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第三章 天涯孤独になりました
意味のない擬態
「すごーい! これが街なの?」
奏に連れられ、初めて自分が住んでいた村以外の場所に降り立ったラズリは、周囲の喧騒や街並みに目を輝かせていた。
見たこともない大きな建物、端から端までびっしりと並ぶ屋台。道幅いっぱいにひしめき合う、人、人、人──。
「街って、こんなに沢山の人がいるのね。私の住んでいた村は、そこまで人がいなかったから……」
年老いた人だけでなく、若者や子供まで、様々な年齢の人達で街の通りは溢れかえっている。
皆思い思いに買い物を楽しみ、周囲のことはあまり気にしていない様子だ。
正直ラズリは、奏に街へ行きたいと言ったものの、街へ行って奇異な目を向けられたらどうしようと思っていた。
自分では普通のつもりでいたが、王宮騎士に村まで焼かれて連れて行かれそうになったからには、自分はどこか普通の人とは違うのかもしれない、村の皆は普通に接してくれていたけれど、実は自分は他の人と違ったのかもしれない、どこかおかしな所があるのかもしれないと、不安になった。
だから、そんな自分が大勢の人がいる街などへ行ったら、大変なことになるのではないだろうか? 若しくは、自分のせいで他の街まで被害を被ることになってしまったら、どうしようかと心配していたのだ。
けれど実際に街へ来てみて、そんなことは杞憂であったと肩の力を抜くことができた。
これだけ沢山の人がいれば、如何に王宮騎士達であろうとも、自分を見つけることは困難だろうと思ったからだ。
自分が彼等に見つからなければ、街に被害が及ぶことはない。そう考えて、漸く安心することができた。
そんなラズリに、奏が声を掛けてくる。
「まずはどうする? 街の中を見て回るか?」
素直な気持ちを言えば、このまま街を見て回りたい。
けれど、ついさっきまで泣いたり喚いたり、様々なことがあったばかりだ。その為ラズリは凄まじい疲労を身体中に感じていて、とてもじゃないが楽しく街を見て回れるような状態ではなかった。
「そうね……取り敢えず今日はもう休もうかな。一日色んなことがありすぎて、なんだかもう……精神と身体がついていかない気がするし」
こんなに楽し気な街を目の前にして、休むという選択肢を選ぶのは残念で仕方ないが、無理に強行したところで楽しめはしないだろう。
そう思ったからこそ言った言葉であったのに、それに対して奏は明らかに残念そうな表情を浮かべた。
「そっか。……まぁ、そうだよな。分かった。んじゃまずは宿屋に行くか」
しょんぼりとしたのも束の間、彼はすぐに気持ちを切り替えたようで、ラズリの腰に手を回し、歩き出す。
それに慌てたのはラズリだ。
「ちょ、ちょっと奏。私は一人でも歩けるから……」
立ち止まっていた時から何となく周囲の視線を感じてはいたが、歩き出したことにより視線の数が明らかに増えたように思え、戸惑った。
確信する程ではないが、視線を感じる理由は隣にいる奏にあるような気がする。だからさり気なく離れようとしたのだが、彼は聞き耳を持ってくれない。
「大丈夫だって。見た目は人間に見えるよう擬態してるから、誰も俺が魔性だなんて思わないさ」
そう言って笑う本人の呑気さに、ラズリは内心で頭を抱えたくなった。
どう見たって奏を見つめる周りの視線は珍しいものを見ているというより、とんでもない美形に驚いているというか、目を奪われているというか、そういった類の視線なのに。
どうしてそのことに気付かないのかしら……。あまりにも鈍くて嫌になるわ。
どうせ擬態するなら、もうちょっと不細工になってくれれば良かったのに、と思わずにはいられない。
そもそも擬態していると言ったところで、今の奏は髪と瞳の色を人間らしい色に変化させているだけで、容姿はまったく変わっていないのだ。だからこそ、突然姿を現したとんでもない美形に人々──主に女性──の視線が集まるのは、ある意味当然なわけで。
こんな状態で、ゆっくり休むことなんてできるの?
