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第二章 赤い魔性
奏の能力
待ちに待ったラズリからの申し出に、奏は結果として『諾』と答えた。
結果としてというのは、それがラズリの望む形では実現不可能であったからだ。
彼女が求めたのは、森を焼き尽くす火の『消火』。それを言葉通りに捉えるのなら、燃え盛る炎を上回る大量の水でもって消火、沈静化するのが求められたやり方だろう。
だが魔性とて、何でもかんでも出来るわけじゃない。転移や空中浮遊など、無属性に準ずる能力は何者でも使える──といっても、使えるのは魔性の中でも上位にあたる魔神や魔人のみで、下位にあたる魔使や魔徒には不可能である──のに対し、火や水など属性のある能力に関しては、基本的に一人一属性しか扱う事ができないのだ。
しかも分かりやすいことに、魔性はみな自分の属性と縁のある色を全身に纏っているため、一目で何の属性持ちかがすぐに判断できるのだが、奏だけは過去のとある事情により、自分の属性とは全く違う色を身に纏っている。もしも奏が見た目通りに炎の属性持ちであったなら、火事の消火、沈静化など、逆立ちしたって無理だったろう。
「けど……なぁ……」
炎とラズリを見比べ、奏は密やかにため息を吐いた。
火を消す能力は、確かにある。それは間違いじゃない。だから自分は嘘など言っていないが、その方法というのが問題だった。
奏が扱う能力は『闇』であり、全てを呑み込む。
つまり今回のような場合、炎を闇に呑み込んでしまえば良いわけなのだが、それと同時に、村や森も否応なく根こそぎ呑み込まれてしまう。無論、燃えている部分のみに限定するつもりではあるが、今となっては森の大部分が燃えてしまっているため、実際はどこまで残せるのか不透明だ。
火を消したは良いものの、そこが全面更地になったら、ラズリは許してくれるだろうか?
予想としては、もの凄い勢いで「話が違う」と言われそうな気がしないでもない。それは面倒くさいから避けたいが、その場合は対策が必要になる。
だったらここは、先に話をしておくべきか……?
しかしそこで反発されたら、それはそれで面倒だ。
「だったらもう、やっちまうか?」
悩んでいても、答えは出ない。その間にも炎は容赦なく燃え広がっていくし、なにより奏は、頭を使うのが嫌いだった。
「いいか? 見てろよ!」
ラズリの腰を片手で引き寄せると、奏はもう片方の掌から力を放った。
※※※
眩く光る赤い光が周囲を埋め尽くす。
ラズリはそれを呆然と見ながら、ふと既視感のようなものを覚え、内心で首を傾げた。
何だろう? この光……どこかで見た事があるような……。
考えても、思い出せない。
こんなにも強烈な光、一度見たら絶対に忘れない筈なのに、どこで見たのか、何故か全く思い出せない。
自分はこの光を知っている。それだけは断言できる。なのに、いつ、どこで見たものなのか、その片鱗すらも思い出せない。
もどかしい気持ちを感じながら、眩しさに閉じようとする目を懸命に開き、赤い光を凝視し続ける。そうする事で、記憶を呼び起こそうとするかのように。
けれど、そうするうちに、赤い光は唐突に消滅した。と同時に、ついさっきまで聞こえていた火事の轟音や、地響きなども、丸ごと全部消失する。
気付けば、まるで最初から何もなかったかのように、そこは綺麗さっぱり更地へと姿を変えてしまっていた。
「嘘……」
目の前の事実が信じられず、ラズリは何度も目を瞬き、目を擦り、周囲を見回す。
けれど目の前の光景は少しも変わらず、村と森とはすっかりなくなり、ただ焼けた大地が晒されているだけだった。否、残っているのは焼けた大地だけではない。もう一つ。
あれは、あれは──。
驚きと喜びで身体が震える。
何も考えずラズリはそれに向かって駆け出そうとしたのだが、駆け出す寸前に腕を掴まれ、引き止められた事により叶わなかった。
「ちょっ……なに? 離して!」
何度自分を引き止めれば気が済むのかと、奏に怒りの瞳を向けるが、逆に真剣な目で見つめられ、ドキリとして動きを止める。
出逢ってから今まで、まだあまり時間は経っていないが、これ程までに真剣な表情をした彼を見るのは初めてで。
「奏……?」
流石に気になって、どうかしたの? と問い掛けようとしたら、彼は神妙な顔つきのまま、残酷な事実を口にした。
