【完】天涯孤独になった筈が、周りで奪い合いが起きているようです

迦陵 れん

文字の大きさ
55 / 205
第五章 新たな魔性

現れた女魔性

 不意に、奏が背後を振り返った。

「どうかしたの?」 

 それを見て、後ろの方で何かあったのかと、同じように振り返るラズリ。

 背後で気になることといえば、少し前に森で出会った騎士達のこと以外にないような気がするけれど。

「あの人達に何かあったの?」

 後方には何も見えず、だからこそラズリは奏の顔色を窺うように尋ねるも、彼は無言で首を横に振る。

「ラズリが気にするようなことは何もない。ただ──」

 刹那、奏はいきなり言葉を途切れさせると、小さく舌打ちをすると同時にラズリの身体を抱え込むように抱きしめた。瞬間、二人の周囲には大小様々な大きさの氷刃が降り注ぎ、地面へと突き刺さる!

「な、なに⁉︎」

 奏の腕の中で守られながら、ラズリは目の前のあり得ない光景に、一瞬目を疑った。

 今の気温はとても暖かく、天気も快晴。雪が降るような季節ではない上に、降ってきたのは氷柱とも言える大きさのそれだ。

 これがひょうだと言うならまだ納得もできるが、それにしては大きすぎる。

 もしかしてこれは……。

 嫌な予感が過ぎると同時、タイミング良く頭上から声が降ってきた。

「お初にお目にかかります。わたくしの名は氷依ひより。主の命により、貴女方を足止めに参りました」

 見上げた先にいたのは、全身を青に染め上げた美しい女性だった。

 背丈より長いと思われる美しい髪を風に靡かせ、女であれば誰もが憧れるようなプロポーションを持ち、圧倒的美しさをもってラズリ達を見下ろしている。

 彼女の纏う色彩からも、空に浮かぶ不可思議な能力からも、彼女が魔性であることは疑いようもなく。

「奏……あの人のこと知ってる?」

 思わず奏に尋ねると、「いや、全然」と間髪入れずに返された。

「じゃあ、あの人の主が誰かなんて、知るわけないわよね……?」

 こちらは駄目元で聞いてみる。すると案の定、奏はあっさりと頷いた。しかも──。

「狙われてることには変わりないんだから、主なんて誰でもいいだろ」
 
 と、さして気にもとめていない様子で、そんなことを言ったのだ。

「誰でもいいって、そんな……」

 あまりにも無関心な奏の言動にラズリは愕然とし、言葉を失った。

 魔性を自分の代わりに差し向ける主が誰なのか、気にならないの? 魔性に命令してる時点で、雇い主も魔性の可能性が高いような気がするのに。

 せめて相手を特定した方がいいんじゃないの……?

 と思うも、楽天的な奏に言っても仕方がないといった気持ちがはたらき、結局ラズリは黙ることにする。

 もしここに闇がいたなら、もう少しまともな答えを返してくれていただろう。けれどここに、闇はいない。

 闇と別れてから、もう何度同じことを思ったか分からないが、それでもラズリはあまりの奏の非常識さに、そう思わずにはいられなかった。

 王宮騎士だけでなく魔性にまで狙われているこの状況、正直もうどうしたら良いのか分からない。

 だというのに──。
 
「まぁ俺からしたら、そんなのどうでも良いけどなっ!」

 なんだか楽し気に見える奏は、片腕を軽く振っただけで周囲の氷刃を粉々にする。

「こんなもんで俺達を足止めしようなんて、甘いんだよ!」

 続いて空中に浮かぶ女魔性に攻撃を放ったが、それは見事に躱されてしまった。そのままふわりと地面に降り立った氷依と名乗る女魔性は、こちらに向かって妖艶に微笑んでくる。

「喜んでいるところ申し訳ないのですが、先程の攻撃は本気のものではありませんので、調子にのらない方が宜しくてよ。わたくしが今回仰せつかったお役目は、あくまでも人間達の補助であり、自分がメインとなるものではない故に」
「どういうことだ?」