ついそんな風に考えてしまったのは、仕方のないことだったろう。
周囲の女性達の視線から察するに、何人かは宿屋までついてきてしまいそうな雰囲気だ。更にそのうちの何人かは、よからぬ気持ちのこもった目で自分を見つめているような気がする。
このまま奏と宿屋に行ったら、絶対に休むどころじゃないわ……。
それだけは分かっているのに、自分だけでは宿屋の場所が分からない為、彼と別行動をとるわけにもいかない。
どうしたら良いのかしら?
考えつつも、奏に連れられるまま歩き続けていると、不意に彼の手が腰から離れ、同時に、焦ったような声が聞こえた。
「おい! 何すんだ!」
「奏⁉︎」
驚いて振り向くも、黒いフードを被った男にラズリはいきなり腕を掴まれてしまう。
「今のうちに行きますよ」
「え? 誰?」
尋ねても答えてもらえず、ラズリは半ば無理矢理、フードの男にそこから連れ出される。
「そ、奏!」
腕を引かれながら奏の名を呼ぶも、彼は女性達に囲まれ、そこから抜け出すのは困難に見えた。
自分に危害を加えようとする王宮騎士達はぶっ飛ばせても、危害という危害を加えるわけではない、ただの人間である女性達には、さすがの奏も攻撃はできないらしい。
尤も、そんなことしようものなら自分は彼を軽蔑するに違いないが。
黒いフードの男に引き摺られるようにして歩きながら何度も奏の名を呼ぶも、気付けばラズリは宿屋に到着していて、フードの男が手続きするのを後目に、先に部屋へと案内された。
一体なんなの……?
突然のことに何が何だか分からず呆然としていると、不意に部屋の扉が開き、フードの男が姿を現す。
「あ、あなた誰? 私をどうするつもりなの⁉︎」
まさか王宮騎士の誰かではないかと、ラズリは怯えながらも聞いたのだが──。
「ああ、大丈夫ですよ。手荒な真似をしてしまい、申し訳ありませんでした」
そう言ってフードを外した男の顔を見た瞬間、驚愕に目を見開いた。
奏に連れられ、初めて自分が住んでいた村以外の場所に降り立ったラズリは、周囲の喧騒や街並みに目を輝かせていた。
見たこともない大きな建物、端から端までびっしりと並ぶ屋台。道幅いっぱいにひしめき合う、人、人、人──。
「街って、こんなに沢山の人がいるのね。私の住んでいた村は、そこまで人がいなかったから……」
年老いた人だけでなく、若者や子供まで、様々な年齢の人達で街の通りは溢れかえっている。
皆思い思いに買い物を楽しみ、周囲のことはあまり気にしていない様子だ。
正直ラズリは、奏に街へ行きたいと言ったものの、街へ行って奇異な目を向けられたらどうしようと思っていた。
自分では普通のつもりでいたが、王宮騎士に村まで焼かれて連れて行かれそうになったからには、自分はどこか普通の人とは違うのかもしれない、村の皆は普通に接してくれていたけれど、実は自分は他の人と違ったのかもしれない、どこかおかしな所があるのかもしれないと、不安になった。
だから、そんな自分が大勢の人がいる街などへ行ったら、大変なことになるのではないだろうか? 若しくは、自分のせいで他の街まで被害を被ることになってしまったら、どうしようかと心配していたのだ。
けれど実際に街へ来てみて、そんなことは杞憂であったと肩の力を抜くことができた。
これだけ沢山の人がいれば、如何に王宮騎士達であろうとも、自分を見つけることは困難だろうと思ったからだ。
自分が彼等に見つからなければ、街に被害が及ぶことはない。そう考えて、漸く安心することができた。
そんなラズリに、奏が声を掛けてくる。
「まずはどうする? 街の中を見て回るか?」
素直な気持ちを言えば、このまま街を見て回りたい。
けれど、ついさっきまで泣いたり喚いたり、様々なことがあったばかりだ。その為ラズリは凄まじい疲労を身体中に感じていて、とてもじゃないが楽しく街を見て回れるような状態ではなかった。