結果としてというのは、それがラズリの望む形では実現不可能であったからだ。
彼女が求めたのは、森を焼き尽くす火の『消火』。それを言葉通りに捉えるのなら、燃え盛る炎を上回る大量の水でもって消火、沈静化するのが求められたやり方だろう。
だが魔性とて、何でもかんでも出来るわけじゃない。転移や空中浮遊など、無属性に準ずる能力は何者でも使える──といっても、使えるのは魔性の中でも上位にあたる魔神や魔人のみで、下位にあたる魔使や魔徒には不可能である──のに対し、火や水など属性のある能力に関しては、基本的に一人一属性しか扱う事ができないのだ。
しかも分かりやすいことに、魔性はみな自分の属性と縁のある色を全身に纏っているため、一目で何の属性持ちかがすぐに判断できるのだが、奏だけは過去のとある事情により、自分の属性とは全く違う色を身に纏っている。もしも奏が見た目通りに炎の属性持ちであったなら、火事の消火、沈静化など、逆立ちしたって無理だったろう。
「けど……なぁ……」
炎とラズリを見比べ、奏は密やかにため息を吐いた。
火を消す能力は、確かにある。それは間違いじゃない。だから自分は嘘など言っていないが、その方法というのが問題だった。
奏が扱う能力は『闇』であり、全てを呑み込む。
つまり今回のような場合、炎を闇に呑み込んでしまえば良いわけなのだが、それと同時に、村や森も否応なく根こそぎ呑み込まれてしまう。無論、燃えている部分のみに限定するつもりではあるが、今となっては森の大部分が燃えてしまっているため、実際はどこまで残せるのか不透明だ。
火を消したは良いものの、そこが全面更地になったら、ラズリは許してくれるだろうか?
予想としては、もの凄い勢いで「話が違う」と言われそうな気がしないでもない。それは面倒くさいから避けたいが、その場合は対策が必要になる。
だったらここは、先に話をしておくべきか……?
しかしそこで反発されたら、それはそれで面倒だ。
「だったらもう、やっちまうか?」
悩んでいても、答えは出ない。その間にも炎は容赦なく燃え広がっていくし、なにより奏は、頭を使うのが嫌いだった。
「いいか? 見てろよ!」
ラズリの腰を片手で引き寄せると、奏はもう片方の掌から力を放った。
※※※
眩く光る赤い光が周囲を埋め尽くす。
ラズリはそれを呆然と見ながら、ふと既視感のようなものを覚え、内心で首を傾げた。
何だろう? この光……どこかで見た事があるような……。
考えても、思い出せない。
こんなにも強烈な光、一度見たら絶対に忘れない筈なのに、どこで見たのか、何故か全く思い出せない。
自分はこの光を知っている。それだけは断言できる。なのに、いつ、どこで見たものなのか、その片鱗すらも思い出せない。
もどかしい気持ちを感じながら、眩しさに閉じようとする目を懸命に開き、赤い光を凝視し続ける。そうする事で、記憶を呼び起こそうとするかのように。
けれど、そうするうちに、赤い光は唐突に消滅した。と同時に、ついさっきまで聞こえていた火事の轟音や、地響きなども、丸ごと全部消失する。
気付けば、まるで最初から何もなかったかのように、そこは綺麗さっぱり更地へと姿を変えてしまっていた。
「嘘……」
目の前の事実が信じられず、ラズリは何度も目を瞬き、目を擦り、周囲を見回す。
けれど目の前の光景は少しも変わらず、村と森とはすっかりなくなり、ただ焼けた大地が晒されているだけだった。否、残っているのは焼けた大地だけではない。もう一つ。
あれは、あれは──。
驚きと喜びで身体が震える。
何も考えずラズリはそれに向かって駆け出そうとしたのだが、駆け出す寸前に腕を掴まれ、引き止められた事により叶わなかった。
「ちょっ……なに? 離して!」
何度自分を引き止めれば気が済むのかと、奏に怒りの瞳を向けるが、逆に真剣な目で見つめられ、ドキリとして動きを止める。
出逢ってから今まで、まだあまり時間は経っていないが、これ程までに真剣な表情をした彼を見るのは初めてで。
「奏……?」
流石に気になって、どうかしたの? と問い掛けようとしたら、彼は神妙な顔つきのまま、残酷な事実を口にした。
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