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第3章 Intervention in Corruption

第63話 扇動

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 モルテヴァでの権力者会議──。

「急な招集で済まない。 緊急で協議したい案件があったので皆を呼ばせてもらった」
「お主からの招集は初めてだったからのう。 余程重要な案件なんじゃろ?」

 最長老のリヒトがそう促したことで、会議は滞りなく進められる。

 会議の参加者はリヒトの他にハンターギルド長、魔法使い組合長、出入管理部門長、そして貴族区画から平民区画までのそれぞれの区長となっている。 他にも様々な部門の長は存在しているが、下位組織の長ほど多忙なため不参加な場合が多い。

 「では……」と前置きして、ハンターギルド長であるネイビス=バルバロイが話を始める。

「これまで数多のハンターが未開域で命を落としているのは周知の事実だが、そのほとんどは死因がはっきりしている。 だがその中で、ウルというハンターが所属したパーティのメンバー死因は不明なものが多かった。 今回はウルに関わる消息不明のハンターについての議題だ」
「ウルと言えば、若手の中でも有能なハンターと聞くなぁ。 それ以外はネイビス以上の情報を私たちは持ち合わせていないよ。 続けてよ」
「これまでウルが所属したパーティは、その悉くが壊滅の憂き目に遭っている。 犠牲者はこの三年で十余名。 事件はいずれも未開域内で起こっており、誰一人死体として見つかっていないのが実情だ。 我々ハンターギルドとしてはこれを重く受け止めていて、ウルを犯人と仮定して調査を行なっていた。 そして今回、一歩進んだ情報を入手することができた」
「続けたまえ」
「先日、死んだと思われていたハンターが生存してモルテヴァへ戻ってきた。 その者はウルによって未開域内に囚われていたが、死を偽装して命からがら逃げ出すことに成功したようだ。 その上でモルテヴァまで情報をもたらしてくれたが、あえなく死亡してしまった」

 ネイビスの話す内容は、他の面々を強く惹きつける。

「そのハンターに追悼の意を表しよう。 その者情報によってウルが犯人と確定したのか?」
「いいえ、リヒト殿。 ですが恐るべきことに、ウルは魔人と思しき存在と結託し、あまつさえ未開域奥地で非道な実験を行なっていることが伝えられています」
「ま、魔人だと……!?」
「どこかに潜伏しているとは思っていたがのう。 ようやく尻尾を見せたか。 情報をもたらしたハンターには感謝してもしきれんのう」

 魔人という単語に、リヒト以外の参加者は椅子から立ち上がって驚いている。 魔人はそれだけ脅威の象徴であり、遭遇は回避できない死を意味するほどだ。

「皆、話を続けて問題ないか?」
「あ、ああ……。 聞き慣れ無い単語に驚いてしまったよ。 どうぞ続けてくれ」
「この情報は件のハンターによる口頭での提供であり、記憶を弄られていたようなので全てを真実だと把握することは難しかった。 それでも彼の記憶から、人間を無惨に切り刻むような内容は確認された」
「真実だとすれば酷いな……」
「魔人の存在可能性が確認できただけでも概ね十分な成果じゃが、お主が儂らを召集するということは情報共有だけが目的では無いんじゃろう?」
「そうですね。 ウルは近く、複数のハンターによる未開域開拓依頼を申請しています。 ウルに関わったハンターが消息を断つのは、彼自身から発せられた人員募集が行われた時ばかり。 しかしハンターによる口頭での情報提供のみなので、ウルを犯罪者と断定することができていません。 そこでまず、リヒト殿のパーティに事実確認を行なっていただきたく。 可能であれば、ウルを捕えていただければ……」
「それは若に確認してからじゃな。 まぁ、拒絶はされないとは思うがの」
「畏まりました」

 モルテヴァにおいて最も信頼を置くことができルのは、ユハンとリヒト、そしてモノからなるパーティだ。 なおかつ未開域に最も出入りしているのがこのパーティということもあり、もし魔人が居ても対応できそうという理由での抜擢だ。

