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最終章 飛翔
緋色の涙
ルーチェの黄金色の瞳と視線が合った瞬間、闇は軽い眩暈を感じた。
「…………っ」
逸らしたいのに、逸らせない。
二つしかないはずの黄金色の瞳が、四つにも六つにも増えて見え、視界の中でぐるぐると回転する。
これは──まずい。これは──もしかしたら。
「闇⁉︎」
異常に気付いたのだろう。奏が驚いたような声をあげ、続いて、ルーチェに向かって手のひらを突き出した。おそらく、死灰栖にしたのと同じように、天使である青年の能力も奪うつもりなのだろう。
だが──。
闇は揺れる視界の中、なんとか手を伸ばすと、奏の腕を軽く叩くことでその行為を止めた。
「闇! なんで……」
不満を顔にありありと浮かべながらも、振り返った奏に首を横に振って見せれば、彼は渋々ながらも手のひらをおろしてくれる。
普段からの信頼がなせる技なのか、奏は基本的に闇が嫌がったり、止めたりする行為において、強行はしないのだ。──しかしながら今はその表情も、醸し出す雰囲気も、不機嫌さを前面に押し出してはいるが。
そんな奏に、闇は激しく揺さぶられる視界と心を押さえつけつつ、今しがた奏がやろうとした行為の危険性について口にした。
「天使の能力など吸収したら、どんなことになるか想像もつきません。基本的に天使と魔性の能力は……特に魔性の中でも闇に属する貴方の能力は、天使の光の能力とは正反対に位置するものです。そんな能力を吸収などしたら、貴方の身に一体どんなことが起こるか分かりませんし、最悪消滅するようなことにでもなったら、後悔してもしきれません。なので、そのような危険なことは絶対になさらないで下さい」
なんとしても理解して欲しい──。
そんな気持ちを込め、懇願するように言うも、奏はあっけらかんとした態度を崩さなかった。
「いやでも殺すだけだったら、能力吸収しなくても済むわけだし。実際のとこ、大天使はそうやって始末したから大丈夫じゃね?」
どこまでも楽天的。そして、どこまでも危機感が足りない。
貴方がそんなだから、ラズリ殿が簡単に攫われてしまったんですよ! と言ってやりたいが、それを言えば一瞬でどん底まで落ち込むことが分かりきっているため、その一言だけは口にできない。
楽天的か、悲観的か。そのどちらかしかなく、間のない奏は扱いが非常に難しかった。
難しいが、唯一の主であると自分自身で定めた以上、彼の望む方向へと誘導するのが自分の仕事だ。だったら自分は──。
そこまで考えた瞬間、不意に闇の脚から力が抜けた。
「闇っ⁉︎」
いきなり床に膝をつき、頭を抱えた闇の顔を、奏が心配そうに覗き込んでくる。
「闇、どうした? 闇!」
「だい……じょう……」
そんな彼を心配させないよう、大丈夫と言って微笑みたいのに、闇にはそれができなかった。
目を閉じても、黄金色の瞳が見える。どんなに逃れようとしても逃れられず、黄金色の光を感じる。
たった一度──ほんの数瞬、目を合わせてしまっただけなのに。
「こん……こと……」
このままでは、自分も先ほどの死灰栖のように、操られて奏を攻撃してしまうかもしれない。それだけは嫌だ。
彼の唯一の配下であり、友人でもある自分が奏を攻撃するなど、あってはならない。
それに、自分は知っているのだ。
奏が本当はとても寂しがりで、孤独を恐れていることを──。
本来の強大すぎる魔力を封じているのも、他の魔性に恐れられ、距離を取られて孤独になるのを恐れるがゆえであるということを──。
そのために魔力や能力、ありとあらゆるものを封じて魔人として振る舞っても、心からの友人と呼べる者は自分一人しかできず、いまだに奏が苦しんでいるということを──。
「それを……知りな……がら……」
たとえ操られようとも、どうして奏を攻撃することなどできるだろうか。傷つけることなどできるだろうか。
身体ではない。彼の精神をこれ以上傷つけることなど自分には──。
「死んでも……できない……」
したく──ない。
呟き、闇は自身の魔力を大きく膨らませた。
この手で我が君を傷つけるぐらいなら、その前に……あの天使を……。
奏に手を汚させるわけにはいかない。そんなことをしたら、彼はラズリに許してもらえなくなるだろう。
だから自分が。自分が、あの天使を殺すしかない。
