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2.エクレールの苦悩
しおりを挟む大きくなると、教養も必要だろうと、国営の学校に通うことになった。
貴族子女が通う学校だ。そこには殿下も通っていて、不慣れなわたしをサポートしてくれる手筈となっていた。
けど、サポートだなんてとんでもない。殿下は自分の側近候補の令息達と共に、わたしの無知を笑い、その程度の知識しか無いのだとなじった。
そりゃあ、一年先に学園に入った殿下達からしたら、わたしは何も知らないんだろう。それを教わる為に通うのに、という言葉は声にならなかった。言えばまた馬鹿にされるに違いないから。
殿下達がそんな調子だったから、わたしは学年でも腫れ物扱いされてしまった。分別のある人は、それとなく距離を置いた。そうでない人は、これみよがしにわたしを笑い者にした。それは聖女という立場、殿下の婚約者という立場のわたしには不適切ではないかと訴えたのだけど、殿下は本当の事だろうと取り合ってはくれなかった。
学校に通いながら、神殿で祈りを捧げ、将来の為にと王子妃教育を受ける。その合間に殿下と親交を深める為のお茶会。これも殿下妃教育の一環だからと厳しく見張られ、少しでも不備があると叱責を受ける。
殿下が飲むのだからと、一等良質な茶葉が用意されていたけれど、正しく淹れても、ちっとも美味しいと感じなかった。お茶会の間中、殿下はずっと文句を言っているからだ。
やれ、わたしと一緒だとつまらないだとか、辛気臭い顔を見たくないだとか。楽しい話題もひとつも切り出せないから一緒に居る意味がないだとか。
それらすべてにごめんなさい、申し訳ありませんと返す。なんて虚しい時間なんだろう。わたしだって辛いばかりの時間を過ごすのはごめんだった。
どうやら殿下は、わたしが地味な見た目で、会話も弾まないのがお気に召さないらしい。わたしの話す事と言えば神殿での活動の報告、王子妃教育の実践として政策についての答弁だ。確かに、お茶をしながらにしてはつまらない内容かもしれない。でもわたし達に望まれているのはそういうものなのだから、仕方ないじゃないか。
殿下は王国一の美姫と言われた御母君の血をよく受け継がれている。プラチナブロンドの髪に青い瞳、すっと通った鼻筋。国王陛下譲りの長身は彼の王子たる威厳を強調する。
聡明ではあるけれど、あまり政治には興味が無いらしい。そういう話題を出すと目に見えて不機嫌になるのだ。
なんでも、つまらない話は教育時間だけで十分なのだそうだ。ただでさえつまらないのに、わたしの顔を見ながらだと余計につまらない、だったら豆の粒を数えていた方がましだと、意味の分からない事を言っていた。
わたし達は将来夫婦になる。わたし達がどれほど不本意でもだ。その為には多少なりとも、双方の歩み寄りが必要なはず。
なのにそれをせず、一方的にわたしを悪く言うだけの殿下。女神だかなんだか知らないけど、こんな縁を結ばせたモノに、どう祈れと言うんだろう。
この頃からわたしは、これまでのように祈る事ができなくなっていった。
そのせいか、聖なる力はまだ発現しない。
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