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最終章 飛翔
一本の腕
「なっ……闇! ど、どうした⁉︎」
突如として闇の瞳から流れ出した緋色の涙に狼狽え、奏があわあわと手を動かす。
しかし、そんな彼には目もくれずに、闇は瞳を閉じて力を練った。
もう時間がない……。この心が完全に乗っ取られる前に、あの天使の青年を殺してしまわなければ……。
一撃で片をつけなければならない。そうしなければ、自分の思惑に奏が気付くに違いないから。
魅了をかけられてしまったことも、今まさにそれに抗っているのだということも、何一つ奏に知られてはならないのだ。
ラズリの兄となる人物を殺したことで、たとえ自分がラズリに恨まれたとしても、奏は何も知らなかったと言えば──自分が勝手にやったと言えば、彼女は信じるだろう。そのためにも、奏は絶対に巻き込めない。
瞳から溢れ出し、頬を伝うものの量が増えていく。けれどそれがなんであるのか、闇には分からないし、どうでも良い。
天使の青年に仕掛けられた魅了によるものなのか、はたまた、それに全力で抗っていることによる弊害なのか──。
なんにせよ、主君に対する脅威を自らの手で排除することさえできるのならば、他はすべてどうでも良かった。
自らの持つ魔力を最大限に高め、自分を蝕もうとする魅了の力に全力で抗いつつ、闇は攻撃を放とうとし……刹那、元いた場所──宿屋──へと強制的に転移させられていた。
「えっ……ここは? 我が君っ……!」
目の前の光景が瞬時に変化したことに愕然としながらも、放とうとしていた力の塊を瞬時に霧散させ、奏のところへ戻ろうと試みる。が、瞬間──魔力が奪われる感覚に陥り、闇はその場に倒れ伏した。
「な、何故……」
なんとか首を動かし、自分から魔力を奪った存在を確かめようとするも、誰の姿も認められない。ならば、誰がどうやって自分の魔力を奪ったのか──。
考えるも、そもそもこの宿屋の場所を知っている者は、限られている。しかも、他者の魔力を奪えるような存在であるとするなら、尚更だ。
可能性として、有り得るのは……。
ふと一人の存在が頭に浮かんだが、闇は軽く頭を振って、その考えを打ち消した。
あの人だけは、違う。絶対にあり得ない。けれど……。
別の視点から考えようとするも、そこで魔力が枯渇し、なす術なく闇は意識を失った。
「………………」
その背中に、無言で一本の手が伸ばされる。
その手は、倒れた闇の背に貼り付けられていた一枚の札を剥がすと、それを持ち、消失した。
室内にいた、カラスと共に──。
※※※※
──同時刻。
突然姿を消してしまった闇の気配を、奏は必死になって探していた。
「闇⁉︎ どこに行ったんだ? 闇!」
呼んでも現れないことなど日常茶飯事。気付けば姿を消していることも珍しくはない闇ではあるが、こういう切羽詰まった状態で、突然姿を消すような人物ではない。
「闇、どうした? 返事をしろ! 闇!」
だからこそ、奏は襲いくる不安を拭いきれず、半狂乱になって闇の名を呼び続けていた。
それに口を挟んできたのはルーチェだ。
「うるさいなぁ……。どうせ僕に魅了をかけられそうになって逃げたとか、そんな感じじゃないの? 元々辛そうにしてたし、君的にはあの魔性が戻ってこない方が安全だと思うけど?」
「……どういう意味だ?」
ルーチェの吐いた言葉に怒りを覚え、奏の目が鋭く細められる。
闇がいない方が安全だなんてことは絶対にない。何故なら彼はいつだって自分のことを第一に考え、色々と手を尽くしてきてくれた。どんなに馬鹿なことをやったとしても、見捨てずついてきてくれた。
そんな闇が俺をおいて逃げる? いない方がいい?
そんなわけがあるか!
内心で奏が憤慨していると、ルーチェは自らの顎に人差し指を当て、うっそりと笑った。
「あの魔性が如何に君のことを慕っていても、僕の魅了には逆らえないんだよ。一度僕に魅了されたら、僕を殺すまで魅了は解けない。永遠に……ね」
「だったらお前を殺しちまえば問題はないんだろう?」
ルーチェの笑みに怒りを煽られ、奏は手のひらを突き出すも──ルーチェはそれに慌てることなく、こう言葉を返してきた。
「僕を殺してしまったら、妹に嫌われてしまうんじゃないのかい? 僕の勘違いでなければ、君は妹に好意を持っているんじゃなかったのかな?」
「…………っ!」
本当に、忌々しい!