「リヒト殿以外の面々には、魔人およびそれに類する者の躍動に対応できるように町の防備を固めてもらいたい。 加えて、ウル以外の魔人と繋がりのある人間を探し出すことも必要だと考えられる」
「やはり魔人の手先は一人では無い、か」
「現在奴隷区画で進行中の失踪事件との関連も見直さなければならないな。 奴隷だけでなく魔導具さえも研究材料に用いられていたら、面倒事が増えすぎる」
「出入管理部門が住民全員の記憶を読んで確認するというのはどうだ?」
「それでは負担の偏りが大きすぎる。 魔法使い組合と分担して──」

 急な問題の浮上によってそれぞれの長が口々に発言し始め、会議は混沌を生じ始めた。 どの部門が担当すべきか、どこが資金を負担すべきかなど、その他今回の議題とは関係の無い話題まで持ち上がり、収拾がつかなくなっていった。

 最終的にユハンが快諾したことでリヒトはウルを追って未開域入りを果たした。

 本日は、魔人を刺激して魔物の群れが未開域から溢れ出した場合に備えて多数のハンターが未開域付近で待機している。 その多くは本当の内容を知らされておらず、魔物の活性化対策という名目で安くはない金銭に釣られて持ち場に付いている。

 その頃、未開域内部では──。

「さて、どう出てくるかのう。 逃げ出したとて、儂の空間から出られないことにはすぐに気づくはずじゃ。 解除条件は儂か対象の死のみじゃからのう」

 リヒトは燃え盛る森林火災の中で涼しげに敵を待つ。

 湿気しかない密林の気候にも関わらず、リヒトの周囲──いや、彼の作り出した空間内の木々は全て着火・燃焼している。 すでにここは密林とは呼べず、蒸せ返る熱を孕んだ地獄へと変貌してしまっている。

「出口ハ無イ。 脱出条件ヲ満タスマデ、一生コノママダロウ」
「くそっ……! 良いところで邪魔を……」

 炎の中を走り回ったのだろう。 魔人は全身を爛れさせた状態でウルの元へ戻ってきた。

 現在ウルは地上から伸ばした石柱の上に岩の囲いを作って火から退避している。 しかし周囲の木々が燃え尽きるまではまだまだ時間が掛かりそうで、このままではウルの方が先に熱で息絶えてしまうだろう。 隠れたとて、空間影響を全て無視はできないのだから。

「君はこの空間を壊すことはできないのか!?」
「奴ヲ上回ル強度ノ魔法サエ放テバ可能ダ。 少ナクトモ、我ハ持チ合ワセテイナイガナ」
「チッ、役立たずが……!」
「コノママデハ、オ前モ永クハナイ。 サッサト取リ込メ」
「まだ完成には程遠いっていうのに……。 せめて今回のやつらを実験に使った後にして欲しかったよ」

 ウルは懐から特殊な魔石を取り出した。 薄紫色で脈動したそれは、到底まともな外見をしていない。

「ドウシタ……?」

 いつまで経っても動こうとはしないウルに、魔人は違和感を覚える。

「人間をやめるんだよ? 少しくらい迷ったって良いだろう……」
「貧弱ナ人間デ在リ続ケル意味ヲ理解デキンナ」
「生来魔人の君には分かりっこないな。 あーあ、短い人生だったな」

 ゴクン──。

 ウルは意を決して魔石を飲み込んだ。

「ア……あァ……あぁアぁッ……ッ!」

 途端、ウルは狂ったように痙攣し始めた。 目は血走り、全身の血管が浮き上がり、呼吸困難からか喉を押さえるような動きで醜く蠢いている。

 ウルが飲み込んだのは、生きた人間の中で熟成させた魔石。

 魔石を体内に存在させているのは魔人や魔物の類であり、魔石を取り込むことで人間から大きく離れてしまうのは想像に難くない。 一部では魔法使いの性能を上昇させる目的で魔石を利用した実験が行われているが、その過程で魔人など生まれようものなら甚大な被害は免れないため、魔石自体を肉体に埋め込むようなことは行われない。 しかしこういったことは誰しも一度は考えることで、とりわけ成長に限界を感じた魔法使いなどが実行してしまう最後の手段だ。 そして結果は当然失敗に終わり、魔石による影響に耐えられず肉体が先に朽ちてしまうという。

