1 / 7
第一章
0.プロローグ
しおりを挟む
人々は神を忘れ去った。
かつて人がまだ無知であった頃、人々は壮大で未知なる存在「自然」、すなわち神を敬い崇めた。神々は人を慈しみ、恵みを与え、両者は共存する関係であった。
しかし、人々が見つけた魔法という力は自然を、信仰する対象から従属させるべきものへと変えさせた。
魔法は技術化され、あらゆる方面へと発展を遂げた。
その魔法技術の進歩は、人類の文明にも未曾有の大繁栄をもたらしたという。
自然を魔法で操ることができるようになり、生活が安定すると、今度は爆増した人口を養うため、今度は同族同士での争いを始めた。
その争いは日に日に凄惨さを増して行ったという。
魔導兵器が、街一つをかるく吹き飛ばせるような強大な力を発揮するようになると、その傷跡は、星の生態系をも変えてしまったという。
歪な生命、魔獣たちが現れ、人々を襲った。
さらに自然を長きにわたり虐げたことで神々は怒り、火は山々を燃やし、風は荒れ狂って暴虐の限りを尽くし、大地は怒りに揺れ、雷の制裁が地上へと降り注いだ。
戦乱、飢餓、天変地異により多くの命が失われ、人類はとうとう地上から姿を消した。
瘴気に満ちた淀んだ大気が、空を覆っている。
轟々と吹き荒れる風の下に、暗い海。
何やら塔のようなものが海面の波間から、頭頂部を覗かせている。
海面から下に潜ってみると、その変わった石造りの塔は海底深くまで続いているようである。
塔をよく見ると、壁面に穿たれた回路のような溝を、脈打つように光が上から下へと流れていく。
その光を追って深海へと潜っていく。
深海。
太陽の光すら届かない常夜の世界。
しかし、その果てしなく長い塔の先に光がある。
やがて眼下には、街の明かりが絨毯のように広がり、所々に高層の風変わりな建造物が突き出ているのが見えてくる。
目を凝らすとうっすらとした光がドーム状に都市を覆っており、そのドームを中心に、さらに小さなドームがそれを取り囲む。それらのドームを繋ぐように、張り巡らされた海中の道の上には、光点がいくつも走っている。
それぞれの小さなドームの中央にも、中央の塔の半分くらいの高さの塔がドームを突き抜けている。それぞれがまた中心の巨大な塔と同じく脈打つような光を頂上から根元に向かって放っている。
わずかに生き延びた人々の居場所は今、陽光の届かない常夜の深海に存在するこの都市だけとなった。
人々の間で、このドームに包まれた街は「アクアリウム」と呼ばれた。
人が地上を捨てる以前は、このアクアリウムという単語は魚を飼育する水槽を意味していたらしい。
今では、人がその中に住んで、魚が外を泳いでいるのだから、皮肉のきいたネーミングとも取れる。
そして、その深海に一帯に存在するアクアリウム群を、総じて「海底都市セレーネ」と呼んでいる。
人々が神の存在を忘れて幾星霜。
地上を離れて二百余年。
かつての過ちも人々の記憶から薄れていこうとしている。
かつて人がまだ無知であった頃、人々は壮大で未知なる存在「自然」、すなわち神を敬い崇めた。神々は人を慈しみ、恵みを与え、両者は共存する関係であった。
しかし、人々が見つけた魔法という力は自然を、信仰する対象から従属させるべきものへと変えさせた。
魔法は技術化され、あらゆる方面へと発展を遂げた。
その魔法技術の進歩は、人類の文明にも未曾有の大繁栄をもたらしたという。
自然を魔法で操ることができるようになり、生活が安定すると、今度は爆増した人口を養うため、今度は同族同士での争いを始めた。
その争いは日に日に凄惨さを増して行ったという。
魔導兵器が、街一つをかるく吹き飛ばせるような強大な力を発揮するようになると、その傷跡は、星の生態系をも変えてしまったという。
歪な生命、魔獣たちが現れ、人々を襲った。
さらに自然を長きにわたり虐げたことで神々は怒り、火は山々を燃やし、風は荒れ狂って暴虐の限りを尽くし、大地は怒りに揺れ、雷の制裁が地上へと降り注いだ。
戦乱、飢餓、天変地異により多くの命が失われ、人類はとうとう地上から姿を消した。
瘴気に満ちた淀んだ大気が、空を覆っている。
轟々と吹き荒れる風の下に、暗い海。
何やら塔のようなものが海面の波間から、頭頂部を覗かせている。
海面から下に潜ってみると、その変わった石造りの塔は海底深くまで続いているようである。
塔をよく見ると、壁面に穿たれた回路のような溝を、脈打つように光が上から下へと流れていく。
その光を追って深海へと潜っていく。
深海。
太陽の光すら届かない常夜の世界。
しかし、その果てしなく長い塔の先に光がある。
やがて眼下には、街の明かりが絨毯のように広がり、所々に高層の風変わりな建造物が突き出ているのが見えてくる。
目を凝らすとうっすらとした光がドーム状に都市を覆っており、そのドームを中心に、さらに小さなドームがそれを取り囲む。それらのドームを繋ぐように、張り巡らされた海中の道の上には、光点がいくつも走っている。
それぞれの小さなドームの中央にも、中央の塔の半分くらいの高さの塔がドームを突き抜けている。それぞれがまた中心の巨大な塔と同じく脈打つような光を頂上から根元に向かって放っている。
わずかに生き延びた人々の居場所は今、陽光の届かない常夜の深海に存在するこの都市だけとなった。
人々の間で、このドームに包まれた街は「アクアリウム」と呼ばれた。
人が地上を捨てる以前は、このアクアリウムという単語は魚を飼育する水槽を意味していたらしい。
今では、人がその中に住んで、魚が外を泳いでいるのだから、皮肉のきいたネーミングとも取れる。
そして、その深海に一帯に存在するアクアリウム群を、総じて「海底都市セレーネ」と呼んでいる。
人々が神の存在を忘れて幾星霜。
地上を離れて二百余年。
かつての過ちも人々の記憶から薄れていこうとしている。
0
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
ダンジョントランスポーター ~ 現代に現れたダンジョンに潜ったらレベル999の天使に憑依されて運び屋になってしまった
海道一人
ファンタジー
二十年前、地球の各地に突然異世界とつながるダンジョンが出現した。
ダンジョンから持って出られるのは無機物のみだったが、それらは地球上には存在しない人類の科学や技術を数世代進ませるほどのものばかりだった。
そして現在、一獲千金を求めた探索者が世界中でダンジョンに潜るようになっていて、彼らは自らを冒険者と呼称していた。
主人公、天城 翔琉《あまぎ かける》はよんどころない事情からお金を稼ぐためにダンジョンに潜ることを決意する。
ダンジョン探索を続ける中で翔琉は羽の生えた不思議な生き物に出会い、憑依されてしまう。
それはダンジョンの最深部九九九層からやってきたという天使で、憑依された事で翔は新たなジョブ《運び屋》を手に入れる。
ダンジョンで最強の力を持つ天使に憑依された翔琉は様々な事件に巻き込まれていくのだった。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる