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第2章 Dynamism in New Life
第28話 解かれる約定
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この世界での貨幣価値を日本円に換算すると、銅貨が1円、銀貨が100円、金貨が10000円に相当する。
住民には給料の約1割を納税する義務があり、支配体系によって多少変動するものの、ここから大きく外れることはない。 また特に指定がなければ、納税は貨幣によってでも現物によってでも問題はない。
農奴にとって収穫物を売るという一手間を考えれば現物での上納が最も簡単なのだが、売り方によっては大きな利益を見込める可能性もある。 ただ、それは貨幣の流通している町や都市などで可能な作業であって、そもそも貨幣によって取引の少ないラクラ村のような村落では不可能な芸当だ。
村という区分では、農奴が30日働いた場合の一般的な給料は金貨3枚程度だと言われている。 その上で家賃が月に金貨1枚、納税額が銀貨30枚程度なので、残った全てを食費につぎ込んだとしても一食に掛けられる金額は銀貨2枚弱ということになる。 それは黒パンと野菜スープが食べられる最低限の金額であり、食事内容は年中変わることはないので味気なく、また栄養も十分とは言えない内容だ。
壁内でしっかりとした職業を得ている人物──技術職だったり役所勤めの人間などは、大体の月給は金貨30枚程度だ。 ただ、壁内は家賃が割高なため、その半分ほどが家賃として回収される。 そこから税の金貨3枚を引けば、一食に掛けられる額の最大は銀貨13枚ほどだろうか。 しかし村と町では物価が二倍ほど異なるため、村を基準に考えれば一食に掛けられるのは実質銀貨7枚弱といったところ。 だとすると、町の給料がたとえ村の10倍あったとしても食の価値は3倍までしか上がらず、三人家族を一人で養うのであれば金貨30枚を稼いだとしても一食の価値は村と同等ということになる。
壁内に住む人間は決して裕福とは言えない。 むしろ同じ仕事をして壁外に住む方が賢明と言える。 その点フリックは倹約家だ。 壁外での家賃は金貨3枚程度が相場であるし、独り身ならむしろその方が貯金もできるという話だ。
▽
ハジメがベルナルダンにやってきて半月ほどが経過した。 彼が新しい環境に慣れてベルナルダン民としての志を新たにしている頃、一通の書状が役場に届いていた。
フリックが役場に訪れた際、オルソーが彼に声を掛けた。
「フリック、話がある」
「……? はい、何でしょうか?」
「お前宛……と言うより、お前に関する書状だ。 読んでみろ」
「はい」
フリックは封筒に入っていた羊皮紙に目を通すと、深いため息をついて頭を抱えた。
「とうとう来ましたか……」
「そりゃあ、あれから一切クレメント村に帰っていなければこういった事態も起こるだろう」
「それでも、まさかここまでお気持ち表明が早いとは思いませんよ」
フリックの握る手紙には以下のようなことが書かれていた。
フリックはクレメント村との契約を一方的に破棄し、それによって村が大きな損害を被った。 だから早く村に戻れ。 ついでにベルナルダン役場は町でのフリックの職務を放棄させ、今後一生村に身を捧げるよう契約を更新しろ。
纏めるとこんな感じだろうか。 その内容から、アーキアが相当お怒りだということが窺える。
「それもそうだな。 ではどうするんだ?」
「背に腹は変えられません。 少し気が早いですし勿体無い気もしますが、私も動くことにします。 つきましては……」
「分かっている。 長年の付き合いだから援助はしてやる」
「ありがとうございます。 ……困ったことに、内容からは数日以内にやってくるということですが」
「ああ。 だから急ぎで進めよう。 俺は今から父上に掛け合ってくる。 まぁ、悪いようにはならんさ」
「そう、願っていますよ」
二日後、クレメント村からアーキアがやってきた。 役所に到着するや否や、彼は物凄い剣幕で魔法使い組合の職員メジーナに詰め寄った。 しかし、予めそうなることが分かっていたため、メジーナは努めて冷静に彼への対応を行った。
「ではこちらへどうぞ。 すでに町長のトロイも中で待機しております」
「ん、な……なぜ町長が……?」
「それは直接お尋ね下さい」
本来同席するはずのない人物の名が出てきたことにアーキアは一瞬動揺したが、かぶりを振ってメジーナの後ろを歩く。
メジーナの案内を受け、アーキアはとある一室に通された。 そこは重要な会議などでしか使用されない大部屋だが、反面その参加者は少数。 アーキアとメジーナ、フリックとオルソー、そしてもう一人。
アーキアが部屋に入るとすぐに町長のトロイ=ベルナルダンと目が合い、会釈をしつつ促されるまま椅子に腰掛けた。
トロイの身体は小さくオルソーのような肉体を持ってはいないが、鋭い目と顔面に深く刻まれた皺は彼の内面の力強さを物語っており、他者に弱者という感覚を抱かせない。
室内にはコの字に長机が並べられ、アーキアから見て正面にはオルソーとフリックが腰を落ち着けている。 そして真ん中の机ではトロイが腕を組みつつ、今回の参加者全員左右に睨みつけている。
トロイが議長に落ち着いてしまっているので、アーキアは自身の思い通りに話し合いを進めることができなくなってしまった。 それが理解できたことで、アーキアは内心で苦虫を噛み潰す。
「揃ったようなので始めさせてもらう。 今回はアーキア=クレメントからの願いによってこのような話し合いの場が持たれた。 今回の議題に関わる契約自体はフリックとアーキアによって合意・作成されたものだが、今後フリックがベルナルダンを離れる可能性もあるということで、魔法使い組合からオルソー=ベルナルダン、そして町長である私も参加する運びとなった。 それではアーキア=クレメント、言い分を」
話し合いと称して始められたそれは、まるで裁判のような佇まいを見せながら開始された。
アーキアの言い分は手紙にあった通りで、今後もフリックの横暴が続いた場合は村に大きな損害が出続け、また今回のフリックの行動自体が契約に反した内容であるということだ。
確かにアーキアとフリックとの契約では、フリックは定期的に村に戻って村民としての仕事を全うしなければならないという内容が記載されている。 これに関して最近村にさえ戻らなくなったフリックの行動は契約を逸脱した行為であり、アーキアの言い分は間違っていない。 これに対してオルソーが反論する。
「しかしアーキア殿、それはフリックがベルナルダンから完全に撤退しなければならない程の理由になるのですかな?」
「……あまり契約に目を通されていないご様子。 契約にはこう記載されています。 『契約に違反した場合、フリックは自身の持つ一切の権利を放棄するとともに、その後永久にクレメント村に帰属しなければならない』、と」
「確かに、記載されている……」
「ベルナルダンへの滞在はフリックから願い出た内容であり、村よりも町に滞在する期間を多くしている部分にはこちらとしても大きな譲歩をしております。 ここまで譲歩しているにもかかわらず、こうも勝手に契約を違反されるのはクレメント村としてもいただけません。 ですので、これ以降フリックはベルナルダンから完全撤退させていただき、場合によっては今後ベルナルダンを訪れる機会を与えても良いと考えています」
その契約は役場を通した公正証書というよりも、口約束をそのまま書面にしたようなものだ。 なので本来ならあり得ないような内容が盛り込まれ過ぎているのだが、血判まで押されている以上その契約を無かったことにすることはできない。
とりわけ魔法使いという生き物は総じて契約を遵守するもの。 今回に関しては完全にフリックが悪であり、アーキアの言を完全に覆すことは困難だ。
アーキアは溢れる笑みを隠さず、してやったりという表情をフリックに向けている。 しかし、フリックは声を漏らさぬばかりか、一切の表情変化も来していない。 アーキアがそれを怪訝に感じていると、オルソーから更なる反論が飛んだ。
「しかしアーキア殿。 契約書にはこうも記載されている。 文頭には、『クレメント村の住人たるフリックに対して、以下の制約を定めるものである』、と」
「それがどうされましたか?」
「メジーナ、例の物をアーキア殿に」
「畏まりました」
アーキアは何が始めるのかと訝しげに眺めていると、オルソーに指示されて立ち上がったメジーナが一つの書類をアーキアの目の前に置いた。
「アーキア殿、読んでくだされ」
「……?」
アーキアはゆっくりとそこに記載されている文面に目と通し、そしてある部分で目を見開いた。
「な、ん……っ!?」
「どうされましたかな?」
今度はオルソーが勝ち誇った表情を浮かべている。
「ハ、ハッタリだ……! こんな文書の偽造が罷り通って良いはずがないッ!」
アーキアが声を荒げ、顔を真っ赤にして机を叩いた。 トロイの前だというのにこの荒れ狂い様は、下手したら何かしらの罰則を与えられても仕方のないほどだ。
ハァハァと身体を上下させているアーキアには、メジーナから渡されたそれは未だに信じられない内容なのだろう。
「それは直接私が確認し、許可を出した旨を記した証明書だ。 内容に一切の偽りはなく、そして全て耳を揃えて支払われている」
ここまで口を開いていなかったトロイが、アーキアにとって絶望的な事実を告げている。