 氷依の物言いに奏が眉根を寄せる。が、彼女はそれ以上話すつもりはないようで、にこりと微笑んで肩を竦めた。

 人間の補助を魔性がする? しかもそれは、氷依の主が彼女に命じたことであるという。

 何がどうなっているのか、まったく理解できない。

「ねぇ奏、この人の主って──」

 人間ってことはないわよね? とラズリが言おうとした時だった。

 やや遠くから、馬の蹄の音が聞こえてきたのは。

「もしかして、あれは……」

 ラズリは自分を追う騎士達が、馬に乗っていたことを思い出す。

 まさか、あの人達の主が魔性を? え、でもそうすると、目の前の魔性の主も同じ人ってことになるのよね?

 王宮でラズリのことを待っている人がいる、とミルドは言っていた。

 そんな人にはまったく心当たりがなくて、だからこそラズリは今の今まで半分忘れかけていたのだが。

 自分を待っている人が、女魔性の主?

 だとしたら、それはどんな人なんだろう?

 人間の能力を遥かに超える、人間ではどう頑張っても敵わない力を有した魔性を従えてしまう人物なんて、この世に実在するのだろうか?

 否、実在しているからこそ、今目の前に氷依がいるのだろうけれど。

「奏……魔性を従えられる人間なんているの?」

 そんな人いないわよね? いるはずがないと思いつつ、ラズリは奏に尋ねる。

 奏はその質問に若干首を傾げながら、考え考え言葉を紡いだ。

「普通は人間なんかに魔性は絶対従えられないはずなんだが……俺みたいに、その人間が気に入った! とかなら、ないこともないかもしれねぇな」
「そっか……そうだよね。そう言われれば、奏も私に従ってるわけじゃないしね」
「けどなぁ……う~ん……」

 と、奏は何やら難しい顔で考え出してしまう。

 どうやら彼は氷依に対し、何か引っ掛かることがあるらしい。

 じっと彼女を見つめながら、何事かをぶつぶつと呟いている。

 どうしたんだろう?

 奏の様子にラズリが首を傾げていると、不意に氷依が味方──ラズリ達にとっては敵──の到着を告げた。

「そら、人間達が到着したようだぞ」

 姿を現したのは、やはり王宮騎士達で。

 ついさっき別れたばかりだというのに、何故またこうもすぐに彼らと出会わなければいけないのか。

 気が向いたら王宮へ行くと言っているのに、どうして放っておいてくれないのだろう?

 嫌々ながらも段々と見慣れて来てしまった王宮騎士達の姿に、ラズリは知らず唇を噛み締めた。










 

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

せっかく傾国級の美人に生まれたのですから、ホントにやらなきゃ損ですよ?

志波 連
恋愛
病弱な父親とまだ学生の弟を抱えた没落寸前のオースティン伯爵家令嬢であるルシアに縁談が来た。相手は学生時代、一方的に憧れていた上級生であるエルランド伯爵家の嫡男ルイス。 父の看病と伯爵家業務で忙しく、結婚は諦めていたルシアだったが、結婚すれば多額の資金援助を受けられるという条件に、嫁ぐ決意を固める。 多忙を理由に顔合わせにも婚約式にも出てこないルイス。不信感を抱くが、弟のためには絶対に援助が必要だと考えるルシアは、黙って全てを受け入れた。 オースティン伯爵の健康状態を考慮して半年後に結婚式をあげることになり、ルイスが住んでいるエルランド伯爵家のタウンハウスに同居するためにやってきたルシア。 それでも帰ってこない夫に泣くことも怒ることも縋ることもせず、非道な夫を庇い続けるルシアの姿に深く同情した使用人たちは遂に立ち上がる。 この作品は小説家になろう及びpixivでも掲載しています ホットランキング1位!ありがとうございます!皆様のおかげです!感謝します!

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝🌹グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 そう名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  ✴️設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 ✴️稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️