「そうね……取り敢えず今日はもう休もうかな。一日色んなことがありすぎて、なんだかもう……精神と身体がついていかない気がするし」
こんなに楽し気な街を目の前にして、休むという選択肢を選ぶのは残念で仕方ないが、無理に強行したところで楽しめはしないだろう。
そう思ったからこそ言った言葉であったのに、それに対して奏は明らかに残念そうな表情を浮かべた。
「そっか。……まぁ、そうだよな。分かった。んじゃまずは宿屋に行くか」
しょんぼりとしたのも束の間、彼はすぐに気持ちを切り替えたようで、ラズリの腰に手を回し、歩き出す。
それに慌てたのはラズリだ。
「ちょ、ちょっと奏。私は一人でも歩けるから……」
立ち止まっていた時から何となく周囲の視線を感じてはいたが、歩き出したことにより視線の数が明らかに増えたように思え、戸惑った。
確信する程ではないが、視線を感じる理由は隣にいる奏にあるような気がする。だからさり気なく離れようとしたのだが、彼は聞き耳を持ってくれない。
「大丈夫だって。見た目は人間に見えるよう擬態してるから、誰も俺が魔性だなんて思わないさ」
そう言って笑う本人の呑気さに、ラズリは内心で頭を抱えたくなった。
どう見たって奏を見つめる周りの視線は珍しいものを見ているというより、とんでもない美形に驚いているというか、目を奪われているというか、そういった類の視線なのに。
どうしてそのことに気付かないのかしら……。あまりにも鈍くて嫌になるわ。
どうせ擬態するなら、もうちょっと不細工になってくれれば良かったのに、と思わずにはいられない。
そもそも擬態していると言ったところで、今の奏は髪と瞳の色を人間らしい色に変化させているだけで、容姿はまったく変わっていないのだ。だからこそ、突然姿を現したとんでもない美形に人々──主に女性──の視線が集まるのは、ある意味当然なわけで。
こんな状態で、ゆっくり休むことなんてできるの?
ついそんな風に考えてしまったのは、仕方のないことだったろう。
周囲の女性達の視線から察するに、何人かは宿屋までついてきてしまいそうな雰囲気だ。更にそのうちの何人かは、よからぬ気持ちのこもった目で自分を見つめているような気がする。
このまま奏と宿屋に行ったら、絶対に休むどころじゃないわ……。
それだけは分かっているのに、自分だけでは宿屋の場所が分からない為、彼と別行動をとるわけにもいかない。
どうしたら良いのかしら?
考えつつも、奏に連れられるまま歩き続けていると、不意に彼の手が腰から離れ、同時に、焦ったような声が聞こえた。
「おい! 何すんだ!」
「奏⁉︎」
驚いて振り向くも、黒いフードを被った男にラズリはいきなり腕を掴まれてしまう。
「今のうちに行きますよ」
「え? 誰?」
尋ねても答えてもらえず、ラズリは半ば無理矢理、フードの男にそこから連れ出される。
「そ、奏!」
腕を引かれながら奏の名を呼ぶも、彼は女性達に囲まれ、そこから抜け出すのは困難に見えた。
自分に危害を加えようとする王宮騎士達はぶっ飛ばせても、危害という危害を加えるわけではない、ただの人間である女性達には、さすがの奏も攻撃はできないらしい。
尤も、そんなことしようものなら自分は彼を軽蔑するに違いないが。
黒いフードの男に引き摺られるようにして歩きながら何度も奏の名を呼ぶも、気付けばラズリは宿屋に到着していて、フードの男が手続きするのを後目に、先に部屋へと案内された。
一体なんなの……?
突然のことに何が何だか分からず呆然としていると、不意に部屋の扉が開き、フードの男が姿を現す。
「あ、あなた誰? 私をどうするつもりなの⁉︎」
まさか王宮騎士の誰かではないかと、ラズリは怯えながらも聞いたのだが──。
「ああ、大丈夫ですよ。手荒な真似をしてしまい、申し訳ありませんでした」
そう言ってフードを外した男の顔を見た瞬間、驚愕に目を見開いた。
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