西猫の詩集

西に鳴く猫

文字の大きさ
上 下
1 / 1

好きな天気

しおりを挟む
「好きな天気はなに?」
誰もが1度は聞かれたことがあるだろう。
でも、好きな天気ってなんだ?
曇りには曇りの良さが、雨には雨の良さが、晴れには晴れの良さがある。
雪もあられもみぞれもある。
「んー、晴れかな」
僕は腑に落ちない思いをしつつも、話を続けるためにそう答えたのだった。

 明くる日は雨だった。
 夕方から懐かしい友人と釣りをする予定があった。
 僕は釣りの準備をしつつも、天気が気になって仕方なかった。
 もう2年近く会っていない。
 話したいことも、聞きたいこともてんこ盛りだ。
 恥ずかしながら、予定が決まった日から心はずっと飛び跳ね舞い上がっていた。
 だから、雨が止んだ時はすごく嬉しかった。
 すぐに友達にメッセージを飛ばす。
 『雨、止んだぞ!』
 友達も気にしていたのか、すぐに返信は来た。
 『了解、先に釣り場に行っててくれ』
 荷物を自転車のかごに詰め込み、すぐに出発する。
 雨が止んだばかりの生暖かい空気を浴び、水溜まりの雨水を引き散らし、僕は急いだ。
 そして、海沿いの道に出た時に見たのだ。
 
「好きな天気とかある?」 
 大学生になり、最初に友達を作る場である学科説明会。
 前の席に座っていたメガネのふっくらした男子が振り返って聞いてきた。
 「好きな天気か…」
 「そう聞かれても難しいよな…じゃあ…」
 彼は優しい。
 こちらが返答に困っていると見て、次の話題を考えてくれている。
 でも…
 「いや、好きな天気あるぜ?」
 あの日に見た光景。
 さて、どう説明しようか。
 物語風に語ってみるのも悪くない。
 さて、どう表現しようか。
 そうだな…

『あの日、僕は見たのだ。
 灰色の雲の隙間から
真っ白な光が、
そう、降臨とでも言うのだろうか。
雨で濡れた車に
どす黒く濁っている海に
キラキラと反射されて
それはそれは
綺麗だったんだ。』
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...