「こん、な……このような横暴……!」
「横暴などと言われるな。 ここはフリックの努力を賞賛こそすれ、憤る場面ではないだろうに」
「では一体、どうやってこのような大金をフリック如きが用意できると言われるのか!? 金貨5000枚など……!」
契約書には、金貨5000枚で自由民となることが可能で、その場合に限りこの契約を破棄できるとの記載がある。 自由民とは本来そのような大金が必要な肩書きではないのだが、これはフリックが提案してアーキアがそこに吹っ掛けた形で成立した、謂わば法外な悪徳契約である。 しかしフリックは敢えてこれを飲んだ。 法外だからこそ、アーキアが絶対に成し得ないと思っているからこそ、そこに付け入るチャンスがあると考えたからだ。
「全て私の給金で揃えました。 」
「ば、馬鹿な……そんな、そんなはずは……。 月給が金貨30枚程度のお前が一体どうやって……!?」
アーキアは狼狽えている。
実のところ、足りない金貨の一部をオルソーが立て替えているのだが、きちんと5000枚を揃えたのは正真正銘間違いない。
「基本給は確かに金貨30枚です。 ご存じ無いかもしれませんが、そこに組合からの補助が入ることで給料は金貨50枚ほどになります」
「だが、税などを払えば吹いて消える金額だ……!」
「ええ。 ですが税は基本給にのみ掛かるものであり、納税は月に金貨3枚。 家屋は壁外に借りることで出費を抑えて月に金貨5枚。 食費も限界まで切り詰めて月に金貨6枚。 問題だったのが村への交通費を私持ちにさせられてしまったことで、さらに金貨8枚が毎月消えていました。 それでも、メインの仕事以外に日々こなしてきた依頼によって毎月金貨30枚以上の貯蓄が可能でした。 あとは十数年コツコツとこの生活を続ければ……わかりますよね?」
「ぐ……」
「つまるところフリックは契約に従い、金貨5000枚を揃えて自由民の地位を獲得したわけだ。 メジーナ、金貨をこちらに」
メジーナが一旦部屋を後にし、戻ってきた彼女は巨大な皮袋を抱えていた。 彼女はそれを徐にアーキアの目の前に置くと、紐を解いて中身を見せつけた。
見紛うことのない大量の金貨が皮袋には収められており、数千枚のそれらがアーキアに事実を訴えかける。
「こ、こんなものッ……そちらが用意──」
「この町長たる私が不正に関与したとでも?」
「ひっ……!」
アーキアが軽い悲鳴を上げて押し黙る。
アーキアの発言を遮る形でトロイから発せられた言葉はひどく殺意がこもっており、そして重いものだった。
トロイは不正を嫌っている。 それはアーキアも知っていることだし、トロイがルールを厳密に守っているからこそ、ベルナルダンは町としての地位を確かなものにしているわけだ。
「ベルナルダンとしてこのような違法な契約を無効にしないばかりか、罰則さえ与えていない。 今回は正式にフリックが契約を履行したものであり、契約内容に違反していない以上これを覆すことは許されない。 従って、フリックはすでにクレメント村の住民ではなく、自由民としてベルナルダンに居を構える一魔法使いということになっている」
「ですが……!」
「ですが、何だ? まだ私に醜態を見せつけるつもりか?」
「い、いえ……。 ただ、村の魔法使いを失うわけには……」
「そこに関しては、議題終了後に新たな契約を結べば良い。 それではアーキア=クレメント、今回の訴えを全て取り下げることでよろしいか?」
「……はい……」
半ば強引に黙らされてしまったアーキアだが、正規の手段で契約を突破されてはぐうの音も出ない。 彼が軽い気持ちで吹っ掛けた法外な金額をいとも簡単に突破されたことで、これ以上追求することはできなくなってしまった。 とはいえ、フリックはここまで10年以上の歳月を辛酸を舐めながら過ごしてきており、それは生半可な意志でやり遂げられるものではない。
「ではアーキア=クレメントも認めたということで、フリックはクレメント村から完全に独立した。 異論のある者は?」
そんな者、いるはずがない。
「では、私はこれにて……」
「待て」
アーキアが金貨袋を抱えて立ち上がろうとした時、トロイから制止の声が飛んだ。
「そう言えば、クレメント村での住民死亡が出たそうだな?」
「それは……はい」
「単なる事故としか報告されていないが、聞けば死亡した住民の暴走によって新たな魔法使いの芽が摘まれそうになったという話ではないか。 フリック然り、新緑たる魔法使い然り、そのような危険極まりない環境に彼らを置いておくわけにはいかない。 ということでクレメント村には内部調査のための遣いを出す。 その準備が整うまではここに居ていただこう」
「それ、は……」
