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第九章 魔力を吸う札
厄介極まりないもの
死灰栖が無理やり氷依の目をこじ開けて、その中にある瞳の奥底を覗き込もうとした瞬間──。
「氷依!」
そう叫ぶ声と共に、三枚の紙切れが投げつけられた。
「チッ」
舌打ちと共に死灰栖は結界を張ってそれを防ぐと、紙切れを投げつけてきたであろうルーチェとミルドを順番に睨む。
「人間如きが、煩わしい……」
そんなに死に急がなくとも、女魔性の相手が終われば殺してやるというのに、どうしても先に相手をして欲しいのか。
それとも女魔性より自分達が先に死ぬことになったとしても、自分には知られたくない秘密が彼女の瞳の奥にあるのか──。
「ふむ……」
そのどちらが正しいのかは分かりかねるが、恐らく後者の方が可能性としては格段に高い。
ならばやはり優先するのはこちらだな……。
そう思い、再び氷依へと死灰栖が手を伸ばした瞬間、それは起こった。
「…………っ⁉︎」
突如として全身から力が抜ける感覚がしたと思ったら、急激な怠さに襲われ、死灰栖は思わずその場に片膝をついてしまったのだ。
「なに……が……?」
人間どものいる前で膝をついた屈辱と、すぐに立ち上がることのできない自分自身に混乱する。
自分の身に、一体なにが起きたというのか。
それでも立ち上がろうと死灰栖が足に力を入れた時、ふと視界の端に見覚えのある紙切れのような物が映り込んだ。
刹那、咄嗟の判断で氷依を自らの盾とし、自分はその背後へと隠れる。
「ああっ……!」
「氷依‼︎」
途端に女魔性の呻き声と、その名を呼ぶ人間どもの悲痛な叫び声が混ざり合ったが、死灰栖にとってはどうでも良いことだった。
そんなことより問題なのは、奴らに投げつけられた紙切れだ。
未だ加速していく気怠さに自らの腕を見てみれば、そこには一枚の紙切れが貼り付けられ、まるで生き物のようにビクビクとうねっている。薄い金色だった紙切れが見る間に黒く染まっていく様子から、明らかにそれが自分の魔力を吸い取り、喜んでいるかのようだ。
愚かな人間に貸し与えた自分の魔力を、ことごとく吸い尽くした忌々しい紙切れ。どう見ても、あの時と同じ物。
魔性である自分にとって、天敵と言っても過言ではない代物だ。
「貴様もこれを持っていたとは……」
やはり、あの場にいたミルドとかいう人間だけではなかった。
死灰栖の予想通り、他の人間もこの厄介極まりない紙切れを所持していたのだ。
紙切れを所持していた人間と共にいた女魔性が此処にいたから、もしかしたらと思ってはいたものの、その予感が当たったことに喜びはない。
寧ろ舌打ちをしたい気分だ。
手に入れたいと願ってはいたが、自分の身体に貼り付けられるのだけは、ごめん被りたかった。
「本当に厄介な物を作り出してくれたものよ……」
苦々し気に呟くと、耳に心地の良い声がそれに答えた。
「お褒めにあずかり光栄だよ」
ニコニコと微笑いながら人間にしては整った顔をしている青年は、死灰栖にのみ関心を向けているようでいて、時折心配そうに女魔性へと目を向ける。
恐らく自らの目的を悟られないようにしているのだろうが、如何せん、年齢的にまだ経験が足りないようで、その心中を隠し切れてはいない。
ここは、取り引きするのが得策か……?
