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第三章 天涯孤独になりました
答え
どうして、どうして、どうして──。
信じられないという気持ちが、ラズリの中で渦巻く。
命令だったから。
ただそれだけの理由で村に火を放ち、何の罪もない沢山の人達を死なせるなんて、とても同じ人間のすることだとは思えない。
しかも、その実行犯とも呼べる人達は、国の誉れとして名高い王宮騎士の人達で。そんな人達が、いくら命令といえどもこんな酷いことをするなんて、ラズリにはとても信じることができなかった。
だから、聞いたのだ。
「あなた達は、命令であれば何でもするの?」
と──。
「それは……っ!」
違う、と言いかけて、ミルドの唇が悔し気に噛み締められた。まるで、ラズリの言葉を肯定するかのように。
それだけで、答えとしては十分だった。たったそれだけで、気付いてしまったのだ。目の前の騎士が抱えている葛藤に。
彼は恐らく、こんな事はしたくなかったのだろう。だが、命令に逆らえず、嫌々ながらも村に火を放った。
無事に任務を完了し、家族の元へと戻るために。
けれど──。
「自分達さえ良ければ、それでいいの? お城に帰れないあなた達のことは可哀想だと思うけど、その為なら他の人の命はどうでも良いの? あなた達は誉れある──」
「王宮騎士だって人間だ!」
諭そうとするラズリの言葉は、しかしミルドの怒号によって掻き消された。
その勢いのまま、ミルドは早口で喋り出す。
「私達王宮騎士だって人間なんだよ! 誉れがあろうと偉かろうと、一番じゃない。一番偉くならない限り、王様でもない限り、命令に従うしかないんだ! そこに自分達の感情は必要ない。無用な口出しをすれば容赦なく制裁される。だったら言う通りにするしかないだろうが!」
「で、でも……その為に罪もない人達を殺すなんて……」
許されることじゃない──。
ラズリは懸命に声を搾り出し、そう言った。
しかしミルドは、そんなラズリの様子にやれやれと肩を竦めると、諦めたように微笑いながら、更に言葉を継いだ。
「おかしいか? だが、それしか自分に生きる術がないのだとしたら? 誰しも皆、自分の為に生きている。自分が一番可愛いと、自分さえ幸せであればいいと思っている。それの何がおかしい? 当たり前のことではないか。他人の幸せで自分の腹は膨れない。生きて行く為に多少の犠牲はつきものなんだ!」
「…………!」
ミルドの言葉に衝撃を受け、ラズリはよろめきながら後ずさる。
今の今まで、そんな風に考えたことはなかった。
祖父の為、村のみんなの為に何かしたいと、それだけを考え、そのためだけに生きてきた。なのにミルドは、それを真っ向から否定したのだ。自分さえ幸せであればいい、と。
そんな考えをする人がいるとは思わなかった。
無論、世界は広いのだから、自分と考え方の違う人など数えきれない程に存在するだろう。
それは分かっている。分かってはいるが、王宮騎士ともあろう人達がそういう考えを持っているなど、ラズリには予想だにしないことであったのだ。
「あなたにとって、村の人達の命は多少の犠牲でしかないというの?」
震える声で問う。
するとミルドは、多少考えるような素振りをした後、なんでもない事のように、こう言った。
「まあ……多少と言うには少し人数が多過ぎたような気もするが、必要な犠牲であったことは確かだな」
瞬間、ラズリは湧き上がった怒りによって、ぐっと喉を詰まらせた。
そこで奏が、ラズリの代わりに口を開く。
「村を燃やしたのが命令であることは分かった。だが俺が聞きたいのは、お前らの主君がなんで村を燃やせという命令をしたか、だ。理由は勿論聞いてるんだよな?」
「それ、は……」
そこで初めて、ミルドが答えを言い淀んだ。
明らかに答えを知っているのに、言いたくないという素振りだ。
今の今まで饒舌に話していたというのに、一体どうしてしまったというのか。
「ねえ、どうして──」
その理由を聞こうとすると、ラズリの言葉に被せるようにして、奏が質問を口にした。
「どうせラズリが逃げ出さないよう、帰るべき場所をなくしちまえばいい、とか考えたんだろ?」
「え……」
衝撃の一言に、ラズリが大きく目を見張る。
しかし奏はそれには構わず、言葉を続けた。
「そもそもお前達は、ラズリの村を見つけること自体に相当な苦労をした筈だ。で、漸く見つけた村でラズリに出会い、連れ出したまでは良かったが、予想外にお転婆で、大人しく王宮について来るとは思えなかった。たとえ上手く王宮へ連れて行けたとしても、逃げ出されては意味がないしな。だったら住む場所をなくして、逃げられなくしてしまおうとでも考えたんじゃないのか?」
「ち、違う! それもあるが、それだけじゃない!」
言ってしまってから、ミルドは何かに気付いた様子で、慌てて口を覆った。だが、もう遅い。
「それだけじゃないって? んじゃ後は何があるんだ?」
奏がミルドの肩に手を置き、にんまりと笑う。
ミルドは口を覆ったまま首を横に振ったが、奏に手を置かれた肩がミシミシと音をたてると、堪らず悲鳴をあげた。