村社会が村社会として成立するのは、そこを支配する人間を制する者がいないからだ。 そのため支配者の横暴が暗に許されているし、住民が叛逆などしてしまえば村未満の枠組み──つまり奴隷という身分にまで落とされてしまうことは想像に難くない。
基本的に、村という単位では住民ひとりひとりにまで国の管理が行き届いていない。 だからこそ村全体として体裁が保たれていれば良いわけで、村としての役割──上納などがきちんと行われていれば監査などは入らない。 しかしこのままクレメント村に調査の手が伸びれば、ひた隠しにしてきた後ろ暗い事実などが明らかとなってしまう。 場合によってはアーキアが村長という立場から下される可能性もある。
「クレメント村の環境については魔獣の侵入も確認されていることから、魔法使い組合からの打診でハジメとレスカの両名をベルナルダンの住民として預かることとなった」
「……ッ!」
アーキアの中には、先んじられたという怒りと共に、後手を引いている悔しさも渦巻いている。 だからこそアーキアは憎々しげにフリックを睨みつける。 それが負け惜しみとわかっていても、やめることはできないようだ。
「加えて、金貨5000枚をアーキア=クレメント個人に預けることはできない」
「な、何故!? それは横暴が過ぎるのではありませんか!?」
「一介の村の長がそのような大金を得ることなど、領主からは許されていない。 とりわけこの金貨は全てベルナルダンから支払われたものであり、見方を変えれば町が村に5000枚もの金貨を贈与したことにも見える。 これでは周囲の村々に示しが付かないし、そもそもあの契約自体は法外なものだ」
「それは先ほど認められたではありませんかッ!」
「確かに認めた。 ただし、直接的にこの金額を渡すわけにはいかない。 これは町としての決定であり、領主様も同じお考えだ」
領主の名まで出されては、アーキアはどうすることもできない。
トロイの発言が事実であれ偽りであれ、いずれにしても個人が大金を持つことは領主としても嫌うところだ。 とりわけ力のある村の長などが金銭を大量に獲得した場合、それを使って武装を整えて謀反を起こす可能性だってある。
村々の発展は喜ばしいことだが、それは領主の支配が叶ってこそだ。 発展した町や村であれば領主の息のかかった人間を潜り込ませて頭にすげ替えることで支配が可能になるが、発展の過程にある部分に手を出すことは難しい。 発展して力を持った連中が独立などを言い出せば、面倒ごとにしかならない。 だからこそ過剰な財の集中は避けられる傾向にある。
トロイは続ける。
「だからアーキア=クレメントの取れる手段を二つ提示する。 一つは、今後の村への機材援助など、物的支援の金銭の肩代わりをこの5000枚の金貨から行う。 もう一つは、町と村でのフリックの給金を基準とし、それを比した差額だけ持ち帰ることを許すというものだ」
「その差、とは……?」
「理解しているだろう。 基本給の差は概ね十倍。 したがって、アーキア=クレメントがこの場から持ち帰って良いのは金貨500枚が上限だ。 ただし、その場合は金銭の肩代わりには使用できない。 では、どちらを希望する?」
しばらく沈黙が続いた。
もしアーキアが後者を選択すれば、個人の資産を優先したとして調査も含めた心象が悪くなることだろう。 前者であれば村としての発展を期待でき、ひいては魔法使いを招き入れることも可能になるかもしれない。
もとより選択肢などあってないようなものだ。 金貨500枚は確かに大金だが、それによって得られる実利は少なく、アーキアの取れるのは一つだけだ。
「前者で……お願いします」
「心得た。 では、今後村の発展のためにこれらの金銭を使用する。 フリック、これで良いな?」
「ええ、村の発展ということであれば、私も望むところですので」
アーキアとしては魔法使い全てを奪われた上での敗戦だ。 村の発展という大義名分にはどうしても勝てず、彼の野望もここで潰えた。 これ以降、アーキアが大きく力をつけることは叶わなくなった。 手足を捥がれて飛び立つことを許されない彼は、ゆっくりと乾涸びていく運命なのだ。
「これで良かったのか?」
会議が終えられた室内に、オルソーとフリックだけが残っていた。
「良かった、とは?」
「いやなに、フリックはもっとアーキア殿を苦しめる選択をするのではないかと思っていたからな」
「他人を貶めても人生が豊かになる訳ではないですからね。 それはある種の興奮剤であり、一時的な快楽でしかありません。 謂わば甘味のようなもので、溶ければすぐに消えてしまうものです」
「お前がそれで良いなら、俺も構わないさ。 ただ、貸した金貨1000枚はしっかり返してもらうぞ?」
「ええ。 これからはベルナルダンだけで働くことができますから、一層仕事に力が入りますよ」
「ならいい」
