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第八章 黒い靄
黒ずんだ札
一旦王宮へ戻るか、姿の見えない部下達を探すか──悩みに悩んだ末、ミルドは結局王宮へ戻ることを選んだ。
先に部下達を探した所で、どうせ王宮へ戻る際には一人で行かなければならない。ならば先に王宮へ行ったとて、誰がミルドを責められるだろうか。
そもそもミルドがアランの足止めに残ったことを知っていながら、すぐに追い付けない程遠くに逃げた奴らの方が悪いのだ。隊長の安否に構わず居なくなる部下など、此方が気を遣ってやるまでもない。いつまで経っても自分が合流して来ないことに首を傾げ、待ち続けていればいいのだ。それが自分を置いて行った部下達への当て付けとなるだろう。
「さすがに街まで行っていることはないと思うが……」
森を通り越し、街まで行かれ、そこで優雅に待たれていたとしたら、それはそれで腹が立つ。
自分は彼らを逃すため一人残ったせいで死にそうな目に遭い、心臓を一突きされそうになる恐怖まで味わったというのに、その間部下達が街で楽しんでなどいたら──間違いなく発狂する自信がある。
一体誰の為に、何の為に、自分はあそこに一人残ったのか、と。
「一人と言うと語弊がある気もするが……」
実際そこには氷依も一緒にいたため、ミルド一人ではなかったのだが、それでも『人間としては一人しかいなかった』と思えば、一人だったと言っても過言ではない。しかもアランと戦っている最中、氷依はそこまで役に立っていなかったような気もする。
「魔性だからと特別視していたが、どうもあの女、あまり強い気がしないしな……」
実のところ氷依が弱く思えるのは彼女の魔力がまだ十分戻っていないせいなのだが、そんなことはミルドにとって知る由もないことだ。それどころか、魔性のくせに人間である自分なんかに捕まるぐらいなのだから、そもそも弱い部類だったのか? などと氷依にとって失礼極まりないことを考えていたりもした。
「あの赤い魔性だったら、色々と役に立ちそうなんだが……」
二度も自分の邪魔をした魔性のことを思い出し、ミルドは深いため息を吐く。
あの魔性は強い。相手が人間である自分達だからというだけでなく、同じ魔性である氷依に対しても不遜な態度を崩さなかった。
あんな強い魔性を捕らえ、意のままに操ることができたなら、どれだけ愉快な気持ちになれるだろう。それどころか、あの魔性さえいれば、どんな任務もたちどころに熟せてしまうような気さえする。
「ルーチェ様もあいつをご所望のようだったし、今回の話をしたら追加でまた何枚か札を貰えるかもしれないな……」
胸当ての内側から札を取り出し、ミルドはそれを無言で見つめた。
が、そうして初めて、札の異変に気付く。
「これは……?」
ルーチェから渡された札が、どれも一様に黒ずんでいた。これを手にした時には、間違いなくこんな黒ずみはなかったはずなのに。
「どういうことだ……?」
思わず疑問を口にして、不意にミルドはある一つの仮説へと行き当たった。
これはアランが全身に纏っていた黒い靄を吸収した弊害なのではないか、と──。
あれだけ大量にあった黒い靄を吸い込めるだけ吸い込んだのだ。如何に魔力を吸い取る札とはいっても、それなりに限界はあるに違いない。その証拠に、三枚の札のうち二枚は真っ黒な札へと様変わりしていたが、残る一枚は札の端の辺りが黒い染みのようになっているだけで、他には特に異常はないようだった。
「……それにしても、約三枚もの札を駄目にしてしまうとは……」
まだ三枚目は使えるかもしれないが、真っさらな状態でなくなってしまったことは事実だ。
氷依を捕らえる時は一枚で事足りたというのに、アランがまとっていた靄には三枚もの札が必要となるなんて──つくづくルーチェから札を三枚貰っておいてよかったと思う。でなければ、札が吸い込みきれなかった黒い靄によって、ミルドもまた靄に取り込まれていたかもしれないのだから。
「今回ばかりはルーチェ様に感謝……だな」
