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第1章 Life in Lacra Village
第9話 存在しない男
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リバーとフエンは老木を望めるやや小高い場所に降り立った。
「フエンさん、索敵をお願いします」
「人遣いが荒いのです。 ……《反響》」
フエンは地面に降りるや否や魔導書を引っ掴み、魔法名を唱えた。 使用したのは風属性の音波探索魔法。 フエンを中心に、断続的に音波が拡散し始める。
「何か分かりますか?」
「フエンはそんなに万能じゃないのです。 範囲は限られてるです」
ここでリバーも魔導書を出現させていた。 その装丁は黒紫色。 放出されているマナも同色であることから、それが闇属性に属していることが想像できる。
「危険そうな存在を認識した時だけ教えてください。 《操影》」
直後リバーの影がブルリと震えたかと思うと、それは縦横無尽に形を変え始めた。 影の変化に肉体が影響を受けないのはもちろん魔法影響下だからだが、影魔法を使わない人間が影を変化させられた場合はこの限りではない。
「リバーさんは範囲攻撃を積むべきです」
「そうは言われましても、私の性格上そうはなりませんので」
魔法は使用者の性格影響をモロに受けて成長する。 もちろん、外付けの魔法──入手するだけで習得過程をすっ飛ばすことが可能なもの──であれば魔導書に導入するだけなので性格影響は少ない。 そういったどこにでも出回っているような魔法は使い勝手が良い反面、大きな効果を期待できないという欠点がある。 だからこそ魔法使いは自分独自の魔法を、性格影響を受けやすい魔法を多用して成長を促す。
リバーは青年期までスラム街を生きてきた。 そこでは誰かを騙すのは当たり前で、その逆も然り。 敷かれたルールは最終的に勝った方が正義という、言うなれば分かりやすい構図が存在しており、それによってスラム街でのそれぞれの立ち位置は激動を極めた。 絶えず誰かを貶めないと生きていけないのだから。
スラム街で主に行われるのは住民同士の個人間の駆け引きであり、その生活はリバーに多大な影響を与えた。 その中で組織間のやり取りもあったが、リバーは基本的に独り身だった。 だからこそだろうか。 彼に魔法技能が発現した時、そこに宿っていたのは影を操る魔法。 自分の身を第一に守ることのできる、そんな魔法だった。
リバーは両親の顔を知らず、生存すら不明だ。 だから彼の魔法が遺伝的なものかは分からないものの、極低い確率で特発的な魔法発現ということもあり得る。
いずれにせよ、力を得たリバーはスラム街からの脱出が可能となり、その結果現在の立ち位置に存在できているというわけだ。
こんな不幸はこの世界ではどこでも当たり前に起きていることであり、リバーはこれを殊更強調して話すことはない。
フエンも虐待孤児であり、彼女らの雇い主──トンプソンに回収されるまではそれは酷い有様だったらしい。 彼女の肌の露出が無い場所には幾多の虐待痕が未だに残っているし、だからと言って彼女もこれを特別な不幸だとは考えていない。 現在の満足した生活が得られたのは、そういった過去も含めた軌跡によるものであり、彼女らが生を諦めなかった結果でもある。
だから誰も不幸を語らない。 語って買えるのは同情だけであり、それによって飯が食える訳ではないからだ。 ……吟遊詩人なら話は別か。
「リバーさんはあの木をどうするつもり、です?」
「破壊するのが理想ですけど、あのサイズのものは今まで経験したことがありませんからねぇ」
二人は森に分け入る。 人の手が入らない森の中など、危険地帯でしかないのだが。
こういった場所に赴くのであれば、事前の調査やそれ相応の装備──念入りな準備が必要になってくる。 二人が軽々しくこうやって入ることができているのは、準備期間をスキップできるだけの魔法技能を備えた魔法使いだからだ。 そうでもなければ誰も未開の地に足を踏み入れないし、死を超える益が転がっていない限り──いや、転がっていたとしても人間は保守的だ。
この世界には個人で開拓を推進する連中がいるにはいるが、あれは一種の狂人であり、精神異常者だ。 無論、その狂人はただの一般人のことは指さない。 無茶苦茶やるのはいつだって魔法使いであり、変革を促す存在も彼らだ。 狂人と偉人は紙一重で存在しており、それを規定するのは歴然とした成果だけである。
「やけに静か、です」
「あれだけ広範囲に緑を侵しているなら、それこそ魔物が跋扈していてもおかしくはなさそうですが……」
穏やかな森であれば小鳥の囀りでも聞こえてきそうな日中。 それがないのは、ここが穏やかさからかけ離れた場所だからだろうか。
「適度な魔物ならこちらとしても歓迎なんですがねぇ」
「魔石集めて旦那様に褒めてもらう、です」
ある程度成長した魔物は、体内に魔石という物質を生成する。 それは高価な魔法触媒であり、特に魔法研究者が欲しがる一品だ。
魔石を宿す魔物はすべからく凶悪な変化を遂げており、その魔物が存在する場所は一種のテリトリーと化す。 そして天敵のいない一強時代の形成は、魔物に更なる成長を促す。
この世界では魔物退治が大人数の魔法使いによって行われるのが通例であり、場合によっては近隣住民を避難させることもあるという。 今回のリバーとフエンの来訪は、そういった危険度調査の意味合いも強い。 だからこそ彼らだけで対処できる案件であれば、そのまま処理して帰還する手筈である。
「……おや?」
リバーが何かを見つけた。
「動物の死骸、です。 流石に不動の存在まで探知できないのです」
「それは仕方ありませんよ。 それにしても随分鋭利な切り口ですねぇ。 それに……」
胴で真っ二つに離断された動物が転がっている。 腐敗の状況から、死後それほど時間が経っていないようである。
動物付近の樹木にはこれまた鋭利な切り傷が刻まれている。 リバーがそこに触れると、傷の厚さは5センチを超え、深さはその倍ほどもあることが分かった。
「魔物です?」
「さて、どうなんでしょう。 殺した後に魔石でも探したんでしょうか」
動物の内臓と頭部は鋭利さとは無縁な荒らされ方をしている。 それこそ噛み千切ったりしたような。
「魔石狩りをする魔物だったらまずいのです」
「ええ、それは本当に。 そこまで知能を付けられると厄介極まりないですからね」
