏は、恐る恐る手元の灰へと目を向ける。

「う……そ……」

 そこには、灰に混じって二色の粉がところどころに散らばっていた。

 魔性は死んだ後、亡骸を残さず粉となって消える。つまり、かつて我が家のあった場所に、両親と同色の粉があるということは──。

「嘘だ……嘘……そんな……父上、母上……嘘だあああああああああああっ‼︎」

 残酷な現実を理解すると同時に、奏の体内からやみの魔力が溢れ出し、周囲一帯を呑み込んだ。

 そのやみの中心で三日三晩、声が枯れるほど喚き続けた奏は──周囲のやみを自らの体内へと引き戻した時、激しすぎる怒りによって全身の色を黒から赤へと変質させていたのだ……。

 

 

 
  
 

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