 ウルは自らの能力を信じて疑わない。 しかし周囲の魔法使いと比較した際に、伸び代の差を感じてしまっていた。 だからウルは数年前に未開域で偶然接触した魔人と取引をして、独自に実験を進めてきた。 魔人に人間の情報を流し、供物として人間を捧げることで魔人の協力を取り付けた。 その過程で、人間の中で魔石を馴染ませる方法を思いつき、これによって魔石による肉体影響を抑えようとした。

 ウルが飲み込んだのは、現段階で得られる成果物の中でも最高の魔石。 しかしながら改善の余地は無限にあったため、未完成なそれを取り込むことには抵抗があった。

「ぐゥッ……アが、ぁ……」

 魔人が眺めるなか、ウルの肉体が黒く異形に変化し始めた。


          ▽


「ドミナ、話がある」
「……はい? 何でしょう」

 大量のハンターが未開域への対応へ向かった後、ドミナはギルド長のネイビスから呼び出された。 これはドミナがエマの尋問を終えた直後でもある。

「ウルというハンターを知っているな?」
「ええ、まぁ。 将来有望な若手ですから。 彼がどうかしました?」
「実はな……──」

 ネイビスによって、ウルを取り巻いている状況が話された。 その内容はモルテヴァのトップしか知ってはいけないものだ。 しかしドミナは重要情報を流してもらえる程度には信頼を勝ち取っていた。

(意味不明な依頼だったけど、そういう意味だったのね。 雑魚のハンターまで馬鹿みたいにお金をばら撒く理由がやっと分かったわ。 ユハンもあの足でウルの逮捕に向かったのね)

「なるほど、ハンター達は肉壁要員ですか」
「事実だが、あまりそういう言い方をするな。 とにかくそういうことで、現状町の戦力が少なくなっている」
「……私も町の防衛に参加しろ、ということですか?」
「そうだ。 このタイミングで動き出す連中がいないとも限らない。 最近のモルテヴァはきな臭いことばかりだからな。 ウルに与する人間だけではなく、失踪事件に関わる人間だったり、もしかしたら魔人が町に入り込んでいるかもしれない。 これらに関して出入管理部門の連中も対応に当たるとは言っているが、奴らが動くわけはないと俺は思っている。 エクセスは最も権力のある部門だということにあぐらをかいているから、大規模な暴動でもない限りは重い腰を上げんだろうな」
「厄介な連中ですね」

(ふーん、エクセス=ナクロは消極的なのね。 ということは下位区画のデミタスとカチュアも動かないってことか。 動いてくれたら暗殺の機会もあったかもしれないけど、動かないなら動かないで出来ることはありそうね)

「何かが起こるとすれば平民区画か奴隷区画だろう。 お前は不審な人物を探して対処に当たれ。 ハンターギルドから提案した問題の手前、ここで騒ぎが起こって我々対応に不備が出れば経営も立ち行かなくなるからな」

(ギルドが無くなったら他の部門に向かう口実ができるから別に構わないんだけどね。 まぁ、このタイミングで隠れ蓑を失うのも面倒っちゃ面倒か。 できれば今日はエマから入手した魔導具の解析に時間を充てたかったんだけど、仕方がないか)

「大半のハンターが町の外ということであれば仕事もなさそうですし、指示に従います」
「俺はギルドから動けないから、何かあれば報告に戻ってくれ」
「分かりました。 ところで、リセスを同伴させるのはアリですか?」
「あまり事情を知る人物を増やしたくはないが……良いだろう、連れて行け」
「ありがとうございます。 では行って参ります」

