【完】天涯孤独になった筈が、周りで奪い合いが起きているようです

迦陵 れん

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第四章 再出発

魔性封じの札

 ラズリが泣く泣く街を離れた頃──王宮に馬を走らせたミルドは、主であるルーチェの前で膝を折り、頭を垂れていた。

 言うべきことはすべて言った。必要だと思われる情報は、包み隠さず全部伝えた。

 これで受け入れられないというのであれば、もう他に打つ手はない。

 だからどうか、自分の願いが聞き届けられるように……──。

 そう祈りつつ、ミルドは無言でルーチェからの反応を待つ。

 ここで、自分と隊員達の生き死にが決まると言っても過言ではない。

 魔性封じの札がルーチェに貰えなければ、自分達に残されるのは、魔性に殺される運命だけなのだから。

 魔性によって殺されるか、ルーチェの命令によって殺されるか、違いはそれだけ──。

 そんな風に考えていると、不意にミルドの眼前に、三枚の札が差し出された。

「……どうぞ」

 差し出してきたのは、普段からルーチェの側に仕えている男。それだけで、差し出された物の正体が分かる。

 ミルドは男の手から奪い取るような勢いで札を掴み取ると、隅から隅までじっくりとそれを眺めた。

 以前貰った物とは見た目がまったく違っていたが、ルーチェに渡された物である以上、恐らく魔性封じの札であることに間違いはないだろう。

 まさか、本当に札が貰えるとは思わなかった。

 冷酷な主は、自分達の失敗を絶対に許さないだろうと思っていたから──。

「……目的のものは、それで合っているかい?」 

 問われた声に、ミルドは札を大切に握りしめながら言葉を返す。

「はい! はい……確かに。ありがとうございます!」

 ルーチェに心からの感謝を述べ、ミルドはその場に平伏した。

 危険な賭けではあったものの、首の皮一枚のところで何とか命が繋がった。

 しかも、以前はたった一枚しか貰えなかった札が、三枚に増えるというおまけ付きで。
 
 これで何とかなるかもしれない。これで──!

 歓喜に震えるミルドは、過去に一度だけ魔性を生け捕りにした時のことを、ふと思い出した。

 あれは、魔性の力を封じる札を試作したから使ってこいと、半ば無理矢理ルーチェに追い立てられ、魔性の目撃証言の多い場所へと強制的に向かわされた時のこと。

 何故自分が──、実験方法は他にないのか──と喚いたが聞き入れられず、最終的には主の意に逆らうのかと逆に脅され、従っても逆らっても死ぬのならと、僅かでも生き残る可能性の高い方に賭けた。

 その結果、見事に女魔性を捕縛することができ、今回魔性が絡んできたと知るなり、魔性封じの札を手に入れようと思い至ったのだ。

 魔性封じの札は、たった一枚を魔性に貼り付けただけで無力化が可能なため、一体を相手にするにあたり、三枚あれば二度失敗できることになる。

 あの赤い髪の魔性は戦い慣れているようだったから、予備ができたなら心強い。

「ルーチェ様のご期待に応え、必ずや魔性を捕らえてご覧にいれましょう。それでは部下達が現地で待っていますので、私はこれで……」

 目的の物を手に入れ、ミルドが速やかにルーチェの前から辞そうとした時だった。

「ああ、そうだ。忘れるところだったよ」

 そこで突然何かを思い出したかのようにルーチェが手を叩き、ミルドを引き留めた。

「実は君に、紹介しておきたい人がいてね……」

 言いながら、ルーチェは小声で何事かを呟く。刹那、青い髪を腰まで長く伸ばした女が何もない空間から突如姿を現し、ルーチェの隣に控えた。

「そ、その女は……!」

 目の前に現れた女を目にした途端、驚愕に目を見張り、ミルドは青い髪の女を指差す。

 その女は、過去にミルドがルーチェに渡された魔性封じの札によって、奇跡的に捕縛が成功した女魔性であった。

「ど、どうしてそいつが……」

 女を指差したまま、はくはくと口を動かすミルドに、ルーチェの愉快そうな瞳が向けられる。

「彼女は僕の忠実なしもべとなった。だから心配することは何もないよ。彼女には君達の任務を手伝ってもらうことにしたから、今後は色々と協力したらいい」

 名案であるかのように言われるが、ミルドは戸惑いしか感じられない。

「そんなことを言われても……」

 彼女を捕らえたのはミルドだ。

 まさか、あの時に捕らえた魔性が主のしもべになっていようなど、思ってもみなかった。

 彼女が味方であるのなら、確かに心強いことこの上ないだろう。だが、彼女を捕縛したのは間違いなく自分なのだ。恨まれている可能性がある。否、確実に恨まれていることだろう。

「……共にいても、危険はないのですか?」

 今は大人しくしているようだが、王宮から出た途端、襲われては堪らない。残して来た部下達の為にも、自分は戻らなければならないのだから。

 そんなミルドの不安を知ってか知らずか、ルーチェはにこやかに微笑む。

「僕のしもべになる前の記憶はないから大丈夫だよ。尤も、僕の言うことしか聞かないから、その辺りの注意は必要だけどね」

 それは大丈夫というのだろうか。

 今度の相手は魔性だ。その時々の状況によって動きを変えなければ、小隊全員の命が危険に晒される。

 いくら味方であるとはいえ、現場にいないルーチェの命令に基づいてのみ行動する魔性など、足手纏いにしかならないのではないか?

 そんな懸念が脳裏をかすめ、気付けばミルドは質問を一つ口にしていた。

「でしたら、彼女に下した命令内容を教えていただくことはできますか?」

 その内容如何によって、女魔性に関しては最低限の働きを求めるだけに止めなければならない。

 便利であるし心強いからといって、あまりにも魔性に頼りすぎては、何かあった時に対応できないからだ。

「応用のきく内容にしておいたから、不便はないと思うけど。……まぁ、いいよ。教えてあげる」

 そう言って、ルーチェはミルドに快く──普段のルーチェであれば、絶対に有り得なかっただろう。が、今回は魔性をもう一体手に入れる機会ということもあってか、すこぶる機嫌が良いようだった──命令内容を教えてくれた。

 任務を熟すメインとなるのは自分達騎士隊であり、魔性はあくまでも補助扱い。そのように周知しなければ、魔性に頼って手を抜く者も出て来るだろうと予想した上で下した命令であるとの説明も同時に加えられた。

 ルーチェ様の言う通り、魔性なんて連れ帰ったら、全員漏れなく気が緩みそうだからな……。

 特に、アランの奴が心配だ。利用できるものは何でも利用し、手を抜くこと、自分の楽しみを追求することだけには誰よりも長けた男。

 しかも、魔性といえど性別は女だ。すぐに自分のものとするべく手段を講じるであろうことは、考えるまでもない。

 アランに取り込まれたら厄介だ。いっそ、アイツがいなくなってくれれば良いのに。

 最近では、そんな物騒な考えすら抱くようになっていた──。




 

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