Retry 異世界生活記

ダース

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第2章.少年期

63.卒業試験その2

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実技試験が始まった。

「それでは、第3トーナメントからですね!どんどん行きましょう!」
普段よりなぜか微妙にテンションの高いジムニー先生がそう言うと、トーナメント順に生徒が出てくる。
対戦する2人の間には副団長ザルマンが立ち…
「それでは…始め!」

そう言うと、生徒両者がお互いに武器を打ちつけ合い、試合が始まった。

両者が武器で打ちあい、片方の剣撃が相手の首元に当たった瞬間、

「止め!それまで。」
と副団長ザルマンが試合を止めた。

剣撃を当てた生徒の勝ちのようだ。

その後順調に試合が進む。
わりとサクサク試合は進むなーと思いつつ試合をちら見しながら自分の試合の準備を進めた。

「それでは、次は第1トーナメントの試合を始めます!」

なんだか先ほどまでより、周りで試合を観戦している人の数が多い。
第1トーナメントに出場する生徒は両親から声を掛けられている。


「頑張ってね!推薦状!勝ち取るのよ!」
どうやらあの子はだいぶ両親にプレッシャーを掛けられているな…

「怪我しないでね?棄権してもいいのよ?」
どうやらあの子はだいぶ心配されているようだ。

「あなたも参加なさるのですか?推薦状はお持ちでしょうに…。2枚もらっても意味はありませんよ?」
ん?あれは…小奇麗な少年。やたらと周りに人がいるな…。
お?…あれは…課外授業の時に護衛してくれた冒険者の人たちじゃないか?あの見覚えのある結構高そうな防具…とうらやましげに見る。
しかしなんだか親しげに話しているな…親戚か?


「クルス、頑張るのよ?」
俺の両親も近くで応援している。

「うん!行ってくるよ!」



「それじゃあ1回戦です!出場する生徒は準備してください!」

1回戦の始まりだ。

というか1回戦は俺だ。
ということで前に出る。
対戦相手は隣のクラスの生徒のようだ。俺と同じくショートソードを持っている。



「それでは構えて…始め!」
ザルマンの合図とともに相手の生徒が突っ込んでくる。

…が、いつも修行をしているコルトの動きに比べると圧倒的に遅く、モーションも大きい。

ブンッと上から振り下ろした剣を左に避け、相手の首元に剣を突き付けた瞬間、

「止め!そこまで。勝者、クルス!」
ザルマンが試合を止め、俺は無事1回戦を突破した。

…まあこの辺りは余裕だ。
前世の部活での経験もあるので、推薦状がかかってる分、少し申し訳なさを感じる。
…が、やるからには全力だ。

「おめでとう!クルスくん!」
ロッテが話しかけてきた。
首元に以前市場で買った黄金こがね色の魔石をはめ込んだペンダントが光る。
気に入っているようだ。

「ありがとう!次はロッテの試合だな。がんばれよ!」

そう。次の試合はロッテだ。
召喚獣使うのかな…。注目だ。



「それでは構えて…始め!」
ザルマンの合図とともにロッテの試合が始まった。

試合が始まると、お互いに後ろに下がり、出方でかたうかがう。

すると…

「我に従属せし者よアテーリアの名に誓い顕現せよ我の名はロッテ・グラフティ!」
ロッテは召喚魔法の詠唱を始めた。

ほほう…距離を取ったのを確認してから召喚魔法の詠唱を始めるとは…。
しっかり者を装っているだけのことはある…と感心しながら試合を見る。

詠唱が終わると、地面に魔法陣が現れ、パアッと地面が光り、ネズミの召喚獣が現れた。
ロッテの召喚獣、ネズミの魔物、その名もポルンだ。

「ポルン!左から攻撃よ!」

「チュー!」

ロッテがポルンにそう声を掛けると、ポルンは相手の左側に走り込む。

「…くっ!」
相手は向かってきたポルンに向けて武器を構える。

その瞬間、ロッテは相手の右側にから攻め込むよう走り出した。

「チュー!チューチュー!」

「くっ…!」
ブン!ブンブンッ!

