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第六章 因縁
反省しない者達
背後から、蹄の音が幾つも近付いてくる。
眠らせたラズリをできる限り優しく運んでいた奏は、地面擦れ擦れの高さを滑るようにして移動していたのだが、背後から迫り来る蹄の音に、舌打ちすると地面を蹴った。
トン、と軽く蹴っただけで奏の身体はふわりと浮き上がり、あっという間に騎士達の乗る馬の頭上を越え、空中へと到達する。
これで人間の騎士達が、自分達に構わず走り去るなら問題ない。
どうせ魔性相手には手も足も出せない人間達だ。馬を止めたところでどうしようもないのだから、そんな馬鹿なことをするとは思えないが。
万が一、頭が足りず馬を止めた場合はどうするか……。
ふと頭に浮かんだ疑問を、しかし奏は考えることなく直ぐに放棄した。
「どっちにしろ、無視でいいか」
今は意識のない状態のラズリを抱えているし、騎士達の騒ぎ声で彼女を起こしてしまうのも忍びない。それに、魔性に対し何の有効手段も持たない人間達を揶揄って遊ぶ気も、今は──時たま、そうして遊ぶ時もあるにはあるが──ない。
だったら無視するのが一番だろう。
ただ、あまりに上空へと行ってしまうと、妙な気配から離れすぎてしまい、其方のことを感じ取れなくなってしまうから、そこだけは気をつけなければいけないが。
幸いにも、あの妙な気配はミルドとかいう人間の男に固執しているようだった。であれば、奏にとって問題はない。
問題なのは、ほんの数瞬だけ感じられた、もう一つの気配の方だ。
「あれは恐らく……」
ちら、と腕の中に抱えるラズリを見、奏は表情を歪めた。
あの瞬間感じた気配は、彼女の中に在るものと同じだった。
奏より先んじてラズリへと手を出した、嫌な相手の痕跡。
「ま~た出て来やがったか……」
ポツリと忌々し気に呟く。
出来ることなら、金輪際関わり合いになりたくない相手だった。だが奏にとっては、因縁のあり過ぎる相手でもある。
面と向かって顔を合わせたことは一度もないが、これまで幾度となくその存在を感じたことのある面倒な相手。
「なんでこう、毎回毎回上手いこと俺に関わってくるのかねぇ……」
わざとか? と思うものの、だったら自分の前に姿を現すはず。こうも毎回すれ違うことなどあり得ないだろう。
それに、もしかしたら相手も同様のことを考えているかもしれない。なにせラズリに関してだけ言えば、彼女との関わりは自分の方が後なのだから。
そう考えると、単に運命の悪戯か? なんて風にも思えてしまって。
「運命……なんて、魔性の口から出る言葉じゃねぇけどな」
自重の笑みを口元に浮かべ、奏は遥か下の地上で叫ぶ騎士達へと目を向ける。
彼らは予想通り、奏の姿を見つけるやいなや馬を止めると、大声を上げながら武器を取り出し、上空へと突き上げてきた。
無論、奏が今いる場所は彼らがどう頑張っても辿り着けない上空で、おまけに奏の張った結界により周囲の音は遮断されている。だから彼らが何をやっても言っても無駄なのだが、頭の悪い彼らはそれに気付かない。
「俺に手を出すなって、何度も言われてるんじゃねぇのかよ……」
今回彼らがラズリに手を出そうとしたことにより、仲間の一人が片腕を失ったというのに、まったく反省していないのか。
しかも、その者の片腕を奪ったのは魔性である自分ではなく、ラズリなのに。
それだけを考えても、彼らに勝ち目がないことなど分かっても良さそうなものなのに、何故こうも無駄に絡んでくるのか理解し難い。
「まあ……愚かな人間らしいと言えば、らしいけどな」
やれやれとため息を吐き、奏は未だ腕の中で眠り続けるラズリを見つめ、微笑む。
奏が初めてラズリを目にしたのは、彼女がまだ幼児と呼ばれる程の年齢の時だった。
