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第八章 黒い靄
面倒くさい人
一方その頃──ラズリのいる宿屋の上空では、全身に赤を纏った二人の魔性が控えめな声で言い合いをしていた。
「危機感がなさすぎるっ!」
黒い靄を呼び出そうとするラズリに対し、そう声を発したのは赤い髪の魔性──奏。
「あんな物騒なもん呼び出して、自分が呑み込まれでもしたら一体どうするつもりなんだ? あまりにも危機感がなさすぎるだろう!」
彼女の行いをすぐさま止めにいこうとするが、その行為は闇に阻まれ、ガッチリと腕を掴まれる。
「そんなに心配せずとも大丈夫ですよ。あなたがずっとこうして監視……いえ、見守っているわけですし、何かありましたらすぐに私が助けに向かいますので」
何故助けに行くのが奏ではないのか? というと、ラズリのことになると急に奏は冷静さをなくし、闇ですら思いも寄らない危険な行動に出る時があるからだ。人間であるラズリが危険な行動に出るのと、魔性である奏が危険な行動をするのとでは後始末の大変さが天と地ほども違う。故に、闇は奏を止めたのだが──。
「なんでお前が助けに行くんだよ? ラズリを助けるのは俺だ! 俺だって決まってるんだよ、分かったか!」
不機嫌さを全面にだし、不満気にそう怒鳴りつけられた。
だったら最初から、彼女を一人にしなければ良いでしょうに……。
言うこととやることが真逆すぎて、闇はため息を吐いてしまう。
元々自分勝手で面倒な人だとは思っていたが、ここまで面倒な人だったとは……。
以前はもう少しマシだったような気もするが、イマイチ自信が持てないのは何故だろう?
いや、そもそも奏は今まで他者に興味を持ったことなどなかったから、そういった部分が表に出ていなかっただけなのかもしれない。今までは自分以外の全てを玩具か何か──当然闇もそう思われていると思っている──のようにしか思っていなかったから、相手に対する好意だとか独占欲だとか、あって当然のはずの感情が欠落していたために気付かなかっただけで。
どちらにしろ今現在こうなっている以上、面倒なことに変わりはない。
これで上手いことラズリ殿が黒い靄を身体の中から排出して、それを我らが消滅できれば厄介な問題が一つ解決するのですがね……。
できることなら、それが一番好ましい。だからこそ、先ほど闇はラズリの元へ行こうとする奏を全力で止めたのだ。
せっかく彼女が自分で自分の中から靄を排出してくれるというのなら、それにあやかるのが一番楽で確実だ。自分と奏は一度失敗しているため、黒い靄を彼女に仕掛けた魔性に警戒されているだろうから。
「………………」
闇が無言でラズリを見つめていると、横で同じように見ていた奏が、ポツリと呟くかのように疑問を一つ口にした。
「それにしても……ラズリはなんで黒い靄なんて呼び出そうとしてるんだろうな?」
「えっ⁉︎」
あまりにも予想外の問いに、さすがの闇も少しばかり大きな声を出してしまった。
この人は……そんな簡単なことにも気付いていなかったのか? と。
能力的に奏と闇とはほぼ同等の力を有していて、頭脳的にも同じ程度に賢いはずだから、闇が分かることは奏も分かりそうなものなのだが、何故か彼はいつも闇へと問い掛けてくる。
この人は本当に、頭を使うのが嫌いだからな……。
決して馬鹿だというわけではないが、物事をあまり深く考えず、感覚のみで動くことが多いため、基本的に奏はあまり頭を使わない。
大抵のことは闇に聞き、その返答を持ってすぐさま思いつきで行動するというのが常だ。
それで殆ど失敗したことがないからこそ、奏の中では既にそのスタイルが定着してしまっている。
もう慣れてしまったこととはいえ、少々甘やかし過ぎたかなと、闇はため息を吐いて言葉を紡いだ。
「いくら呼んでも貴方が姿を現さないから大方見捨てられたとでも思って、武器代わりに使おうと思っているのではないですか?」
「っな……! 危ないだろう! あれはどこの誰の能力かも分からないんだぞ⁉︎」
そんなことは百も承知だ。けれど、ラズリにその選択をさせたのは──。
「ですから私は最初からラズリ殿の元へ戻った方が良いと言っていましたよね? それを無視して何時迄もグズグズしていたのは貴方では? その結果彼女がどのような行動をとろうとも、貴方に口を出す権利などないと思いますが」
「う……」
どうやら言い返すことができないらしい奏は、悔し気に表情を歪ませる。
闇に言い返すか、ラズリのところへ行くか──悩んでいるらしく視線を彷徨わせる奏に、闇は背中を押すように自分の考えを告げた。
「ラズリ殿が自力で黒い靄を体外に排出することができれば……今度こそ塵も残さず消滅させることができるかもしれません」