ポルンは相手に着かず離れずで攻撃をうまいこと交わしている。


「それまで!勝者、ロッテ!」

「え?」
急に試合終了の合図を出したザルマンに驚き、相手が振り返ると、ロッテの武器が背中のすぐ後ろに当てられていることに気づく。

ロッテの召喚獣に気を取られている間に、ロッテに背後を突かれてしまったのだ。
おお…なんかお見事だな…

「ロッテ、いつの間にあんな戦い方を覚えたんだ?」

「えへへ…秘密!」
ご機嫌な感じだが、秘密のようだ。



試合は着々と進む。

メルも危なげなく1回戦は突破した。
2本のナイフの武器が相当合っているように見える。
…というかすばしっこいな…。



「続いて…2回戦です!」
ジムニー先生のその声に俺は前に出る。

次の俺の試合相手はロッテだ。

ん~…召喚獣を出されたらめんどうだな…。
…使い時か…。
そう思い、俺はポケットの中に手を入れ、試合開始の合図を待つ。

「…クルスくん?なんでポケットに手を入れてるの…?…油断したら負けちゃうんだからね!」
なんだか俺の姿勢にロッテが怒ってしまった。

そういうつもりではないんだけどな…
まあいいか…

ロッテはやたらと俺から距離をとり、立っている。
…これは……

「それでは構えて…始め!」
ザルマンの合図とともに試合が始まった。

「我に従属せし者よアテーリアの名に誓…」
試合が始まった瞬間予想通り、ロッテは召喚魔法の詠唱を始めた。

俺から離れて立っていたのはそのためだ。…まあ予想通りだ。
そして俺の秘策を披露する時が来た。

「ほっ!」ブンッ
「ふんっ!」ブン!

俺はポケットに入れておいた石を取り出し、ロッテに向かって投げた。

女の子に向かって投げるのは気が引けるが、防具も付けてるし、今日はしょうがないと、思いっきり投げる。

「きゃっ!」
「や…やめ…っ」

飛んできた石に驚き、ロッテの詠唱が止まる。

俺は石を投げつつも、徐々にロッテとの距離を詰める。

「ふっ!」ブンッ
「ふんっ!」ブン!

「わわっ!」
「ま…まって!」

そして、距離の詰まったロッテの首元にピタ…と武器を突き付けた。

「それまで!勝者、クルス!」

完勝である。
今日までの日々の鍛錬の賜物たまものだ。

MPを節約したいけど少し離れた相手に攻撃したい。
攻撃魔法が使えない。

そんな時は石をぶん投げたらいいのである。
魔法は1つの手段であって、目的ではないのだ!



「もー…ずるいよー…クルスくんー…」
ふてくされた顔でロッテが俺を見る。

「戦いにずるいも何もないぞ?武器だって事前にジムニー先生に確認してもらったし。」
そうそうジムニー先生も「あら、石ころ?べつにいいけど…」と言っていた。

「もー…。じゃあ絶対優勝してね!」

「わかったよ!」
もちろん優勝するつもりだが、ロッテの無念も晴らすべく、俺はさらに決意を固めた。


お…次はメルの試合か…。
対戦相手は……小奇麗な少年か…。
…メル…頑張れ…。

ちなみに小奇麗な少年はどうやら自前らしい、小奇麗な鎧を着ている。
武器もなんだか小奇麗な装飾の付いた剣だ。

おいおい…ジムニー先生…あの武器もOKなのか?
もー…と思いつつ、試合を見る。


「それでは構えて…始め!」
ザルマンの合図とともに試合が始まった。

試合開始の合図とともにメルは小奇麗な少年に向かって走り出し、2本のナイフを打ちつける。
しかし、小奇麗な少年はうまいことよけながら応戦している。

「ほっ!」
ブン!

