190 / 205
最終章 飛翔
まず一人
「さあ……お前の魔力を欠片も残さず、全て俺に渡せ!」
奏が言葉を放つとともに、死灰栖を包み込むように握りしめていた巨大な手が、グッと強く握り込まれる。
それでも死灰栖は全魔力を振り絞り、しばらく闇の手による圧力に耐えているようだったが──やがて、抵抗する魔力も気力も失ったのか、彼の姿は巨大な手の中に呑み込まれ、見えなくなった。
当然だろう。奏の放った闇の手は、ルーチェのように特殊な札を使うことなく相手の魔力を容赦なく奪い取る。しかも、吸収する量に限界のある札とは違い、奏が能力の発動を止めるまで永遠に。
いくら抵抗したところで、その抵抗の最中にも際限なく魔力を吸われ続けていれば、力尽きるのも当然だ。
それを知りつつ最後まで抗ったのは、ひとえに死灰栖のプライドによるものだろう。
たとえ力の差があると分かっていても、素直にそれを認める気にはなれなかったに違いない。自分が犯した過去の過ちのせいで化け物じみた能力と魔力を手にした男に負けるなど、彼の性格的に受け入れることはできなかったのだ。
それぐらいならいっそ、ダメもとながら全力で抵抗してみようと試みた結果──死灰栖は、小鳥ぐらいの大きさの魔性となって、奏の操る闇の手の中から、ぽとりと床に落下した。
既に人型ではない。魔力を大量に奪われたことにより、小鬼のような見た目になってしまっていた。
氷依のように、自身の魔力を別の場所に分散され、本体を維持する魔力が失われただけの状態であったなら、たとえ本体が砂に帰しても、札に封じられていた魔力を媒介にして復活することもできただろうし、魔人の姿を保ったままでいることも可能だっただろう。
だが、札のような無機物ではなく、同じ魔性や人間といった有機物に吸収されてしまった魔力は元のものとは質が変わってしまうため、それを媒介にして復活することは不可能だ。
たとえば、氷依自身が砂になって消えた後、彼女の魔力は札の中に大量に封印されていた状態であったため、復活させようと思えば復活させることはできた。だが、その魔力は青麻を助けるために使われ、彼の一部となってしまったことで変質し、彼女は復活することができなくなってしまったのだ。
単にルーチェの札に魔力を吸収されただけであるなら、先ほどのように魔力を奪われた本人に戻すことができる。たとえ魔力を戻す相手が本人でなくとも、純粋な魔力はある程度使い回しが可能だ。
しかし、他の魔性の身体に吸収されてしまった魔力は──その時点で別物となってしまうため、本人の元へ戻すことは不可能となる。つまり、奏によって奪い取られた魔力は本人に戻す術がなく、全て奪い取った者の魔力となってしまう──カラスへと変化した死灰栖の魔力は、ラズリに魅了された時点で死灰栖のものではなくなっている──のだ。
故に死灰栖はもう二度と人型に戻ることはできず、この先一生を魔使として──しかも、その中でもかなりの低ランクに位置する者として──生きていかなければならない。
それならばいっそ殺せと、中途半端に魔力を奪うのではなく全てを奪い尽くして殺せと死灰栖は願ったが、弱い小鬼へと変えられた彼の声は奏に届かず、いつの間にか近づいてきていた闇によって、城の外へと投げ捨てられた。
「死んで全てを失うよりも、力を失い生き続けていく方が、貴方にとっては何万倍も辛いことでしょうね……」
深い森の中に落ちていく死灰栖を見送りながら、闇は小さな声で呟く。
奏が赤闇の魔神となったことで自分は彼と出会い、今のような関係になることができた。そのきっかけを作ってくれた死灰栖には、少しばかり感謝にも似た気持ちを持ったこともあったものだが──実際に目にすると、彼は心の底から嫌悪を感じる存在でしかなかった。
そしてそれは、半天使の青年も同じ。
いや、見た目が天使のように美しい分、中身の醜悪さがより際立っておぞましさすら感じる。けれど彼は紛れもなく──ラズリと血の繋がった兄妹なのだ。
「我が君はあの者を……どうするつもりでしょうか……」
殺してしまうのは簡単だが、それではきっとラズリの心に傷を作ってしまう。かといって放置するのも──彼の能力を考えれば危なすぎてできない。
ならば一体どうするのが正解なのか?
