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言霊、あなたは信じますか?
しおりを挟む「なー-んかっ…最近つっまんねえな毎日…なんか面白えこと、ないかな…」
「わかる~~俺も毎日毎日大学とバイトの繰り返しでさ…つっまんね~ 女とも先週別れちゃったし、どっかその辺にイイ女、転がってないかな~~まっじ、女抱けねえし、最近くっそつまんね…」
「だよな~~うちの学部には顔ばれしてっし、いっそ別のガッコの女子と久々に合コンでもやるか?こっちのフリーの男、何人か集めてよ…」
「お!!いいねいいね~それ…!やるか…!?やろうぜ…よし、早速人数揃えるよ。」
「ん、わかった…んじゃ、俺も何人か声かけるわ…あ…アイツ…聡はどうするよ…?アイツ、確か1ヵ月くらい前に彼女できたって言ってなかったっけ…?メンバーから外すか…?」
「や…そうだな…でも外すって言うかいっそ、その聡の彼女に頼んだらどうかな…?友達に可愛い子、誰かいねえかって…何人か連れて来てくんねぇかって…」
「いいな!それ…確か聡の彼女、めっちゃ可愛いって噂、なかったか…?でもなんでか聡、一度も会わせてくんねえよな…まあアイツ、根が真面目だしあんなだから…俺らみたいなだらしない男らに可愛い彼女、会わせたくないんだろうけど…」
「それな!てか、俺らって言うなよ…俺はお前ほどじゃねえよ…三股なんてしたことねえし…間違ってもおまえと一緒にすんな…?ははっ…」
「はは…バレたか…じゃあ俺、聡に聞いてみるわ…また、連絡する…!」
「おう…頼むな…!」
・・・・・・・・・・
「かんぱー-い!」
「かんぱ~~い…!!」
「初めまして~~ …」
ガチャンガチャンと、グラスの重なり合う音が響き渡る…。
「今日はお足元の悪い中、わたくしのためにお集まりいただき、誠にありがとうございます~~えー-…」
「ブッブー… 天気快晴で足元、全然悪くなかったし、誰一人おまえのために集まってねえよ…?くははっ…改めまして、女性陣の皆さん、わざわざお集まりいただきありがとうございます~。」
「いえ~~どうも~こちらこそ初めまして…」
野郎とは違う女どもの明るく高い声で、俺らのテンションは爆上がりだ…。
集めた結果、男5人、女5人、合計10人の合コンが開催された。
そこまで期待していなかったにも関わらず、
女4人のレベルが思ったよりも高く、俺達男4人はウキウキした気分で数時間を過ごした。
だが、その4人の女たちを連れて来た女…つまり聡の彼女、響子は、完全に、別格だった…
真面目な聡が、俺らになかなか彼女を会わせようとしなかった理由がよく分かった…。
透けるような白い肌に大きな目…その目を、目の下に影が出来そうなほどに長い睫毛が綺麗に縁取っている…。
薄いピンク色の形の良い唇が、濡れたような光を放っていて、なんともなまめかしい…
服装は清楚で、残りの女と比べてもその服装に肌を過度に露出した部分がほとんどないにもかかわらず、その見える少しの肌部分からは、不思議な色香を放っていた。
「おまえさ~~言えよ~~あんな可愛い彼女できたくせに、俺らに一度も会わせないとか…ひでーよ…?」
俺は聡の彼女がトイレに立った隙に、すかさず奴の横の席に座り、恨みがましくそう、口にする。
「や…ごめん…そんなつもりはなかったんだけど、なかなかタイミングが合わなくて…なんかわざわざ紹介とか、恥ずかしいし…」聡が謙遜するような素振りを見せる。
「阿呆!!恥ずかしいどころの騒ぎじゃねえだろ…マジでかわいいじゃん…羨ましいな…あんな可愛い子と毎晩、やってんだろ…マジで最高じゃん…いいな~は~~」
「なに…?毎晩なわけ…ないし…変なこと、想像しないでよ…」
聡が嫌そうな顔をするが、まんざらでもなさそうだ。少し悔しいなと思いつつ、言葉を続ける。
「まあでも、可愛い子ばっか連れてきてくれたし、俺らも楽しんでるよ…?ま、これからも仲良くやれよ…?」
彼女が戻って来たので俺は聡の肩をポンと叩き、聡の隣の席を彼女に返還した。
だがその後…聡が彼女を人前に出さなかった理由が少しだけ…いや、完全にわかった気がした。
なぜなら彼女は…ウザイくらいの、訂正してください女、だったからだ…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それは、飲み会の終盤のこと…
酔いがかなり回り始めた俺は、段々と、愚痴をこぼすようになった。
「ほんっと、マジうぜーーんだよ、アイツ…細川、教授よっ…せっかく朝イチから出席してんのに、最後ちょっと途中退席したからって、あからさまに欠席扱いにするってどうよ…?単位取るためにこっちは必死なのによ~~少しは目、つぶってくれよ、って…思わねえ…!?」
「うんうん… 確かに、そうだよな~!」周りが同調するかのように、頷く。
「だよな~ フルで出ないと出席扱いにしないとかどこにも書いてないじゃんってな~そもそも講義中の、君らには到底わからないかもしれないがっていう、あの無駄な前置き…マジ、上から目線でムカつくわ~~いっぺん死ねよって…!なあ…!!」
「そうそう、むかつくわー-…」
「…その … … して、ください。」
突如、女の声が、会話に挟まる。
ん… ?? 今、誰か…何か、言った… ?