正直なところ人間相手に魔性である自分が交渉するなど屈辱以外のなにものでもないが、既にこの相手には散々な目に遭わされている。
ならば今更少しぐらいそれが増えたからといって、気にすることなど何もないではないか。そんなことより気にするべきは──相手の住処に自ら乗り込んでおいて、手ぶらで戻るということの方だ。
滅多なことでは動かない自分が何十年かぶりに自ら動いたというのに、その結末が何の成果もなしに、ただ居城に帰還しただけなどと──それこそが最大の屈辱であり、赤っ恥であろう。
「……よし」
死灰栖は覚悟を決めてその場にドッカリと腰を下ろすと、真っ直ぐに美しい青年へと視線を向けた。
「氷依!」
そう叫ぶ声と共に、三枚の紙切れが投げつけられた。
「チッ」
舌打ちと共に死灰栖は結界を張ってそれを防ぐと、紙切れを投げつけてきたであろうルーチェとミルドを順番に睨む。
「人間如きが、煩わしい……」
そんなに死に急がなくとも、女魔性の相手が終われば殺してやるというのに、どうしても先に相手をして欲しいのか。
それとも女魔性より自分達が先に死ぬことになったとしても、自分には知られたくない秘密が彼女の瞳の奥にあるのか──。
「ふむ……」
そのどちらが正しいのかは分かりかねるが、恐らく後者の方が可能性としては格段に高い。
ならばやはり優先するのはこちらだな……。
そう思い、再び氷依へと死灰栖が手を伸ばした瞬間、それは起こった。
「…………っ⁉︎」
突如として全身から力が抜ける感覚がしたと思ったら、急激な怠さに襲われ、死灰栖は思わずその場に片膝をついてしまったのだ。
「なに……が……?」
人間どものいる前で膝をついた屈辱と、すぐに立ち上がることのできない自分自身に混乱する。
自分の身に、一体なにが起きたというのか。
それでも立ち上がろうと死灰栖が足に力を入れた時、ふと視界の端に見覚えのある紙切れのような物が映り込んだ。
刹那、咄嗟の判断で氷依を自らの盾とし、自分はその背後へと隠れる。
「ああっ……!」
「氷依‼︎」
途端に女魔性の呻き声と、その名を呼ぶ人間どもの悲痛な叫び声が混ざり合ったが、死灰栖にとってはどうでも良いことだった。
そんなことより問題なのは、奴らに投げつけられた紙切れだ。
未だ加速していく気怠さに自らの腕を見てみれば、そこには一枚の紙切れが貼り付けられ、まるで生き物のようにビクビクとうねっている。薄い金色だった紙切れが見る間に黒く染まっていく様子から、明らかにそれが自分の魔力を吸い取り、喜んでいるかのようだ。
愚かな人間に貸し与えた自分の魔力を、ことごとく吸い尽くした忌々しい紙切れ。どう見ても、あの時と同じ物。
魔性である自分にとって、天敵と言っても過言ではない代物だ。
「貴様もこれを持っていたとは……」
やはり、あの場にいたミルドとかいう人間だけではなかった。
死灰栖の予想通り、他の人間もこの厄介極まりない紙切れを所持していたのだ。
紙切れを所持していた人間と共にいた女魔性が此処にいたから、もしかしたらと思ってはいたものの、その予感が当たったことに喜びはない。
寧ろ舌打ちをしたい気分だ。
手に入れたいと願ってはいたが、自分の身体に貼り付けられるのだけは、ごめん被りたかった。
「本当に厄介な物を作り出してくれたものよ……」
苦々し気に呟くと、耳に心地の良い声がそれに答えた。
「お褒めにあずかり光栄だよ」
ニコニコと微笑いながら人間にしては整った顔をしている青年は、死灰栖にのみ関心を向けているようでいて、時折心配そうに女魔性へと目を向ける。
恐らく自らの目的を悟られないようにしているのだろうが、如何せん、年齢的にまだ経験が足りないようで、その心中を隠し切れてはいない。
ここは、取り引きするのが得策か……?
正直なところ人間相手に魔性である自分が交渉するなど屈辱以外のなにものでもないが、既にこの相手には散々な目に遭わされている。
ならば今更少しぐらいそれが増えたからといって、気にすることなど何もないではないか。そんなことより気にするべきは──相手の住処に自ら乗り込んでおいて、手ぶらで戻るということの方だ。
滅多なことでは動かない自分が何十年かぶりに自ら動いたというのに、その結末が何の成果もなしに、ただ居城に帰還しただけなどと──それこそが最大の屈辱であり、赤っ恥であろう。
「……よし」
死灰栖は覚悟を決めてその場にドッカリと腰を下ろすと、真っ直ぐに美しい青年へと視線を向けた。
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