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第四章 再出発
勝手な言い分
「取り敢えず……靄は消せても腕はもう戻せねぇからな」
言うが早いか、奏が手を振ると同時にアランの腕に纏わりついていた黒い靄が、一瞬にして消失した。
それを見て、あれはこんなにも簡単に消えるものだったのか──と思う反面、もしかして黒い靄には魔性が絡んでいる? という疑念が、ラズリの心の中に生まれる。
「あ、ああ……は……っ」
激しい痛みから解放された事によるものなのか、痛みのせいで体力を失ったせいなのか、アランは黒い靄が消失すると、そのまま意識を失った。
「副隊長!」
「貴様ら、副隊長に何を……っ!」
どう考えても良いことをしてあげたはずなのに、周りにいた騎士達は鬼のような形相でラズリと奏を睨みつけてくる。奏が黒い靄を消さなければ、アランは今も間違いなく苦しみ続けていたに違いない。なのに彼らには、それが理解できていないようだ。
そんな彼らの様子に奏はわざとらしく大きなため息を吐くと、いきなりラズリの身体の向きを反転させた。
「へっ⁉︎」
かと思ったら、そのままラズリの肩を抱いて歩き出そうとする。
「こんな奴ら無視して、先へ行こうぜ」
騎士達の動向に興味はないと言いた気な口調に、ラズリは数瞬言葉を失った。が、すぐに気を取り直して足を踏み出す。
「そうね、そうしましょう」
これ以上この場に留まる理由はない。寧ろ、留まっていても良いことなど一つもない。
だから奏に言われるがまま、さっさとその場を離れようとしたのだが、騎士達とてそう易々と行かせるわけにはいかなかったのだろう。
「待て! その女は置いていけ!」
と剣を構えて二人の前へ立ち塞がってきた。
「へぇ……」
自分達に向けられた剣の切先を見つめ、奏の口角が不敵に上がる。
ラズリは一瞬彼が笑っているのかと思ったが、口元に笑みを浮かべてはいるものの、全身に漲る殺気が、彼の不機嫌さを表していた。
「奏……あの、落ち着いて……ね?」
このままだと、騎士達全員の命が危ない──。
危険な予感がし、無駄だと知りつつラズリは少しでも奏を宥めようと、彼に声をかける。
しかし、副隊長であるアランに怪我を負わされたことで怒りに燃える騎士達は、そんなラズリの気遣いなど一瞬で吹き飛ばしてしまった。
「副隊長が怪我を負ったのは、その女のせいだ! そいつが身体から妙な物を出さなければ、副隊長があんな目に遭うことはなかったんだ!」
「そうだ! 行くなら副隊長の腕を完全に治して行け! それが出来ないならここへ残れ! そのぐらい最低限の礼儀だろうが!」
思い思いに、騎士達は勝手なことを喚き散らす。
その勝手すぎる言い分に、ラズリがついため息を吐いてしまったとしても、仕方のないことだっただろう。
この人達は一体何を言っているのか。
そもそもアランがあのような目に遭ったのはラズリに無体を働こうとしたからで、ラズリが自分から仕掛けたわけではない。しかも、痛みに苦しむアランをそのまま放置して逃げることもできたのに、わざわざ奏の能力で痛みを消してあげた。
だというのに、その言い草はなんなのか。
「……さっき腕は治せないって言ったよな?」
ラズリを自身の背中へと隠しつつ、奏が徐に前へ出る。
「それでも俺は出来る範囲であんたらの副隊長を助けてやったってのに、お前らはそういう態度にでるわけか?」
「く……っ!」
いくら恩知らずの彼等とて、自分達の目の前で奏が黒い靄を消したのは事実なのだから、彼に対しては反論できないと思ったのだろう。悔し気な顔で口を噤むと、奏を睨み付けてきた。
「なんだよ、その目は。なんか言いたい事でもあんのか?」
少しばかり宙に浮き、上から見下ろす奏に、騎士達は悔し気にギリギリと歯を鳴らす。
しかし、何とかして一矢報いたいと考えたのか。
彼等の中の一人は奏の背後にいるラズリを指差すと、鬼の首をとったかのように騒ぎ立ててきた。
