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第二章 赤い魔性
許せない者達
「行っても無駄だ。あいつらには既に実体がない。だから、お前の声は届かない」
初めて見る真剣な顔つきの奏にラズリが告げられたのは、そんな残酷な一言だった。
「どういうこと……?」
言われた意味が分からない。
村のみんなは、すぐそこにいるのに。実体がないとは、どういう意味なのだろうか。
炎が消え去った後、村があった筈の場所は、更地へと姿を変えていた。けれど、村人達はなんら変わることなく、そこに存在していたのだ。
火事の間、きっとどこかに隠れていたんだろう。火が治まったから、村があった場所へと戻って来たのだ。
そんな風に考えて、ラズリは喜び勇んで村に戻ろうとしたのだけれど、そこを奏によって引き止められた。別に何もおかしな所はない筈なのに。
「……いいか? 良く考えてみろ。あれだけの人数が、火事の間ずっとお前に気付かず、どこかに隠れ続けられると思うか? お前に全く目撃されず、全員が一瞬のうちに村へ戻れると? そんなのおかしいだろう?」
「でも、もしかしたら違う方向から戻ったのかもしれないし……」
咄嗟に反論してはみたものの、それがあり得ないという事は、ラズリ自身自覚していた。
いくら小さな村だとはいえ、村人は両手で足りないぐらいの人数がいる。加えて、年齢的に素早い動きが出来る者も少ない。そんな彼等が、どうやってラズリに気付かれる事なく、火事の治まった村へ戻れるというのだろうか。
しかも、以前村だった場所は更地になってしまっているというのに、村人達は動揺している様子が全くもって見受けられない。普通であれば、自分達の住む家や畑がなくなっている時点で、右往左往するものだろうに。
「周囲は更地で見晴らしが良過ぎる程なのに、方向が違うから見逃したって? お前それ、本気で言ってるわけじゃないよな?」
奏は的確に、痛い所を突いてくる。
炎や森、建物が悉く一掃された今、村の周辺に散らばっていたであろう王宮騎士達の居場所さえ、ハッキリと分かるのだ。そんな状態で、目の前の村人達が村に戻る姿を見逃すなんて事、あるわけがなかった。もし本当に見逃していたとしたら、目か脳に重大な欠陥があることだろう。
「じゃあ、どうして……」
弱々しい声で、ラズリは奏に尋ねる。
「どうしてみんなは、変わらずあそこにいるの? 私の見間違いでないのなら、あれは一体どういう事なの?」
何もない更地のど真ん中ともいえる場所で、村人達は以前と同じように動いている。
畑があったと思われる場所で土を──手に何も持ってはいないが──耕し、他の村人は料理をしている風であったり、掃除をしている風であったり……とにかく村があった場所で、いつも通りの動きをしているのだ。いくら今の状況に混乱しているといっても、村人全員がそのような行動を取っているのは、おかし過ぎる。
「……あまりに突然過ぎたから、だろうな」
呟くかのように、奏がぽつりと口にした。
「これは極稀にある事象なんだが、あまりにも突然命を奪われたために、魂が順応できず、その場に留まる事がある。恐らく今あそこにいる奴らは全員そうだ。自分の死に気付かず、だからこそ生きていた頃と同じ行動を取っているんだろうな」
例えその手に鍬を持っていなくとも、包丁や箒を持っていなくとも、既に魂だけの存在で実体が伴わない村人達は、何の問題もなく、そこで過ごして行くだろうと。
「けどまぁ、現実に気付いたやつから消えて逝くだろうから、いつかは全員消えると思うけどな」
それは明日かもしれないし、何年後かもしれない。
ただ、魂は永遠に現世に留まれはしないため、いつかは必ず消える運命にあるのだと奏は告げた。
「そっか……そうなんだね……」
つまり、もう村のみんなに会う事はできないのだ。
その事を、ラズリは泣きたい気持ちになりながら理解した。目の前の奇妙な現実により、理解せざるを得なかった、ともいえるだろう。
もう自分の戻る場所は何処にもない、待っている人もいないのだ。
優しかった、大好きだった、村人達。もうみんなに会えないなんて信じられない。ラズリがすぐ側まで近付いても気付きもしない、半ば以上身体が透き通ってしまった状態の彼等。
だけど、それでも、村のみんなが苦しんで死んだわけでないのなら、まだ良かったと思えた。今も、何も知らずに魂だけでも生き続けてくれているのなら。
それだけがラズリの心の拠り所であり、僅かながらの救いでもあった。
けれど同時に、その原因を作った者達への怒りが湧いてくる。突然村へとやって来た、王宮騎士達。その場の状況からも、奏の口振りからも、彼等が村に火を放った事は疑いようもなかったから。
「絶対に許さない……」
たとえどんな理由があろうと、こんなにも簡単に人の命を奪うなんて。
しかも彼等は、ただの人間ではなく、王宮騎士なのだ。本来であれば、人の命を守る立場にいる人達である筈なのに。
そんな人達が、こうも簡単に村と森を燃やしてしまうだなんて。
