【完】天涯孤独になった筈が、周りで奪い合いが起きているようです

迦陵 れん

文字の大きさ
191 / 205
最終章 飛翔

純粋な魔性

 奏とルーチェの目が合う。

 ルーチェは、つい今しがた死灰栖が奏によって小鬼へと変えられたのを目の当たりにし、冷や汗が背中を伝うのを感じていた。

 なんだ、こいつは? 能力がおかしいだろう! 人型の魔性を小鬼にする能力なんて、見たことも聞いたこともないぞ?

 実際ルーチェは、魔性の能力についてあまり詳しくは知らなかった。というのも、魔性についての彼の知識は、氷依に教えてもらったことのみに偏っていたからだ。だが、氷依は浅く広く、魔性について様々なことをルーチェに教えてくれたため、魔性についての一般常識的な事柄であれば、おそらく彼は戸惑いを感じることなどなかっただろう。魔性の能力は特殊なものさえ除けば、ほとんど全てが属性による違いのみしかないのだから。

 しかし今現在、彼の前にいるのは特殊の中においても更に特殊、現存する魔性の中では一人しか持ち得ないだろう能力を有している奏ときている。そんな人物を相手に、ルーチェの持つ知識など役に立つわけがない。

 その上こちらは駒として使える魔性もおらず、魔力を吸収する札もなく、ほぼ丸腰と変わらない状態なのだ。そんな状況で戦いを挑んだとしても、勝機など万に一つもないだろう。

 なんでよりによって、こんな訳の分からない奴が……。

 ルーチェの知る〝普通“の魔性であれば、あるいは対処する方法が思いついたかもしれない。

 だが、相手は全く未知の能力を持つ存在である。そんな男を相手に、ルーチェはどうしたら勝機を見出せるのか、いくら考えても分からなかった。

「……僕のことも、死灰栖のように小鬼の姿へ変えるのか?」

 そんなのは絶対嫌だと思いつつ、そうなる可能性を考えて、恐る恐る奏と名乗った男に問う。

 どこからどう見ても天使にしか見えない美しい自分の見た目は、ルーチェにとって何よりの自慢であり、何より大切なものだった。それが奪われるなど、地獄でしかない。

 美しい見た目であるからこそ魔人でさえも魅了できるというのに、それを失ったら、誰にも見向きされなくなってしまう。

 幼い頃から、天使の母親譲りの美貌のおかげで周囲にチヤホヤされて育ってきたルーチェは、その美貌を失うことが何よりも怖かった。

 自分の価値は見た目であり、見た目さえ良ければ周りは過剰とも言えるほどに優しくしてくれ、甘やかしてくれる──魔性だってそうだ。

 最初は人間だと馬鹿にしてきても、ルーチェが天使の笑顔でにっこりと微笑むと、力の弱い魔性なんかはメロメロになり、なんでも言うことを聞いてくれた。

 そんな風にして育ってきて──魔性について自分なりに研究し、魔力を吸収する札を作り出し、同時に自分自身を天使として完璧な存在にするため、生き別れてしまった双子の妹を探して、探し続けて……やっとの思いで見つけ出したのに。

 ようやく全ての願いが叶うという時になって──どうして邪魔されなければならない?

 自分はただ、できたばかりの頃のような、天使が力を持つ状態にこの島を戻したいだけなのに。

 何がそんなにいけない? 魔性なんて、人間に害を与えるだけじゃないか。

 その点自分なら、人間達が幸せに暮らす世界を作れる。もし仮に従わない人間がいたとしても、魅了してしまえば素直にいうことを聞かせられる。

 魔性のように力で無理やり言うことを聞かせるより、その方が余程平和的でいいじゃないか。なのに、どうして──。

 悶々と考え込んでいると、わざとらしい大きなため息が聞こえ、ルーチェはハッとして視線を上げた。

 どうやら考え事に没頭しすぎて、いつの間にやら視線を俯かせていたらしい。

「小鬼にだけは……なりたくないんだ……」

 爛々と光る赤い瞳を見つめ、懇願するように口に出せば、奏という男は軽く肩をすくめて見せた。

「多分だけど……お前は小鬼にはならないと思うぜ? 元々純粋な魔性じゃないわけだし……あぁでも性格は果てしなく魔性寄りだから、それに基づいた見た目に変化するとしたら……可能性はなくもないか?」 

 可能性云々だとか、性格が魔性寄りだとかはどうでも良かった。

 ただ、その言葉以前にどうしても聞き流せない一言が、男の科白の中には含まれていた。

 それは──〝純粋な魔性ではない“という一言。

「純粋な魔性? 僕は……純粋な〝天使“のはずだろう?」

 男が何気なく口にした言葉に──ルーチェはただただ首を傾げたのだった。 









あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?

志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。 父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。 多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。 オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。 それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。 この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝🌹グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 そう名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  ✴️設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 ✴️稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️