若き総理大臣は桜の彼女を溺愛しつくす

松コンテンツ製作委員会

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第5話『竹内蔵之助の逆襲!』

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 東京都千代田区永田町。国会議事堂に隣接する衆議院第一議員会館。その棟では、国会議員ひとりごとにオフィスが割り当てられ、東京での仕事場となる。

 秋津悠斗の部屋にこの日、訪問客のアポがある。
 秋津悠斗に敵対的な人材派遣会社会長。竹内蔵之助であった。

 秋津悠斗は漆黒のスーツに紺のネクタイ、尖った革靴でデスクにつき、書類に印鑑を押して決済している。

 秘書の国枝晴敏と柏木神璽が訪問客を秋津悠斗衆議院議員に取り次ぐ。

「秋津議員、パーソナルリクルートサービスの竹内蔵之助様がお見えです」

「うん、通してくれ」

 でっぷりと太った初老の男が現れた。
 この男こそ、人材派遣会社パーソナルリクルートサービスを経営しながら、派遣の需要を増やすように政府内部で総務大臣、民間委員として規制を緩和し、我田引水を試みる政界の黒幕だ。

「秋津君、当選おめでとう。これで保守党の改革は進むだろうな。改革もいいがお手柔らかに頼む」

 秋津悠斗の言う改革とは、皆で助け合う古き良き日本社会を目指し、竹内蔵之助の言う改革とは、要するに貧乏人は麦を喰うビジネスライクな社会ということだ。

「竹内元総務大臣の施策を否定することにはなりますが、こちらこそお手柔らかにお願いしますよ」

 一応土産を受け取り、そして両者力のこもらない握手をする。

 コーヒーが出され、秋津悠斗が綺麗な指でクリームを落とし、スプーンでくるくるとかき回す。

「やはり秋津議員、人材にお困りではないですかな? 我がパーソナルリクルートサービスの人材をスタッフとしてお貸ししますよ」

「ならば話が早い。ひとりうちに欲しい人材が」

「お安いご用で! ……え? ひとり?? ひとりでいいのですか?」

 竹内蔵之助が持ってきた名簿が無駄になった。

「桜香子さんをご存知ですね?」

「財務省事務次官のご令嬢ですな。知っておりますとも。彼女をリクルートしたのは会長の私ですから」

「彼女を保守党本部の図書館の司書として正規職で採用します。岸本総理大臣の許可は得てあります」

「しかしね、そんな急に」

「なにかご不満でも?」

 竹内蔵之助が苦虫を噛み潰したような顔になる。が、すぐに態度を変え、にへらにへらと笑い、手揉みする。

「いやあ! 秋津先生の雇用問題に対する熱意! 胸に沁みました! ついては、我がパーソナルリクルートサービスと保守党との人材派遣業、コンサルティングでの業務提携を考えていただきたい」

 竹内は小切手入りのまんじゅうを渡すが。

「はいそれまでよ」

「なっ! ジャーナリストの磯月記者」

 磯月望子記者がビデオカメラを手に。一部始終を撮影していた。
 竹内は腰を浮かす。

「元総務大臣の竹内蔵之助さん、贈賄と公職選挙法違反の現行犯ねえ?」

 秋津悠斗が腕を組み、目を細め、ふん、と鼻を鳴らす。
 そしてコーヒーを飲み干し、ガチャ! と受け皿に置いた。

「今回だけは見逃すが次はないと思え! 派遣労働者のための政治は、俺が俺の意思でやるんだ。賄賂を受け取る筋合いはない!」

「秋津議員……」

「正社員を望む非正規労働者には、俺自身が対応する。人材派遣会社からの助けは無用だ」

 国枝晴敏と柏木神璽が竹内の茶を下げる。

「竹内元総務大臣。お引き取りを」

 竹内蔵之助は青くなったり赤くなったりしながら口をモニョモニョと動かし、青年代議士のオフィスをあとにした。

     *    *

 帝国ホテルに黒塗りの高級車が停まり、中から秋津悠斗が姿を現す。
 慌ててもてなそうとする総支配人を平手で制し、重たい肩書きに似合わぬ軽い足取りでホテルのロビーに入る。それはまるで英雄の凱旋に思えた。
  