言うが早いか、奏が手を振ると同時にアランの腕に纏わりついていた黒い靄が、一瞬にして消失した。
それを見て、あれはこんなにも簡単に消えるものだったのか──と思う反面、もしかして黒い靄には魔性が絡んでいる? という疑念が、ラズリの心の中に生まれる。
「あ、ああ……は……っ」
激しい痛みから解放された事によるものなのか、痛みのせいで体力を失ったせいなのか、アランは黒い靄が消失すると、そのまま意識を失った。
「副隊長!」
「貴様ら、副隊長に何を……っ!」
どう考えても良いことをしてあげたはずなのに、周りにいた騎士達は鬼のような形相でラズリと奏を睨みつけてくる。奏が黒い靄を消さなければ、アランは今も間違いなく苦しみ続けていたに違いない。なのに彼らには、それが理解できていないようだ。
そんな彼らの様子に奏はわざとらしく大きなため息を吐くと、いきなりラズリの身体の向きを反転させた。
「へっ⁉︎」
かと思ったら、そのままラズリの肩を抱いて歩き出そうとする。
「こんな奴ら無視して、先へ行こうぜ」
騎士達の動向に興味はないと言いた気な口調に、ラズリは数瞬言葉を失った。が、すぐに気を取り直して足を踏み出す。
「そうね、そうしましょう」
これ以上この場に留まる理由はない。寧ろ、留まっていても良いことなど一つもない。
だから奏に言われるがまま、さっさとその場を離れようとしたのだが、騎士達とてそう易々と行かせるわけにはいかなかったのだろう。
「待て! その女は置いていけ!」
と剣を構えて二人の前へ立ち塞がってきた。
「へぇ……」
自分達に向けられた剣の切先を見つめ、奏の口角が不敵に上がる。
ラズリは一瞬彼が笑っているのかと思ったが、口元に笑みを浮かべてはいるものの、全身に漲る殺気が、彼の不機嫌さを表していた。
「奏……あの、落ち着いて……ね?」
このままだと、騎士達全員の命が危ない──。
危険な予感がし、無駄だと知りつつラズリは少しでも奏を宥めようと、彼に声をかける。
しかし、副隊長であるアランに怪我を負わされたことで怒りに燃える騎士達は、そんなラズリの気遣いなど一瞬で吹き飛ばしてしまった。
「副隊長が怪我を負ったのは、その女のせいだ! そいつが身体から妙な物を出さなければ、副隊長があんな目に遭うことはなかったんだ!」
「そうだ! 行くなら副隊長の腕を完全に治して行け! それが出来ないならここへ残れ! そのぐらい最低限の礼儀だろうが!」
思い思いに、騎士達は勝手なことを喚き散らす。
その勝手すぎる言い分に、ラズリがついため息を吐いてしまったとしても、仕方のないことだっただろう。
この人達は一体何を言っているのか。
そもそもアランがあのような目に遭ったのはラズリに無体を働こうとしたからで、ラズリが自分から仕掛けたわけではない。しかも、痛みに苦しむアランをそのまま放置して逃げることもできたのに、わざわざ奏の能力で痛みを消してあげた。
だというのに、その言い草はなんなのか。
「……さっき腕は治せないって言ったよな?」
ラズリを自身の背中へと隠しつつ、奏が徐に前へ出る。
「それでも俺は出来る範囲であんたらの副隊長を助けてやったってのに、お前らはそういう態度にでるわけか?」
「く……っ!」
いくら恩知らずの彼等とて、自分達の目の前で奏が黒い靄を消したのは事実なのだから、彼に対しては反論できないと思ったのだろう。悔し気な顔で口を噤むと、奏を睨み付けてきた。
「なんだよ、その目は。なんか言いたい事でもあんのか?」
少しばかり宙に浮き、上から見下ろす奏に、騎士達は悔し気にギリギリと歯を鳴らす。
しかし、何とかして一矢報いたいと考えたのか。
彼等の中の一人は奏の背後にいるラズリを指差すと、鬼の首をとったかのように騒ぎ立ててきた。
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