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第十章 目覚めた能力
消失
「それじゃあ……剥がすわよ」
ゴクリと音を立てて唾を飲み込み、今度こそとばかりにラズリは札に手を伸ばす。
自分が触れたら、札はまた妙な反応をするかもしれない。先程とはまた違った動きをするかもしれない。
そう考えると恐怖を捨て切れたわけではないが、女魔性の様子から、一刻の猶予すらないことが伝わってくる。
自分が躊躇している間に、彼女の命は失われてしまうかもしれない。いや、確実に失われてしまうだろう。
そうなってしまったら、もう取り返しがつかない。自分のせいで一つの命が失われ、同時に、奏達の天敵ともいえる札の情報も得られなくなってしまう。
そんなことには、絶対になりたくない。
私が臆病なせいで奏達を危険にさらすなんて……。
ラズリはグッと唇を引き締めると、覚悟を決めて氷依の身体から札を引き剥がした! が──。
その時、予想外の出来事が起こった。
ラズリが札を氷依の身体から引き剥がした瞬間──なんと、彼女自身が消失してしまったのだ。まるで、札を剥がした事が引き金にでもなったかのように。
「え……っ」
それはあまりにも一瞬の出来事で。
故にラズリは、今起きた現実をすぐに受け入れる事ができなかった。
どうして? 何があったの? あの女魔性は何処へ消えたの?
何度も瞬きをし、目を擦ってみるも、やはり女魔性の姿はどこにもない。
どうして? なんで?
自分は確かに札を剥がした。なのに何故、彼女は消えてしまったのだろうか。
いくら魔力を吸う根源を排除したからといって、すぐに動けるような状態ではなかったはずなのに、一体どこへ行ってしまったというのだろう。
「奏……あの魔性は、どこへ行ったの?」
なんとなく答えに予想がつきつつも、ラズリは明確な返答が欲しくて奏に尋ねた。
彼であれば、自分と違い、あの女魔性がどうなったのか分かるだろうと考えて。
「転移した……という訳ではないのよね?」
それはある意味、願いにも似た思いだった。
自分が札を剥がすのが遅かった、なんて思いたくなくて。女魔性は自分の意思で姿を消したのだと思いたくて、口から出た言葉だった。
けれど、それに対する奏の返事は残酷なものであり。
「あいつは死んだ。恐らく、全ての魔力を札に吸われた事により消失したんだと思う」
「…………!」
ショックだった。
辛うじて間に合ったと思っていたのに、ギリギリ間に合わなかったのだ。
もう一瞬でも早く札を剥がしていれば、救えた命であったかもしれないのに。
「ラズリ……お前が悪いわけじゃない。あそこまで魔力を奪われていた時点で、もう助からなかったかもしれないんだ。だからそんな顔をするな」
「うん……」
彼女は味方ではなかった。どちらかといえば敵であった。
それでも、死んで欲しかったわけじゃない。
できる事なら、あんな憐れな最期は見たくなかった。
魔性はその命が失われる時、砂のような粒子となって消えるという。その様はとても美しく、この世のものとは思えぬほど幻想的であると、以前聞いた事があった。
けれどあの女魔性は、その粒子さえも一瞬で札に吸い込まれてしまったかのように、跡形もなく消えてしまったのだ。それはあたかも、転移で姿を消したかのようで。
そうであれば良いと思った。それならまだ、救えなかった罪悪感がもう少し軽く済んだのに、と。
「だけどお前は、そんな嘘を望まないだろう?」
まるでラズリの心を読んだかのように、奏が言った。
自分が女魔性の事を尋ねた時、もし奏が嘘を告げていたら? 自分はきっと信じなかったに違いない。
どんなに心が受け入れる事を拒否しても、真実は変えられないし、嘘でごまかされるほど、自分は鈍いつもりでもないのだから。
何故、彼には分かってしまうんだろう? 何故彼はこんなにも、自分を理解してくれるんだろう?
分からないけれど、彼の腕の中は、もう既にラズリの失いたくない唯一の居場所となっていた。
「奏……あなたは絶対、あんな風に消えないでね」
だから、願う。心から。
「安心しろよ。俺は滅茶苦茶強いからさ」
ある意味最強だぜ?