魔物とは、ある種の凶暴な獣である。
凶獣と魔物の違いは、ひとえにその攻撃力の差である。
例えば凶暴な熊と魔物化した熊がいたとしよう。 前者はその腕力と爪で木に深々とした裂創を刻むが、後者は木を容易に斬り倒す。 それほどの違いだ。
魔物化した動物は目が真っ赤になるという特徴もある。 それは興奮によるとも体内の魔石によるとも言われているが、目の赤い獣を見かけたら即座に逃げた方が良いというのは世界の常識だ。
魔石は魔法触媒であると同時に、高度にマナが封じ込められた爆弾でもある。 使い方を間違えれば大きな事故さえ起こるシロモノなので、取り扱いには注意が必要だ。 そんな魔石を欲する魔物──それは高度に知能を発達させた化け物であり、魔石を自身の力に変換できることを理解している知的生命体だと言える。
もしここにいるであろう存在がそれ、もしくはそれに類するものであれば、リバーとフエンは即座に踵を返さなければならない。 それでも、そのような存在がいるかどうかというところまでは確認せねばなるまい。
二人は歩を進める。
「近づくほどに死骸が増えてきたです」
「ここの住人は働き者ですねぇ……」
リバーは決して相手を褒めていない。 これはむしろ凶暴さの程度を警戒した上での発言である。
「手当たり次第、といった感じです」
木々の倒潰も目立ってきた。 暴力がそこら中に振り撒かれているのか、地面も木々も、時には大きな岩石さえ打ち砕かれて転がっている。 どう考えてもここの住人はイカれている。
「あれの影響を受けすぎたのか」
リバーは木々の隙間から見えてきた老木を見つめながら言う。
「それとも魔石を回収しすぎたのか」
魔石の取り込みにも限界はある。 というのも、魔石は一種の麻薬であるために、使い過ぎればまともではいられないのだ。 場合によっては、ここは国レベルで対処しなければならない現場かもしれない。
「これが……悪い空気を発している、と」
リバーとフエンは老木に近づいて様子を確認している。
遠くからでも目に見えるほどに立ち上る悪い空気──瘴気は、ここまで来るとやや濃さを増している。
「……ん?」
「どうしたです?」
リバーは何かに気がついた。
「これは……人骨ですね。 それもやけに多い……」
「魔物にとっては人間はおやつなのです」
「それはそうなんですが……」
人骨を眺めながらリバーは視線を左右に揺らす。 更に何か気づいたらしい。
「変、です」
先んじてフエンが呟くように言った。
「ええ、これは……おかしいですねぇ」
リバーも同意を示し、二人は突如警戒体制に入った。
そのまま素早く周囲を見渡すが、今のところ怪しい存在は確認できない。
「こいつ、全然活性化してないです……」
そうなのだ。 瘴気を立ち上らせている老木だが、近づいても大して密度が増したようには感じられなかったし、今見てもそれは確かな事実である。 これが原因でこのあたりの環境変化が起きているのなら、もっと濃密な瘴気が放たれていてもおかしくはない。 周辺の木々が瘴気を吸ってこれ以上に大きく変化を起こしているくらいは十分にあり得る。 しかしこれが五年前から続く現象なのであれば、この程度の範囲だけで影響が抑えられているというのはあり得ない事態なのだ。 つまりこれは、時間経過と影響範囲にズレがあるということ。
「この老木は死に損ない、ということですか。 それはこちらとしても好都合ですが……」
それでも老木は悪影響が出そうなだけの瘴気を放出しているし、破壊対象には他ならない。
「ここの主に見つかる前に、早いところ始末するです……!」
フエンが焦る。 ここに瘴気を吸い尽くす存在がいることに。
瘴気の振り撒かれたこの空間は本来、それらにとって住みやすい場所のはずなのだ。 瘴気の影響を受けた木々も最終的には発生源と同様の変化をさせるに至り、そこは独自の魔界と言えるような空間にまで昇華される。 ただしこれは時間の掛かる方法だ。 瘴気に耐えられない生命体は死を迎えるし、全てが全て瘴気を都合よく用いられるわけではない。 瘴気を用いると言っても、良い意味ばかりではないのだ。 それは単に生存可能になるという意味合いであり、瘴気は基本的に生命に悪影響しか及ぼさない。
老木周囲が更地になっているのは、瘴気を受けた植物が軒並み枯れた結果であろうし、それは問題のない事態だ。 問題は、色濃く影響を受けてなお息づいている木々。 あれらも放置すればいずれは瘴気を放つ存在となる。 だからこういった瘴気影響下の区域は広範囲に滅却される運命にある。 リバーたちも勿論そのつもりでやってきているわけだが、今回の問題はそこではない。
「瘴気影響速度を理解しているのか、全てを個で吸い尽くして変貌を遂げている存在がいるようですね……」
現在の老木は、周囲で影響を受けた木々が少しだけ活性化を得た姿でしかない。 だから危険度で言えばそれほど高くなく、より危険視すべき存在は他にいるというわけだ。 とはいえ全ての元凶はこの老木なので、リバーは迷わず破壊に向かう。
「老木による影響は少ないですが、根付いている期間から判断すると、これを使う価値はあると見えます」
リバーは腰のバッグから真っ白な液体の入った、手のひらサイズの瓶を取り出した。 そこに含まれるのは、瘴気の発生源に特効の成分。 リバーたちはそれを“霊薬”と呼んでいる。 しかし効果があるのは瘴気を発生させているレベルのものに限られるので、影響を受けた環境はそれによってではなく物理的に破壊しなければならない。
リバーは最優先破壊対象を見据えて、霊薬をその虚に投げ入れた。
ズ、ァアアア──……。
空気が重苦しく振動し始めた。 それはまるで地獄の底から響く怨嗟のような声を伴い、周囲のあらゆる生命に恐怖を振り撒いた。
二人もギリギリと心臓が締め付けられるような感覚を味わいながら、その顛末を見守る。
数十秒かけて振動が弱まってきた。 霊薬が芯まで届いて効果を発揮しているようだ。
リバーは一つの課題を解決できたことにほっと息をつく。 しかし未だ二人の冷や汗は晴れず、老木が命を果てさせようとしていてもなお緊張感は拭いきれない。
「フエンさん、これで──」
「右ですッ!」
金切り声のような叫びを即座に察知し、リバーはその場から急いで飛び退いた。 しかし──。
「ぐ……ぅう……ッ……!」
ステップから着地したリバー。 その肩あたりから激しく血飛沫が上がっていた。
直後リバーは息荒く肩を上下させ、右肩は腱を切断されたのかダラリと垂れ下がっている。
(間に合わなければ即死していた……!)