信じられないという気持ちが、ラズリの中で渦巻く。
命令だったから。
ただそれだけの理由で村に火を放ち、何の罪もない沢山の人達を死なせるなんて、とても同じ人間のすることだとは思えない。
しかも、その実行犯とも呼べる人達は、国の誉れとして名高い王宮騎士の人達で。そんな人達が、いくら命令といえどもこんな酷いことをするなんて、ラズリにはとても信じることができなかった。
だから、聞いたのだ。
「あなた達は、命令であれば何でもするの?」
と──。
「それは……っ!」
違う、と言いかけて、ミルドの唇が悔し気に噛み締められた。まるで、ラズリの言葉を肯定するかのように。
それだけで、答えとしては十分だった。たったそれだけで、気付いてしまったのだ。目の前の騎士が抱えている葛藤に。
彼は恐らく、こんな事はしたくなかったのだろう。だが、命令に逆らえず、嫌々ながらも村に火を放った。
無事に任務を完了し、家族の元へと戻るために。
けれど──。
「自分達さえ良ければ、それでいいの? お城に帰れないあなた達のことは可哀想だと思うけど、その為なら他の人の命はどうでも良いの? あなた達は誉れある──」
「王宮騎士だって人間だ!」
諭そうとするラズリの言葉は、しかしミルドの怒号によって掻き消された。
その勢いのまま、ミルドは早口で喋り出す。
「私達王宮騎士だって人間なんだよ! 誉れがあろうと偉かろうと、一番じゃない。一番偉くならない限り、王様でもない限り、命令に従うしかないんだ! そこに自分達の感情は必要ない。無用な口出しをすれば容赦なく制裁される。だったら言う通りにするしかないだろうが!」
「で、でも……その為に罪もない人達を殺すなんて……」
許されることじゃない──。
ラズリは懸命に声を搾り出し、そう言った。
しかしミルドは、そんなラズリの様子にやれやれと肩を竦めると、諦めたように微笑いながら、更に言葉を継いだ。
「おかしいか? だが、それしか自分に生きる術がないのだとしたら? 誰しも皆、自分の為に生きている。自分が一番可愛いと、自分さえ幸せであればいいと思っている。それの何がおかしい? 当たり前のことではないか。他人の幸せで自分の腹は膨れない。生きて行く為に多少の犠牲はつきものなんだ!」
「…………!」
ミルドの言葉に衝撃を受け、ラズリはよろめきながら後ずさる。
今の今まで、そんな風に考えたことはなかった。
祖父の為、村のみんなの為に何かしたいと、それだけを考え、そのためだけに生きてきた。なのにミルドは、それを真っ向から否定したのだ。自分さえ幸せであればいい、と。
そんな考えをする人がいるとは思わなかった。
無論、世界は広いのだから、自分と考え方の違う人など数えきれない程に存在するだろう。
それは分かっている。分かってはいるが、王宮騎士ともあろう人達がそういう考えを持っているなど、ラズリには予想だにしないことであったのだ。
「あなたにとって、村の人達の命は多少の犠牲でしかないというの?」
震える声で問う。
するとミルドは、多少考えるような素振りをした後、なんでもない事のように、こう言った。
「まあ……多少と言うには少し人数が多過ぎたような気もするが、必要な犠牲であったことは確かだな」
瞬間、ラズリは湧き上がった怒りによって、ぐっと喉を詰まらせた。
そこで奏が、ラズリの代わりに口を開く。
「村を燃やしたのが命令であることは分かった。だが俺が聞きたいのは、お前らの主君がなんで村を燃やせという命令をしたか、だ。理由は勿論聞いてるんだよな?」
「それ、は……」
そこで初めて、ミルドが答えを言い淀んだ。
明らかに答えを知っているのに、言いたくないという素振りだ。
今の今まで饒舌に話していたというのに、一体どうしてしまったというのか。
「ねえ、どうして──」
その理由を聞こうとすると、ラズリの言葉に被せるようにして、奏が質問を口にした。
「どうせラズリが逃げ出さないよう、帰るべき場所をなくしちまえばいい、とか考えたんだろ?」
「え……」
衝撃の一言に、ラズリが大きく目を見張る。
しかし奏はそれには構わず、言葉を続けた。
「そもそもお前達は、ラズリの村を見つけること自体に相当な苦労をした筈だ。で、漸く見つけた村でラズリに出会い、連れ出したまでは良かったが、予想外にお転婆で、大人しく王宮について来るとは思えなかった。たとえ上手く王宮へ連れて行けたとしても、逃げ出されては意味がないしな。だったら住む場所をなくして、逃げられなくしてしまおうとでも考えたんじゃないのか?」
「ち、違う! それもあるが、それだけじゃない!」
言ってしまってから、ミルドは何かに気付いた様子で、慌てて口を覆った。だが、もう遅い。
「それだけじゃないって? んじゃ後は何があるんだ?」
奏がミルドの肩に手を置き、にんまりと笑う。
ミルドは口を覆ったまま首を横に振ったが、奏に手を置かれた肩がミシミシと音をたてると、堪らず悲鳴をあげた。
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