ラクラ村の事件を皮切りとして、様々な事象が発生していた。 それは連鎖的に波及し、大きなうねりを以って世界へ影響を及ぼし始めるのだった。
住民には給料の約1割を納税する義務があり、支配体系によって多少変動するものの、ここから大きく外れることはない。 また特に指定がなければ、納税は貨幣によってでも現物によってでも問題はない。
農奴にとって収穫物を売るという一手間を考えれば現物での上納が最も簡単なのだが、売り方によっては大きな利益を見込める可能性もある。 ただ、それは貨幣の流通している町や都市などで可能な作業であって、そもそも貨幣によって取引の少ないラクラ村のような村落では不可能な芸当だ。
村という区分では、農奴が30日働いた場合の一般的な給料は金貨3枚程度だと言われている。 その上で家賃が月に金貨1枚、納税額が銀貨30枚程度なので、残った全てを食費につぎ込んだとしても一食に掛けられる金額は銀貨2枚弱ということになる。 それは黒パンと野菜スープが食べられる最低限の金額であり、食事内容は年中変わることはないので味気なく、また栄養も十分とは言えない内容だ。
壁内でしっかりとした職業を得ている人物──技術職だったり役所勤めの人間などは、大体の月給は金貨30枚程度だ。 ただ、壁内は家賃が割高なため、その半分ほどが家賃として回収される。 そこから税の金貨3枚を引けば、一食に掛けられる額の最大は銀貨13枚ほどだろうか。 しかし村と町では物価が二倍ほど異なるため、村を基準に考えれば一食に掛けられるのは実質銀貨7枚弱といったところ。 だとすると、町の給料がたとえ村の10倍あったとしても食の価値は3倍までしか上がらず、三人家族を一人で養うのであれば金貨30枚を稼いだとしても一食の価値は村と同等ということになる。
壁内に住む人間は決して裕福とは言えない。 むしろ同じ仕事をして壁外に住む方が賢明と言える。 その点フリックは倹約家だ。 壁外での家賃は金貨3枚程度が相場であるし、独り身ならむしろその方が貯金もできるという話だ。
▽
ハジメがベルナルダンにやってきて半月ほどが経過した。 彼が新しい環境に慣れてベルナルダン民としての志を新たにしている頃、一通の書状が役場に届いていた。
フリックが役場に訪れた際、オルソーが彼に声を掛けた。
「フリック、話がある」
「……? はい、何でしょうか?」
「お前宛……と言うより、お前に関する書状だ。 読んでみろ」
「はい」
フリックは封筒に入っていた羊皮紙に目を通すと、深いため息をついて頭を抱えた。
「とうとう来ましたか……」
「そりゃあ、あれから一切クレメント村に帰っていなければこういった事態も起こるだろう」
「それでも、まさかここまでお気持ち表明が早いとは思いませんよ」
フリックの握る手紙には以下のようなことが書かれていた。
フリックはクレメント村との契約を一方的に破棄し、それによって村が大きな損害を被った。 だから早く村に戻れ。 ついでにベルナルダン役場は町でのフリックの職務を放棄させ、今後一生村に身を捧げるよう契約を更新しろ。
纏めるとこんな感じだろうか。 その内容から、アーキアが相当お怒りだということが窺える。
「それもそうだな。 ではどうするんだ?」
「背に腹は変えられません。 少し気が早いですし勿体無い気もしますが、私も動くことにします。 つきましては……」
「分かっている。 長年の付き合いだから援助はしてやる」
「ありがとうございます。 ……困ったことに、内容からは数日以内にやってくるということですが」
「ああ。 だから急ぎで進めよう。 俺は今から父上に掛け合ってくる。 まぁ、悪いようにはならんさ」
「そう、願っていますよ」
二日後、クレメント村からアーキアがやってきた。 役所に到着するや否や、彼は物凄い剣幕で魔法使い組合の職員メジーナに詰め寄った。 しかし、予めそうなることが分かっていたため、メジーナは努めて冷静に彼への対応を行った。
「ではこちらへどうぞ。 すでに町長のトロイも中で待機しております」
「ん、な……なぜ町長が……?」
「それは直接お尋ね下さい」
本来同席するはずのない人物の名が出てきたことにアーキアは一瞬動揺したが、かぶりを振ってメジーナの後ろを歩く。
メジーナの案内を受け、アーキアはとある一室に通された。 そこは重要な会議などでしか使用されない大部屋だが、反面その参加者は少数。 アーキアとメジーナ、フリックとオルソー、そしてもう一人。
アーキアが部屋に入るとすぐに町長のトロイ=ベルナルダンと目が合い、会釈をしつつ促されるまま椅子に腰掛けた。
トロイの身体は小さくオルソーのような肉体を持ってはいないが、鋭い目と顔面に深く刻まれた皺は彼の内面の力強さを物語っており、他者に弱者という感覚を抱かせない。
