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ヤバい声

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俺がフラッと立ち寄った映画の中身はこうだ。

豪華客船の沈没による突然の、家族や恋人との別れをモチーフにした、涙なしでは観られないと宣伝されていた注目の映画。

実は俺、もともと、ミステリー小説が映画化したものを観ようと券売機に並んでいたんだけど、俺の気に入りの最後尾の席が全席満席で… 俺はやむなく最後尾が空いていた、その悲しい映画を観ることにした。

なんか、後ろに人がいるのもちょっと落ち着かないし、後ろでカップルとかで話しながらバリバリポップコーンなんて食べられた日には…映画に集中できなくなり振り返ってそいつらを、殴りたくなる…

だから俺、映画を観る席は、普段から一番後ろの真ん中あたりに決めていた。

映画はやっぱり…楽しい話ではなく、最後、結婚を約束していた愛し合う恋人同士の片方が深海に沈んでいくシーン… 色々な席から…すすり泣くような泣き声がする中…俺は座ったまま、悲しみの余韻に浸っていたのだけど…

「…んっ っくっ…。んんっ…ふ…うぅ…っ」

んー…?近くの席…いや… 俺の席、一個開けて…隣から、あやしい、うめき声がする。

恐る恐る目を向けてみても、まだ、エンディングの曲が流れていて真っ暗なままで、良く見えない…でもこの声…さすがにあやしくないか…泣き声っていうか…まるで、やってる…最中の喘ぎ声…みたいな…。

まさかとは思うが…カップルで座ってて…お互い触ってたり…とか何か…やってんのか…?

おいおい…やめてくれよ~~こんな公共の施設で、よい大人が何…やっちゃってくれてんの…

ここは「ドラ〇もん」とか…良い子も集まる家族団らんもできる、素敵な場所なんだぞ…

「うう…んっ… ふ…っく…んん…」
   
駄目だこりゃ…完全に…ぶっ飛んだカップルだ…
やっべーな…俺は初めてこの時、最後尾の席の危険性を痛感する。

しかもなんだ…この色っぽい声…俺は少しだけ…自分の下半身に…変化を覚える…

暗闇に…小さく…まるで苦痛に耐えるような…喘ぎ声…やべえ…声だけで…

   「っひ…っく…んんっ…うっ…」

この女…公共の場で…なんて声…出すんだ…恥を知れ、恥を…

…もうだめだ…我慢の限界…さっさと出てしまおう…こんなところ…明るくなってカップルと目でもあったらメチャクチャ気まずいし…今のうちに…
そう、俺が思って立ち上がろうとしたら、エンディング曲がやんで、一気に照明がつく…  

うわー…やべー…照明、ついちまった。さっさと出よう、今すぐ…

でも…バカな俺の本能が…チラッとそちらを見るように俺を促した。興味本位で…

      あれ… ? …はい…?

そこにいたのは…一人の…女…
      いや、一人の男、だった…

                   
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