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第七章 不可思議な力
魔人と魔神
ミルドとアランが戦った森を抜けた先にある町の宿屋で──奏はラズリをベッドへと寝かせると、徐に闇を振り返った。
今回起きた、様々な出来事。自分一人だけの問題であるなら、恐らくなんとかできるであろう、幾つかのこと。しかしそれは、どう考えてもその殆どがラズリ絡みで。
無論、奏を標的にしたものもあるのかもしれないが、そんなものは微々たるものだろう。奏自身が気にすることなく、どうにでもできてしまう程度のものだ。
だが、今回露見した問題は、そういったものではない。
標的がラズリである分どうにも簡単には排除できなさそうなものばかりで、だからこそ奏は苦虫を噛み潰したかのような表情になってしまう。
できることなら、全て一人で片付けるつもりだった。
多少どころか大いに苦労すること間違いないが、幸いにも自分は誰にも負けないだけの強い力を持っている。それを使えば出来ないことなどないはずだし、不可能はないと言い切っても過言ではないだろう。
だからこそ、奏は一旦ラズリを安全な場所へと移し、そのうえで自分だけミルド達の元へ取って返そうと考えていたのだが──。
そんな奏の思惑は、見事に崩れ去ることとなった──闇が突然姿を現したことによって。
日々奏の代わりに忙しくしている闇は、滅多なことでは奏の前に姿を現すことはない。なんなら用事があって奏が名前を呼んでも、普段はさらりと無視をする。にも関わらず、今回奏が行動を起こそうとしたタイミングで自分から姿を現したということは──つまり、そういうことなのだろう。
なんでこういう時に限って……いや、こういう時だからこそ、か? いっつも忙しそうにしてるわりに、俺がやらかしそうな時だけは毎回ちゃんと現れるんだよな……。
別に自分で『やらかしそう』と思っていたわけではないが、普段は放任主義の闇が姿を現すということは、そういうことなのか? と、つい勘繰ってしまう自分が悲しい。
奏とて過去何度も闇に自分のやらかしの尻拭いを──決して自分から頼んだわけではないが──してもらった覚えはあるため、彼が姿を現すと、つい身構えずにはいられないのだ。
「今回は一体どういう風の吹き回しだ?」
何も心当たりがない態で、わざとらしく尋ねてみる。しかし闇から返されたのは、普段通りの冷たい微笑みだけで。
本当は理由なんて、分かりすぎるほどに分かっていらっしゃいますよね?
言外に、そんな言葉が聞こえてくるような気がする。決してこれは被害妄想じゃない。絶対違うと断言できる。
奏は闇の背後に漂う恐ろしいほどの冷気にゴクリと唾を呑み込むと、観念して核心に触れた。
「あいつのアレ、なんだと思う?」
アレという、なんとも抽象的な単語。でありながら、闇は迷うことなくその問いに答える。
「そうですね……近くで見たわけではないのでハッキリとしたことは申し上げられませんが、魔性の介入であることだけは間違いないかと」
「だよな。だが問題は、よく分からないあの能力だ。今いる魔神の中で、あんな能力を持つ者はいなかったはず……てことは、あの人間に力を与えたのは魔人ってことか……?」
そして、ラズリに余計なちょっかいをだしたのも──。
眠っているラズリを見た奏の赤い瞳が、若干鋭さを増す。それを見ながら、闇は熟考するかのように顎に手を当てると、眉を顰めた。
「十中八九、今回の貴方の考えは間違っていないと思います。しかし、今回は些か相手が悪いような気もしますね……」
珍しく暗い表情をする闇に、奏は信じられないという表情でもって詰め寄る。
「どういうことだ⁉︎ 相手はただの魔人だろ? なのに、一体何をそんなに警戒する必要がある?」
納得できないと言わんばかりの奏に、闇はまるで子供に言い聞かせるかのように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「良いですか? 魔人だからといって侮ってはいけません。魔人だとて魔神に匹敵するほどの能力を持つ者がいないわけではないのです」
「そんなことは分かってる! だけど、所詮魔人は魔人で──」
「貴方も──」
そこで急に闇から距離を詰められ、奏は間近で煌めいた紅の瞳に息を呑んだ。
「貴方も所詮魔人です。どうかそのことをお忘れなきよう」