室内にはコの字に長机が並べられ、アーキアから見て正面にはオルソーとフリックが腰を落ち着けている。 そして真ん中の机ではトロイが腕を組みつつ、今回の参加者全員左右に睨みつけている。
トロイが議長に落ち着いてしまっているので、アーキアは自身の思い通りに話し合いを進めることができなくなってしまった。 それが理解できたことで、アーキアは内心で苦虫を噛み潰す。
「揃ったようなので始めさせてもらう。 今回はアーキア=クレメントからの願いによってこのような話し合いの場が持たれた。 今回の議題に関わる契約自体はフリックとアーキアによって合意・作成されたものだが、今後フリックがベルナルダンを離れる可能性もあるということで、魔法使い組合からオルソー=ベルナルダン、そして町長である私も参加する運びとなった。 それではアーキア=クレメント、言い分を」
話し合いと称して始められたそれは、まるで裁判のような佇まいを見せながら開始された。
アーキアの言い分は手紙にあった通りで、今後もフリックの横暴が続いた場合は村に大きな損害が出続け、また今回のフリックの行動自体が契約に反した内容であるということだ。
確かにアーキアとフリックとの契約では、フリックは定期的に村に戻って村民としての仕事を全うしなければならないという内容が記載されている。 これに関して最近村にさえ戻らなくなったフリックの行動は契約を逸脱した行為であり、アーキアの言い分は間違っていない。 これに対してオルソーが反論する。
「しかしアーキア殿、それはフリックがベルナルダンから完全に撤退しなければならない程の理由になるのですかな?」
「……あまり契約に目を通されていないご様子。 契約にはこう記載されています。 『契約に違反した場合、フリックは自身の持つ一切の権利を放棄するとともに、その後永久にクレメント村に帰属しなければならない』、と」
「確かに、記載されている……」
「ベルナルダンへの滞在はフリックから願い出た内容であり、村よりも町に滞在する期間を多くしている部分にはこちらとしても大きな譲歩をしております。 ここまで譲歩しているにもかかわらず、こうも勝手に契約を違反されるのはクレメント村としてもいただけません。 ですので、これ以降フリックはベルナルダンから完全撤退させていただき、場合によっては今後ベルナルダンを訪れる機会を与えても良いと考えています」
その契約は役場を通した公正証書というよりも、口約束をそのまま書面にしたようなものだ。 なので本来ならあり得ないような内容が盛り込まれ過ぎているのだが、血判まで押されている以上その契約を無かったことにすることはできない。
とりわけ魔法使いという生き物は総じて契約を遵守するもの。 今回に関しては完全にフリックが悪であり、アーキアの言を完全に覆すことは困難だ。
アーキアは溢れる笑みを隠さず、してやったりという表情をフリックに向けている。 しかし、フリックは声を漏らさぬばかりか、一切の表情変化も来していない。 アーキアがそれを怪訝に感じていると、オルソーから更なる反論が飛んだ。
「しかしアーキア殿。 契約書にはこうも記載されている。 文頭には、『クレメント村の住人たるフリックに対して、以下の制約を定めるものである』、と」
「それがどうされましたか?」
「メジーナ、例の物をアーキア殿に」
「畏まりました」
アーキアは何が始めるのかと訝しげに眺めていると、オルソーに指示されて立ち上がったメジーナが一つの書類をアーキアの目の前に置いた。
「アーキア殿、読んでくだされ」
「……?」
アーキアはゆっくりとそこに記載されている文面に目と通し、そしてある部分で目を見開いた。
「な、ん……っ!?」
「どうされましたかな?」
今度はオルソーが勝ち誇った表情を浮かべている。
「ハ、ハッタリだ……! こんな文書の偽造が罷り通って良いはずがないッ!」
アーキアが声を荒げ、顔を真っ赤にして机を叩いた。 トロイの前だというのにこの荒れ狂い様は、下手したら何かしらの罰則を与えられても仕方のないほどだ。
ハァハァと身体を上下させているアーキアには、メジーナから渡されたそれは未だに信じられない内容なのだろう。
「それは直接私が確認し、許可を出した旨を記した証明書だ。 内容に一切の偽りはなく、そして全て耳を揃えて支払われている」
ここまで口を開いていなかったトロイが、アーキアにとって絶望的な事実を告げている。
「こん、な……このような横暴……!」
「横暴などと言われるな。 ここはフリックの努力を賞賛こそすれ、憤る場面ではないだろうに」
「では一体、どうやってこのような大金をフリック如きが用意できると言われるのか!? 金貨5000枚など……!」