と微笑んだ彼に。
救われた、ような気がした。
ゴクリと音を立てて唾を飲み込み、今度こそとばかりにラズリは札に手を伸ばす。
自分が触れたら、札はまた妙な反応をするかもしれない。先程とはまた違った動きをするかもしれない。
そう考えると恐怖を捨て切れたわけではないが、女魔性の様子から、一刻の猶予すらないことが伝わってくる。
自分が躊躇している間に、彼女の命は失われてしまうかもしれない。いや、確実に失われてしまうだろう。
そうなってしまったら、もう取り返しがつかない。自分のせいで一つの命が失われ、同時に、奏達の天敵ともいえる札の情報も得られなくなってしまう。
そんなことには、絶対になりたくない。
私が臆病なせいで奏達を危険にさらすなんて……。
ラズリはグッと唇を引き締めると、覚悟を決めて氷依の身体から札を引き剥がした! が──。
その時、予想外の出来事が起こった。
ラズリが札を氷依の身体から引き剥がした瞬間──なんと、彼女自身が消失してしまったのだ。まるで、札を剥がした事が引き金にでもなったかのように。
「え……っ」
それはあまりにも一瞬の出来事で。
故にラズリは、今起きた現実をすぐに受け入れる事ができなかった。
どうして? 何があったの? あの女魔性は何処へ消えたの?
何度も瞬きをし、目を擦ってみるも、やはり女魔性の姿はどこにもない。
どうして? なんで?
自分は確かに札を剥がした。なのに何故、彼女は消えてしまったのだろうか。
いくら魔力を吸う根源を排除したからといって、すぐに動けるような状態ではなかったはずなのに、一体どこへ行ってしまったというのだろう。
「奏……あの魔性は、どこへ行ったの?」
なんとなく答えに予想がつきつつも、ラズリは明確な返答が欲しくて奏に尋ねた。
彼であれば、自分と違い、あの女魔性がどうなったのか分かるだろうと考えて。
「転移した……という訳ではないのよね?」
それはある意味、願いにも似た思いだった。
自分が札を剥がすのが遅かった、なんて思いたくなくて。女魔性は自分の意思で姿を消したのだと思いたくて、口から出た言葉だった。
けれど、それに対する奏の返事は残酷なものであり。
「あいつは死んだ。恐らく、全ての魔力を札に吸われた事により消失したんだと思う」
「…………!」
ショックだった。
辛うじて間に合ったと思っていたのに、ギリギリ間に合わなかったのだ。
もう一瞬でも早く札を剥がしていれば、救えた命であったかもしれないのに。
「ラズリ……お前が悪いわけじゃない。あそこまで魔力を奪われていた時点で、もう助からなかったかもしれないんだ。だからそんな顔をするな」
「うん……」
彼女は味方ではなかった。どちらかといえば敵であった。
それでも、死んで欲しかったわけじゃない。
できる事なら、あんな憐れな最期は見たくなかった。
魔性はその命が失われる時、砂のような粒子となって消えるという。その様はとても美しく、この世のものとは思えぬほど幻想的であると、以前聞いた事があった。
けれどあの女魔性は、その粒子さえも一瞬で札に吸い込まれてしまったかのように、跡形もなく消えてしまったのだ。それはあたかも、転移で姿を消したかのようで。
そうであれば良いと思った。それならまだ、救えなかった罪悪感がもう少し軽く済んだのに、と。
「だけどお前は、そんな嘘を望まないだろう?」
まるでラズリの心を読んだかのように、奏が言った。
自分が女魔性の事を尋ねた時、もし奏が嘘を告げていたら? 自分はきっと信じなかったに違いない。
どんなに心が受け入れる事を拒否しても、真実は変えられないし、嘘でごまかされるほど、自分は鈍いつもりでもないのだから。
何故、彼には分かってしまうんだろう? 何故彼はこんなにも、自分を理解してくれるんだろう?
分からないけれど、彼の腕の中は、もう既にラズリの失いたくない唯一の居場所となっていた。
「奏……あなたは絶対、あんな風に消えないでね」
だから、願う。心から。
「安心しろよ。俺は滅茶苦茶強いからさ」
ある意味最強だぜ?
と微笑んだ彼に。
救われた、ような気がした。
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