リバーは息荒く敵を見据える。
「去レ」
「リバーさん……これは……」
森の中から響く、人間のそれではない重低音。 その発生源はゆっくりと歩み寄り、余すことなく姿を衆目に晒す。
「そのッ線を、失念していましたね……ッ」
同時に複数の魔物も出現してきている。 その形状は狼だったり鳥だったり様々だが、そのどれもが等しく赤い目をしている。
「魔人はお呼びじゃない、です……」
魔物を使役する存在。 それはリバーたちの予想の外にいた魔人だった。
魔人の姿は人間を模したものだが、体の至る所が異形化してしまっている。 所々に黒く変色した肌──むしろ肌色面積の方が少ない──を持つそれは、惜しげもなくマナを放出させつつ敵意をリバーとフエンに向けてきている。
そして危険性をさらに助長するように、魔人の頭上には青黒い魔導書が浮かんでいる。
「去れ、という割に殺意が高すぎッ……では?」
激しい痛みがリバーを苛む。
「コレハ僕ノ意志デハナイ。 何用カ知ラナイガ、早ク消エテクレ……《水刃》」
魔人は何かを我慢するように震えていたかと思うと、急に魔法を唱えながら腕を振るってきた。 二本出現した水刃はそれぞれリバーとフエンを水平に両断する軌道を描いており、リバーは屈んで、フエンは魔導書に飛び乗って上空に回避する。
「じゃあ逃げしてくれませ──」
「《水爆》……済マナイ」
「──ん!?」
魔人が両手を翳すと、それぞれから水球が。 そららは瞬く間にリバーとフエンの目前へ至ると、一気に膨張して爆発してみせた。
激しい衝撃が二人を貫き、無様に地面に転がされる。 予想されるダメージも甚大だ。
「《闇弾》! 何のつもりですか……!?」
リバーは影で自らを無理矢理に立ち上がらせると反撃に転じた。
「《水弾》……分カラナイ……。 兎ニ角ココカラ逃ゲテクレ」
魔人から同質の魔法が展開され、ぶつかり消滅する。 しかしそれでは収まらず、無数のバレットが魔人より撃ち出され続けた。
「言動が一致してませんよ……《闇弾》!」
リバーは傷ついた体を押して回避に専念する。 フエンもなんとか立ち上がっているが、動きが鈍い。
リバーはフエンに回避の時間を与えるために会話も交えて魔人の気を引いているが、あまり功を奏していない。
「《浮遊》……」
フエンは風を使って逃げに転じるが、やはり14歳の子供にとってはきつい戦いだ。 それも先手でダメージを叩き込まれているのだから、リバーたちはどうしても後手に回らなければならない。
「《水爆》」
「リバーさん、こっち──きゃッ……!?」
ちょうど二人の間で水爆が炸裂し、リバーは吹き飛ばされ、フエンも勢いに煽られる。
リバーは勢いに転がる中で考えるが、やはり魔人の行動が理解できない。 魔人はもっと攻撃的で狂人的だと聞いていたからだ。 しかしこいつはどうだ。 力任せの攻撃ではなく、理性的というか冷静というか。 そもそも会話が成立している時点で魔人としては異端だ。
「分カラナイ……分カラナインダ……。 何故僕ガコウシテイルノカ……《水爆》……僕ノ、──トイウ名前以外ハ……《水爆》、《水爆》、《水爆》、《水爆》──」
魔人は片手を顔面に押し当てて苦悩した様子で震えているが、もう片方の手が彼の意志とは関係なく魔法をぶっ放し続ける。 周囲の魔物が動かないのは魔人が制御しているからだろうか。
「フエン、さん……!あ、あなただけでも、脱出を!」
「だ、駄目……ッ!」
リバーは魔人が手当たり次第空中に水爆を放ち始めたのを見て、負けを悟った。 空中機動能力の無いリバーでは逃げきれない。
今のところ魔人の攻撃は直撃していない。 しかし容赦のない衝撃がリバーをきりもみ状態に至らせており、それらは彼の体力だけでなく意識を少しずつ刈り取っていく。
「分カラナイ……殺シテ、殺シテクレ……僕ヲ、僕ガァ……ア゛ァ、アアアアア!!!」
魔人が狂い始めたタイミングで魔物たちが解き放たれた。 それらは一斉に意識の消えかかっているリバーへ、そして鳥型の魔物はフエンへ。
これを見てフエンは一瞬だけ高速移動すると、そこから急に《浮遊》を解除した。 すぐさま彼女の体が落下状態に突入する。
フエンの行動を見て何をするつもりかとリバーは目を見開くが、声を出せるだけの体力はもはや彼に残されていない。
リバーが見守る中、フエンは乗っていた魔導書を落下の最中器用に捲り、特定のページでその手を止めていた。
継続発動型の《浮遊》を使用している際、現在のフエンの力量では他の魔法を同時に使用できない。 他の魔法を使うためには一度、《浮遊》を解除せねばならないのだ。
落下してきたフエンがリバーに近づく。 解除前の勢いに乗せた動きによって、フエンがちょうどリバーの位置に来るように調整されていたわけだ。
開かれたページの魔法は、爆発。
「《風──」
魔物たちのが接触する直前で、フエンの手がリバーに触れ、
「──爆》!」
二人の足元で風が弾けた。
風の勢いをモロに受け、二人の体は激しく宙に浮かされる。 風の発生源がリバーの直下だったために、彼に対するダメージは甚大だ。 しかし脱出のためには二人してこの現場から高速で移動せねばならず、同時に魔物を追い払うという意味でもこの行動は理に適ったものだった。
「ッ……《浮遊》!」
フエンは限界まで握力を込めてリバーを掴んだ。 そのまま手を離さないように心がけながら、自身と魔導書を浮遊状態に変化させた。
背後で次々と巻き起こる水爆を無視し、フエンは脱出に全力を注ぐ。
「ゔ……ッ!」
数発の水爆がフエンの直近で炸裂した。 が、フエンは一瞬意識を飛ばしたものの気力で耐え、ギリギリ体勢を立て直しながら移動を続けた。
魔人の最後の攻撃だったようだ。 これによって二人は紙一重で水爆の嵐から離れることができ、背後も振り返らず一目散にその場を去った。
奇跡的にというか偶然というか、そこかr魔人や魔物は追ってこなかった。 フエンの移動速度が早いことと空中を移動していることも相まって、追手も付くことはなかった。
「はァ……はァ……」
帰還の途中でフエンのマナが尽きた。 加えて体力の限界ということもあって、西の山を超えて南の山あたりに入ったあたりでフエンは一度そこへ降り立った。
そこから彼女の記憶はプッツリと途絶えていた。
翌日──。
フエンはもう体力的にリバーを抱えることは困難だったので、彼を魔導書に乗せて自分の足で山を下った。 子供の足には厳しい過程だった、それでも彼女はやりきった。 そして満身創痍の二人が村に到着した場面に繋がる。
「魔人なんて、話に聞いたことしか……」
「しかし私たちは実際に遭遇していますし、瀕死にまで追いやられたのも事実です」
「すぐに逃げないと! それを教えるために話されたんですよね……?」
「いいえ、違います。 あの魔人を倒すためにエスナさん、あなたの力が必要なのです。 だからこうしてあなたに伝えているんです」
「どうして……私には無理ですよ……。 なんでそんな難しいことを言うんですか……?」
「それは……魔人が水属性の魔法使いだからです。 あれの攻撃を防ぐためには、同じ属性のあなたの力が不可欠なのです」