決意を燃やす闇の瞳から、緋色の涙が溢れ出した──。
「…………っ」
逸らしたいのに、逸らせない。
二つしかないはずの黄金色の瞳が、四つにも六つにも増えて見え、視界の中でぐるぐると回転する。
これは──まずい。これは──もしかしたら。
「闇⁉︎」
異常に気付いたのだろう。奏が驚いたような声をあげ、続いて、ルーチェに向かって手のひらを突き出した。おそらく、死灰栖にしたのと同じように、天使である青年の能力も奪うつもりなのだろう。
だが──。
闇は揺れる視界の中、なんとか手を伸ばすと、奏の腕を軽く叩くことでその行為を止めた。
「闇! なんで……」
不満を顔にありありと浮かべながらも、振り返った奏に首を横に振って見せれば、彼は渋々ながらも手のひらをおろしてくれる。
普段からの信頼がなせる技なのか、奏は基本的に闇が嫌がったり、止めたりする行為において、強行はしないのだ。──しかしながら今はその表情も、醸し出す雰囲気も、不機嫌さを前面に押し出してはいるが。
そんな奏に、闇は激しく揺さぶられる視界と心を押さえつけつつ、今しがた奏がやろうとした行為の危険性について口にした。
「天使の能力など吸収したら、どんなことになるか想像もつきません。基本的に天使と魔性の能力は……特に魔性の中でも闇に属する貴方の能力は、天使の光の能力とは正反対に位置するものです。そんな能力を吸収などしたら、貴方の身に一体どんなことが起こるか分かりませんし、最悪消滅するようなことにでもなったら、後悔してもしきれません。なので、そのような危険なことは絶対になさらないで下さい」
なんとしても理解して欲しい──。
そんな気持ちを込め、懇願するように言うも、奏はあっけらかんとした態度を崩さなかった。
「いやでも殺すだけだったら、能力吸収しなくても済むわけだし。実際のとこ、大天使はそうやって始末したから大丈夫じゃね?」
どこまでも楽天的。そして、どこまでも危機感が足りない。
貴方がそんなだから、ラズリ殿が簡単に攫われてしまったんですよ! と言ってやりたいが、それを言えば一瞬でどん底まで落ち込むことが分かりきっているため、その一言だけは口にできない。
楽天的か、悲観的か。そのどちらかしかなく、間のない奏は扱いが非常に難しかった。
難しいが、唯一の主であると自分自身で定めた以上、彼の望む方向へと誘導するのが自分の仕事だ。だったら自分は──。
そこまで考えた瞬間、不意に闇の脚から力が抜けた。
「闇っ⁉︎」
いきなり床に膝をつき、頭を抱えた闇の顔を、奏が心配そうに覗き込んでくる。
「闇、どうした? 闇!」
「だい……じょう……」
そんな彼を心配させないよう、大丈夫と言って微笑みたいのに、闇にはそれができなかった。
目を閉じても、黄金色の瞳が見える。どんなに逃れようとしても逃れられず、黄金色の光を感じる。
たった一度──ほんの数瞬、目を合わせてしまっただけなのに。
「こん……こと……」
このままでは、自分も先ほどの死灰栖のように、操られて奏を攻撃してしまうかもしれない。それだけは嫌だ。
彼の唯一の配下であり、友人でもある自分が奏を攻撃するなど、あってはならない。
それに、自分は知っているのだ。
奏が本当はとても寂しがりで、孤独を恐れていることを──。
本来の強大すぎる魔力を封じているのも、他の魔性に恐れられ、距離を取られて孤独になるのを恐れるがゆえであるということを──。
そのために魔力や能力、ありとあらゆるものを封じて魔人として振る舞っても、心からの友人と呼べる者は自分一人しかできず、いまだに奏が苦しんでいるということを──。
「それを……知りな……がら……」
たとえ操られようとも、どうして奏を攻撃することなどできるだろうか。傷つけることなどできるだろうか。
身体ではない。彼の精神をこれ以上傷つけることなど自分には──。
「死んでも……できない……」
したく──ない。
呟き、闇は自身の魔力を大きく膨らませた。
この手で我が君を傷つけるぐらいなら、その前に……あの天使を……。
奏に手を汚させるわけにはいかない。そんなことをしたら、彼はラズリに許してもらえなくなるだろう。
だから自分が。自分が、あの天使を殺すしかない。
決意を燃やす闇の瞳から、緋色の涙が溢れ出した──。
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