絶対に許せない、とラズリは思った。
初めて見る真剣な顔つきの奏にラズリが告げられたのは、そんな残酷な一言だった。
「どういうこと……?」
言われた意味が分からない。
村のみんなは、すぐそこにいるのに。実体がないとは、どういう意味なのだろうか。
炎が消え去った後、村があった筈の場所は、更地へと姿を変えていた。けれど、村人達はなんら変わることなく、そこに存在していたのだ。
火事の間、きっとどこかに隠れていたんだろう。火が治まったから、村があった場所へと戻って来たのだ。
そんな風に考えて、ラズリは喜び勇んで村に戻ろうとしたのだけれど、そこを奏によって引き止められた。別に何もおかしな所はない筈なのに。
「……いいか? 良く考えてみろ。あれだけの人数が、火事の間ずっとお前に気付かず、どこかに隠れ続けられると思うか? お前に全く目撃されず、全員が一瞬のうちに村へ戻れると? そんなのおかしいだろう?」
「でも、もしかしたら違う方向から戻ったのかもしれないし……」
咄嗟に反論してはみたものの、それがあり得ないという事は、ラズリ自身自覚していた。
いくら小さな村だとはいえ、村人は両手で足りないぐらいの人数がいる。加えて、年齢的に素早い動きが出来る者も少ない。そんな彼等が、どうやってラズリに気付かれる事なく、火事の治まった村へ戻れるというのだろうか。
しかも、以前村だった場所は更地になってしまっているというのに、村人達は動揺している様子が全くもって見受けられない。普通であれば、自分達の住む家や畑がなくなっている時点で、右往左往するものだろうに。
「周囲は更地で見晴らしが良過ぎる程なのに、方向が違うから見逃したって? お前それ、本気で言ってるわけじゃないよな?」
奏は的確に、痛い所を突いてくる。
炎や森、建物が悉く一掃された今、村の周辺に散らばっていたであろう王宮騎士達の居場所さえ、ハッキリと分かるのだ。そんな状態で、目の前の村人達が村に戻る姿を見逃すなんて事、あるわけがなかった。もし本当に見逃していたとしたら、目か脳に重大な欠陥があることだろう。
「じゃあ、どうして……」
弱々しい声で、ラズリは奏に尋ねる。
「どうしてみんなは、変わらずあそこにいるの? 私の見間違いでないのなら、あれは一体どういう事なの?」
何もない更地のど真ん中ともいえる場所で、村人達は以前と同じように動いている。
畑があったと思われる場所で土を──手に何も持ってはいないが──耕し、他の村人は料理をしている風であったり、掃除をしている風であったり……とにかく村があった場所で、いつも通りの動きをしているのだ。いくら今の状況に混乱しているといっても、村人全員がそのような行動を取っているのは、おかし過ぎる。
「……あまりに突然過ぎたから、だろうな」
呟くかのように、奏がぽつりと口にした。
「これは極稀にある事象なんだが、あまりにも突然命を奪われたために、魂が順応できず、その場に留まる事がある。恐らく今あそこにいる奴らは全員そうだ。自分の死に気付かず、だからこそ生きていた頃と同じ行動を取っているんだろうな」
例えその手に鍬を持っていなくとも、包丁や箒を持っていなくとも、既に魂だけの存在で実体が伴わない村人達は、何の問題もなく、そこで過ごして行くだろうと。
「けどまぁ、現実に気付いたやつから消えて逝くだろうから、いつかは全員消えると思うけどな」
それは明日かもしれないし、何年後かもしれない。
ただ、魂は永遠に現世に留まれはしないため、いつかは必ず消える運命にあるのだと奏は告げた。
「そっか……そうなんだね……」
つまり、もう村のみんなに会う事はできないのだ。
その事を、ラズリは泣きたい気持ちになりながら理解した。目の前の奇妙な現実により、理解せざるを得なかった、ともいえるだろう。
もう自分の戻る場所は何処にもない、待っている人もいないのだ。
優しかった、大好きだった、村人達。もうみんなに会えないなんて信じられない。ラズリがすぐ側まで近付いても気付きもしない、半ば以上身体が透き通ってしまった状態の彼等。
だけど、それでも、村のみんなが苦しんで死んだわけでないのなら、まだ良かったと思えた。今も、何も知らずに魂だけでも生き続けてくれているのなら。
それだけがラズリの心の拠り所であり、僅かながらの救いでもあった。
けれど同時に、その原因を作った者達への怒りが湧いてくる。突然村へとやって来た、王宮騎士達。その場の状況からも、奏の口振りからも、彼等が村に火を放った事は疑いようもなかったから。
「絶対に許さない……」
たとえどんな理由があろうと、こんなにも簡単に人の命を奪うなんて。
しかも彼等は、ただの人間ではなく、王宮騎士なのだ。本来であれば、人の命を守る立場にいる人達である筈なのに。
そんな人達が、こうも簡単に村と森を燃やしてしまうだなんて。
絶対に許せない、とラズリは思った。
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