契約書には、金貨5000枚で自由民となることが可能で、その場合に限りこの契約を破棄できるとの記載がある。 自由民とは本来そのような大金が必要な肩書きではないのだが、これはフリックが提案してアーキアがそこに吹っ掛けた形で成立した、謂わば法外な悪徳契約である。 しかしフリックは敢えてこれを飲んだ。 法外だからこそ、アーキアが絶対に成し得ないと思っているからこそ、そこに付け入るチャンスがあると考えたからだ。
「全て私の給金で揃えました。 」
「ば、馬鹿な……そんな、そんなはずは……。 月給が金貨30枚程度のお前が一体どうやって……!?」
アーキアは狼狽えている。
実のところ、足りない金貨の一部をオルソーが立て替えているのだが、きちんと5000枚を揃えたのは正真正銘間違いない。
「基本給は確かに金貨30枚です。 ご存じ無いかもしれませんが、そこに組合からの補助が入ることで給料は金貨50枚ほどになります」
「だが、税などを払えば吹いて消える金額だ……!」
「ええ。 ですが税は基本給にのみ掛かるものであり、納税は月に金貨3枚。 家屋は壁外に借りることで出費を抑えて月に金貨5枚。 食費も限界まで切り詰めて月に金貨6枚。 問題だったのが村への交通費を私持ちにさせられてしまったことで、さらに金貨8枚が毎月消えていました。 それでも、メインの仕事以外に日々こなしてきた依頼によって毎月金貨30枚以上の貯蓄が可能でした。 あとは十数年コツコツとこの生活を続ければ……わかりますよね?」
「ぐ……」
「つまるところフリックは契約に従い、金貨5000枚を揃えて自由民の地位を獲得したわけだ。 メジーナ、金貨をこちらに」
メジーナが一旦部屋を後にし、戻ってきた彼女は巨大な皮袋を抱えていた。 彼女はそれを徐にアーキアの目の前に置くと、紐を解いて中身を見せつけた。
見紛うことのない大量の金貨が皮袋には収められており、数千枚のそれらがアーキアに事実を訴えかける。
「こ、こんなものッ……そちらが用意──」
「この町長たる私が不正に関与したとでも?」
「ひっ……!」
アーキアが軽い悲鳴を上げて押し黙る。
アーキアの発言を遮る形でトロイから発せられた言葉はひどく殺意がこもっており、そして重いものだった。
トロイは不正を嫌っている。 それはアーキアも知っていることだし、トロイがルールを厳密に守っているからこそ、ベルナルダンは町としての地位を確かなものにしているわけだ。
「ベルナルダンとしてこのような違法な契約を無効にしないばかりか、罰則さえ与えていない。 今回は正式にフリックが契約を履行したものであり、契約内容に違反していない以上これを覆すことは許されない。 従って、フリックはすでにクレメント村の住民ではなく、自由民としてベルナルダンに居を構える一魔法使いということになっている」
「ですが……!」
「ですが、何だ? まだ私に醜態を見せつけるつもりか?」
「い、いえ……。 ただ、村の魔法使いを失うわけには……」
「そこに関しては、議題終了後に新たな契約を結べば良い。 それではアーキア=クレメント、今回の訴えを全て取り下げることでよろしいか?」
「……はい……」
半ば強引に黙らされてしまったアーキアだが、正規の手段で契約を突破されてはぐうの音も出ない。 彼が軽い気持ちで吹っ掛けた法外な金額をいとも簡単に突破されたことで、これ以上追求することはできなくなってしまった。 とはいえ、フリックはここまで10年以上の歳月を辛酸を舐めながら過ごしてきており、それは生半可な意志でやり遂げられるものではない。
「ではアーキア=クレメントも認めたということで、フリックはクレメント村から完全に独立した。 異論のある者は?」
そんな者、いるはずがない。
「では、私はこれにて……」
「待て」
アーキアが金貨袋を抱えて立ち上がろうとした時、トロイから制止の声が飛んだ。
「そう言えば、クレメント村での住民死亡が出たそうだな?」
「それは……はい」
「単なる事故としか報告されていないが、聞けば死亡した住民の暴走によって新たな魔法使いの芽が摘まれそうになったという話ではないか。 フリック然り、新緑たる魔法使い然り、そのような危険極まりない環境に彼らを置いておくわけにはいかない。 ということでクレメント村には内部調査のための遣いを出す。 その準備が整うまではここに居ていただこう」
「それ、は……」
村社会が村社会として成立するのは、そこを支配する人間を制する者がいないからだ。 そのため支配者の横暴が暗に許されているし、住民が叛逆などしてしまえば村未満の枠組み──つまり奴隷という身分にまで落とされてしまうことは想像に難くない。
