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第七章 不可思議な力
選ばれた存在
また、逃してしまった。
漸く見つけたと思ったのに、捕まえようとすると逃げてしまう。存在を捉えたと思っても、次の瞬間には陽炎のようにかき消えてしまう。
どうして、たかだか一人の少女を手に入れるために、ここまで苦労しなければいけないんだろう?
見つけて、連れ去って、囲って……たったそれだけのはずだった。それだけで済むはずだった。
なのにどうして、こんなにも簡単なことが実行できない?
氷依に気取られないよう表情はそのままに、ルーチェは内心で頭を抱える。
魔性が傍についているから? 僕自身が迎えに行っていないから?
けれど──なんとなくではあるものの、そんな理由ではない気がした。
何か……運命そのものに邪魔をされているかのような。
「そんなはずはないんだ……」
自分は、何よりも誰よりも愛されるべき存在だ。
世界の全てが忌み嫌われようと、自分は、自分だけは。
「僕は、選ばれた存在なんだから……」
そしてラズリも。
自分と同じように、彼女もまた、選ばれた存在なのだ。
だから何としても彼女を手に入れなければならない。他の何を置いてでも、彼女を早急に手に入れなければ。
だが、どうする?
彼女の傍には、面倒な魔性がいる。
札を使って、そいつの能力を抑え込むのはどうだ? だとしたら、誰に札を使わせる?
魔性である氷依は札に触れない。触った途端に否応なく魔力は吸収されてしまうため、魔力の減った状態である今の氷依が触れば、確実に死んでしまうだろう。
ではやはりミルドに?
気持ち的にもの凄く嫌だが、それでも適任となるとミルド以外にはいないように思える。
現在の王宮は、王がルーチェへ代替わりした際に不必要と思われる人間を全てクビにしてしまった関係上、最低限ともいえる人数しか人員が配置されていない。そのため、急な任務に割けるような人手はないのが現状だ。
そう考えると、ミルド率いる小隊含め、彼が一番使い勝手が良いのは事実であり。
「せめてもう一人魔性がいれば、なんとかなるんだけど……ね」
詮無いことと知りながらも呟き、ため息を吐いた。
魔性など、そう簡単に捕まえられるものではない。氷依を捕らえることができたのも、ミルドに報告を受けた限りでは、まさに『運良く』という言葉がピッタリ当て嵌まるような状況であったから、捕えられたようなものらしい。
そんな状況下で、偶然の産物によるものだとはいえ、奇跡的に魔性を捕らえたミルドを気持ちのままに廃するのは、さすがに悪手だということぐらい、ルーチェとて理解している。どうせなら、使って使って使い倒してボロ切れのようになってから捨てるのが最善だということも。
ルーチェの術が他の人間より効きにくいまでも、まったく効果がないわけでもないのだから、そこまで慌てて始末する必要も今のところは感じない。術の効きが悪いせいで、ちょくちょく反抗的な態度を取るのは気に食わないが、主君と臣下という関係上、本気でミルドが反旗を翻してくることはないだろうから。
ならば自分が少しばかり大人になってやろうではないか。
目先の小さなことに囚われるのではなく、太極を見据え、今は慎重に次の一手を考えるべきと自らに言い聞かせる。
「どうせあの娘を手に入れたら、他は全ていらなくなるんだ……」
氷依には聞こえないよう、ルーチェは小さな声で呟いた。
氷依は今、自分の術中に嵌まっているとはいえ、いつ何時、どのような状況下で効果が解除されてしまうか分からない状態にある。魔性を使役するのであれば、彼らの生態についてもっと調べなければならないだろう。
そのためには、駒として使える魔性が氷依だけでは不十分だ。しかし魔性を無力化する札は人間にしか使えないから、二の足を踏んでいる今の状況。
魔性である氷依が札を使うことさえできれば、ことは簡単に運ぶのに。
だがしかし、たとえルーチェの考え通りに氷依が札を使えたとしても、もう一つ問題があった。
それは、今はまだ札を作成し始めたばかりであり、魔性から吸い取る魔力量の調整すらできない状態だということ。正直、その部分をなんとか調整しなければ、使い物にならないとさえ思っている。
氷依はそもそもの魔力量が多かったため、王宮へと連行された際はまだ生きていたが、それでもルーチェと相対した時にはかなり危険な状態であった。
魔性は魔力を失うと死ぬ──そんな簡単なことすら知らなかったから。
魔力量の少ない魔性はもちろんのこと、たとえ魔力量の多い魔性であっても、捕らえた際に王宮までの距離が遠ければ、魔力を札に吸い尽くされて王宮へと到着する前に息絶えてしまう可能性がある。それでは何の意味もない。
「時間が足りない……」
様々な種類の札を作り、実験する時間がない。
政務に時間をとられ、落ち着いて札を作る暇がないこともあるが、何より被検体の数が絶対的に足りないことが一番の原因であった。
「もう、なり振りかまっていられないな……」
真っ直ぐに氷依を見つめながら、ルーチェは瞳を微かに煌めかせる。
目の前にいるこの女魔性をどう使うか──それが今後の運命を決めるような気がした。
漸く見つけたと思ったのに、捕まえようとすると逃げてしまう。存在を捉えたと思っても、次の瞬間には陽炎のようにかき消えてしまう。
どうして、たかだか一人の少女を手に入れるために、ここまで苦労しなければいけないんだろう?
