私の婚約者は、お金より愛を選んだ〜彼の義妹は、お人形のように可愛いらしい美少女だった〜   

迦陵 れん

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第二章 貴族学園

退場

 父に“貴様”呼ばわりされ、且つ“潰れてしまえ”とまで言われたザガロは身体の力が抜けてしまったようで、手から書類をひらりと落とした。

「ましてや私との約束を破ったばかりか、その代償である宝飾品の支払いもできないと言う。商売というものは信用第一だ。君のように安易に約束を破るような者を、家族として受け入れるわけにはいかないだろう」
「で、ですが! 婚約は家と家との契約で……っ!」

 ザガロは必死に食い下がるも、父は一歩も引く様子がない。

「だからどうした? 簡単な約束すらも守れぬ貴様がそれを言うのか? そもそも我が家としては、単に憐れみによって手を差し伸べただけの婚約にすぎない。まぁその分、使えるものは使わせてもらったが。既に対価としては十分なものをもらった。今後はメラニン侯爵家との繋がりなしでも、商売に影響が出ないほどにな。となれば金食い虫は早急に駆除する必要がある。婚約者の資産を自らのものだと思い込み、勝手にそれを使い込むような虫は、二度と我が邸に入り込めぬように……な」

 ギラリ──と父の瞳が鋭い光を放つ。

 これまで沢山の人達を怯えさせ、交渉を有利に進めるのに役立ってきた眼光だ。

 この瞳で睨まれると、一も二もなく頷きたくなってしまうのよね。

 案の定、ザガロはすっかり怯えてしまい、あちらこちらへと視線を彷徨わせて、唇を震わせていた。

「僕は……別に、ミディアの資産を自分のものだと思ったわけじゃ……」

 それでも勇気を出して消え入りそうな声で言葉を紡ぐも、父に「なんだ? 言いたいことがあるなら先ほどまでのように大声で言えばいいだろう」と言われ、気まずそうに黙り込む。

 この件に関しては、本当なら私がザガロを問い詰めなければいけなかったのだろうけれど、私が気づくのが遅かったということと、ここで請求しなければ踏み倒される恐れがあると予想して、父が代わりに口を出してくれたのかもしれない。

 私の資産が知らない間にザガロに使い込まれていたことを、やっぱり父は知っていたんだ。

 だったら早く教えてくれれば良かったのに──と思うも、言ったところでどうせ『気づかないお前が悪い』と言われて終わるに違いないから、文句を言うことはできないけれど。

 むしろ『自分の資産も正しく管理できないなど、お前はそれでも商売人の娘なのか!?』と叱責されるのがオチだ。

 このことについて、後から父に怒られないといいな──などと考えていると、音もなくザガロの背後に移動したクロニエ様と目が合った。

 どうしてザガロの後ろに?

 その疑問を抱いた瞬間、ザガロが机に両手をつき、父に向かってすごい勢いで頭を下げた。

「し、子爵! 許してください! 僕にそんなつもりはなかったんです!」

 けれど当然、そんな見せかけの謝罪に騙されるような父ではない。

「見苦しい! 貴様の父親が額を床に擦り付けて頼むから娘と婚約させてやったが、我が家の金のお陰でなんとか貴族として生きながらえている分際で、好き勝手に娘の資産を浪費し、あまつさえ爵位の違いを馬鹿にするとは……! 貴様のような息子のいる家など、今後一切関わりたくもない! 今すぐその書類を持って屋敷に帰れ!」
「ノ、ノスタリス子爵、申し訳ありませ──」
「誰かこの馬鹿を早く追い出せ!」

 父の怒号に、クロニエ様がザガロの背後から即座に彼を無理やり立ち上がらせ、使用人へと押し付ける。

 もしかしてそのために、クロニエ様はザガロの背後に回り込んでいたのだろうか?

「ノスタリス子爵! どうか僕の話を聞いてください! お願いします!」 

 ザガロは必死に縋りつこうとするも、体格のいい使用人によって小脇に抱えられ、問答無用で応接室から連れ出された。

「ノスタリス子爵! どうか、どう──」

 大騒ぎするザガロの声が、次第に遠ざかっていく。

 やがて完全にその声が聞こえなくなると、室内にようやく平穏が戻ってきた。

「……カスパル君、騒がしいところに呼び出してしまい、申し訳なかったな」
「いえ、僕はなんとも思っておりませんので、お気になさらず」

 謝罪する父に、クロニエ様は人好きのする笑みを浮かべた。








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