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四、線路
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さて、どうしたものか。
駅のホームに立ち竦んでいるのは自分だけで、辺りは静まり返っている。
時計はとうに日を超え、深夜と呼ばれるであろう時間帯を示している。
先程まで慣れない酒を煽っていたためか、ふわりと足元が踊る。手に持った液晶は、帰るための電車がつい先程無くなったことを伝えていた。
小さな駅だからだろうか、ホームに駅員はおらず、ただ電灯だけが明るく輝いている。光の届かないホーム下が黒々とこちらを見つめていた。
(…どうやって帰ろう…)
アルコールで火照った脳でぼんやり考えていると、目の端で何かが鈍く光った。
(あ、そっか。)
線路か。どうせ走っている電車などないのだから、歩いたってバレやしないだろう。線路を辿って歩けば、最寄りの駅まで着ける。そうすれば、ちゃんと家に帰れるだろう。
あいにく明日も仕事なのだ。始発で帰るのじゃ間に合わない。実家暮らしだが、親はとうに寝ているだろう。ついでにタクシーに乗る金はない。
「お邪魔しますよっと…」
ふわふわと浮く感覚の中で線路に降りる。敷石がジャリリと鳴いた。
「しゅっぱーつ、しんこーう」
ちょっと声を潜めて掛け声をかけ、一歩ずつ進みだした。一歩踏み出すごとに石が鳴き、銀色の線がキラリと光った。
遥か昔の記憶を掘り起こし、おぼろげな、線路の歌を口ずさむ。
「せーんろーはつーづくーよー、どーこまーでーもー…」
一番しか覚えていなかったので、繰り返し口ずさむ。
足元の石が鳴き、線路が光る。
どれほど歩いただろうか。ふと違和感を感じて立ち止まった。
歩き始めてから踏切を一度も見ていない。そればかりではない。
景色が変わらないのだ。
一面の芒がサワサワと唄っている。その中で線路だけがやけに目立った。
なんだか寒気がして、引き返そうかと思ったその時だった。
「ぁ」
線路の少し先に灯りが見えた。よく知っている灯り。見慣れた門灯…。ふらふらとその灯りに向かって歩く。まるで停車駅のような顔をして、我が家が待っていた。
なんだか変な心地のまま、線路から家の玄関へ、一歩踏み出す。
『しゅうてーん、しゅうてーん』
『おわすれもののーないよーにー』
『またのごりよー、おまちしてまーす』
楽しそうな声に、はっと線路を振り返ると、そこにはいつもと変わらない道路が横たわっていた。
時計はホームを降りてから十分と進んでいない。
とにかく家に入ろうと手を入れたポケットには、芒の葉っぱが一枚、くるりと結ばって入っていた。
端が三角に切り取られているのを見て、思わず笑みがこぼれる。
明日、両親に話してみようか。
狐の電車に乗ったよ、って。
駅のホームに立ち竦んでいるのは自分だけで、辺りは静まり返っている。
時計はとうに日を超え、深夜と呼ばれるであろう時間帯を示している。
先程まで慣れない酒を煽っていたためか、ふわりと足元が踊る。手に持った液晶は、帰るための電車がつい先程無くなったことを伝えていた。
小さな駅だからだろうか、ホームに駅員はおらず、ただ電灯だけが明るく輝いている。光の届かないホーム下が黒々とこちらを見つめていた。
(…どうやって帰ろう…)
アルコールで火照った脳でぼんやり考えていると、目の端で何かが鈍く光った。
(あ、そっか。)
線路か。どうせ走っている電車などないのだから、歩いたってバレやしないだろう。線路を辿って歩けば、最寄りの駅まで着ける。そうすれば、ちゃんと家に帰れるだろう。
あいにく明日も仕事なのだ。始発で帰るのじゃ間に合わない。実家暮らしだが、親はとうに寝ているだろう。ついでにタクシーに乗る金はない。
「お邪魔しますよっと…」
ふわふわと浮く感覚の中で線路に降りる。敷石がジャリリと鳴いた。
「しゅっぱーつ、しんこーう」
ちょっと声を潜めて掛け声をかけ、一歩ずつ進みだした。一歩踏み出すごとに石が鳴き、銀色の線がキラリと光った。
遥か昔の記憶を掘り起こし、おぼろげな、線路の歌を口ずさむ。
「せーんろーはつーづくーよー、どーこまーでーもー…」
一番しか覚えていなかったので、繰り返し口ずさむ。
足元の石が鳴き、線路が光る。
どれほど歩いただろうか。ふと違和感を感じて立ち止まった。
歩き始めてから踏切を一度も見ていない。そればかりではない。
景色が変わらないのだ。
一面の芒がサワサワと唄っている。その中で線路だけがやけに目立った。
なんだか寒気がして、引き返そうかと思ったその時だった。
「ぁ」
線路の少し先に灯りが見えた。よく知っている灯り。見慣れた門灯…。ふらふらとその灯りに向かって歩く。まるで停車駅のような顔をして、我が家が待っていた。
なんだか変な心地のまま、線路から家の玄関へ、一歩踏み出す。
『しゅうてーん、しゅうてーん』
『おわすれもののーないよーにー』
『またのごりよー、おまちしてまーす』
楽しそうな声に、はっと線路を振り返ると、そこにはいつもと変わらない道路が横たわっていた。
時計はホームを降りてから十分と進んでいない。
とにかく家に入ろうと手を入れたポケットには、芒の葉っぱが一枚、くるりと結ばって入っていた。
端が三角に切り取られているのを見て、思わず笑みがこぼれる。
明日、両親に話してみようか。
狐の電車に乗ったよ、って。
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