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最終章 飛翔
無意味な忠告
赤い髪の魔性に真っ直ぐ手を伸ばされた瞬間──避けなければ! という気持ちよりも先に、頭が割れそうなほどの強い痛みを感じて、ルーチェは思わずその場にしゃがみ込んだ。
「ああ……う、うう……い、痛い……」
あまりにも突然すぎる痛みに、頭を抱えて呻くことしかできなくなった。
何故急に、こんな酷い痛みに襲われたのか。
考える余裕もなく、痛みが強すぎて目も開けられない。
脳内ではハンマーを叩くような音が鳴り響き、頭を抱えても、耳を塞いでも、音は一向に鳴り止まず、吐き気まで催してくる。
「うう……痛い、痛いよ……」
こんな痛みを感じることは初めてで、痛みに弱いルーチェは泣き言を漏らし、思わず奏の足に頭を擦り付けた。
そうしたところで痛みが治りはしないのだが、無自覚なのだろう。奏の側からは、ただ痛みから逃れたいがために、懸命に親へと縋り付く子供のようにも見えた。
「痛い、痛い、痛い……」
もはや痛みのせいで『痛い』以外言えなくなってしまっているルーチェに、奏は頭上からため息と共に呆れたような声をかける。
「だからあの時、その力は〝諸刃の剣“だって教えてやっただろうが」
せっかく注意してやったのに、それを聞き入れなかったのはルーチェだ。
奏自身、ルーチェに天使の能力が〝諸刃の剣“であると告げた時、使い過ぎればどうなるかを理解していたわけではなかった。それでもルーチェが純粋な天使でない以上、使い過ぎれば遅かれ早かれ不調が出ることは分かりきっていたため、わざわざ忠告してやったのだ。
奏自身としてはルーチェなどどうなっても構わなかったが、不本意ながらも彼はラズリと血の繋がった兄であるし、忠告することによって彼が天使の能力を使う頻度を減らすのであれば、その分ラズリに手を出すこともなくなるかもしれないと考えたからでもある。
しかし結果は、無意味なものに終わってしまった。
無意味どころか、ある意味忠告したことを後悔したくなるほどだ。
何故ならルーチェは奏の忠告に全く耳を貸さなかったばかりか、ラズリの持つ能力までをも我が物とし、好き勝手に使いまくった挙句、今の状態へと陥ったのだから。
敵対している自分の言葉を素直に信じられなかった気持ちは分からないでもないが、それにしたってもう少しぐらい考えるとか、自分の身体に負担がかかるとか、そういったことに頭を使えなかったのだろうか?
馬鹿みたいに駒として使う魔性を増やすため、魔力を吸収する札を作り続けて──果ては妹の能力まで奪うとか、そこまでしたところで大した成果は出せていないのに。
ルーチェの親となった魔性は天使と子を成すことができるぐらいなのだから、悪くても人型の魔人であるだろうと見当をつけていたが、息子である青年がこうも頭の出来が悪いとなると、本当にそうなのか? とすら思ってしまう。
今の事態は間違いなく本人が招いたことに違いないし、自業自得とも言うべきことであるが──それでも奏は、少しだけルーチェに同情した。
「お前も、もう少しまともに育ってたら、今頃こうはなってなかったかもしれないのにな……」
彼の最大の不幸は、天使の外見だけを引き継いでしまったことに違いない。
もしもラズリのように天使の内面を引き継いでいたのなら、清く正しく、美しい心のままに成長することができただろう。だが彼は内面が魔性そのものであったことで、天使のように美しい外見に惹きつけられた者達の心を迷いなく簡単に魅了し、操り、更に蝶よ花よと愛でられることで、修復不可能なほどに自分で自分の精神を捻じ曲げていった。
天使としての能力──魅了──を失えば、ルーチェはただ外見を褒められるだけの存在になる。
そうなれば、もう相手を操ることはできなくなるため、他人を駒のように使うこともできなくなるし、ましてや無条件で相手に自分を受け入れさせる──なんてこともできなくなる。
その現実を、彼はきちんと受け入れることができるのか──。
