【完】初夜寸前で「君を愛するつもりはない」と言われました。つもりってなんですか?

迦陵 れん

文字の大きさ
38 / 46

第37話 寝込んだ後

しおりを挟む
 私がぼんやりと目を開けた時、室内は光に満ち溢れていた。

「ん……眩しい……」

 今日は頭がスッキリしている。

 昨日寝入った時は、まだ全身が怠いような、頭が重いような感じがしていたけれど。

 ようやく体調が良くなったようだ。

 こんなにスッキリした気分は久しぶりだと、私はベッドの上で伸びをしてから身体を起こした。

「どのぐらい……寝ていたのかしら?」

 熱を出していた間の記憶が曖昧で、あまりよく覚えていない。

 何となく……夢うつつでアストル様が手を握ってくれたような気がする。

「で、でもそんなわけないわよね。愛してもいない妻の看病なんてする筈ないし……あれはきっとメイサだったのよ。そうに決まってるわ」

 珍しく熱なんて出したから弱気になって、願望を現実のものとして捉えてしまってるのよ、うん。

 自分に言い聞かせるかのように幻を打ち消し、サイドテーブルにある水差しへと手を──伸ばそうとしかけて、そこに目的の物がないことに気が付いた。

「あら……? おかしいわね、いつもならここに水差しが置いてあるのに」

 私が寝込んでいる間に別の場所へと誰かが移動したのだろうか?

 そう思い、室内を見回そうとした、その時。

 不意に扉が開く音がしたと思ったら、水差しを持ったアストル様が入室して来た。

「あ、アストル様……」

 何故彼が水差しを持っているんだろう?

 そんなことは使用人がやるべきことなのに。

「クロディーヌ!」

 私に気付いたアストル様は驚いたかのように大きく目を見開き、足早に近付いてきたと思ったら、ぎゅっと私を抱きしめてきた。

「良かった……。目が覚めたんだね。このまま目を開けなかったらと思うと、気が気じゃなかった」

 いえあの、なんだか大袈裟に仰っていますけど、ちょこちょこ目を覚ましていましたからね?

 丁度毎回私が目を覚ました時に、周囲には誰もいなかっただけで。

「ああ、良かった……。クロディーヌ、クロディーヌ……良かったよぉ……」

 アストル様の声が泣いているみたいに震えている。

 だから大袈裟ですって。

 ちなみに言わせてもらうと、アストル様水差し持ったままですよね? ベッドの上に溢れないか不安なのだけど、先に水差しをテーブルに置いて下さらないかしら。

「あ、あの、アストル様」
「なんだい?」

 ふにゃっと泣きそうな顔をしたアストル様が可愛い。じゃなくて。

 今は先に水差しを手離してもらわなければ。

「私……喉が渇いてしまいましたの。その手に持たれているのは水差し……ですよね?」

 彼が驚いて水を溢さないよう、そっと水差しに手を添えながらアストル様に尋ねる。

 すると彼は「あっ」という顔をした後、何故かベッドの上に乗り上げ、私の肩を抱き寄せてきた。

「え? アストル様?」

 オロオロする私の隣で、アストル様は徐に水差しの水を自分の口へと流し込む。

 え、ちょっと待って。

 何故私よりあなたの方が先に水を飲むの? というより、グラスは使わないの?

 疑問に思う私にアストル様が顔を近付け──唇を塞がれた。

「んっ……んんっ!?」

 少しだけ冷えた水が口の中へと流し込まれ、私は必死になってそれを飲み込む。

「ちょっとアストル様! 何を──」 

 唇が離れた隙に抗議しようと開いた口は、再びアストル様に塞がれ……そうして何度か強制的に水を飲まされた後、私は羞恥によってアストル様の胸へと顔を埋めた。

「もう、もう、なんてことをなさるのですか! あんな、あんな方法で水を飲ませなくとも良かったではありませんか……」

 最後の方は怒りよりも恥ずかしさが勝ってしまい、声がとても小さくなってしまった。

 まさか私が、こんな愛し合う夫婦がするようなことをアストル様とするだなんて、思いも寄らなかったから。

「ごめんねクロディーヌ。水差しの水は冷たいから、口移しの方が温まるかなと思ったし、何よりグラスを忘れてしまって」

 何ですって!?

 それではグラスは使わないのではなく、使えなかったのね!?

 だからといって、あれは……。

「忘れたのなら、取りに行けば良かったではありませんか」

 そうしたら、あんなにも恥ずかしい思いをしなくても済んだのに。

 恨みがましくアストル様を見上げて言うと、優しく微笑んだ彼は、私の額に口付けを落とした。

「っ!?」

 なんなの? なんなのこれは? アストル様はどうなさってしまったの!?

