【完】天涯孤独になった筈が、周りで奪い合いが起きているようです

迦陵 れん

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最終章 飛翔

元の状態

 宿屋での一悶着を終えた後、ラズリ達三人は再びルーチェのいる城へと戻ってきていた。

 しかし、戻った場所はルーチェのいた部屋ではなく、かといってラズリが寝かされていた部屋でもなく、謁見室のような場所であった。

 どうしてこんな場所に?

 奏に尋ねようと顔を上げたのだが、ふと玉座に座る人物が目に入り、そのせいでラズリの口は考えていたものとは違う疑問を紡ぎ出していた。

「あの人は……誰?」

 今現在、ミースヴァル島の最高権力はルーチェが握っている。

 つまり、王宮内にある謁見の間の玉座に腰を据えていいのは、当然ルーチェだけであるはずだ。だというのに、現在玉座に座っている人物はルーチェではない。ルーチェではないが、むしろその人こそが〝王”に相応しいといえる風格を漂わせており、余程その人のほうが兄であるルーチェより王に相応しく見えた。

 どうしてあの人は玉座に座っているんだろう? そして、肝心の兄はどこへ行ってしまったのだろうか。

 王が代替わりしたなどという話は聞いていないし、ルーチェ自身の口から『最高権力者』だという言葉を聞いたのは今日のことだ。であれば、玉座に座っている人物が王であるということは、まずあり得ない。

 なのにどうして、あの人はあんなにも堂々と玉座に腰を下ろしているの?

 わけが分からずラズリが首を傾げていると、その疑問に気づいたかのように、奏が顎で玉座に座る人物の背後を示した。

「あの男の斜め後ろにいる女が抱いてる子供を見てみろ」

 言われて見れば、その女性が抱いている子供はラズリと同じような色彩──瞳と髪の色が薄茶色──をしていて、何となくだけど、子供の頃のルーチェと似たような面差しをしている。

「あの子は……?」

 玉座に座る人とどんな関係があるんだろう? 

 まさか、兄の血を引く子供──とか?

 だが、奏の口から語られたのは、それとは違う衝撃的な事実だった。

「あいつがお前の兄男、ルーチェだ。天使としての能力と、お前の言う〝嫌なもの”が身体から抜け出た結果、幼児に逆戻りしちまった」
「そんなことって……」

 だとしたら、自分はなんてことをしてしまったのだろう。

 激しい後悔に襲われ、ラズリは全身を震わせる。

 自分はただ、兄の能力による犠牲者を、これ以上出したくないだけだったのに。

 島の最高権力を有するだけでなく、人外の美貌と天使の能力をも有する兄をそのままにしておけば、彼の自分勝手な行動により、不幸になる人が無尽蔵に増え続けるかもしれないと思った。だから能力を奪う選択をしただけで、決して彼を幼児にしたかったわけではない。能力を奪うことで身体の時間が逆行してしまうと分かっていたら、絶対にそんなことはしなかった。

「私……兄に酷いことを……」

 自分が犯した罪の重さに打ちひしがれ、頭を抱える。

 しかし奏はそんなラズリに、『気にするな』とばかりに優しい微笑みを向けてきた。

「どっちにしろ、あいつは天使の能力を全てなくした時点で絶望して狂っていただろう。けど、幼児に戻ったことで記憶も何もかも全て消え失せて、新しく生き直せることになったんだ。そう考えると、あのまま天使の能力を失って生き続けるより、今の状態のほうが幸せだと思うぜ? それに天使の能力を失ったとはいっても見た目はそのままだから、成長するまでに甘やかされすぎて、結局また性格が捻じ曲がるかもしれないしな」

 そうなった場合、ただの人間であればさほど害はないけれど、天使の能力を持っていたら害どころの騒ぎではないため、やっぱり奪っておいて正解だったと改めて言われ、ラズリは少しだけ微笑んだ。

「うん、そうだね……」

 言われてみれば、そうかもしれない。

 天使の能力があって当然だったルーチェが突然能力をなくし、ただの人間として生きるより、幼児の時から何の能力も持たない人間として成長し直したほうが、今後ははるかに生きやすいだろう。

「だったら、今玉座に座っている人は……?」

 そこでようやく、最初の質問へと話を戻す。

 如何にも〝最高権力者“という威厳を漂わせている、あの男の人は──。

 それに答えた奏の言葉は、ある意味ラズリの予想通りのものだった。

「あいつは、ルーチェの前にこの島の王だった男だ。魅了された状態で端の部屋に閉じ込められてたんだが、ルーチェが能力をなくしたことによって正気を取り戻したから、俺が記憶操作して王に戻した。ルーチェがじゃ、王として君臨し続けることは不可能だからな。もちろん、ルーチェのやつが王だった時のことも、子供になった後のことも、関わった人間達全ての記憶操作は問題なく終わらせてある」

 つまり、全てはルーチェが島の最高権力を手にする前に戻ったのだと。彼の〝やらかし”はなかったことになり、元の状態に戻ったと奏は告げたのだった。

 


 






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