 ドミナはリセスを連れてギルドの外へ。 道すがら、得た情報の共有に入る。

「そのような事情があったのですか。 姉さんはどうされるつもりですか?」
「ちょっと早いけど、騒動を煽る方向で動くわ。 もちろん何もしてくれない可能性もあり得るけど、奴隷区画に面白そうな人物がいるからそこを当たってみるつもり」
「話が見えませんが……。 それに、その腕輪の色では奴隷区画に入れないのでは?」
「まぁ、こっちは任せておいて」
「そうですか。 姉さんの動きは分かりましたが、私は何をすれば?」
「リセスは平民区画の人間を狂わせて出入管理部門を表に引っ張り出して欲しいのよ。 ついでに殺してくれると助かるわ」
「簡単に言いますけど、カチュア=テザーに狙われて生き残る自信はありませんよ?」
「最悪殺さなくてもいいわ。 私たちの知らない彼女の能力を明らかにさえできれば、次に繋げられるだろうしね」
「バレない程度に頑張ってみます」
「さっすがリセス。 できないって言わないのが偉いわ」
「……姉さんの無茶振りには慣れましたから」
「じゃあ良い感じに平民区画を荒らしておいて。 私の方もすぐに燃料を投下できるようにするから」
「ではご武運を」
「リセスもね」

 二人は商業区画を下り、それぞれの目的地へ。

 途中、ドミナはエマを見かけて声を掛けた。

「ド、ドミナさん……どちらへ……?」
「話すことがあるけど、急ぎの用事だから着いてきなさい」
「は、はい……」

 エマが誰かと行動を共にしていると言うのは平民区画の人間にとってイレギュラーの事態だが、ドミナの腕輪の色が勝手な解釈を住民に与えて黙らせる。

「今からモルテヴァを荒らすわ」
「……え? えぇ……!?」

 エマは派手に驚くが、すぐに両手で口を開いて声を抑える。

「本来の予定とは違うから領主ロドリゲスを殺すまでには至らないと思うけど、町を機能不全にすれば今後の作戦にも良い影響が出ると思うのよね。 そこであなたには、奴隷区画を裏で牛耳ってる人間の元まで私を案内し欲しいの。 できるでしょ?」
「で、できますけど……でも……」
「でも、何?」
「ひぅっ……や、やります……!」

 ドミナに睨まれ、エマはすぐに意見を撤回した。 すでに二人の間には主従関係が成立していて、ドミナに逆らうとハジメにどんな危害が及ぶか分からないからだ。

「え、えっと……あたしはその人に直接会ったことがなくて……」
「仲介する人物には会ったことあるんでしょ? それなら大丈夫でしょ」
「そうですけど……。 あの、えっと……」
「そんなにオドオドと話さないでくれる? 意見があるならハッキリ言いなさい」
「は、はい……。 奴隷区画って、ドミナさんの腕輪で入れるんですか……?」
「本来は入れないわね。 緊急の申請すらしてないし、検問で追い返されるのは確実ね」
「それじゃあ、どうやって……?」
「あそこの兵士、ハジメ君をイジメてくれたのよ。 ついでにあなたも」
「……? 私はイジメられてないです、けど……」

 急に分からない話の流れになり、エマは当惑した。 しかしドミナの次の発言でその意図を理解することとなった。

「だから殺すわ。 検問所の奴らを皆殺しにしたら、問題なく通れるでしょ?」
「え……」
「時間が無いからゆっくり拷問できないのが残念だけどね。 じゃあ話は終わり。 遅れずに付いてきなさい」