 愛されない妻の筈が、まるで愛されているかのように感じてしまい、私は目を白黒させる。

 そんな私を見て、アストル様はまるで愛しいものを見つめるかのように目を細めると、私を腕の中に閉じ込めて、大きなため息を吐いた。

「はぁぁ……クロディーヌは可愛いなぁ。俺がグラスを取りに行かなかったのは、君の傍から離れたくなかったからだよ。それに俺達は夫婦なんだから、口移しで水を飲ませても問題はないだろう?」
「それはっ……!」

 反論しようと口を開くも、切な気なアストル様の瞳に出会い、「そ、そうかもしれませんが……」と肯定してしまう。

「だよね? だったらこれからも食事の時以外は俺が君に水を飲ませるから、喉が渇いたらいつでも言ってくれ」  
「え。で、でもそれは些か面倒というか──」
「ん? なんだって?」

 良い笑顔で微笑むアストル様に、私はそれ以上の反論ができなかった。

 私は……愛されない妻なのよね?

 それとも、彼の態度は単に『妻として大事にしている』だけなの?

 なんだかよく分からないわ……。 




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不倫した妹の頭がおかしすぎて家族で呆れる「夫のせいで彼に捨てられた」妹は断絶して子供は家族で育てることに

佐藤 美奈
恋愛
ネコのように愛らしい顔立ちの妹のアメリア令嬢が突然実家に帰って来た。 赤ちゃんのようにギャーギャー泣き叫んで夫のオリバーがひどいと主張するのです。 家族でなだめて話を聞いてみると妹の頭が徐々におかしいことに気がついてくる。 アメリアとオリバーは幼馴染で1年前に結婚をして子供のミアという女の子がいます。 不倫していたアメリアとオリバーの離婚は決定したが、その子供がどちらで引き取るのか揉めたらしい。 不倫相手は夫の弟のフレディだと告白された時は家族で平常心を失って天国に行きそうになる。 夫のオリバーも不倫相手の弟フレディもミアは自分の子供だと全力で主張します。 そして検査した結果はオリバーの子供でもフレディのどちらの子供でもなかった。

元婚約者からの嫌がらせでわたくしと結婚させられた彼が、ざまぁしたら優しくなりました。ですが新婚時代に受けた扱いを忘れてはおりませんよ?

3333(トリささみ)
恋愛
貴族令嬢だが自他ともに認める醜女のマルフィナは、あるとき王命により結婚することになった。 相手は王女エンジェに婚約破棄をされたことで有名な、若き公爵テオバルト。 あまりにも不釣り合いなその結婚は、エンジェによるテオバルトへの嫌がらせだった。 それを知ったマルフィナはテオバルトに同情し、少しでも彼が報われるよう努力する。 だがテオバルトはそんなマルフィナを、徹底的に冷たくあしらった。 その後あるキッカケで美しくなったマルフィナによりエンジェは自滅。 その日からテオバルトは手のひらを返したように優しくなる。 だがマルフィナが新婚時代に受けた仕打ちを、忘れることはなかった。

妹に婚約者を奪われましたが、私の考えで家族まとめて終わりました。

佐藤 美奈
恋愛
セリーヌ・フォンテーヌ公爵令嬢は、エドガー・オルレアン伯爵令息と婚約している。セリーヌの父であるバラック公爵は後妻イザベルと再婚し、その娘であるローザを迎え入れた。セリーヌにとって、その義妹であるローザは、婚約者であり幼馴染のエドガーを奪おうと画策する存在となっている。 さらに、バラック公爵は病に倒れ寝たきりとなり、セリーヌは一人で公爵家の重責を担うことになった。だが、イザベルとローザは浪費癖があり、次第に公爵家の財政を危うくし、家を自分たちのものにしようと企んでいる。 セリーヌは、一族が代々つないできた誇りと領地を守るため、戦わなければならない状況に立たされていた。異世界ファンタジー魔法の要素もあるかも?

