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最終章 飛翔
自棄
「闇……お前、もう大丈夫なのか?」
つい先ほどまで真っ青な顔で横たわっていた闇が、通常通りの顔色で──悲し気ではあるものの──佇んでいる様子に、奏はじんわりと胸の中が温かくなるのを感じた。
傷は、完璧に癒したはずだった。なのに闇がなかなか意識を取り戻さないから、少しだけ不安に思っていた。
もし、このまま闇が目を覚まさなかったら、どうしよう──と。
ラズリに拒絶され、闇までも失ったなら、おそらく自分は壊れてしまっていただろう。もしくは、八つ当たりまがいに暴走させた闇の力で、島ごと呑み込んでいたかもしれない。
そうならなくて良かった──と思うと同時に、そうして自分も闇に呑まれて消えたかった……という相反した思いに、奏は内心でため息を吐く。
まだまだ弱いな……俺は。
いくらラズリに拒絶されたとはいえ、彼女はまだ生きているのだ。たとえ自分が振られたとはいえ、彼女を殺したいわけではない。
今後は、彼女の目につかない場所からひっそりと見守り、助けていけばいいだけだ。
それだけが自分の生きる意味であり、目的なのだから。
天使達を皆殺しにしてから百年──薄情な人間達に見切りをつけ、この島の全てを無にしなかったのは……全てラズリがいたからだ。
まだ幼い彼女の輝きに惹きつけられ、囚われ、最終的に愛してしまったがゆえ。
能力が強いからこそ考え方が残忍になりやすい魔性であっても、奏がミルドやアランといったラズリを悲しませた人間達──ミルドは結果的に魔性であったが──を生かしておいたのは、ひとえにラズリが人殺しを嫌がると思ったからだ。
でなければ、ラズリの住んでいた村を焼いた時点で、王宮騎士達など一人残らず闇へと葬り去っていただろう。
しかし今は──止める理由がない。
死灰栖はもちろん、ラズリを苦しませるだけの双子の兄も、生かしておく理由はないし、むしろ生かしておく方が害になる。だから、排除することに躊躇いはない。
既にラズリに拒絶されてしまった自分は、もうこれ以上嫌われる心配などしなくていいのだから。
なのに──。
「おやめ下さい!」
もう手を使わず、思いのままに身体全体から力を放とうとしたところ、奏は必死の形相をした闇に、抱きつくようにして止められた。
「何だよ、闇。邪魔だ、離せ!」
抱きつかれている状態で力を放てば、闇も巻き込まれるかもしれない。
そう思うと流石に無理やり行使はできず、奏は何とか闇を自らの身体から引っぺがそうとする。
だが付き合いが長い分、自分の考えなど闇にはお見通しのようで、彼は抱きつく腕により強く力をこめながら、激しく首を横に振った。
「その命令は聞けません! 貴方は今、自棄になっていらっしゃいます。どうか落ち着いて、考え直してください!」
ズバリと心中を言い当てられ、奏は内心で冷や汗をかく。
しかしここで引くわけにはいかないと、冷静を装って笑みを浮かべた。
「何言ってんだ、お前。俺が自棄になんてなるわけないだろ。心配ないから、お前はもうラズリのところへ行ってろ」
体よく厄介払いをしようとするものの、闇は頑なに首を振り、奏の言葉を聞き入れない。
「たとえ配下を首になっても、私は今、貴方の傍を離れるつもりはありません! 貴方がもし彼らを殺して、真実の意味でラズリ様に拒絶されてしまった場合……貴方の心が壊れてしまうかもしれないと思うからです。ですから私は、何としても貴方に彼らを殺させるわけにはいかないのです!」
「いや……俺、そんなに心弱くないって……」
呆れたように返したものの、若干声が震えたことに気づかれなかっただろうかと、奏の心に不安がよぎった。
顔は思い切り引き攣ってしまったが、抱きつかれているおかげで、そっちは何とか気づかれずに済んだだろう。
それにしても──毎回闇の鋭さには驚かされる。何故、彼はこうも鋭いのだろうか。
闇がこの様子なら、他の方法を考えなければならない。
やれやれと思いながら、奏は死灰栖達を殺さずに済んだことに、心のどこかで安堵していた──。
