【完】天涯孤独になった筈が、周りで奪い合いが起きているようです

迦陵 れん

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第八章 黒い靄

最適な武器

「奏……いないの?」

 もう何度、彼の名を呼んだだろう。

 幾度部屋の中を見回しただろう。

 名前を呼んでも、出て来て欲しいとお願いしても、奏は一向に姿を現してはくれない。

「私のこと……嫌いになった? どうでも良くなっちゃったの?」

 尋ねても、答える声はない。

 自分以外誰もいない室内に、虚しく声が響くだけだ。

 どうして急にいなくなってしまったの?

 あのミルドとかいう騎士と何かあったの?

 聞きたいことは山ほどあるのに、自分一人では何一つ分からなくて。分からないことが悔しくて堪らない。

 結局自分は一人では何もできないのだ。奏に頼らなければ、どうするべきかも分からない。

 それを改めて突きつけられたような気がして、ラズリはぐっと歯を食いしばった。

 こんなんじゃいけないと分かってるのに……。

 奏がいない──。ただそれだけのことで、自分は容易に何をすべきかが分からなくなってしまう。

 悩んでる場合じゃない。自分一人でも行動しなければ。自分の問題に、奏は何一つ関係はないのだから。

 そうだ。彼はあくまで気紛れに手を貸してくれただけ。人間の小娘が困っていたから、短期間の奉仕のつもりで側にいてくれただけなのだ。

 そのことを勘違いして、魔性を信じて頼りすぎたこと自体、間違っていた。

 いつまでも奏に頼っていたから、きっと愛想を尽かされたんだ。

 そろそろ独り立ちしろ、という意味で一人にされたのかもしれない。

 ならばこれから自分がすべきことは──。

 そこで考えを切り替えてラズリはベッドから降りると、そのまま部屋の扉へと向かいかけ──寸前で足を止めた。

 行動に移すといっても、最初にすべきことは何だろう?

 情報収集、今後のための補給、それから──。

「武器……も必要だよね……」

 再び王宮騎士達と対峙した時、何か身を守る術が欲しい。

 といっても今まで武器の類なんて何一つ扱ったことはないから、自分には何が適しているのかなんて、まったく分からないけれど。

 ラズリが村にいた時に使っていた刃物といえば、包丁と草刈り用の鎌ぐらいで。今は当然どちらも持ってはいないし、そんな物が武器として使えないことぐらいは流石に分かるから、他の何かを探さなければならない。

「手っ取り早いのは剣だけど、剣に慣れた騎士達に同じ剣で対抗するっていうのも無謀な気がするのよね……」

 尤も、戦うこと自体初心者でしかない自分は、どんな武器を持とうとも彼等に対抗することなどできないけれど。

 少しぐらい相手の意表をつくとか、油断させるとか、そういったことができれば、それだけで良い。

 再び彼等に遭遇してしまった時、なんとか隙を作って逃げ出すことさえ出来れば十分なのだ。

「そのためには……あ!」

 その時ラズリは、森の中で王宮騎士達に襲われそうになった際、突如自分の身体から発生し、騎士の腕を呑み込んだ黒い靄のことを思い出した。

 あれは──武器になるんだろうか?

 騎士の片腕を落としたことから考えれば、十分武器として使えるのだろうが、如何せん、自分の意思で扱うことができないときている。あれを自由に扱うことができるようになれば、どんな武器より頼りになるだろうことは間違いない。

「問題は、自分の意思で使えるようになるかどうかよね……」

 そもそも自分があんなものを身体の内に秘めていること自体、今まで知らなかった。知っていれば、あれを使って村人達を守れたかもしれないのに。

「ええと、あの時はどうしたんだっけ……?」

 下手な武器を購入するより黒い靄を使いこなせるようにした方が手っ取り早いと思い、ラズリは懸命にアランと退治した時のことを思い出す。

 あの時は確か……そうだ、腸が煮えくりかえるほどの怒りをアイツに感じて、それと同時に誰かの声が聞こえてような……?

 そもそも、あの声の主は誰だったんだろう? もしかして黒い靄自体が喋ったとか……?

 それはそれで怖いんだけど──と思ったところで、ラズリは激しく首を横に振った。

 ダメダメ! 今は余計なことは考えない! 王宮騎士達から逃げるためには、絶対この靄を使いこなさないといけないんだから!

 再度ベッドへと座り直し、ゆっくりと目を閉じる。

 あの時の私はどうやってアイツに怒ってた? どんな風に怒りを感じてた?

 思い出せ、思い出せ、思い出せ……──。

 何とかして黒い靄を自身の意思で操れるよう、ラズリは懸命に意識を集中させた。




 

 

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