【完】天涯孤独になった筈が、周りで奪い合いが起きているようです

迦陵 れん

文字の大きさ
21 / 205
第二章 赤い魔性

無力な現実

 許せない、許せない、許せない──!

 ラズリの放った言葉に激しい怒りが湧き上がり、その気持ちのまま、ミルドは目の前の青年魔性へと全力で斬りかかる。

 王宮騎士である自分より、魔性の方が良いと彼女は言った。

 何を馬鹿な。そんな事あるわけが無い。

 人間に害を為すしか脳がない魔性について行くなど、一体何を考えている? 彼女は頭が狂っているのか?

 それとももしかしたら、自分が側を離れている間に、魔性によって洗脳でもされたのかもしれない。若しくは、何か嘘を吹き込まれたか。

 であれば、正気に戻さなければならないだろう。頭のおかしい娘を王宮へ連れ帰りなどしたら、それこそ主君であるルーチェに、何を言われるか分かったものではないのだから。

 なんの武器も持っていないくせに、余裕たっぷりといった青年魔性の表情が、ミルドの怒りを最高潮に煽り立てる。あの美しい顔を斬り裂いてやったなら、どれだけ爽快な気分になれるだろう。

「死ねぇぇぇぇぇぇっ!」

 目にも止まらぬ速さで、ミルドは青年に向かい、真っ直ぐに剣を振り下ろす。

 それとタイミングを合わせるようにして、反対側からアランも同時に剣を振り下ろすのが見えた。

 しかし──次の瞬間、激しい衝撃が二人を襲った。



※※※




「…………っ!」

 奏に向かって振り下ろされる凶刃を、ラズリはただ、見つめる事しかできなかった。

 前に出て刃を受け止める事も、奏を庇う事もできない。ただ奏を傷付けるためだけに振り下ろされる刃を、見開いた目で見つめるだけ。

 たとえ目の前に立つのが祖父であったとしても、ラズリにはどうする事もできなかっただろう。相手が誰かなんて関係ない。突きつけられるのはいつも、自分が無力であるという現実だけだ。

 ふと、乱暴な騎士に暴力を振るわれた、村人達の辛そうな姿がラズリの脳裏を過ぎった。

 また、同じ事が繰り返されるのか。

 あの時も、自分は何もできなかった。祖父と別れる時もそうだ。

 いつも守られるばかりで、自分には何もできない。みんなを助けたいと思うだけで、行動が伴わない。

 毎回それで良いのだろうか? 良いわけがない。

 奏もまた、あの時の彼等と同じような目に遭わせて良いのだろうか? 良くないに決まっている。

 自分を助けようとしたせいで、理不尽に傷付けられる人を、これ以上増やしてはいけない。

 それなら、自分は──。

 決意を胸に、ラズリは足を一歩前に踏み出す。そうして、奏の前へ出ようとした──のだが。

「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼︎」」

 そうするよりも早く、ミルド達の叫び声が、ラズリの耳へと飛び込んできた。

「えっ、なに⁉︎」

 驚き、思わず奏の前へと飛び出せば、やや遠い場所で人間らしきものが空中から地面に落ちる所が目に入った。と同時に聞こえた、「ぐぎゃっ!」という蛙が潰れたような声。

「あれって、まさか……」

 折り重なるようにして倒れている人影の一つが、青いマントを羽織っていることで、その正体に否が応でも気付いてしまう。間違いなく、あれは奏に襲い掛かった二人の騎士達だろう。

「でも、どうして……」

 遠くに落ちた人影から、隣にいる奏へラズリが視線を移すと、何やらばつの悪そうな顔でこちらを見ていた、赤い瞳と目が合った。

「ははは……。お前にかっこいいとこ見せようと思ったら、ちょっと力が入り過ぎちまって……まさか、あんなに飛ぶとは……」

 重そうなもん着けてんのに、案外軽いんだな……。

 などと呟きながら、苦笑いして頬を掻いている。

 奏がどうやって騎士達をあんな所まで飛ばしたのかは分からないが、力技で飛ばしたようには見えなかったから、そうなると重さは関係ないような気がしないでもないのだけれど、ラズリは敢えて余計な事は言わなかった。

 そんな事より、今は彼等に話を聞く方が先決だ。

 村に火を放ったのは本当に、彼等、王宮騎士達なのだろうか。だとしたら、その理由はなんなのか。

 これだけは、絶対に聞き出さなければ納得できない。否、聞いたところで納得できるとは、到底思えないが。

 それでも聞くだけは聞こうと、騎士達のいる場所へ向かうため、ラズリは足を踏み出そうと──したところで、またも地響きによって地面が大きく揺れ、足元がふらついた。

「わっ……!」
「おっと、大丈夫か?」

 若干空中に浮いているためか、地面の揺れに左右されないらしい奏が、よろけた身体を支えてくれる。

 その事にお礼を言いつつ、村があった場所へなんとなく視線を向けると、未だ炎は激しく燃え盛っていた。

「…………」

 この炎を放置しておいて良いのだろうか?

 ラズリの中に、迷いが生まれる。

 果たして今、優先すべきは、どちらなのだろうか。

 尋問? 消火?

 無論、今更消火したところで、手遅れな事は理解している。

 だとしても、今なお炎は燃え広がり続けていて、このまま放っておけば森全体を焼き尽くしてしまう事は間違いないだろう。

 ならば、そうなる前に、炎を消すべきではないのか?

 ミルド達への尋問なんて、火を消した後でも問題はない。彼等が自分を捕らえようとしている以上、ここから居なくなる事などあり得ないのだから。

 だったら答えは一つしかない。けれど問題は、火をどうやって消火するかだ。小さな火事とはわけが違う。ここまで大きくなった炎への対処の仕方なんて、聞いた事も習った事もない。

「……どうかしたのか?」

 難しい顔をしていたからだろうか。ラズリの悩みに気付いたかのように、タイミング良く奏が声を掛けてくれる。

 いくら魔性であるといえども、万能ではないかもしれない。けれど今のラズリには、彼しか頼れる存在がいなかった。

 だから、縋る事にした。

「奏……お願い、助けて……」

 悲痛な声で、訴えた──。













あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?

志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。 父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。 多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。 オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。 それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。 この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝🌹グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 そう名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  ✴️設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 ✴️稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️