つい先ほどまで真っ青な顔で横たわっていた闇が、通常通りの顔色で──悲し気ではあるものの──佇んでいる様子に、奏はじんわりと胸の中が温かくなるのを感じた。
傷は、完璧に癒したはずだった。なのに闇がなかなか意識を取り戻さないから、少しだけ不安に思っていた。
もし、このまま闇が目を覚まさなかったら、どうしよう──と。
ラズリに拒絶され、闇までも失ったなら、おそらく自分は壊れてしまっていただろう。もしくは、八つ当たりまがいに暴走させた闇の力で、島ごと呑み込んでいたかもしれない。
そうならなくて良かった──と思うと同時に、そうして自分も闇に呑まれて消えたかった……という相反した思いに、奏は内心でため息を吐く。
まだまだ弱いな……俺は。
いくらラズリに拒絶されたとはいえ、彼女はまだ生きているのだ。たとえ自分が振られたとはいえ、彼女を殺したいわけではない。
今後は、彼女の目につかない場所からひっそりと見守り、助けていけばいいだけだ。
それだけが自分の生きる意味であり、目的なのだから。
天使達を皆殺しにしてから百年──薄情な人間達に見切りをつけ、この島の全てを無にしなかったのは……全てラズリがいたからだ。
まだ幼い彼女の輝きに惹きつけられ、囚われ、最終的に愛してしまったがゆえ。
能力が強いからこそ考え方が残忍になりやすい魔性であっても、奏がミルドやアランといったラズリを悲しませた人間達──ミルドは結果的に魔性であったが──を生かしておいたのは、ひとえにラズリが人殺しを嫌がると思ったからだ。
でなければ、ラズリの住んでいた村を焼いた時点で、王宮騎士達など一人残らず闇へと葬り去っていただろう。
しかし今は──止める理由がない。
死灰栖はもちろん、ラズリを苦しませるだけの双子の兄も、生かしておく理由はないし、むしろ生かしておく方が害になる。だから、排除することに躊躇いはない。
既にラズリに拒絶されてしまった自分は、もうこれ以上嫌われる心配などしなくていいのだから。
なのに──。
「おやめ下さい!」
もう手を使わず、思いのままに身体全体から力を放とうとしたところ、奏は必死の形相をした闇に、抱きつくようにして止められた。
「何だよ、闇。邪魔だ、離せ!」
抱きつかれている状態で力を放てば、闇も巻き込まれるかもしれない。
そう思うと流石に無理やり行使はできず、奏は何とか闇を自らの身体から引っぺがそうとする。
だが付き合いが長い分、自分の考えなど闇にはお見通しのようで、彼は抱きつく腕により強く力をこめながら、激しく首を横に振った。
「その命令は聞けません! 貴方は今、自棄になっていらっしゃいます。どうか落ち着いて、考え直してください!」
ズバリと心中を言い当てられ、奏は内心で冷や汗をかく。
しかしここで引くわけにはいかないと、冷静を装って笑みを浮かべた。
「何言ってんだ、お前。俺が自棄になんてなるわけないだろ。心配ないから、お前はもうラズリのところへ行ってろ」
体よく厄介払いをしようとするものの、闇は頑なに首を振り、奏の言葉を聞き入れない。
「たとえ配下を首になっても、私は今、貴方の傍を離れるつもりはありません! 貴方がもし彼らを殺して、真実の意味でラズリ様に拒絶されてしまった場合……貴方の心が壊れてしまうかもしれないと思うからです。ですから私は、何としても貴方に彼らを殺させるわけにはいかないのです!」
「いや……俺、そんなに心弱くないって……」
呆れたように返したものの、若干声が震えたことに気づかれなかっただろうかと、奏の心に不安がよぎった。
顔は思い切り引き攣ってしまったが、抱きつかれているおかげで、そっちは何とか気づかれずに済んだだろう。
それにしても──毎回闇の鋭さには驚かされる。何故、彼はこうも鋭いのだろうか。
闇がこの様子なら、他の方法を考えなければならない。
やれやれと思いながら、奏は死灰栖達を殺さずに済んだことに、心のどこかで安堵していた──。
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