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第三章 天涯孤独になりました
最高権力者
大陸随一の大きさを誇る、ディランカ帝国。
そこの首都を誇っている街───マセドアの中心部には、天にも届くかという程に高い、立派な王城が聳え立っている。
何年か前までは様々な人種の民達が訪れ、賑わっていたそこは、国王の代替わりと共に門戸が閉ざされ、必要最低限の者達しか入城できなくなってしまった。王城へと通っていた商人達は一律入城禁止となり、気さくに国民と話していた騎士達は、ただただ門扉を守り、無表情で立ち尽くすのみ。
世代交代で国王が代替わりしたことは然るべく手順で国民に伝えられたが、それでも王城の対応のあまりの変わりように、王都に住む国民達はみな一様に首を捻った。
しかし、そうなった理由は特段語られることはなく──最初はそのことについて噂していた者達も、時を経る毎に一人、また一人と減っていった。
そして今──そんな王城の中、最も奥詰まった部分にある玉座の間で、真っ青な髪色をした女が一人、頭を垂れて主の登場を待ち望んでいる。頭の先から足の先まで、全身真っ青に染め上げられた彼女は魔性。
本来であれば、魔性である彼女が仕えるべき存在は、同じ魔性という種族の中にあって、魔人である彼女の上位にあたる魔神である筈なのだが──。
「……やあ、待たせて悪かったね」
玉座の真後ろにある扉が開き、そこから姿を現した青年は──見た目だけなら人外の美しさを誇る魔神に引けをとっていなかったけれど──人間であった。
色とりどりの宝石が、これでもかとばかりに散りばめられた、とても煌びやかな洋服を身に纏っている青年は、サラサラ音を立てそうな美しい薄茶色の髪を腰まで伸ばし、背中へと無造作に流している。同色の瞳は切れ長で、彼の知性の高さを物語っているようだ。
しかもその容貌は中性的でありながら、女性どころか男性までも一目で心奪われそうな、不可思議な魅力に満ち溢れており、なんとも言えない色香が匂い立つよう。身長はやや低いものの、すらりと伸びた長い手足は均整のとれた体を窺わせ、優雅な身のこなしは思わずため息が漏れてしまうほどだ。
そんな美貌の主である彼こそが、今の王城の最高権力者であった。
「ミルドの部隊に動きがあったと聞いたけど、どんなことがあったんだい?」
玉座へと腰をおろし、ゆったりと長い足を組みながら、青年は頭を垂れる女性へと問う。
「確実とは申せませんが、かなり高い確率で貴方様がお探しの人物と合致するであろう娘を、見つけたようで御座います」
「へえ……?」
その内容に、青年の口角が微妙に上がる。
「それは本当なのかい?」
嘘であったら、ただでは置かない──そんな雰囲気を身に纏わせ、事の真偽を確かめるかのように、青年は目を眇めた。
しかし問われた青い髪の女は、それに動揺することもなく、淡々と答えを紡ぐ。
「魔性は嘘を申せません」
『申さない』のではなく、『申せない』──つまり、魔性は嘘を吐けない種族だということ。
それを知った瞬間、青年の口から笑いが漏れた。
「ははっ、ははははっ。そうか、そうなのか。それは良いことを聞いた。ならば次は──」
「ですが……」
そこで、明るくなりかけたその場の雰囲気を切り裂くように、女魔性が言葉を継いだ。
「見たこともない新たな魔性が現れ、娘を連れ去ったようで御座います」
「はあっ!?」
ピタリ、と青年が笑うのを止めた。
驚愕に瞳を見開き、真っ直ぐに女を見つめる。
「なんで……魔性? なんで魔性なんかが絡んでくるんだ? せっかく見つけたと思ったのに、なんで……っ!」
苛つきも露わに、青年はぐしゃぐしゃと髪を掻き乱す。
「なんで……なんでっ! どいつもこいつも僕の邪魔をっ!」
頭の中に、幼い少女の姿が浮かぶ。
最初は、無理矢理引き離された。
どうしてかは分からない。彼女は突然自分の傍からいなくなった。
