【完】天涯孤独になった筈が、周りで奪い合いが起きているようです

迦陵 れん

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第七章 不可思議な力

可能性

 深い深い深淵なる海の底。

 目視することなど到底かなわぬ水底に建てられた城の中、青く透き通る美しい髪を足首まで伸ばした──魔神と呼ばれる数少ない存在である──青年は、驚愕に瞳を見開いていた。そして、そのまま視線を逸らさず呆然と呟く。

「なんだ、あれは……?」

 彼が今見つめているのは、一人の人間の胸にある紙切れのようなものだった。

 これまで何十年、何百年と生きてきた中で、一度も感じたことのない異様な力を不意にそこから感じた。魔性の持つ力とは違う、根本的に違うと思えるの力が、その紙切れには宿っている。──尤も、その紙切れに気付く原因となった妙な気配もまた、おかしなものでありはしたが。
 
 青年がを感じたのは、あまりにも突然だった。

 何の前触れもなく、唐突に、強大な力の発現を感じたのだ。

 あり得ない出来事に最初は驚き、動揺し──けれども青年はすぐさま動いた。その動きの早さこそ、彼が魔神と呼ばれる理由の一端であったのかもしれない。どちらにせよ、彼はその時感じた力の源を確かめるべく、一人の青年の名を呼んだ。

青麻せいま! 青麻はいるか⁉︎」

 しかしどうしたことか、普段であれば名を呼んだか呼ばないかというほどのタイミングで姿を現す側近──青麻──は、珍しく姿を現さなかった。

 どういうことだ……?

 そのことにほんの僅か疑問を抱くも、魔神たる青年はすぐに考えを切り替え、別の人物を呼ぶべく口を開く。が──。

 気付けば、異様な力の気配は既に消え去っていた。

 慌てて力の残滓を追おうとするも、その時には既に最初から何もなかったかのように、痕跡一つ感じられなくなっていて。

「馬鹿な……」

 愕然としながら呟き、再び玉座へ腰を下ろすと、青年は意識を集中させた。

 たとえ何者であろうとも、魔神たる自分を誤魔化せるはずはない。そこまで綺麗さっぱり無かったことにできるはずはない。必ず何処かに手掛かりが残っているはず……。

 そう考え、懸命に気配を探すが、それでも──。

 何も、見つけられはしなかった。

 魔神の位を有す自分が探せないなど、見失うなど、あってはならない。そんなことあるはずがない。

 もしそのようなことがあるとすれば、それは相手の能力が自分より上回っているということになる。自分は魔神だ。それこそ認められないし、認めていいものではない。

 だったらこれは、この現実は、一体どういうことだというのか。眠らないが故に夢を見ることのない魔性である自分が、夢を見ているとでもいうのか。

 今、目の前にある現実を認めたくないばかりに、青年は目を閉じ、意識を集中させて異様な気配の残滓を探り始める。何百年ぶりかに発揮する、本気を出した力の行使──だからこそ、彼はその時大切なことに気付かなかった。

 つい先程呼びつけた、自分の片腕とも呼べる存在である側近が、未だ姿を現していないことに。

 いつでも何処でも名を呼べばすぐさま姿を見せていた側近が、いつまで経っても現れないことに、彼は気付きもしていなかったのだ。

 気付いていれば──或いは、何かが変わっていたのかもしれない。

 その事実に気付いた魔神たる青年がそれに対し行動を起こしていたのなら、確実に何かが変わっていたことだろう。

 しかし、実際の彼は何も気付かず、そのため行動に移すことはなかった。

 この時彼が動いてさえいれば、少なくとも哀れな女魔性が命を散らすことはなかっただろうに……──。




 




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