呟き、真っ黒な札へと視線を向けたミルドは──次の瞬間、ビクリと肩を震わせた。
先に部下達を探した所で、どうせ王宮へ戻る際には一人で行かなければならない。ならば先に王宮へ行ったとて、誰がミルドを責められるだろうか。
そもそもミルドがアランの足止めに残ったことを知っていながら、すぐに追い付けない程遠くに逃げた奴らの方が悪いのだ。隊長の安否に構わず居なくなる部下など、此方が気を遣ってやるまでもない。いつまで経っても自分が合流して来ないことに首を傾げ、待ち続けていればいいのだ。それが自分を置いて行った部下達への当て付けとなるだろう。
「さすがに街まで行っていることはないと思うが……」
森を通り越し、街まで行かれ、そこで優雅に待たれていたとしたら、それはそれで腹が立つ。
自分は彼らを逃すため一人残ったせいで死にそうな目に遭い、心臓を一突きされそうになる恐怖まで味わったというのに、その間部下達が街で楽しんでなどいたら──間違いなく発狂する自信がある。
一体誰の為に、何の為に、自分はあそこに一人残ったのか、と。
「一人と言うと語弊がある気もするが……」
実際そこには氷依も一緒にいたため、ミルド一人ではなかったのだが、それでも『人間としては一人しかいなかった』と思えば、一人だったと言っても過言ではない。しかもアランと戦っている最中、氷依はそこまで役に立っていなかったような気もする。
「魔性だからと特別視していたが、どうもあの女、あまり強い気がしないしな……」
実のところ氷依が弱く思えるのは彼女の魔力がまだ十分戻っていないせいなのだが、そんなことはミルドにとって知る由もないことだ。それどころか、魔性のくせに人間である自分なんかに捕まるぐらいなのだから、そもそも弱い部類だったのか? などと氷依にとって失礼極まりないことを考えていたりもした。
「あの赤い魔性だったら、色々と役に立ちそうなんだが……」
二度も自分の邪魔をした魔性のことを思い出し、ミルドは深いため息を吐く。
あの魔性は強い。相手が人間である自分達だからというだけでなく、同じ魔性である氷依に対しても不遜な態度を崩さなかった。
あんな強い魔性を捕らえ、意のままに操ることができたなら、どれだけ愉快な気持ちになれるだろう。それどころか、あの魔性さえいれば、どんな任務もたちどころに熟せてしまうような気さえする。
「ルーチェ様もあいつをご所望のようだったし、今回の話をしたら追加でまた何枚か札を貰えるかもしれないな……」
胸当ての内側から札を取り出し、ミルドはそれを無言で見つめた。
が、そうして初めて、札の異変に気付く。
「これは……?」
ルーチェから渡された札が、どれも一様に黒ずんでいた。これを手にした時には、間違いなくこんな黒ずみはなかったはずなのに。
「どういうことだ……?」
思わず疑問を口にして、不意にミルドはある一つの仮説へと行き当たった。
これはアランが全身に纏っていた黒い靄を吸収した弊害なのではないか、と──。
あれだけ大量にあった黒い靄を吸い込めるだけ吸い込んだのだ。如何に魔力を吸い取る札とはいっても、それなりに限界はあるに違いない。その証拠に、三枚の札のうち二枚は真っ黒な札へと様変わりしていたが、残る一枚は札の端の辺りが黒い染みのようになっているだけで、他には特に異常はないようだった。
「……それにしても、約三枚もの札を駄目にしてしまうとは……」
まだ三枚目は使えるかもしれないが、真っさらな状態でなくなってしまったことは事実だ。
氷依を捕らえる時は一枚で事足りたというのに、アランがまとっていた靄には三枚もの札が必要となるなんて──つくづくルーチェから札を三枚貰っておいてよかったと思う。でなければ、札が吸い込みきれなかった黒い靄によって、ミルドもまた靄に取り込まれていたかもしれないのだから。
「今回ばかりはルーチェ様に感謝……だな」
呟き、真っ黒な札へと視線を向けたミルドは──次の瞬間、ビクリと肩を震わせた。
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