基本的に、村という単位では住民ひとりひとりにまで国の管理が行き届いていない。 だからこそ村全体として体裁が保たれていれば良いわけで、村としての役割──上納などがきちんと行われていれば監査などは入らない。 しかしこのままクレメント村に調査の手が伸びれば、ひた隠しにしてきた後ろ暗い事実などが明らかとなってしまう。 場合によってはアーキアが村長という立場から下される可能性もある。
「クレメント村の環境については魔獣の侵入も確認されていることから、魔法使い組合からの打診でハジメとレスカの両名をベルナルダンの住民として預かることとなった」
「……ッ!」
アーキアの中には、先んじられたという怒りと共に、後手を引いている悔しさも渦巻いている。 だからこそアーキアは憎々しげにフリックを睨みつける。 それが負け惜しみとわかっていても、やめることはできないようだ。
「加えて、金貨5000枚をアーキア=クレメント個人に預けることはできない」
「な、何故!? それは横暴が過ぎるのではありませんか!?」
「一介の村の長がそのような大金を得ることなど、領主からは許されていない。 とりわけこの金貨は全てベルナルダンから支払われたものであり、見方を変えれば町が村に5000枚もの金貨を贈与したことにも見える。 これでは周囲の村々に示しが付かないし、そもそもあの契約自体は法外なものだ」
「それは先ほど認められたではありませんかッ!」
「確かに認めた。 ただし、直接的にこの金額を渡すわけにはいかない。 これは町としての決定であり、領主様も同じお考えだ」
領主の名まで出されては、アーキアはどうすることもできない。
トロイの発言が事実であれ偽りであれ、いずれにしても個人が大金を持つことは領主としても嫌うところだ。 とりわけ力のある村の長などが金銭を大量に獲得した場合、それを使って武装を整えて謀反を起こす可能性だってある。
村々の発展は喜ばしいことだが、それは領主の支配が叶ってこそだ。 発展した町や村であれば領主の息のかかった人間を潜り込ませて頭にすげ替えることで支配が可能になるが、発展の過程にある部分に手を出すことは難しい。 発展して力を持った連中が独立などを言い出せば、面倒ごとにしかならない。 だからこそ過剰な財の集中は避けられる傾向にある。
トロイは続ける。
「だからアーキア=クレメントの取れる手段を二つ提示する。 一つは、今後の村への機材援助など、物的支援の金銭の肩代わりをこの5000枚の金貨から行う。 もう一つは、町と村でのフリックの給金を基準とし、それを比した差額だけ持ち帰ることを許すというものだ」
「その差、とは……?」
「理解しているだろう。 基本給の差は概ね十倍。 したがって、アーキア=クレメントがこの場から持ち帰って良いのは金貨500枚が上限だ。 ただし、その場合は金銭の肩代わりには使用できない。 では、どちらを希望する?」
しばらく沈黙が続いた。
もしアーキアが後者を選択すれば、個人の資産を優先したとして調査も含めた心象が悪くなることだろう。 前者であれば村としての発展を期待でき、ひいては魔法使いを招き入れることも可能になるかもしれない。
もとより選択肢などあってないようなものだ。 金貨500枚は確かに大金だが、それによって得られる実利は少なく、アーキアの取れるのは一つだけだ。
「前者で……お願いします」
「心得た。 では、今後村の発展のためにこれらの金銭を使用する。 フリック、これで良いな?」
「ええ、村の発展ということであれば、私も望むところですので」
アーキアとしては魔法使い全てを奪われた上での敗戦だ。 村の発展という大義名分にはどうしても勝てず、彼の野望もここで潰えた。 これ以降、アーキアが大きく力をつけることは叶わなくなった。 手足を捥がれて飛び立つことを許されない彼は、ゆっくりと乾涸びていく運命なのだ。
「これで良かったのか?」
会議が終えられた室内に、オルソーとフリックだけが残っていた。
「良かった、とは?」
「いやなに、フリックはもっとアーキア殿を苦しめる選択をするのではないかと思っていたからな」
「他人を貶めても人生が豊かになる訳ではないですからね。 それはある種の興奮剤であり、一時的な快楽でしかありません。 謂わば甘味のようなもので、溶ければすぐに消えてしまうものです」
「お前がそれで良いなら、俺も構わないさ。 ただ、貸した金貨1000枚はしっかり返してもらうぞ?」
「ええ。 これからはベルナルダンだけで働くことができますから、一層仕事に力が入りますよ」
「ならいい」
ラクラ村の事件を皮切りとして、様々な事象が発生していた。 それは連鎖的に波及し、大きなうねりを以って世界へ影響を及ぼし始めるのだった。
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