「ごめんなさい……。 リバーさんの頼みでも、それは無理です……」
「どうしてですか?」
「私に魔人と戦う力なんてありません……」
「これから鍛えればどうにでもなりますよ?」
「どうして、どうしてそんなにリバーさんの都合で話されるんですか!? 私には関係ないじゃないですか!」
エスナが声を荒げた。 無理難題を突きつけられたから。 信じてたはずのリバーがエスナの心を知ってか、そこに付け込んで彼女を利用しようとしているように感じたからだ。
「……そうですね、これは私たちの都合でした」
「どうしてリバーさんは私の気持ちをそうやって弄ぶんですか……」
「弄ぶ? すいません、言っている意味が……」
リバーは本当に分かっていない。
リバーがエスナに近づいたのはハジメに接触するための口実だった。 エスナたちを指導しているのはフエンが回復するまでの暇つぶし……そう、暇つぶしになるはずだった。 しかしそれらは、現在目的を持って実行される事象となっている。
「……私はリバーさんが好きなんです……」
「え゛ッ!?」
これにはリバーも仰天。 本来他人を驚かせる側のピエロの顔が驚きに歪んでいる。
「こんな気持ち、持ったこと無かった……! けれど、リバーさんが意識してるにせよしていないにせよ、リバーさんの行動は私に好意を抱かせるには十分だったんです! それなのに、それなのにッ……!」
エスナはなおも言葉を荒々しく吐き出した。
リバーのお願いは、エスナにとっては彼女の好意を踏み躙る行為だった。
恋情と怒りが複雑に絡み合ってエスナの心を揺さぶり、処理しきれないそれは涙となって溢れ出す。
「ずっと虐げられてきたから、誰かに優しくされるなんて思わなかった……。 このまま一生レスカを守って生きるんだって決めてたのに……! なんでリバーさんは私の決心を揺るがすんですか!? 誰かに甘えたっていいって、どうしてそんなことを私に教えるんですか……ゔ、ぅ……」
魔人の出現以上に予期できなかった事態がリバーを焦らせる。
(なぜ私などに好意を……? いや、これは私の浅慮が……)
エスナはレスカを守るという一心だけで生きてきた。 それさえあれば自分はどうなってもよくて、レスカの幸せを願うことこそがエスナの至上命題だと自身に思い込ませてきた。 しかしリバーの出現によりエスナは自身の幸せを望んでしまうようになった。 本来存在するはずのなかった感情によりエスナの決心は揺らぎ、そのアンバランスさがエスナの精神を不安定なものにさせていたのだ。
妹の幸せも自分の幸せも同時に願えば良いのだが、そこまで願えるほどの力がエスナにないことは分かっている。 だからこそ、どちらを取るかで左右の天秤は揺らぎ、エスナの抱え続けてきた決心が台無しになろうとしている。 そのことにエスナは戸惑い、怒り、処理しきれなくなったことでパニックになっている、 もちろんそんなことはリバーにはかけらも理解できていない。
「えー……っと、すいません。 意図せずエスナさんの感情を揺さぶったことは謝ります。 そこまで切羽詰まった状態だとは理解できず、浅はかな行動を反省するばかりです」
「リバーさんが謝らないでください……。 全部私が悪いんですから……」
リバーはなおも号泣するエスナをどうしていいか分からず、これまでの人生で一番くらいに挙動不審さを見せている。 側から見れば恐怖映像であり、ここにハジメがいなかったのは幸運と言って間違いないだろう。
「でも……そうですね、エスナさんを利用しようとしているのは事実です。 これは先に謝っておきます」
「……やっぱり……」
「私はこれまで他人から好意を向けられた経験がないため困惑しています。 だからエスナさんのそれに対して適切に対応できるかは分かりません」
「どっちなんですか……」
「話は最後まで聞いてください。 今はエスナさんの気持ちに向き合うことができませんが、これに関してはいずれ正式な形でお返事します。 よろしいでしょうか?」
「よろしいもなにも……迷惑を掛けてるのは私の方ですので……。 でも、そう言っていただけるだけで……」
リバーは返答を先延ばしにした。 彼にとって色恋など、正直面倒事以外のなにものでもないからだ。 しかし、エスナの存在は今後必要不可欠なので無碍にもできないのだ。 だから保留という形でこの面倒事を隅に遣った。
「ありがとうございます。 私たちは魔人の出現という緊急事態を抱えているため、ひとまずそちらを優先させてください。 その後であれば如何様にも」
「はい……。 分かりました」
ようやくリバーは話の舵を正常な方向へ切ることができた。 やはり色恋は面倒でしかないとリバーは再確認する。
「魔人の出現は人類の脅威ですが、あいにく私たちの組織はそういった事象に対応することを目的としています。 ですので、この問題を見なかったことにはできません」
「でも、魔人と戦うなんて無謀じゃないですか……」
「いえ、今回に限ってはそうではないんです。 何せエスナさん、あなたがいるんですから。 まぁ、本来であればエスナさんたちには逃げてもらうべきなんでしょうが、今回は話が違うんです」
「えっと、ごめんなさい……全く理解が……」
「魔法には相性というものがあります。 それぞれに有利不利があり、敵の属性に応じた戦い方が重要になってきます」
「それは学校で習いましたけど……」
「今回の魔人は水属性でした。 それに対しては風属性──フエンさんの魔法が有効となります」
水は火に強く、火は土に強く、土は風に強く、風は水に強い。 これがこの世界における基本属性の対応である。 その他光や闇など様々な属性があるが、今回はあまり関係がない。
「ではフエンちゃんの魔法で戦う……あ、でも、相手が強かったんですよね……?」
「ええ、手も足も出ませんでした。 フエンさんが万全な状態で攻撃に専念できれば可能性があったかもしれませんが、相手の攻撃力が桁違いで負けてしまいました」
「じゃあ誰にも無理なんじゃ……? そんな強大な相手に私を加えても……」
「本来であればエスナさんへのお願いなどは口が裂けても申し上げるつもりはありませんでした。 しかし事情が事情なだけに、こうして可能性を追求しているのです」
「……続けてください」
「敵が水属性ということなので、同じ水属性のエスナさんであればその攻撃を防ぐことは可能だと思うんですよ。 そうやって防いでもらっている間に、私とフエンさんで魔人をやっつけようという作戦です」
「無謀、だと思います……」
「その通り、無謀な作戦です。 勇者でも呼んでこなければ対処が難しい案件です。 しかしここが王国である以上、他の国から勇者を呼べません」
「王国にお願いすればいいんじゃないですか……?」
「今代の王国勇者2名はそれぞれ火属性と光属性。 相性が良くありません。 それに、召喚されたばかりなので戦力としては期待できません」
「その勇者でも無理な相手と私を戦わせるつもりですか……!」
「戦わなくて良いのです。 ただ、耐えていただければ」