美人な姉を溺愛する彼へ、最大の罰を! 倍返しで婚約破棄して差し上げます

佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢マリアは、若き大神官フレッドとの結婚を控え、浮かれる日々を送っていた。しかし、神殿での多忙を理由になかなか会えないフレッドへの小さな不安と、結婚式の準備に追われる慌ただしさが、心に影を落とし始める。 海外で外交官の夫ヒューゴと暮らしていた姉カミーユが、久しぶりに実家へ帰省する。再会を喜びつつも、マリアは、どこか寂しい気持ちが心に残っていた。 カミーユとの再会の日、フレッドも伯爵家を訪れる。だが、その態度は、マリアの心に冷たい水を浴びせるような衝撃をもたらした。フレッドはカミーユに対し、まるで夢中になったかのように賛辞を惜しまず、その異常な執着ぶりにマリアは違和感を覚える。ヒューゴも同席しているにもかかわらず、フレッドの態度は度を越していた。 フレッドの言動はエスカレートし、「お姉様みたいに、もっとおしゃれしろよ」とマリアにまで、とげのある言葉を言い放つ。清廉潔白そうに見えた大神官の仮面の下に隠された、権力志向で偽善的な本性が垣間見え、マリアはフレッドへの信頼を揺るがし始める。カミーユとヒューゴもさすがにフレッドを注意するが、彼は反省の色を一切見せない。

好きじゃない人と結婚した「愛がなくても幸せになれると知った」プロポーズは「君は家にいるだけで何もしなくてもいい」

佐藤 美奈
恋愛
好きじゃない人と結婚した。子爵令嬢アイラは公爵家の令息ロバートと結婚した。そんなに好きじゃないけど両親に言われて会って見合いして結婚した。 「結婚してほしい。君は家にいるだけで何もしなくてもいいから」と言われてアイラは結婚を決めた。義母と義父も優しく満たされていた。アイラの生活の日常。 公爵家に嫁いだアイラに、親友の男爵令嬢クレアは羨ましがった。 そんな平穏な日常が、一変するような出来事が起こった。ロバートの幼馴染のレイラという伯爵令嬢が、家族を連れて公爵家に怒鳴り込んできたのだ。

妹に「あの男は危険」と注意するが、彼を溺愛する妹は結婚する「助けて!」嫁いだ妹から緊急の手紙が届いた。

佐藤 美奈
恋愛
クレア公爵令嬢にはローサという妹がいて婚約した。相手はリチャードという伯爵家の嫡男。 ローサから交際している彼だと初めて紹介された時に、この男はおかしい? とクレアは印象を抱いてローサに苦言を呈した。 リチャードは粗野な言葉遣いや無礼な態度で、始めから終わりまでクレアは行儀の悪い男だと呆れていたのです。 一見すると外見も整っていて格好良い感じですが、不意に下品な顔つきをする性格に問題ありそうな男だった。こんなのと結婚したらローサは苦労するだろうとクレアは心配していた。 「あんな男と結婚するの?」クレアが尋ねるとローサは「彼は勘違いされやすいけど本当は良い人だよ」と言う。 恋は盲目なんて申しますが、まさしくその通りだとクレアはしみじみ思う。度重なる説得に聞く耳を持たないローサはリチャードと結婚する。 妹が相手の家に嫁入りして五ヶ月後、便りがないのは元気な証拠だなぁと思っていたある日、助けてほしい! 命に関わる問題! と緊急を要する手紙が届いた。

妻よりも幼馴染が大事? なら、家と慰謝料はいただきます

佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢セリーヌは、隣国の王子ブラッドと政略結婚を果たし、幼い娘クロエを授かる。結婚後は夫の王領の離宮で暮らし、義王家とも程よい関係を保ち、領民に親しまれながら穏やかな日々を送っていた。 しかし数ヶ月前、ブラッドの幼馴染である伯爵令嬢エミリーが離縁され、娘アリスを連れて実家に戻ってきた。元は豊かな家柄だが、母子は生活に困っていた。 ブラッドは「昔から家族同然だ」として、エミリー母子を城に招き、衣装や馬車を手配し、催しにも同席させ、クロエとアリスを遊ばせるように勧めた。 セリーヌは王太子妃として堪えようとしたが、だんだんと不満が高まる。

「愛も信頼も消えた」妻を苦しめた夫一家の結末

佐藤 美奈
恋愛
マリアンナ・グランヴィル男爵令嬢は、ジョナス・バーネット子爵令息と結婚し、子爵家に嫁いだ。当初は歓迎されたものの、彼の家族はすぐに本性を現し、マリアンナに厳しく接した。そんな中、マリアンナは夫のジョナスが通信魔石で楽しそうに話しているのを耳にしてしまう。 ――夫は、私以外の人と関係を持っていたのだ。 私が辛い日々を送っているというのに、ジョナスは妻である私を守らず、義母ベアトリスの言いなりになり、愛情は失われていた。逃げ場のない牢獄に閉じ込められたような日々だったが、それでも私は決意した。 ――夫の家族に報いを受けてもらうつもりだと。少しファンタジー

処理中です...