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ご教示

要は

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下手…    駄目…

俺の脳内に、男に言われた忌まわしいワードがぐるぐると回り始める。

「おい、どうした…?マジでおまえ腰抜かしてんじゃねえ…?そんなに俺のキス、良かったか…?率直に言って、どうよ…?」

男が…さも、自信ありげにニヤリと笑う。

口に出しては死んでも言う気はないが…
正直に言うと…

男のキスは…恐ろしいほどに良かった…
キスが上手いとはあんな感じを言うのだろう…舌使いが…その、強引な唇の塞ぎ方が…
ヤバい…  なんか変に…ぞくぞく、した…

俺は男だが、相手が女なら…たまらない気持ちになっただろう…

ふと、男が…強面だが、物凄く整った顔をしていることに気付く…

勝手な印象だが、派手な女性が好みそうな顔…そして、危険なオーラをその身体…全身から発する男… 

「おいこら…おまえ、無視すんなよ…たかがあの程度のキスくらいで、まさか、昇天しちまったわけ…?  くくっ… 」

「だ…誰がっ…!!」

明らかに、男におちょくられている…
俺は必死に、言葉を続ける。

「あの…ですね…俺が相談したのはあくまで、その…ムードとかそういう…雰囲気的なもので…」

「アホか、おまえ…ムードとか知るか…そんなもんはその場の雰囲気でなんとかなんだよ…要はな…技術、だよ…
セックスは技術だ。
ムードとかへったくれとか、知るか…セックスは本番の技術…マジで、それに尽きる。
どれだけ本番前にムードを良くしようが、いざやったらド下手だった… とかさ…
そんなん、むしろ逆に痛い奴になり下がるぞ…」

「 …ぎ…  、 …技術… 」

俺は、男の堂々としすぎた回答に、
   しばらくの間、反論を忘れた…






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