「無理です……!」
いずれにせよエスナには荷が勝ちすぎる案件だ。 そもそも人生において誰かと殺しあうことなど想定していない。
「エスナさんの性格を鑑みれば、あなたの魔法技能は防御方面に向いていることが分かります。 ですので、無謀とも言い切れないです。 それに……」
リバーはここでなぜか言い淀んだ。 ここまで饒舌に解答困難な問題をつらつらと並べ立ててきたのに、だ。
エスナは思わず聞き返す。
「……どうしたんですか?」
「まず確認しておかなければならないことがありまして」
「はい。 お答えできることは全てお答えします」
「エスナさんのお父上のお名前はヤエスで間違いありませんか?」
「……? 村長さんから聞いたんですか? それで間違いありませんが……」
「そうですか……」
ふぅ、とリバーは息を吐いた。
エスナは少し嫌な予感がしていた。
「えっと、なんでしょう……?」
「やはりエスナさんは必要不可欠な存在でした」
「どういう……」
「心して聞いてください」
「は、はい……」
「私たちが戦った魔人ですが──」
悪い予感は当たりやすく、エスナのそれもまた。
「──彼の名前が、ヤエスというらしいのですよ」
「……え……」
その言葉に、エスナの全身に怖気が走った。
リバーの発言の衝撃は強く、エスナに震えが生じ始める。
『……僕ノ、“ヤエス”トイウ名前以外ハ……』
あの時、リバーは確かに聞いていた。 魔人──エスナの父だった者の、その言葉を。
「フエンさん、索敵をお願いします」
「人遣いが荒いのです。 ……《反響》」
フエンは地面に降りるや否や魔導書を引っ掴み、魔法名を唱えた。 使用したのは風属性の音波探索魔法。 フエンを中心に、断続的に音波が拡散し始める。
「何か分かりますか?」
「フエンはそんなに万能じゃないのです。 範囲は限られてるです」
ここでリバーも魔導書を出現させていた。 その装丁は黒紫色。 放出されているマナも同色であることから、それが闇属性に属していることが想像できる。
「危険そうな存在を認識した時だけ教えてください。 《操影》」
直後リバーの影がブルリと震えたかと思うと、それは縦横無尽に形を変え始めた。 影の変化に肉体が影響を受けないのはもちろん魔法影響下だからだが、影魔法を使わない人間が影を変化させられた場合はこの限りではない。
「リバーさんは範囲攻撃を積むべきです」
「そうは言われましても、私の性格上そうはなりませんので」
魔法は使用者の性格影響をモロに受けて成長する。 もちろん、外付けの魔法──入手するだけで習得過程をすっ飛ばすことが可能なもの──であれば魔導書に導入するだけなので性格影響は少ない。 そういったどこにでも出回っているような魔法は使い勝手が良い反面、大きな効果を期待できないという欠点がある。 だからこそ魔法使いは自分独自の魔法を、性格影響を受けやすい魔法を多用して成長を促す。
リバーは青年期までスラム街を生きてきた。 そこでは誰かを騙すのは当たり前で、その逆も然り。 敷かれたルールは最終的に勝った方が正義という、言うなれば分かりやすい構図が存在しており、それによってスラム街でのそれぞれの立ち位置は激動を極めた。 絶えず誰かを貶めないと生きていけないのだから。
スラム街で主に行われるのは住民同士の個人間の駆け引きであり、その生活はリバーに多大な影響を与えた。 その中で組織間のやり取りもあったが、リバーは基本的に独り身だった。 だからこそだろうか。 彼に魔法技能が発現した時、そこに宿っていたのは影を操る魔法。 自分の身を第一に守ることのできる、そんな魔法だった。
リバーは両親の顔を知らず、生存すら不明だ。 だから彼の魔法が遺伝的なものかは分からないものの、極低い確率で特発的な魔法発現ということもあり得る。
いずれにせよ、力を得たリバーはスラム街からの脱出が可能となり、その結果現在の立ち位置に存在できているというわけだ。
こんな不幸はこの世界ではどこでも当たり前に起きていることであり、リバーはこれを殊更強調して話すことはない。
フエンも虐待孤児であり、彼女らの雇い主──トンプソンに回収されるまではそれは酷い有様だったらしい。 彼女の肌の露出が無い場所には幾多の虐待痕が未だに残っているし、だからと言って彼女もこれを特別な不幸だとは考えていない。 現在の満足した生活が得られたのは、そういった過去も含めた軌跡によるものであり、彼女らが生を諦めなかった結果でもある。
だから誰も不幸を語らない。 語って買えるのは同情だけであり、それによって飯が食える訳ではないからだ。 ……吟遊詩人なら話は別か。
「リバーさんはあの木をどうするつもり、です?」
「破壊するのが理想ですけど、あのサイズのものは今まで経験したことがありませんからねぇ」
二人は森に分け入る。 人の手が入らない森の中など、危険地帯でしかないのだが。
こういった場所に赴くのであれば、事前の調査やそれ相応の装備──念入りな準備が必要になってくる。 二人が軽々しくこうやって入ることができているのは、準備期間をスキップできるだけの魔法技能を備えた魔法使いだからだ。 そうでもなければ誰も未開の地に足を踏み入れないし、死を超える益が転がっていない限り──いや、転がっていたとしても人間は保守的だ。
この世界には個人で開拓を推進する連中がいるにはいるが、あれは一種の狂人であり、精神異常者だ。 無論、その狂人はただの一般人のことは指さない。 無茶苦茶やるのはいつだって魔法使いであり、変革を促す存在も彼らだ。 狂人と偉人は紙一重で存在しており、それを規定するのは歴然とした成果だけである。
「やけに静か、です」
「あれだけ広範囲に緑を侵しているなら、それこそ魔物が跋扈していてもおかしくはなさそうですが……」
穏やかな森であれば小鳥の囀りでも聞こえてきそうな日中。 それがないのは、ここが穏やかさからかけ離れた場所だからだろうか。
「適度な魔物ならこちらとしても歓迎なんですがねぇ」
「魔石集めて旦那様に褒めてもらう、です」
ある程度成長した魔物は、体内に魔石という物質を生成する。 それは高価な魔法触媒であり、特に魔法研究者が欲しがる一品だ。
魔石を宿す魔物はすべからく凶悪な変化を遂げており、その魔物が存在する場所は一種のテリトリーと化す。 そして天敵のいない一強時代の形成は、魔物に更なる成長を促す。
この世界では魔物退治が大人数の魔法使いによって行われるのが通例であり、場合によっては近隣住民を避難させることもあるという。 今回のリバーとフエンの来訪は、そういった危険度調査の意味合いも強い。 だからこそ彼らだけで対処できる案件であれば、そのまま処理して帰還する手筈である。
「……おや?」
リバーが何かを見つけた。
「動物の死骸、です。 流石に不動の存在まで探知できないのです」
「それは仕方ありませんよ。 それにしても随分鋭利な切り口ですねぇ。 それに……」
胴で真っ二つに離断された動物が転がっている。 腐敗の状況から、死後それほど時間が経っていないようである。