闇は答えを探すように、奏の後ろ姿を見つめた──。
奏が言葉を放つとともに、死灰栖を包み込むように握りしめていた巨大な手が、グッと強く握り込まれる。
それでも死灰栖は全魔力を振り絞り、しばらく闇の手による圧力に耐えているようだったが──やがて、抵抗する魔力も気力も失ったのか、彼の姿は巨大な手の中に呑み込まれ、見えなくなった。
当然だろう。奏の放った闇の手は、ルーチェのように特殊な札を使うことなく相手の魔力を容赦なく奪い取る。しかも、吸収する量に限界のある札とは違い、奏が能力の発動を止めるまで永遠に。
いくら抵抗したところで、その抵抗の最中にも際限なく魔力を吸われ続けていれば、力尽きるのも当然だ。
それを知りつつ最後まで抗ったのは、ひとえに死灰栖のプライドによるものだろう。
たとえ力の差があると分かっていても、素直にそれを認める気にはなれなかったに違いない。自分が犯した過去の過ちのせいで化け物じみた能力と魔力を手にした男に負けるなど、彼の性格的に受け入れることはできなかったのだ。
それぐらいならいっそ、ダメもとながら全力で抵抗してみようと試みた結果──死灰栖は、小鳥ぐらいの大きさの魔性となって、奏の操る闇の手の中から、ぽとりと床に落下した。
既に人型ではない。魔力を大量に奪われたことにより、小鬼のような見た目になってしまっていた。
氷依のように、自身の魔力を別の場所に分散され、本体を維持する魔力が失われただけの状態であったなら、たとえ本体が砂に帰しても、札に封じられていた魔力を媒介にして復活することもできただろうし、魔人の姿を保ったままでいることも可能だっただろう。
だが、札のような無機物ではなく、同じ魔性や人間といった有機物に吸収されてしまった魔力は元のものとは質が変わってしまうため、それを媒介にして復活することは不可能だ。
たとえば、氷依自身が砂になって消えた後、彼女の魔力は札の中に大量に封印されていた状態であったため、復活させようと思えば復活させることはできた。だが、その魔力は青麻を助けるために使われ、彼の一部となってしまったことで変質し、彼女は復活することができなくなってしまったのだ。
単にルーチェの札に魔力を吸収されただけであるなら、先ほどのように魔力を奪われた本人に戻すことができる。たとえ魔力を戻す相手が本人でなくとも、純粋な魔力はある程度使い回しが可能だ。
しかし、他の魔性の身体に吸収されてしまった魔力は──その時点で別物となってしまうため、本人の元へ戻すことは不可能となる。つまり、奏によって奪い取られた魔力は本人に戻す術がなく、全て奪い取った者の魔力となってしまう──カラスへと変化した死灰栖の魔力は、ラズリに魅了された時点で死灰栖のものではなくなっている──のだ。
故に死灰栖はもう二度と人型に戻ることはできず、この先一生を魔使として──しかも、その中でもかなりの低ランクに位置する者として──生きていかなければならない。
それならばいっそ殺せと、中途半端に魔力を奪うのではなく全てを奪い尽くして殺せと死灰栖は願ったが、弱い小鬼へと変えられた彼の声は奏に届かず、いつの間にか近づいてきていた闇によって、城の外へと投げ捨てられた。
「死んで全てを失うよりも、力を失い生き続けていく方が、貴方にとっては何万倍も辛いことでしょうね……」
深い森の中に落ちていく死灰栖を見送りながら、闇は小さな声で呟く。
奏が赤闇の魔神となったことで自分は彼と出会い、今のような関係になることができた。そのきっかけを作ってくれた死灰栖には、少しばかり感謝にも似た気持ちを持ったこともあったものだが──実際に目にすると、彼は心の底から嫌悪を感じる存在でしかなかった。
そしてそれは、半天使の青年も同じ。
いや、見た目が天使のように美しい分、中身の醜悪さがより際立っておぞましさすら感じる。けれど彼は紛れもなく──ラズリと血の繋がった兄妹なのだ。
「我が君はあの者を……どうするつもりでしょうか……」
殺してしまうのは簡単だが、それではきっとラズリの心に傷を作ってしまう。かといって放置するのも──彼の能力を考えれば危なすぎてできない。
ならば一体どうするのが正解なのか?
闇は答えを探すように、奏の後ろ姿を見つめた──。
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
【完結】無関心夫の手を離した公爵夫人は、異国の地で運命の香りと出会う
佐原香奈
恋愛
建国祭の夜、冷徹な公爵セドリック・グランチェスターは、妻セレスティーヌを舞踏会に残し、早々に会場を後にした。
それが、必死に縋り付いていた妻が、手を離す決意をさせたとも知らず、夜中まで仕事のことしか考えていなかった。
セドリックが帰宅すると、屋敷に残されていたのは、一通の離縁届と脱ぎ捨てられた絹の靴。そして、彼女が置いていった嗅いだことのない白檀の香りだけだった。
すべてを捨てて貿易都市カリアへ渡った彼女は、名もなき調香師「セレス」として覚醒する。
一方、消えた妻を追うセドリックの手元に届いたのは、かつての冷たい香りとは似て非なる、温かな光を宿した白檀の香水。
「これは、彼女の復讐か、それとも再生か——」
執念に駆られ、見知らぬ地へ降り立った公爵が目にしたのは、異国の貿易王の隣で、誰よりも自由に、見たこともない笑顔で微笑む「他人」となった妻の姿だった。
誤字、修正漏れ教えてくださってありがとうございます!