所詮魔人。
その一言は、意外にも奏の胸にグサリと突き刺さったのだった。
今回起きた、様々な出来事。自分一人だけの問題であるなら、恐らくなんとかできるであろう、幾つかのこと。しかしそれは、どう考えてもその殆どがラズリ絡みで。
無論、奏を標的にしたものもあるのかもしれないが、そんなものは微々たるものだろう。奏自身が気にすることなく、どうにでもできてしまう程度のものだ。
だが、今回露見した問題は、そういったものではない。
標的がラズリである分どうにも簡単には排除できなさそうなものばかりで、だからこそ奏は苦虫を噛み潰したかのような表情になってしまう。
できることなら、全て一人で片付けるつもりだった。
多少どころか大いに苦労すること間違いないが、幸いにも自分は誰にも負けないだけの強い力を持っている。それを使えば出来ないことなどないはずだし、不可能はないと言い切っても過言ではないだろう。
だからこそ、奏は一旦ラズリを安全な場所へと移し、そのうえで自分だけミルド達の元へ取って返そうと考えていたのだが──。
そんな奏の思惑は、見事に崩れ去ることとなった──闇が突然姿を現したことによって。
日々奏の代わりに忙しくしている闇は、滅多なことでは奏の前に姿を現すことはない。なんなら用事があって奏が名前を呼んでも、普段はさらりと無視をする。にも関わらず、今回奏が行動を起こそうとしたタイミングで自分から姿を現したということは──つまり、そういうことなのだろう。
なんでこういう時に限って……いや、こういう時だからこそ、か? いっつも忙しそうにしてるわりに、俺がやらかしそうな時だけは毎回ちゃんと現れるんだよな……。
別に自分で『やらかしそう』と思っていたわけではないが、普段は放任主義の闇が姿を現すということは、そういうことなのか? と、つい勘繰ってしまう自分が悲しい。
奏とて過去何度も闇に自分のやらかしの尻拭いを──決して自分から頼んだわけではないが──してもらった覚えはあるため、彼が姿を現すと、つい身構えずにはいられないのだ。
「今回は一体どういう風の吹き回しだ?」
何も心当たりがない態で、わざとらしく尋ねてみる。しかし闇から返されたのは、普段通りの冷たい微笑みだけで。
本当は理由なんて、分かりすぎるほどに分かっていらっしゃいますよね?
言外に、そんな言葉が聞こえてくるような気がする。決してこれは被害妄想じゃない。絶対違うと断言できる。
奏は闇の背後に漂う恐ろしいほどの冷気にゴクリと唾を呑み込むと、観念して核心に触れた。
「あいつのアレ、なんだと思う?」
アレという、なんとも抽象的な単語。でありながら、闇は迷うことなくその問いに答える。
「そうですね……近くで見たわけではないのでハッキリとしたことは申し上げられませんが、魔性の介入であることだけは間違いないかと」
「だよな。だが問題は、よく分からないあの能力だ。今いる魔神の中で、あんな能力を持つ者はいなかったはず……てことは、あの人間に力を与えたのは魔人ってことか……?」
そして、ラズリに余計なちょっかいをだしたのも──。
眠っているラズリを見た奏の赤い瞳が、若干鋭さを増す。それを見ながら、闇は熟考するかのように顎に手を当てると、眉を顰めた。
「十中八九、今回の貴方の考えは間違っていないと思います。しかし、今回は些か相手が悪いような気もしますね……」
珍しく暗い表情をする闇に、奏は信じられないという表情でもって詰め寄る。
「どういうことだ⁉︎ 相手はただの魔人だろ? なのに、一体何をそんなに警戒する必要がある?」
納得できないと言わんばかりの奏に、闇はまるで子供に言い聞かせるかのように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「良いですか? 魔人だからといって侮ってはいけません。魔人だとて魔神に匹敵するほどの能力を持つ者がいないわけではないのです」
「そんなことは分かってる! だけど、所詮魔人は魔人で──」
「貴方も──」
そこで急に闇から距離を詰められ、奏は間近で煌めいた紅の瞳に息を呑んだ。
「貴方も所詮魔人です。どうかそのことをお忘れなきよう」
所詮魔人。
その一言は、意外にも奏の胸にグサリと突き刺さったのだった。
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