突き出した手のひらを拳に変えて、奏は大きく舌打ちをした。
突如として闇の瞳から流れ出した緋色の涙に狼狽え、奏があわあわと手を動かす。
しかし、そんな彼には目もくれずに、闇は瞳を閉じて力を練った。
もう時間がない……。この心が完全に乗っ取られる前に、あの天使の青年を殺してしまわなければ……。
一撃で片をつけなければならない。そうしなければ、自分の思惑に奏が気付くに違いないから。
魅了をかけられてしまったことも、今まさにそれに抗っているのだということも、何一つ奏に知られてはならないのだ。
ラズリの兄となる人物を殺したことで、たとえ自分がラズリに恨まれたとしても、奏は何も知らなかったと言えば──自分が勝手にやったと言えば、彼女は信じるだろう。そのためにも、奏は絶対に巻き込めない。
瞳から溢れ出し、頬を伝うものの量が増えていく。けれどそれがなんであるのか、闇には分からないし、どうでも良い。
天使の青年に仕掛けられた魅了によるものなのか、はたまた、それに全力で抗っていることによる弊害なのか──。
なんにせよ、主君に対する脅威を自らの手で排除することさえできるのならば、他はすべてどうでも良かった。
自らの持つ魔力を最大限に高め、自分を蝕もうとする魅了の力に全力で抗いつつ、闇は攻撃を放とうとし……刹那、元いた場所──宿屋──へと強制的に転移させられていた。
「えっ……ここは? 我が君っ……!」
目の前の光景が瞬時に変化したことに愕然としながらも、放とうとしていた力の塊を瞬時に霧散させ、奏のところへ戻ろうと試みる。が、瞬間──魔力が奪われる感覚に陥り、闇はその場に倒れ伏した。
「な、何故……」
なんとか首を動かし、自分から魔力を奪った存在を確かめようとするも、誰の姿も認められない。ならば、誰がどうやって自分の魔力を奪ったのか──。
考えるも、そもそもこの宿屋の場所を知っている者は、限られている。しかも、他者の魔力を奪えるような存在であるとするなら、尚更だ。
可能性として、有り得るのは……。
ふと一人の存在が頭に浮かんだが、闇は軽く頭を振って、その考えを打ち消した。
あの人だけは、違う。絶対にあり得ない。けれど……。
別の視点から考えようとするも、そこで魔力が枯渇し、なす術なく闇は意識を失った。
「………………」
その背中に、無言で一本の手が伸ばされる。
その手は、倒れた闇の背に貼り付けられていた一枚の札を剥がすと、それを持ち、消失した。
室内にいた、カラスと共に──。
※※※※
──同時刻。
突然姿を消してしまった闇の気配を、奏は必死になって探していた。
「闇⁉︎ どこに行ったんだ? 闇!」
呼んでも現れないことなど日常茶飯事。気付けば姿を消していることも珍しくはない闇ではあるが、こういう切羽詰まった状態で、突然姿を消すような人物ではない。
「闇、どうした? 返事をしろ! 闇!」
だからこそ、奏は襲いくる不安を拭いきれず、半狂乱になって闇の名を呼び続けていた。
それに口を挟んできたのはルーチェだ。
「うるさいなぁ……。どうせ僕に魅了をかけられそうになって逃げたとか、そんな感じじゃないの? 元々辛そうにしてたし、君的にはあの魔性が戻ってこない方が安全だと思うけど?」
「……どういう意味だ?」
ルーチェの吐いた言葉に怒りを覚え、奏の目が鋭く細められる。
闇がいない方が安全だなんてことは絶対にない。何故なら彼はいつだって自分のことを第一に考え、色々と手を尽くしてきてくれた。どんなに馬鹿なことをやったとしても、見捨てずついてきてくれた。
そんな闇が俺をおいて逃げる? いない方がいい?
そんなわけがあるか!
内心で奏が憤慨していると、ルーチェは自らの顎に人差し指を当て、うっそりと笑った。
「あの魔性が如何に君のことを慕っていても、僕の魅了には逆らえないんだよ。一度僕に魅了されたら、僕を殺すまで魅了は解けない。永遠に……ね」
「だったらお前を殺しちまえば問題はないんだろう?」
ルーチェの笑みに怒りを煽られ、奏は手のひらを突き出すも──ルーチェはそれに慌てることなく、こう言葉を返してきた。
「僕を殺してしまったら、妹に嫌われてしまうんじゃないのかい? 僕の勘違いでなければ、君は妹に好意を持っているんじゃなかったのかな?」
「…………っ!」
本当に、忌々しい!
突き出した手のひらを拳に変えて、奏は大きく舌打ちをした。
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