「あ…響子…もう、いいよ…ここではさ…それは…」
聡が彼女にぼそりと何か、耳打ちをする… 意味が、わからない…
ん… ? なんだ… 今の声は、響子ちゃん…?俺は彼女を見る。
彼女が俺を真っ直ぐに見つめる視線とぶつかり、ドキリとした瞬間、
「その言葉…今すぐ、訂正を…いえ、取り消してください…田中さん。」
「へ… ? …」田中は、俺の名前だ…今、ハッキリ名指しされた…
俺に…言葉を、取り消せと… そう言ったのか…?なんで… ?なんか言ったか、俺…
え… ?どういう、意味… ?ってか、
どの部分を取り消せと…?
俺は意味が分からないまま、それでも一応、自分の発した言葉をたどる。
「その、悪い言葉を…発言を…田中さんがさっき言われた、いっぺん○○○、の、その言葉です…駄目です、その言葉…復唱すら私にはできません。既に、魂が宿ってます… 言霊です…ご存じですか…?」
「へ… ?へ… ?? は… ?悪い言葉… 言霊… ??」
「そうです…悪いことは言いませんから…お願いですから今すぐ、神様に向かって、その発言を取り消してください。でないと、現実になってしまいます…」
「何…言ってんの…?神様って…?…てか、さ…何、その真剣な顔…ははは 」思わず、笑う。
だが、聡の彼女は真剣な顔で…まっすぐに俺を見つめていた…
冗談でもなく…完全なる真顔で… 発言を取り消せと俺に申し出ている…
聡は、あーあという、もはや諦めたような顔で俺を見つめつつ、
俺にまるでそうしろと促すかのように…何度も、うなずいている…。
あほか…何、言ってんだ、この女…しかも聡、お前もか…
何、彼女のいいなりになって、うんうん頷いてやがんだ…何が、魂だ…
あっほらし…魂とか、言霊とか、意味わかんねえ…俺は、完全に呆気に取られる。
他の男らも、俺と同様の反応なのが、見て取れた。
だが、それにしても、場の空気が変だ…
不思議なことに、彼女の友人らしい4人の女は全員、聡同様に、うんうん頷いている…
「つー-かさ…俺、他人に、あーしろこーしろって指図されんの、マジで嫌いなんだよね…しかも神様とか、いるかっての…あっほらし…取り消しなんて、ぜってーしない…」なんか、イライラしてきた。
「あの…本当にお願いですから、早く取り消してください…でないと、自分に跳ね返ってきてしまいます…お願い…今すぐここで…ここでが嫌ならトイレでも外でも…お一人になってからでもいいですから…」
彼女の顔に…その表情に…おかしなくらいの必死さが、うかがえた…
だが、なんでこんな皆が見ている前で俺がそんな滑稽な、言葉の取り消しを要求されなければならない…?