ずっと一緒だったのに。彼女と自分は、離れることなどないと思っていたのに。
だから探した。
彼女を失うなど到底受け入れられることではなかったから、必死になって彼女を探し回った。
探して探して──見つけたと思ったら、また奪われた。
黒い霞のようなものに彼女は包まれ、そのまま姿を消してしまった。
あの霞が何だったのか、どのような目的で彼女を連れ去ったのかは分からない。
けれど諦めることはできなかったから、それからもずっと、自分は彼女を探し続けてきた。
この国の王になったのも、その為だ。
彼女を探すため、そして、今度こそ誰にも奪われないようにするために、権力は必要不可欠だと思ったから。
「それ、なのに……」
呟き、目を閉じて青年は頭を抱える。
王になるのは、正直それほど難しいことではなかった。
以前の王が人心掌握に長けていたから、その王が自分を次代の王に選んだという態で挿げ替われば、然程反対などもされず、簡単に入れ替わることができた。
それでも当然、幾人かは突然の世代交代に眉を顰めていたが。
そんな奴等を黙らせ、目当ての少女を探す為の体制を整えるのに、半年かかった。
本当はすぐにでも部下を探しに行かせたかったが、王というのは思っていた以上にやらなければならないことが多過ぎて。
焦る気持ちもありつつ、しかし時間をかければかけた分だけ、取り戻した時の喜びも大きいに違いないと懸命に自分へと言い聞かせ、今の地位を盤石にするため努力し続けた。
そして──今。
漸く様々なことが整い、後は彼女を見つけるだけとなっていたのに、最後の最後で邪魔が入るなんて。
「しかも、魔性……だって?」
本当に、自分の邪魔ばかりしてくれる。
どうして放っておいてくれない?
自分はただ、彼女が欲しいだけなのに。
どうして皆、自分から彼女を取り上げようとするんだ?
「許せない……」
彼女を遠ざける、全てのものが。
自分の努力を無駄にしようとする、この世界が。
「許すわけにはいかないよね……」
ゆっくりと開かれた彼の瞳は、黄金色に輝いていた──。
そこの首都を誇っている街───マセドアの中心部には、天にも届くかという程に高い、立派な王城が聳え立っている。
何年か前までは様々な人種の民達が訪れ、賑わっていたそこは、国王の代替わりと共に門戸が閉ざされ、必要最低限の者達しか入城できなくなってしまった。王城へと通っていた商人達は一律入城禁止となり、気さくに国民と話していた騎士達は、ただただ門扉を守り、無表情で立ち尽くすのみ。
世代交代で国王が代替わりしたことは然るべく手順で国民に伝えられたが、それでも王城の対応のあまりの変わりように、王都に住む国民達はみな一様に首を捻った。
しかし、そうなった理由は特段語られることはなく──最初はそのことについて噂していた者達も、時を経る毎に一人、また一人と減っていった。
そして今──そんな王城の中、最も奥詰まった部分にある玉座の間で、真っ青な髪色をした女が一人、頭を垂れて主の登場を待ち望んでいる。頭の先から足の先まで、全身真っ青に染め上げられた彼女は魔性。
本来であれば、魔性である彼女が仕えるべき存在は、同じ魔性という種族の中にあって、魔人である彼女の上位にあたる魔神である筈なのだが──。
「……やあ、待たせて悪かったね」
玉座の真後ろにある扉が開き、そこから姿を現した青年は──見た目だけなら人外の美しさを誇る魔神に引けをとっていなかったけれど──人間であった。
色とりどりの宝石が、これでもかとばかりに散りばめられた、とても煌びやかな洋服を身に纏っている青年は、サラサラ音を立てそうな美しい薄茶色の髪を腰まで伸ばし、背中へと無造作に流している。同色の瞳は切れ長で、彼の知性の高さを物語っているようだ。
しかもその容貌は中性的でありながら、女性どころか男性までも一目で心奪われそうな、不可思議な魅力に満ち溢れており、なんとも言えない色香が匂い立つよう。身長はやや低いものの、すらりと伸びた長い手足は均整のとれた体を窺わせ、優雅な身のこなしは思わずため息が漏れてしまうほどだ。