いや、たとえ受け入れられなくとも、受け入れるしかない。それ以外に、彼が今苛まれている酷い頭痛から、逃れる術はないのだから。
「ああ……う、うう……い、痛い……」
あまりにも突然すぎる痛みに、頭を抱えて呻くことしかできなくなった。
何故急に、こんな酷い痛みに襲われたのか。
考える余裕もなく、痛みが強すぎて目も開けられない。
脳内ではハンマーを叩くような音が鳴り響き、頭を抱えても、耳を塞いでも、音は一向に鳴り止まず、吐き気まで催してくる。
「うう……痛い、痛いよ……」
こんな痛みを感じることは初めてで、痛みに弱いルーチェは泣き言を漏らし、思わず奏の足に頭を擦り付けた。
そうしたところで痛みが治りはしないのだが、無自覚なのだろう。奏の側からは、ただ痛みから逃れたいがために、懸命に親へと縋り付く子供のようにも見えた。
「痛い、痛い、痛い……」
もはや痛みのせいで『痛い』以外言えなくなってしまっているルーチェに、奏は頭上からため息と共に呆れたような声をかける。
「だからあの時、その力は〝諸刃の剣“だって教えてやっただろうが」
せっかく注意してやったのに、それを聞き入れなかったのはルーチェだ。
奏自身、ルーチェに天使の能力が〝諸刃の剣“であると告げた時、使い過ぎればどうなるかを理解していたわけではなかった。それでもルーチェが純粋な天使でない以上、使い過ぎれば遅かれ早かれ不調が出ることは分かりきっていたため、わざわざ忠告してやったのだ。
奏自身としてはルーチェなどどうなっても構わなかったが、不本意ながらも彼はラズリと血の繋がった兄であるし、忠告することによって彼が天使の能力を使う頻度を減らすのであれば、その分ラズリに手を出すこともなくなるかもしれないと考えたからでもある。
しかし結果は、無意味なものに終わってしまった。
無意味どころか、ある意味忠告したことを後悔したくなるほどだ。
何故ならルーチェは奏の忠告に全く耳を貸さなかったばかりか、ラズリの持つ能力までをも我が物とし、好き勝手に使いまくった挙句、今の状態へと陥ったのだから。
敵対している自分の言葉を素直に信じられなかった気持ちは分からないでもないが、それにしたってもう少しぐらい考えるとか、自分の身体に負担がかかるとか、そういったことに頭を使えなかったのだろうか?
馬鹿みたいに駒として使う魔性を増やすため、魔力を吸収する札を作り続けて──果ては妹の能力まで奪うとか、そこまでしたところで大した成果は出せていないのに。
ルーチェの親となった魔性は天使と子を成すことができるぐらいなのだから、悪くても人型の魔人であるだろうと見当をつけていたが、息子である青年がこうも頭の出来が悪いとなると、本当にそうなのか? とすら思ってしまう。
今の事態は間違いなく本人が招いたことに違いないし、自業自得とも言うべきことであるが──それでも奏は、少しだけルーチェに同情した。
「お前も、もう少しまともに育ってたら、今頃こうはなってなかったかもしれないのにな……」
彼の最大の不幸は、天使の外見だけを引き継いでしまったことに違いない。
もしもラズリのように天使の内面を引き継いでいたのなら、清く正しく、美しい心のままに成長することができただろう。だが彼は内面が魔性そのものであったことで、天使のように美しい外見に惹きつけられた者達の心を迷いなく簡単に魅了し、操り、更に蝶よ花よと愛でられることで、修復不可能なほどに自分で自分の精神を捻じ曲げていった。
天使としての能力──魅了──を失えば、ルーチェはただ外見を褒められるだけの存在になる。
そうなれば、もう相手を操ることはできなくなるため、他人を駒のように使うこともできなくなるし、ましてや無条件で相手に自分を受け入れさせる──なんてこともできなくなる。
その現実を、彼はきちんと受け入れることができるのか──。
いや、たとえ受け入れられなくとも、受け入れるしかない。それ以外に、彼が今苛まれている酷い頭痛から、逃れる術はないのだから。
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