冗談はほどほどにしろよという、そんなムカつく気持ちの方が勝ってしまった。
「あのさ…何、君…マジで、気味悪い…勘弁してくれよ…俺、ヤダっつったじゃん…てか聡、おまえの彼女、頭、大丈夫なんか…?人の発言にいちいち口出して…だいたい教授のことも知らないくせに、取り消せとかなんとか、偉そうに何言ってんの…?」
「田中…頼む…俺からもお願いだ…さっきの発言を取り消して、きちんと撤回して欲しい…ごめん…今回だけは俺に免じて…マジで取り消して欲しい…でないと、ヤバいんだよ…真面目に聞いてくれ…」
聡まで…おかしなことを言いだし始め、俺はさすがに我慢ができなくなる。
「あほか…おいお前ら…俺もう、今日は帰るな…?なんかめっちゃシラケたわ~なんで話、通じないわけ、こいつら…てか聡、お前、くっそ真面目過ぎて、なんか怪しい宗教か団体かなんかに洗脳でもされたの…?マジ、彼女ヤバいんじゃね…そのお綺麗な顔に、うっかり騙されたんじゃねえの…?
じゃ~な…おまえらも、洗脳されないように気をつけろよ…?」
俺はバッグを片手に、会費をテーブルの真ん中にバサリと置いて、その店を後にした。
ふっざけんなよという、気持ちで…
・・・・・・・・・・
あ~ イライラする…!!!
俺は一足先に店を出て、足早にコンビニへ向かっていた。
なんっだよ、あの女…んで、聡… !!
顔は確かに信じられないくらいに美人なのは認めるが、あんな頭が変な女に、簡単に洗脳されるとか…
それほどに、聡も真剣な表情だった…必死さが、見て取れた。
大体、言葉に魂が…とか、言霊がどうとか、何の話だよって…
言葉は、単なる言葉だろって…。
言葉の暴力っつっても、本人に言ったわけでもないんだし、あの言葉も、単なるノリで…ある意味、勢いで言ったし、そんなんでいちいち、発した言葉を訂正しろとか取り消せとか言われたら、この世の中、なんも…何一つ、陰口も、悪口も言えなくなるじゃん…。
あ~~~ マジで窮屈な世の中じゃん…
っていうか、思い出した… ああ… !マジで、悔しい…
さっきの女の子の一人、沙也加ちゃんとイイ感じになってたのに…
80パー位、お持ち帰りできると思ってたのに…
もはや、全て台無しだ~~最低だ、あの女… あの、取消女… いや、言霊女め… …!
は~~むしゃくしゃする…
気晴らしに、久々に漫画でも買うか… そうだ、新刊、出てるんだった…
あ、あったあった! これこれ…
… てか、誰が、取り消すかってんだ…
むしろ、敢えて言ってやる…念じてやる… アイツ、死ねよ…死ね死ね死ね…
どうだ…更に言ってやったぞ… もちろんこれは、俺の頭の中、だけだけど…
これも、いちいち丁寧に、取り消せってか… ったく、マジあほらし…
、なんだ… まぶし、ー---
ん … ?
きゃあー--っ…!!! … 何 …
え…?
ガシャーン!!! バリバリバリ…
ーーーーー ドン…! ド、ド ン…ガシャ… ガシャ… ガシャン…
がっガガガ…バサバサ…
ぐしゃ… バサ…
「きゃあぁーーー!!あぁぁ…、人がっ!…」
「おい… 君… っ…!!! 大丈夫か… !!? …誰か… 電話っ …
救急車… っ… … 」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「えー-…皆さんもニュースで知っておられるとは思いますが、昨夜未明、87歳の男性が、コンビニの駐車場でブレーキとアクセルを踏み間違い、そのまま勢いよく店内に突っ込み…運悪く窓際で雑誌を読んでいた本校、大学2年生の… ……さんに正面衝突し、…現在、彼は意識不明の重体となっています…。
彼は、この講義を受講していた熱心な学生であり、皆さんにとって…そして私にとっても大変残念なことではありますが、今は彼の無事を、ただただ…祈るのみです…。
もはや、気を付けるのは道路や歩道だけではありません…。この高齢社会…そして、運転技能試験の回数が極端に少なく、いまだに採点が甘く…審査が緩過ぎる日本においては…今この瞬間にも、道路上に…走る凶器は増え続けています。これからも十分身の回りには気を付けて、学生生活を送って下さい…」
なんだ、これ…
なに、…
てか何、この結末…
呪いかよ…
言霊女の、言う通り…に、
取り消せば、
よかった…のか…?
発言、取り消します…
もう遅いわよ…
あの女が、くすりと…笑った気がした
~完~
応援ありがとうございます!
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とても面白かったです。他の作品もたくさん読ませていただいていますが、どれもおもしろかったです。
また作品楽しみにしています。
感想をいただきありがとうございます。他の作品まで読んでいただいているとのことで、より一層嬉しいです。
不定期更新とはなりますが、引き続き読んでいただけると幸いです。