そんな美貌の主である彼こそが、今の王城の最高権力者であった。
「ミルドの部隊に動きがあったと聞いたけど、どんなことがあったんだい?」
玉座へと腰をおろし、ゆったりと長い足を組みながら、青年は頭を垂れる女性へと問う。
「確実とは申せませんが、かなり高い確率で貴方様がお探しの人物と合致するであろう娘を、見つけたようで御座います」
「へえ……?」
その内容に、青年の口角が微妙に上がる。
「それは本当なのかい?」
嘘であったら、ただでは置かない──そんな雰囲気を身に纏わせ、事の真偽を確かめるかのように、青年は目を眇めた。
しかし問われた青い髪の女は、それに動揺することもなく、淡々と答えを紡ぐ。
「魔性は嘘を申せません」
『申さない』のではなく、『申せない』──つまり、魔性は嘘を吐けない種族だということ。
それを知った瞬間、青年の口から笑いが漏れた。
「ははっ、ははははっ。そうか、そうなのか。それは良いことを聞いた。ならば次は──」
「ですが……」
そこで、明るくなりかけたその場の雰囲気を切り裂くように、女魔性が言葉を継いだ。
「見たこともない新たな魔性が現れ、娘を連れ去ったようで御座います」
「はあっ!?」
ピタリ、と青年が笑うのを止めた。
驚愕に瞳を見開き、真っ直ぐに女を見つめる。
「なんで……魔性? なんで魔性なんかが絡んでくるんだ? せっかく見つけたと思ったのに、なんで……っ!」
苛つきも露わに、青年はぐしゃぐしゃと髪を掻き乱す。
「なんで……なんでっ! どいつもこいつも僕の邪魔をっ!」
頭の中に、幼い少女の姿が浮かぶ。
最初は、無理矢理引き離された。
どうしてかは分からない。彼女は突然自分の傍からいなくなった。
ずっと一緒だったのに。彼女と自分は、離れることなどないと思っていたのに。
だから探した。
彼女を失うなど到底受け入れられることではなかったから、必死になって彼女を探し回った。
探して探して──見つけたと思ったら、また奪われた。
黒い霞のようなものに彼女は包まれ、そのまま姿を消してしまった。
あの霞が何だったのか、どのような目的で彼女を連れ去ったのかは分からない。
けれど諦めることはできなかったから、それからもずっと、自分は彼女を探し続けてきた。
この国の王になったのも、その為だ。
彼女を探すため、そして、今度こそ誰にも奪われないようにするために、権力は必要不可欠だと思ったから。
「それ、なのに……」
呟き、目を閉じて青年は頭を抱える。
王になるのは、正直それほど難しいことではなかった。
以前の王が人心掌握に長けていたから、その王が自分を次代の王に選んだという態で挿げ替われば、然程反対などもされず、簡単に入れ替わることができた。
それでも当然、幾人かは突然の世代交代に眉を顰めていたが。
そんな奴等を黙らせ、目当ての少女を探す為の体制を整えるのに、半年かかった。
本当はすぐにでも部下を探しに行かせたかったが、王というのは思っていた以上にやらなければならないことが多過ぎて。
焦る気持ちもありつつ、しかし時間をかければかけた分だけ、取り戻した時の喜びも大きいに違いないと懸命に自分へと言い聞かせ、今の地位を盤石にするため努力し続けた。
そして──今。
漸く様々なことが整い、後は彼女を見つけるだけとなっていたのに、最後の最後で邪魔が入るなんて。
「しかも、魔性……だって?」
本当に、自分の邪魔ばかりしてくれる。
どうして放っておいてくれない?
自分はただ、彼女が欲しいだけなのに。
どうして皆、自分から彼女を取り上げようとするんだ?
「許せない……」
彼女を遠ざける、全てのものが。
自分の努力を無駄にしようとする、この世界が。
「許すわけにはいかないよね……」
ゆっくりと開かれた彼の瞳は、黄金色に輝いていた──。
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