刹那、赤い瞳が閃光を発したかのように煌めいた──。
「危機感がなさすぎるっ!」
黒い靄を呼び出そうとするラズリに対し、そう声を発したのは赤い髪の魔性──奏。
「あんな物騒なもん呼び出して、自分が呑み込まれでもしたら一体どうするつもりなんだ? あまりにも危機感がなさすぎるだろう!」
彼女の行いをすぐさま止めにいこうとするが、その行為は闇に阻まれ、ガッチリと腕を掴まれる。
「そんなに心配せずとも大丈夫ですよ。あなたがずっとこうして監視……いえ、見守っているわけですし、何かありましたらすぐに私が助けに向かいますので」
何故助けに行くのが奏ではないのか? というと、ラズリのことになると急に奏は冷静さをなくし、闇ですら思いも寄らない危険な行動に出る時があるからだ。人間であるラズリが危険な行動に出るのと、魔性である奏が危険な行動をするのとでは後始末の大変さが天と地ほども違う。故に、闇は奏を止めたのだが──。
「なんでお前が助けに行くんだよ? ラズリを助けるのは俺だ! 俺だって決まってるんだよ、分かったか!」
不機嫌さを全面にだし、不満気にそう怒鳴りつけられた。
だったら最初から、彼女を一人にしなければ良いでしょうに……。
言うこととやることが真逆すぎて、闇はため息を吐いてしまう。
元々自分勝手で面倒な人だとは思っていたが、ここまで面倒な人だったとは……。
以前はもう少しマシだったような気もするが、イマイチ自信が持てないのは何故だろう?
いや、そもそも奏は今まで他者に興味を持ったことなどなかったから、そういった部分が表に出ていなかっただけなのかもしれない。今までは自分以外の全てを玩具か何か──当然闇もそう思われていると思っている──のようにしか思っていなかったから、相手に対する好意だとか独占欲だとか、あって当然のはずの感情が欠落していたために気付かなかっただけで。
どちらにしろ今現在こうなっている以上、面倒なことに変わりはない。
これで上手いことラズリ殿が黒い靄を身体の中から排出して、それを我らが消滅できれば厄介な問題が一つ解決するのですがね……。
できることなら、それが一番好ましい。だからこそ、先ほど闇はラズリの元へ行こうとする奏を全力で止めたのだ。
せっかく彼女が自分で自分の中から靄を排出してくれるというのなら、それにあやかるのが一番楽で確実だ。自分と奏は一度失敗しているため、黒い靄を彼女に仕掛けた魔性に警戒されているだろうから。
「………………」
闇が無言でラズリを見つめていると、横で同じように見ていた奏が、ポツリと呟くかのように疑問を一つ口にした。
「それにしても……ラズリはなんで黒い靄なんて呼び出そうとしてるんだろうな?」
「えっ⁉︎」
あまりにも予想外の問いに、さすがの闇も少しばかり大きな声を出してしまった。
この人は……そんな簡単なことにも気付いていなかったのか? と。
能力的に奏と闇とはほぼ同等の力を有していて、頭脳的にも同じ程度に賢いはずだから、闇が分かることは奏も分かりそうなものなのだが、何故か彼はいつも闇へと問い掛けてくる。
この人は本当に、頭を使うのが嫌いだからな……。
決して馬鹿だというわけではないが、物事をあまり深く考えず、感覚のみで動くことが多いため、基本的に奏はあまり頭を使わない。
大抵のことは闇に聞き、その返答を持ってすぐさま思いつきで行動するというのが常だ。
それで殆ど失敗したことがないからこそ、奏の中では既にそのスタイルが定着してしまっている。
もう慣れてしまったこととはいえ、少々甘やかし過ぎたかなと、闇はため息を吐いて言葉を紡いだ。
「いくら呼んでも貴方が姿を現さないから大方見捨てられたとでも思って、武器代わりに使おうと思っているのではないですか?」
「っな……! 危ないだろう! あれはどこの誰の能力かも分からないんだぞ⁉︎」
そんなことは百も承知だ。けれど、ラズリにその選択をさせたのは──。
「ですから私は最初からラズリ殿の元へ戻った方が良いと言っていましたよね? それを無視して何時迄もグズグズしていたのは貴方では? その結果彼女がどのような行動をとろうとも、貴方に口を出す権利などないと思いますが」
「う……」
どうやら言い返すことができないらしい奏は、悔し気に表情を歪ませる。
闇に言い返すか、ラズリのところへ行くか──悩んでいるらしく視線を彷徨わせる奏に、闇は背中を押すように自分の考えを告げた。
「ラズリ殿が自力で黒い靄を体外に排出することができれば……今度こそ塵も残さず消滅させることができるかもしれません」
刹那、赤い瞳が閃光を発したかのように煌めいた──。
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