動物付近の樹木にはこれまた鋭利な切り傷が刻まれている。 リバーがそこに触れると、傷の厚さは5センチを超え、深さはその倍ほどもあることが分かった。
「魔物です?」
「さて、どうなんでしょう。 殺した後に魔石でも探したんでしょうか」
動物の内臓と頭部は鋭利さとは無縁な荒らされ方をしている。 それこそ噛み千切ったりしたような。
「魔石狩りをする魔物だったらまずいのです」
「ええ、それは本当に。 そこまで知能を付けられると厄介極まりないですからね」
魔物とは、ある種の凶暴な獣である。
凶獣と魔物の違いは、ひとえにその攻撃力の差である。
例えば凶暴な熊と魔物化した熊がいたとしよう。 前者はその腕力と爪で木に深々とした裂創を刻むが、後者は木を容易に斬り倒す。 それほどの違いだ。
魔物化した動物は目が真っ赤になるという特徴もある。 それは興奮によるとも体内の魔石によるとも言われているが、目の赤い獣を見かけたら即座に逃げた方が良いというのは世界の常識だ。
魔石は魔法触媒であると同時に、高度にマナが封じ込められた爆弾でもある。 使い方を間違えれば大きな事故さえ起こるシロモノなので、取り扱いには注意が必要だ。 そんな魔石を欲する魔物──それは高度に知能を発達させた化け物であり、魔石を自身の力に変換できることを理解している知的生命体だと言える。
もしここにいるであろう存在がそれ、もしくはそれに類するものであれば、リバーとフエンは即座に踵を返さなければならない。 それでも、そのような存在がいるかどうかというところまでは確認せねばなるまい。
二人は歩を進める。
「近づくほどに死骸が増えてきたです」
「ここの住人は働き者ですねぇ……」
リバーは決して相手を褒めていない。 これはむしろ凶暴さの程度を警戒した上での発言である。
「手当たり次第、といった感じです」
木々の倒潰も目立ってきた。 暴力がそこら中に振り撒かれているのか、地面も木々も、時には大きな岩石さえ打ち砕かれて転がっている。 どう考えてもここの住人はイカれている。
「あれの影響を受けすぎたのか」
リバーは木々の隙間から見えてきた老木を見つめながら言う。
「それとも魔石を回収しすぎたのか」
魔石の取り込みにも限界はある。 というのも、魔石は一種の麻薬であるために、使い過ぎればまともではいられないのだ。 場合によっては、ここは国レベルで対処しなければならない現場かもしれない。
「これが……悪い空気を発している、と」
リバーとフエンは老木に近づいて様子を確認している。
遠くからでも目に見えるほどに立ち上る悪い空気──瘴気は、ここまで来るとやや濃さを増している。
「……ん?」
「どうしたです?」
リバーは何かに気がついた。
「これは……人骨ですね。 それもやけに多い……」
「魔物にとっては人間はおやつなのです」
「それはそうなんですが……」
人骨を眺めながらリバーは視線を左右に揺らす。 更に何か気づいたらしい。
「変、です」
先んじてフエンが呟くように言った。
「ええ、これは……おかしいですねぇ」
リバーも同意を示し、二人は突如警戒体制に入った。
そのまま素早く周囲を見渡すが、今のところ怪しい存在は確認できない。
「こいつ、全然活性化してないです……」
そうなのだ。 瘴気を立ち上らせている老木だが、近づいても大して密度が増したようには感じられなかったし、今見てもそれは確かな事実である。 これが原因でこのあたりの環境変化が起きているのなら、もっと濃密な瘴気が放たれていてもおかしくはない。 周辺の木々が瘴気を吸ってこれ以上に大きく変化を起こしているくらいは十分にあり得る。 しかしこれが五年前から続く現象なのであれば、この程度の範囲だけで影響が抑えられているというのはあり得ない事態なのだ。 つまりこれは、時間経過と影響範囲にズレがあるということ。
「この老木は死に損ない、ということですか。 それはこちらとしても好都合ですが……」
それでも老木は悪影響が出そうなだけの瘴気を放出しているし、破壊対象には他ならない。
「ここの主に見つかる前に、早いところ始末するです……!」
フエンが焦る。 ここに瘴気を吸い尽くす存在がいることに。
瘴気の振り撒かれたこの空間は本来、それらにとって住みやすい場所のはずなのだ。 瘴気の影響を受けた木々も最終的には発生源と同様の変化をさせるに至り、そこは独自の魔界と言えるような空間にまで昇華される。 ただしこれは時間の掛かる方法だ。 瘴気に耐えられない生命体は死を迎えるし、全てが全て瘴気を都合よく用いられるわけではない。 瘴気を用いると言っても、良い意味ばかりではないのだ。 それは単に生存可能になるという意味合いであり、瘴気は基本的に生命に悪影響しか及ぼさない。
老木周囲が更地になっているのは、瘴気を受けた植物が軒並み枯れた結果であろうし、それは問題のない事態だ。 問題は、色濃く影響を受けてなお息づいている木々。 あれらも放置すればいずれは瘴気を放つ存在となる。 だからこういった瘴気影響下の区域は広範囲に滅却される運命にある。 リバーたちも勿論そのつもりでやってきているわけだが、今回の問題はそこではない。
「瘴気影響速度を理解しているのか、全てを個で吸い尽くして変貌を遂げている存在がいるようですね……」
現在の老木は、周囲で影響を受けた木々が少しだけ活性化を得た姿でしかない。 だから危険度で言えばそれほど高くなく、より危険視すべき存在は他にいるというわけだ。 とはいえ全ての元凶はこの老木なので、リバーは迷わず破壊に向かう。
「老木による影響は少ないですが、根付いている期間から判断すると、これを使う価値はあると見えます」
リバーは腰のバッグから真っ白な液体の入った、手のひらサイズの瓶を取り出した。 そこに含まれるのは、瘴気の発生源に特効の成分。 リバーたちはそれを“霊薬”と呼んでいる。 しかし効果があるのは瘴気を発生させているレベルのものに限られるので、影響を受けた環境はそれによってではなく物理的に破壊しなければならない。
リバーは最優先破壊対象を見据えて、霊薬をその虚に投げ入れた。
ズ、ァアアア──……。
空気が重苦しく振動し始めた。 それはまるで地獄の底から響く怨嗟のような声を伴い、周囲のあらゆる生命に恐怖を振り撒いた。
二人もギリギリと心臓が締め付けられるような感覚を味わいながら、その顛末を見守る。
数十秒かけて振動が弱まってきた。 霊薬が芯まで届いて効果を発揮しているようだ。
リバーは一つの課題を解決できたことにほっと息をつく。 しかし未だ二人の冷や汗は晴れず、老木が命を果てさせようとしていてもなお緊張感は拭いきれない。
「フエンさん、これで──」
「右ですッ!」
金切り声のような叫びを即座に察知し、リバーはその場から急いで飛び退いた。 しかし──。
「ぐ……ぅう……ッ……!」
ステップから着地したリバー。 その肩あたりから激しく血飛沫が上がっていた。
直後リバーは息荒く肩を上下させ、右肩は腱を切断されたのかダラリと垂れ下がっている。
(間に合わなければ即死していた……!)