見つけて、連れ去って、囲って……たったそれだけのはずだった。それだけで済むはずだった。
なのにどうして、こんなにも簡単なことが実行できない?
氷依に気取られないよう表情はそのままに、ルーチェは内心で頭を抱える。
魔性が傍についているから? 僕自身が迎えに行っていないから?
けれど──なんとなくではあるものの、そんな理由ではない気がした。
何か……運命そのものに邪魔をされているかのような。
「そんなはずはないんだ……」
自分は、何よりも誰よりも愛されるべき存在だ。
世界の全てが忌み嫌われようと、自分は、自分だけは。
「僕は、選ばれた存在なんだから……」
そしてラズリも。
自分と同じように、彼女もまた、選ばれた存在なのだ。
だから何としても彼女を手に入れなければならない。他の何を置いてでも、彼女を早急に手に入れなければ。
だが、どうする?
彼女の傍には、面倒な魔性がいる。
札を使って、そいつの能力を抑え込むのはどうだ? だとしたら、誰に札を使わせる?
魔性である氷依は札に触れない。触った途端に否応なく魔力は吸収されてしまうため、魔力の減った状態である今の氷依が触れば、確実に死んでしまうだろう。
ではやはりミルドに?
気持ち的にもの凄く嫌だが、それでも適任となるとミルド以外にはいないように思える。
現在の王宮は、王がルーチェへ代替わりした際に不必要と思われる人間を全てクビにしてしまった関係上、最低限ともいえる人数しか人員が配置されていない。そのため、急な任務に割けるような人手はないのが現状だ。
そう考えると、ミルド率いる小隊含め、彼が一番使い勝手が良いのは事実であり。
「せめてもう一人魔性がいれば、なんとかなるんだけど……ね」
詮無いことと知りながらも呟き、ため息を吐いた。
魔性など、そう簡単に捕まえられるものではない。氷依を捕らえることができたのも、ミルドに報告を受けた限りでは、まさに『運良く』という言葉がピッタリ当て嵌まるような状況であったから、捕えられたようなものらしい。
そんな状況下で、偶然の産物によるものだとはいえ、奇跡的に魔性を捕らえたミルドを気持ちのままに廃するのは、さすがに悪手だということぐらい、ルーチェとて理解している。どうせなら、使って使って使い倒してボロ切れのようになってから捨てるのが最善だということも。
ルーチェの術が他の人間より効きにくいまでも、まったく効果がないわけでもないのだから、そこまで慌てて始末する必要も今のところは感じない。術の効きが悪いせいで、ちょくちょく反抗的な態度を取るのは気に食わないが、主君と臣下という関係上、本気でミルドが反旗を翻してくることはないだろうから。
ならば自分が少しばかり大人になってやろうではないか。
目先の小さなことに囚われるのではなく、太極を見据え、今は慎重に次の一手を考えるべきと自らに言い聞かせる。
「どうせあの娘を手に入れたら、他は全ていらなくなるんだ……」
氷依には聞こえないよう、ルーチェは小さな声で呟いた。
氷依は今、自分の術中に嵌まっているとはいえ、いつ何時、どのような状況下で効果が解除されてしまうか分からない状態にある。魔性を使役するのであれば、彼らの生態についてもっと調べなければならないだろう。
そのためには、駒として使える魔性が氷依だけでは不十分だ。しかし魔性を無力化する札は人間にしか使えないから、二の足を踏んでいる今の状況。
魔性である氷依が札を使うことさえできれば、ことは簡単に運ぶのに。
だがしかし、たとえルーチェの考え通りに氷依が札を使えたとしても、もう一つ問題があった。
それは、今はまだ札を作成し始めたばかりであり、魔性から吸い取る魔力量の調整すらできない状態だということ。正直、その部分をなんとか調整しなければ、使い物にならないとさえ思っている。
氷依はそもそもの魔力量が多かったため、王宮へと連行された際はまだ生きていたが、それでもルーチェと相対した時にはかなり危険な状態であった。
魔性は魔力を失うと死ぬ──そんな簡単なことすら知らなかったから。
魔力量の少ない魔性はもちろんのこと、たとえ魔力量の多い魔性であっても、捕らえた際に王宮までの距離が遠ければ、魔力を札に吸い尽くされて王宮へと到着する前に息絶えてしまう可能性がある。それでは何の意味もない。
「時間が足りない……」
様々な種類の札を作り、実験する時間がない。
政務に時間をとられ、落ち着いて札を作る暇がないこともあるが、何より被検体の数が絶対的に足りないことが一番の原因であった。
「もう、なり振りかまっていられないな……」
真っ直ぐに氷依を見つめながら、ルーチェは瞳を微かに煌めかせる。
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