眠らせたラズリをできる限り優しく運んでいた奏は、地面擦れ擦れの高さを滑るようにして移動していたのだが、背後から迫り来る蹄の音に、舌打ちすると地面を蹴った。
トン、と軽く蹴っただけで奏の身体はふわりと浮き上がり、あっという間に騎士達の乗る馬の頭上を越え、空中へと到達する。
これで人間の騎士達が、自分達に構わず走り去るなら問題ない。
どうせ魔性相手には手も足も出せない人間達だ。馬を止めたところでどうしようもないのだから、そんな馬鹿なことをするとは思えないが。
万が一、頭が足りず馬を止めた場合はどうするか……。
ふと頭に浮かんだ疑問を、しかし奏は考えることなく直ぐに放棄した。
「どっちにしろ、無視でいいか」
今は意識のない状態のラズリを抱えているし、騎士達の騒ぎ声で彼女を起こしてしまうのも忍びない。それに、魔性に対し何の有効手段も持たない人間達を揶揄って遊ぶ気も、今は──時たま、そうして遊ぶ時もあるにはあるが──ない。
だったら無視するのが一番だろう。
ただ、あまりに上空へと行ってしまうと、妙な気配から離れすぎてしまい、其方のことを感じ取れなくなってしまうから、そこだけは気をつけなければいけないが。
幸いにも、あの妙な気配はミルドとかいう人間の男に固執しているようだった。であれば、奏にとって問題はない。
問題なのは、ほんの数瞬だけ感じられた、もう一つの気配の方だ。
「あれは恐らく……」
ちら、と腕の中に抱えるラズリを見、奏は表情を歪めた。
あの瞬間感じた気配は、彼女の中に在るものと同じだった。
奏より先んじてラズリへと手を出した、嫌な相手の痕跡。
「ま~た出て来やがったか……」
ポツリと忌々し気に呟く。
出来ることなら、金輪際関わり合いになりたくない相手だった。だが奏にとっては、因縁のあり過ぎる相手でもある。
面と向かって顔を合わせたことは一度もないが、これまで幾度となくその存在を感じたことのある面倒な相手。
「なんでこう、毎回毎回上手いこと俺に関わってくるのかねぇ……」
わざとか? と思うものの、だったら自分の前に姿を現すはず。こうも毎回すれ違うことなどあり得ないだろう。
それに、もしかしたら相手も同様のことを考えているかもしれない。なにせラズリに関してだけ言えば、彼女との関わりは自分の方が後なのだから。
そう考えると、単に運命の悪戯か? なんて風にも思えてしまって。
「運命……なんて、魔性の口から出る言葉じゃねぇけどな」
自重の笑みを口元に浮かべ、奏は遥か下の地上で叫ぶ騎士達へと目を向ける。
彼らは予想通り、奏の姿を見つけるやいなや馬を止めると、大声を上げながら武器を取り出し、上空へと突き上げてきた。
無論、奏が今いる場所は彼らがどう頑張っても辿り着けない上空で、おまけに奏の張った結界により周囲の音は遮断されている。だから彼らが何をやっても言っても無駄なのだが、頭の悪い彼らはそれに気付かない。
「俺に手を出すなって、何度も言われてるんじゃねぇのかよ……」
今回彼らがラズリに手を出そうとしたことにより、仲間の一人が片腕を失ったというのに、まったく反省していないのか。
しかも、その者の片腕を奪ったのは魔性である自分ではなく、ラズリなのに。
それだけを考えても、彼らに勝ち目がないことなど分かっても良さそうなものなのに、何故こうも無駄に絡んでくるのか理解し難い。
「まあ……愚かな人間らしいと言えば、らしいけどな」
やれやれとため息を吐き、奏は未だ腕の中で眠り続けるラズリを見つめ、微笑む。
奏が初めてラズリを目にしたのは、彼女がまだ幼児と呼ばれる程の年齢の時だった。
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