リバーは息荒く敵を見据える。
「去レ」
「リバーさん……これは……」
森の中から響く、人間のそれではない重低音。 その発生源はゆっくりと歩み寄り、余すことなく姿を衆目に晒す。
「そのッ線を、失念していましたね……ッ」
同時に複数の魔物も出現してきている。 その形状は狼だったり鳥だったり様々だが、そのどれもが等しく赤い目をしている。
「魔人はお呼びじゃない、です……」
魔物を使役する存在。 それはリバーたちの予想の外にいた魔人だった。
魔人の姿は人間を模したものだが、体の至る所が異形化してしまっている。 所々に黒く変色した肌──むしろ肌色面積の方が少ない──を持つそれは、惜しげもなくマナを放出させつつ敵意をリバーとフエンに向けてきている。
そして危険性をさらに助長するように、魔人の頭上には青黒い魔導書が浮かんでいる。
「去れ、という割に殺意が高すぎッ……では?」
激しい痛みがリバーを苛む。
「コレハ僕ノ意志デハナイ。 何用カ知ラナイガ、早ク消エテクレ……《水刃》」
魔人は何かを我慢するように震えていたかと思うと、急に魔法を唱えながら腕を振るってきた。 二本出現した水刃はそれぞれリバーとフエンを水平に両断する軌道を描いており、リバーは屈んで、フエンは魔導書に飛び乗って上空に回避する。
「じゃあ逃げしてくれませ──」
「《水爆》……済マナイ」
「──ん!?」
魔人が両手を翳すと、それぞれから水球が。 そららは瞬く間にリバーとフエンの目前へ至ると、一気に膨張して爆発してみせた。
激しい衝撃が二人を貫き、無様に地面に転がされる。 予想されるダメージも甚大だ。
「《闇弾》! 何のつもりですか……!?」
リバーは影で自らを無理矢理に立ち上がらせると反撃に転じた。
「《水弾》……分カラナイ……。 兎ニ角ココカラ逃ゲテクレ」
魔人から同質の魔法が展開され、ぶつかり消滅する。 しかしそれでは収まらず、無数のバレットが魔人より撃ち出され続けた。
「言動が一致してませんよ……《闇弾》!」
リバーは傷ついた体を押して回避に専念する。 フエンもなんとか立ち上がっているが、動きが鈍い。
リバーはフエンに回避の時間を与えるために会話も交えて魔人の気を引いているが、あまり功を奏していない。
「《浮遊》……」
フエンは風を使って逃げに転じるが、やはり14歳の子供にとってはきつい戦いだ。 それも先手でダメージを叩き込まれているのだから、リバーたちはどうしても後手に回らなければならない。
「《水爆》」
「リバーさん、こっち──きゃッ……!?」
ちょうど二人の間で水爆が炸裂し、リバーは吹き飛ばされ、フエンも勢いに煽られる。
リバーは勢いに転がる中で考えるが、やはり魔人の行動が理解できない。 魔人はもっと攻撃的で狂人的だと聞いていたからだ。 しかしこいつはどうだ。 力任せの攻撃ではなく、理性的というか冷静というか。 そもそも会話が成立している時点で魔人としては異端だ。
「分カラナイ……分カラナインダ……。 何故僕ガコウシテイルノカ……《水爆》……僕ノ、──トイウ名前以外ハ……《水爆》、《水爆》、《水爆》、《水爆》──」
魔人は片手を顔面に押し当てて苦悩した様子で震えているが、もう片方の手が彼の意志とは関係なく魔法をぶっ放し続ける。 周囲の魔物が動かないのは魔人が制御しているからだろうか。
「フエン、さん……!あ、あなただけでも、脱出を!」
「だ、駄目……ッ!」
リバーは魔人が手当たり次第空中に水爆を放ち始めたのを見て、負けを悟った。 空中機動能力の無いリバーでは逃げきれない。
今のところ魔人の攻撃は直撃していない。 しかし容赦のない衝撃がリバーをきりもみ状態に至らせており、それらは彼の体力だけでなく意識を少しずつ刈り取っていく。
「分カラナイ……殺シテ、殺シテクレ……僕ヲ、僕ガァ……ア゛ァ、アアアアア!!!」
魔人が狂い始めたタイミングで魔物たちが解き放たれた。 それらは一斉に意識の消えかかっているリバーへ、そして鳥型の魔物はフエンへ。
これを見てフエンは一瞬だけ高速移動すると、そこから急に《浮遊》を解除した。 すぐさま彼女の体が落下状態に突入する。
フエンの行動を見て何をするつもりかとリバーは目を見開くが、声を出せるだけの体力はもはや彼に残されていない。
リバーが見守る中、フエンは乗っていた魔導書を落下の最中器用に捲り、特定のページでその手を止めていた。
継続発動型の《浮遊》を使用している際、現在のフエンの力量では他の魔法を同時に使用できない。 他の魔法を使うためには一度、《浮遊》を解除せねばならないのだ。
落下してきたフエンがリバーに近づく。 解除前の勢いに乗せた動きによって、フエンがちょうどリバーの位置に来るように調整されていたわけだ。
開かれたページの魔法は、爆発。
「《風──」
魔物たちのが接触する直前で、フエンの手がリバーに触れ、
「──爆》!」
二人の足元で風が弾けた。
風の勢いをモロに受け、二人の体は激しく宙に浮かされる。 風の発生源がリバーの直下だったために、彼に対するダメージは甚大だ。 しかし脱出のためには二人してこの現場から高速で移動せねばならず、同時に魔物を追い払うという意味でもこの行動は理に適ったものだった。
「ッ……《浮遊》!」
フエンは限界まで握力を込めてリバーを掴んだ。 そのまま手を離さないように心がけながら、自身と魔導書を浮遊状態に変化させた。
背後で次々と巻き起こる水爆を無視し、フエンは脱出に全力を注ぐ。
「ゔ……ッ!」
数発の水爆がフエンの直近で炸裂した。 が、フエンは一瞬意識を飛ばしたものの気力で耐え、ギリギリ体勢を立て直しながら移動を続けた。
魔人の最後の攻撃だったようだ。 これによって二人は紙一重で水爆の嵐から離れることができ、背後も振り返らず一目散にその場を去った。
奇跡的にというか偶然というか、そこかr魔人や魔物は追ってこなかった。 フエンの移動速度が早いことと空中を移動していることも相まって、追手も付くことはなかった。
「はァ……はァ……」
帰還の途中でフエンのマナが尽きた。 加えて体力の限界ということもあって、西の山を超えて南の山あたりに入ったあたりでフエンは一度そこへ降り立った。
そこから彼女の記憶はプッツリと途絶えていた。
翌日──。
フエンはもう体力的にリバーを抱えることは困難だったので、彼を魔導書に乗せて自分の足で山を下った。 子供の足には厳しい過程だった、それでも彼女はやりきった。 そして満身創痍の二人が村に到着した場面に繋がる。
「魔人なんて、話に聞いたことしか……」
「しかし私たちは実際に遭遇していますし、瀕死にまで追いやられたのも事実です」
「すぐに逃げないと! それを教えるために話されたんですよね……?」
「いいえ、違います。 あの魔人を倒すためにエスナさん、あなたの力が必要なのです。 だからこうしてあなたに伝えているんです」
「どうして……私には無理ですよ……。 なんでそんな難しいことを言うんですか……?」
「それは……魔人が水属性の魔法使いだからです。 あれの攻撃を防ぐためには、同じ属性のあなたの力が不可欠なのです」
「ごめんなさい……。 リバーさんの頼みでも、それは無理です……」
「どうしてですか?」
「私に魔人と戦う力なんてありません……」
「これから鍛えればどうにでもなりますよ?」
「どうして、どうしてそんなにリバーさんの都合で話されるんですか!? 私には関係ないじゃないですか!」
エスナが声を荒げた。 無理難題を突きつけられたから。 信じてたはずのリバーがエスナの心を知ってか、そこに付け込んで彼女を利用しようとしているように感じたからだ。
「……そうですね、これは私たちの都合でした」
「どうしてリバーさんは私の気持ちをそうやって弄ぶんですか……」
「弄ぶ? すいません、言っている意味が……」
リバーは本当に分かっていない。