 当然のように猟奇的な発言を放つドミナにエマは恐怖しつつ、それでもドミナに続くしか無かった。

 同じ頃──。

 リセスは魔法発動に備えて空気中にマナを散布していた。

「さて……。 あなた方に罪はありませんが、私のために少々動いてもらいましょうか」

 リセスは黒い魔導書を開きながら、マナの放出を継続する。 それらマナは周囲の一般市民へ経皮的・経気道的に取り込まれていく。

「発症しなさい。 ──《類塩基アルカロイド》」

 発動された魔法は、リセスを中心として波紋を広げるように影響を及ぼしていく。

「ッ……!?」

 まずリセスから数メートルの位置にいた住民がブルリと震えた。

「摂取量を確認できないのが残念ですが、しっかりと効果は表れているようですね」

 リセスから離れた位置にいる人間たちも、次々と妙な挙動を示し始めた。 彼らは一様に顔を激しく左右させ、血走った目で何かを探すような仕草をしている。

「あ……が……」

 老若男女問わず、リセスのマナに触れた全ての人間に同様の症状が見られている。 その様子を訝しんでいる人間もまた、速やかに同じ末路を辿っていく。

 叫びとも呻きとも取れない奇妙な声が町中に響き始めた。 それらは次第に怒声や罵声に変化し、発症した者の目的地に向けた足音が大きくなる。

 あらゆる音は非発症者の恐怖を煽り、リセスのマナ散布範囲以上に人間を巻き込んでいく。 逃げ惑う者が不幸にもマナの効果範囲に飛び込んでくるため、発症者は放っておいても増えていくのだ。

「あなた方の敵は町の衛兵や兵士たち、そしてカチュア=テザー。 それらを殺さねば、怒りは解消されませんよ」

 リセスの固有魔法である《変異毒ミュタジェン》は、あらゆる毒性物質への変異特性を持つ弱毒を作り出す。 その種類は、単純な毒性物質から有益な薬理作用を持つものまで多種多様だ。

 《変異毒》は発動段階でまず、大きさ1μmにも満たない全く毒性の無い粒子状の物質を生み出す。 これを対象に摂取・蓄積させることが、魔法完成の前提条件だ。 その上で更にリセスのマナを作用させることで、ようやく《変異毒》は彼女の意図した毒性を発揮するようになる。

 今回リセスは、幻覚作用を持つ《類塩基》として毒性を発揮させた。 その幻覚は住民に抗えない殺意を生じさせ、なおかつ正常な判断力も消失させている。

「下手にマナをケチって目撃者を増やしてしまうのもあれですから、とりあえず全住民を発症させておきましょうか」

 リセスはなおもマナの散布範囲を広げ、彼女の歩みは阿鼻叫喚の渦を作り出す。

 住民がなぜリセスの魔法影響を回避できないかといえば、その体内に《変異毒》で作り出した物質を大量に抱えているからだ。 リセスが日々せっせと生み出したそれらは水道に乗せられ、飲水として住民の身体に届いている。 その他、住民が口にする農作物から食肉に至るまであらゆる部分にリセスの手が及んでいる。 つまりモルテヴァの全住民は、いつ発症するか分からない毒という爆弾をリセスによって埋め込まれていると言える。

 一方でリセスの毒は魔法使いに対して全くと言っていいほど効果を持たない。 彼女が《変異毒》で作り出した物質はひどく脆弱で、魔法使いのマナに触れれば即座に変異活性を失ってしまう程度のものだ。 しかし一度発動されてしまえば、非魔法使いに対して絶対に抗えない強制力を生じさせるシロモノでもある。 だからと言ってリセスが魔法使いに対して無力というわけではなく、ドミナと同じく毒属性の彼女が使用する魔法は当然他にも存在している。

「おっ、と……」

 暴徒と化した住民がリセスの前を走り抜けていった。 彼らの中にはリセスと仲良くしていた者も少なからず存在していたが、彼女の任務の前にはそのようなことなどまるで関係なかった。 リセスにとっては姉と任務が全てで、それ以外はどうでも良い事象なのだ。

「姉さんはうまくやっているでしょうか」

 リセスの呟きは、彼女の生み出した悲劇の音色によって容易に掻き消された。
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