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第六章 因縁
生きる希望
ミルドは心底から恐怖していた。
自分の胸当てに突き立てられた、アランの剣に。
今ここで逃げ出さなければ、なんとかして抵抗しなければ、確実に自分の命は失われてしまうだろう。それは分かっているのに、逃げ出す方法が見つからない。
たとえ一度は生きていくことを諦め、アランに殺されることを受け入れたとしても、今現在の心境はそうではない。生き残りたい、まだ生きていたいと精神が叫んでいる。
あの時はギリギリ助かったんだ。だから今回も──。
なんとかなるかもしれないと考えるも、それは甘い考えなのだとすぐに理解することとなった。
「……隊長、覚悟は良いですか?」
真っ直ぐに視線を合わせたアランに問われ、ミルドは返事の代わりに生唾を飲み込む。
アランの瞳は本気だ。こいつは本気で自分の命を奪う気なのだ。一切の情けも、容赦すらなく──。
そう悟った瞬間、ミルドの口は勝手に言葉を紡ぎ出していた。
「アラン、今ならまだ戻れる。今私を自由にするなら、もう一度お前を騎士隊に戻してやってもいい。だから……馬鹿なことはやめにしないか?」
まるで懇願するかのように。精一杯の言葉でアランのことを説得しようと試みる。
無論、そんなものにアランが釣られるとは思っていない。ただ少しでも時間を稼ぎ、その間に逃げる算段をつけられれば、と考えただけのこと。
だが、アランはそんなミルドの言葉に悩む素振りすらなく、寧ろ気分を害したかのように、更なる力をもって剣先を押し込んできた。
「うあっ……」
胸当てがメリメリ──と音を立て、突き破られる恐怖にミルドは堪らず声を上げる。
嫌だ……嫌だ。私はまだ死にたくない。
せっかく助かったと思った命を、結局失わねばならないなんて──しかも切り捨てた部下に奪われねばならないだなんて、冗談にも程がある。
嫌だ、嫌だ、嫌だ……。
「ミルド隊長、死に方について希望はありますか? ゆっくりと心臓を貫かれるのが良いか、それとも一思いに突き刺されるのが良いか。どうせなら選ばせてあげますよ」
黒い靄の塊のようにも見える剣の柄を握りしめ、満面の笑みを浮かべるアラン。彼は間違いなく今の状況を楽しんでいる。
「私は……」
どちらも嫌だ──とは言えなかった。言ったところで聞き入れられないことは理解しているし、どうせ何を言ったところで自分は彼に殺される運命なのだ。だったら──。
「一思いに……」
殺せ──。
と言うより一瞬早く、激しい衝撃がミルドを襲った。
一気に胸を貫かれ、口から血が溢れ出し──たと思ったが、単に咳き込んだだけだったため、拍子抜けした。
「え……」
私は胸を貫かれたのではないのか? 今の激しい衝撃は?
不思議に思って見れば、胸当ては完全に破壊されているものの、何故かアランの剣はミルドの胸を貫く寸前で止まっていた。
どうしてアランが剣を止めたのかは分からない。ただ、自分の胸を貫く寸前の状態で留まり、小刻みに震える剣を握りしめるアランの様子は、それが彼の意に反した出来事のように思えた。
「なんで……なんでなんだ……」
呟いて立ち上がり、アランは全体重を剣にかけてミルドの心臓を貫こうとしてくるも、剣は微動だにしない。まるで何かに怯えているかのように震え、カタカタと音を立てるばかりだ。
しかも、アランは気付いていないようだが、彼の纏う黒い靄と、ミルドと氷依を地面に縫い付けている黒い靄は、どちらも少しずつ薄くなり始めている。
このままもう少し時間を稼げれば、靄の拘束から逃げ出すことができるかもしれない……。
再び生きる希望を見出したミルドは、心の中でひっそりと微笑った。
自分の胸当てに突き立てられた、アランの剣に。
今ここで逃げ出さなければ、なんとかして抵抗しなければ、確実に自分の命は失われてしまうだろう。それは分かっているのに、逃げ出す方法が見つからない。
たとえ一度は生きていくことを諦め、アランに殺されることを受け入れたとしても、今現在の心境はそうではない。生き残りたい、まだ生きていたいと精神が叫んでいる。
あの時はギリギリ助かったんだ。だから今回も──。
なんとかなるかもしれないと考えるも、それは甘い考えなのだとすぐに理解することとなった。
「……隊長、覚悟は良いですか?」
真っ直ぐに視線を合わせたアランに問われ、ミルドは返事の代わりに生唾を飲み込む。
アランの瞳は本気だ。こいつは本気で自分の命を奪う気なのだ。一切の情けも、容赦すらなく──。
そう悟った瞬間、ミルドの口は勝手に言葉を紡ぎ出していた。
「アラン、今ならまだ戻れる。今私を自由にするなら、もう一度お前を騎士隊に戻してやってもいい。だから……馬鹿なことはやめにしないか?」
まるで懇願するかのように。精一杯の言葉でアランのことを説得しようと試みる。
無論、そんなものにアランが釣られるとは思っていない。ただ少しでも時間を稼ぎ、その間に逃げる算段をつけられれば、と考えただけのこと。
だが、アランはそんなミルドの言葉に悩む素振りすらなく、寧ろ気分を害したかのように、更なる力をもって剣先を押し込んできた。
「うあっ……」
胸当てがメリメリ──と音を立て、突き破られる恐怖にミルドは堪らず声を上げる。
嫌だ……嫌だ。私はまだ死にたくない。
せっかく助かったと思った命を、結局失わねばならないなんて──しかも切り捨てた部下に奪われねばならないだなんて、冗談にも程がある。
嫌だ、嫌だ、嫌だ……。
「ミルド隊長、死に方について希望はありますか? ゆっくりと心臓を貫かれるのが良いか、それとも一思いに突き刺されるのが良いか。どうせなら選ばせてあげますよ」
黒い靄の塊のようにも見える剣の柄を握りしめ、満面の笑みを浮かべるアラン。彼は間違いなく今の状況を楽しんでいる。
「私は……」
どちらも嫌だ──とは言えなかった。言ったところで聞き入れられないことは理解しているし、どうせ何を言ったところで自分は彼に殺される運命なのだ。だったら──。
「一思いに……」
殺せ──。
と言うより一瞬早く、激しい衝撃がミルドを襲った。
一気に胸を貫かれ、口から血が溢れ出し──たと思ったが、単に咳き込んだだけだったため、拍子抜けした。
「え……」
私は胸を貫かれたのではないのか? 今の激しい衝撃は?
不思議に思って見れば、胸当ては完全に破壊されているものの、何故かアランの剣はミルドの胸を貫く寸前で止まっていた。
どうしてアランが剣を止めたのかは分からない。ただ、自分の胸を貫く寸前の状態で留まり、小刻みに震える剣を握りしめるアランの様子は、それが彼の意に反した出来事のように思えた。
「なんで……なんでなんだ……」
呟いて立ち上がり、アランは全体重を剣にかけてミルドの心臓を貫こうとしてくるも、剣は微動だにしない。まるで何かに怯えているかのように震え、カタカタと音を立てるばかりだ。
しかも、アランは気付いていないようだが、彼の纏う黒い靄と、ミルドと氷依を地面に縫い付けている黒い靄は、どちらも少しずつ薄くなり始めている。
このままもう少し時間を稼げれば、靄の拘束から逃げ出すことができるかもしれない……。
再び生きる希望を見出したミルドは、心の中でひっそりと微笑った。
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