「やあっ!」
ブンッ!

「んん~…っ!!っとやぁっ!」
ガンッ!

「それまで!」
副団長ザルマンが試合を止める。

メルは自分の攻撃が避けられ続けたことに焦り、大きく踏み込んだところを反撃されてしまったようだ。



「うぅ~…負けちゃったぁ…」
しょんぼりしながらメルが帰ってきた。

「おつかれ。でもおしかったよ。」
メルも結構いい攻撃してたし、と慰める。

「う~ん…でも速さなら勝てると思ったんだけどな~…それも負けちゃってたかも…小奇麗な少年あの子何レベルなんだろう…。」

なに!?
メルは結構すばしっこいと思ったけどな…。
戦ったメルがそう感じるということはなかなか手ごわいところがあるな…。


その後、準決勝、
俺の試合は先ほど俺がロッテと戦った時と同じ戦法で対戦相手に再び完勝をおさめた。
…さっきの俺の試合を見ていなかったのか…?
優勝候補筆頭…かはわからないが、対戦相手の試合を見るのはとても重要なことだぞ…?
と思いつつ、ありがたく勝利を貰っておく。
ちなみに俺のこの戦法は同じ相手にはたぶん通用しないので注意が必要だ。


もう1つの準決勝はと…と次の試合に目をやると、
小奇麗な少年が戦っていた。
対戦相手は手に杖を持っている。

杖は先生が準備してくれた武器の中に無かったな…。
自前の武器か…。というか杖ってなんか役に立つのか?
魔法使いっぽい感じは出るけど、実際手に持つのは剣とか槍の方がよさそうに見えるけど…。
でも雰囲気って大事だからな…。形から入るってこともありだしな…。
たぶん、あれを持つと普段より魔法が使えそうな気持ちになるとか…そういうことなんだろう…。
そんなことを観察しつつ試合を見る。

すると、対戦相手の少年が魔法を唱え始めた。
「火の女神めがみカムイよ。ともはなて!ファイアボール!」

ボッ!

対戦相手の少年から火の球が放たれる。
火の球は真っ直ぐ小奇麗な少年に向かっていく。

しかし、小奇麗な少年は動かない…
ん?このままでは火の球が当たって負けてしまうぞ?
と思った瞬間、小奇麗な少年は、飛んでくる火の球に手を向けて、

「ファイアボール!」

と唱えた。

すると、小奇麗な少年の手から火の球が放たれ、対戦相手の火の球と衝突し、ボゥ!と音を立ててお互いの火の球は消失した。

「くっ…!火の女神めがみカムイよ。ともはなて!ファイアボールッ!」
対戦相手の少年は顔を少し曇らせながら、もう1度ファイアボールを放つ。

ボッ!

「ファイアボール!」

すると、再び、小奇麗な少年は、飛んでくる火の球に手を向けて、ファイアボールを放ち、火の球をを相殺させて打ち消す。

「なっ……!」
対戦相手の少年は見るからに焦っている。


「…火の女神めがみカムイよ。ともし…」

それを見た小奇麗な少年が今度は丁寧に火の魔法詠唱を始めた。

「わわっ!こっ…降参ですっ!!」
小奇麗な少年が火の魔法詠唱を始めると、対戦相手の少年はもう無理!とばかりに降参した。


勝者は小奇麗な少年か…。



「お疲れ様です。そういえば、今日の試験で1位になった人は明日の卒業式で挨拶をするようですよ?考えていらっしゃいますか?」
試合を終え、戻っていく少年に、応援に来ているらしい冒険者や、なんだか白い荘厳な服を着た人、綺麗な装飾の着いた赤いローブを着ている人達が声を掛ける。

…親戚多いな…。



「それじゃあ、決勝戦ね!」
少し休憩をはさみ、ジムニー先生がそう言う。

決勝戦の相手は小奇麗な少年だ。


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