リバーがエスナに近づいたのはハジメに接触するための口実だった。 エスナたちを指導しているのはフエンが回復するまでの暇つぶし……そう、暇つぶしになるはずだった。 しかしそれらは、現在目的を持って実行される事象となっている。
「……私はリバーさんが好きなんです……」
「え゛ッ!?」
これにはリバーも仰天。 本来他人を驚かせる側のピエロの顔が驚きに歪んでいる。
「こんな気持ち、持ったこと無かった……! けれど、リバーさんが意識してるにせよしていないにせよ、リバーさんの行動は私に好意を抱かせるには十分だったんです! それなのに、それなのにッ……!」
エスナはなおも言葉を荒々しく吐き出した。
リバーのお願いは、エスナにとっては彼女の好意を踏み躙る行為だった。
恋情と怒りが複雑に絡み合ってエスナの心を揺さぶり、処理しきれないそれは涙となって溢れ出す。
「ずっと虐げられてきたから、誰かに優しくされるなんて思わなかった……。 このまま一生レスカを守って生きるんだって決めてたのに……! なんでリバーさんは私の決心を揺るがすんですか!? 誰かに甘えたっていいって、どうしてそんなことを私に教えるんですか……ゔ、ぅ……」
魔人の出現以上に予期できなかった事態がリバーを焦らせる。
(なぜ私などに好意を……? いや、これは私の浅慮が……)
エスナはレスカを守るという一心だけで生きてきた。 それさえあれば自分はどうなってもよくて、レスカの幸せを願うことこそがエスナの至上命題だと自身に思い込ませてきた。 しかしリバーの出現によりエスナは自身の幸せを望んでしまうようになった。 本来存在するはずのなかった感情によりエスナの決心は揺らぎ、そのアンバランスさがエスナの精神を不安定なものにさせていたのだ。
妹の幸せも自分の幸せも同時に願えば良いのだが、そこまで願えるほどの力がエスナにないことは分かっている。 だからこそ、どちらを取るかで左右の天秤は揺らぎ、エスナの抱え続けてきた決心が台無しになろうとしている。 そのことにエスナは戸惑い、怒り、処理しきれなくなったことでパニックになっている、 もちろんそんなことはリバーにはかけらも理解できていない。
「えー……っと、すいません。 意図せずエスナさんの感情を揺さぶったことは謝ります。 そこまで切羽詰まった状態だとは理解できず、浅はかな行動を反省するばかりです」
「リバーさんが謝らないでください……。 全部私が悪いんですから……」
リバーはなおも号泣するエスナをどうしていいか分からず、これまでの人生で一番くらいに挙動不審さを見せている。 側から見れば恐怖映像であり、ここにハジメがいなかったのは幸運と言って間違いないだろう。
「でも……そうですね、エスナさんを利用しようとしているのは事実です。 これは先に謝っておきます」
「……やっぱり……」
「私はこれまで他人から好意を向けられた経験がないため困惑しています。 だからエスナさんのそれに対して適切に対応できるかは分かりません」
「どっちなんですか……」
「話は最後まで聞いてください。 今はエスナさんの気持ちに向き合うことができませんが、これに関してはいずれ正式な形でお返事します。 よろしいでしょうか?」
「よろしいもなにも……迷惑を掛けてるのは私の方ですので……。 でも、そう言っていただけるだけで……」
リバーは返答を先延ばしにした。 彼にとって色恋など、正直面倒事以外のなにものでもないからだ。 しかし、エスナの存在は今後必要不可欠なので無碍にもできないのだ。 だから保留という形でこの面倒事を隅に遣った。
「ありがとうございます。 私たちは魔人の出現という緊急事態を抱えているため、ひとまずそちらを優先させてください。 その後であれば如何様にも」
「はい……。 分かりました」
ようやくリバーは話の舵を正常な方向へ切ることができた。 やはり色恋は面倒でしかないとリバーは再確認する。
「魔人の出現は人類の脅威ですが、あいにく私たちの組織はそういった事象に対応することを目的としています。 ですので、この問題を見なかったことにはできません」
「でも、魔人と戦うなんて無謀じゃないですか……」
「いえ、今回に限ってはそうではないんです。 何せエスナさん、あなたがいるんですから。 まぁ、本来であればエスナさんたちには逃げてもらうべきなんでしょうが、今回は話が違うんです」
「えっと、ごめんなさい……全く理解が……」
「魔法には相性というものがあります。 それぞれに有利不利があり、敵の属性に応じた戦い方が重要になってきます」
「それは学校で習いましたけど……」
「今回の魔人は水属性でした。 それに対しては風属性──フエンさんの魔法が有効となります」
水は火に強く、火は土に強く、土は風に強く、風は水に強い。 これがこの世界における基本属性の対応である。 その他光や闇など様々な属性があるが、今回はあまり関係がない。
「ではフエンちゃんの魔法で戦う……あ、でも、相手が強かったんですよね……?」
「ええ、手も足も出ませんでした。 フエンさんが万全な状態で攻撃に専念できれば可能性があったかもしれませんが、相手の攻撃力が桁違いで負けてしまいました」
「じゃあ誰にも無理なんじゃ……? そんな強大な相手に私を加えても……」
「本来であればエスナさんへのお願いなどは口が裂けても申し上げるつもりはありませんでした。 しかし事情が事情なだけに、こうして可能性を追求しているのです」
「……続けてください」
「敵が水属性ということなので、同じ水属性のエスナさんであればその攻撃を防ぐことは可能だと思うんですよ。 そうやって防いでもらっている間に、私とフエンさんで魔人をやっつけようという作戦です」
「無謀、だと思います……」
「その通り、無謀な作戦です。 勇者でも呼んでこなければ対処が難しい案件です。 しかしここが王国である以上、他の国から勇者を呼べません」
「王国にお願いすればいいんじゃないですか……?」
「今代の王国勇者2名はそれぞれ火属性と光属性。 相性が良くありません。 それに、召喚されたばかりなので戦力としては期待できません」
「その勇者でも無理な相手と私を戦わせるつもりですか……!」
「戦わなくて良いのです。 ただ、耐えていただければ」
「無理です……!」
いずれにせよエスナには荷が勝ちすぎる案件だ。 そもそも人生において誰かと殺しあうことなど想定していない。
「エスナさんの性格を鑑みれば、あなたの魔法技能は防御方面に向いていることが分かります。 ですので、無謀とも言い切れないです。 それに……」
リバーはここでなぜか言い淀んだ。 ここまで饒舌に解答困難な問題をつらつらと並べ立ててきたのに、だ。
エスナは思わず聞き返す。
「……どうしたんですか?」
「まず確認しておかなければならないことがありまして」
「はい。 お答えできることは全てお答えします」
「エスナさんのお父上のお名前はヤエスで間違いありませんか?」
「……? 村長さんから聞いたんですか? それで間違いありませんが……」
「そうですか……」
ふぅ、とリバーは息を吐いた。
エスナは少し嫌な予感がしていた。
「えっと、なんでしょう……?」
「やはりエスナさんは必要不可欠な存在でした」
「どういう……」
「心して聞いてください」
「は、はい……」
「私たちが戦った魔人ですが──」
悪い予感は当たりやすく、エスナのそれもまた。
「──彼の名前が、ヤエスというらしいのですよ」
「……え……」
その言葉に、エスナの全身に怖気が走った。
リバーの発言の衝撃は強く、エスナに震えが生じ始める。
『……僕ノ、“ヤエス”トイウ名前以外ハ……』
あの時、リバーは確かに聞いていた。 魔人──エスナの父だった者の、その言葉を。
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