【完】天涯孤独になった筈が、周りで奪い合いが起きているようです

迦陵 れん

文字の大きさ
18 / 205
第二章 赤い魔性

見せられた地獄

「おい、待てって言ってるだろ!」

 炎まであと一歩という所で奏に腕を掴まれ、ラズリは強制的に足を止めさせられた。

 炎はもう目の前で、チリチリとした音が聞こえ、顔や身体に熱を感じる。

 止められなければ、確実に炎の中へと飛び込んでいた。何の算段もないままに。

 けれど──。

「離して! 早く火を消さないと、みんなが……!」

 奏の手を振り払おうともがくも、彼の手はまるでラズリの腕に固定されているかのように離れない。叩いても引っ掻いても効果はなく、寧ろ掴んでいる手に力を込められ、ラズリは痛みに悲鳴をあげる。

「痛い! 離してよ、馬鹿!」
「離したら、お前は炎の中に飛び込んで行っちまうだろうが! よく考えろ! お前が炎に飛び込んで何ができる? 一瞬で火だるまになって死ぬだけだろ!」
「それは……そうかもしれないけど……」

 そんな事を言われても、どうしたら良いのか分からない。

 ただ、一分一秒でも早く火を消さないと……それしか考えられなかったから。

「だったら、どうすれば良かったの? 早くしないと、村が巻き込まれるかもしれないのに!」

 こんな大きな炎に呑み込まれたら、自分の住んでいた村など一溜まりもないだろう。

 だからこそ、そうなる前に何とかしなければと思い、取り敢えず向かって行ったのだが。それに対する奏の反応は、ラズリが予想していたものとは違うものだった。

「……へ?」

 何を言われたのか分からない、といった表情。
 
 若しくは、言われた言葉の意味が分かっていないというような、きょとんとした顔。

 切羽詰まった気持ちのラズリは、そんな奏の反応に、怒りが込み上げてくる。

「早く消さないと、炎が村に飛び火するかもしれないでしょ! だから……」

 どうして分かってくれないの? 

 もどかしい気持ちで、奏に訴えかけようとした時だった。

「燃えてるのは、村だけど?」

 アッサリと告げられたその内容に、瞬間、ラズリは大きく目を見開いた。

 燃えてるのは……村?

 ……いや、待って。落ち着いて。

 もしかしたら、聞き間違いかもしれない。もう一度、ちゃんと確認しないと。

 何度か深呼吸を繰り返し、ラズリは懸命に気持ちを落ち着ける。

 大丈夫、大丈夫よ。きっとさっきのは聞き間違い。村が燃えてるなんて事、あるわけないわ。

 そう自分に言い聞かせ、そのうえで、再度奏に尋ねる。

「燃えてるのは村って……どういう事なの?」
「え……また?」

 しかし、ラズリの質問に対し、奏には思いっきり嫌な顔をされた。

 確かに先程も同じ事を二度聞いてしまったけれど、大事な事だから仕方がないと思ってほしい。

 何でもかんでも一度聞いただけで納得するなんて事、できるわけないのだから。

「だって仕方ないでしょう? 突然村が燃えてるなんて言われて、納得できるはずないじゃない」

 それで納得できていたら、こんな風に質問を繰り返したりなどしていない。ただ受け入れる事しかできず、泣き崩れていただろう。けれど今はまだ、その段階ではない。奏の言葉を受け入れるだけの確証は、何一つないのだ。

「……まあ、そうだな。確かにお前の言う事も一理あるか」

 何事かを考えるように手を顎に当てた奏が、呟くように言う。かと思ったら、次の刹那、ラズリの身体は宙に浮かび上がっていた。

「ええっ⁉︎」
「お前がちゃんと納得できるように、上空から見せてやるよ。……ただ、危ないから、あんま暴れないでくれよな」

 いつの間に抱えられていたのか。

 驚くラズリを気に留める風もなく、奏はラズリを片腕に抱き抱えた状態で、危なげなく上空へと上がっていく。

 ラズリは別に高所恐怖症というわけではないが、片腕一本のみによって支えられた状態での空中浮遊は、それでも単純に恐怖だった。

 ……これ、落とされたら確実に死ぬわよね……。

 実際は落とされたとしても大丈夫なのだが、そうと知らないラズリは自分から抱き付くように、奏の身体へと腕を回す。

「お前って……結構大胆なんだな」

 その行動に何を思ったのか。

 意外そうな、嬉しそうな声で奏に言われ、ラズリは「え、何が?」と首を傾げた。

 けれど、そんな風に和やかな雰囲気でいられたのは、そこまでで。

「……着いたぞ。こっからなら、村の様子が分かるだろう?」 

 言われてラズリが、恐る恐る視線を下へと向けると。

 そこには──地獄が広がっていた。

 

 











あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?

志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。 父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。 多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。 オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。 それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。 この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝🌹グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 そう名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  ✴️設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 ✴️稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️