 総支配人に、秋津悠斗はロビーに待機するマスコミと総支配人をかわるがわる見て、目線で合図。
 それを察した総支配人は無線で他のコンシェルジュを呼び、マスコミを排除した。

 秋津悠斗が尖る靴音を踏み鳴らしながら国枝に問う。

「で。次のスケジュールは?」

 悠斗はわかってはいるが、半ば自分自身に確認するように問うた。

「まもなく桜俊一財務省事務次官がお越しの予定です。名目としては官僚が政治家にするレクチャーとなりますが……話したいことは別にあるのでしょう?」

「……」

 秋津悠斗の秘書のふりをして、眼鏡をかけて変装したまま桜香子が隣をついていく。

 そうしてエレベーターに乗り込む。

「緊張しますか?」

 秋津悠斗の桜香子への問いはあるいは自分自身の緊張ゆえに発せられたものであったろう。

「うん、緊張する。だって……」

 これから数年ぶりに父と再会するのだ。

 チン、とエレベーターが停止した。
 そして運命の時。
 
 エレベーター停止位置の向こうに人影があった。

 互いを確かめるように、その人影、財務省事務次官の桜俊一と保守党図書館司書の桜香子が歩み寄る。

 その足取りはだんだん早くなり、やがて間近で向き合う。

 感動の再会に秋津悠斗が目を潤ませた。

「お父……さん」

 再会の感動で声がくちゃくちゃになった娘を、父は優しく頭を撫でた。

「香子、ずっと会いたかったよ」

「私も連絡取れていなくてごめんなさい」

「長らく辛い思いをさせたね、これからは家族4人で暮らそう……いや、5人かな?」

 桜俊一は後ろで涙ぐんでいる秋津悠斗を意識して言う。この青年のピュアで涙もろい一面を俊一はいたく気に入っていた。

 財務省事務次官は与党青年局長に歩み寄り、やや遅れて司書も歩いてきて、父娘ともども青年局長に頭を下げる。

「今回の青年局長のお計らい、感謝の念に堪えません。誠にありがとうございます」

「悠斗君、ありがとう、お父さんを守ってくれて。私を司書にしてくれて」

「か、顔を上げてください、私はただの当選1回生の若造です」

 すると桜俊一が不敵な笑みになった。

「おやおや、総理大臣と取引しておいて、さらに、身持ちの固いうちの娘を手籠めにしておいて謙遜なさいますな」

 悠斗と香子、赤面しっぱなしだ。

 香子が、チラチラと、俊一の秘書らしき女性と目が合う。
 香子よりもフェミニンな見た目の彼女は、

「財務省に務めております、桜凪子さくらなぎこです」

 悠斗が目をギョっとさせる。桜香子の妹だ。

 そうして、秋津悠斗と桜俊一が名刺交換に応じた。

     *    *

 上野公園のベンチに、変装した竹内蔵之介が座り、やや遅れて、そこにノーネクタイの眼鏡をかけたサラリーマン風の男が隣に座る。
「やれやれ、あの若造に一杯食わされたわ」
 竹内蔵之介が茶色の封筒を男にぐいと渡す。男は中身を一瞥し、受け取った。
「確かにお預かりしました。これを来週の紙面でばらまきます」

     *    *

 マスコミにリークされていることを知ってか知らずか、秋津悠斗と桜一家は帝国ホテルのルームサービスで幸せな食卓を囲んでいた。
 白くかがやくテーブルクロスに、赤いマットが敷かれ、前菜、クルトンが乗ったサラダに、フレンチで付け合わせに出てきそうなパンの数々に、頰肉の煮込み、白身魚のソテーなどが並ぶ。

 桜凪子がでしゃばってきて、パンやサラダを取り分けようとする。
 妹の分際でチラチラと、悠斗に色目を使っており、香子は不服そう。

「そうでしたか、妹の凪子さんも財務官僚だったんですね」

 悠斗がパンにバターを塗りながら話す。

「よろしくお願いしますわね、秋津先生」

 凪子は手を合わせて、うっとりとした表情。

「秋津議員に凪子。ふたりは年が近い。よろしくお願いしますぞ」
 
 交際している香子が悠斗の2個上で、義妹の凪子と悠斗が同い年。複雑な年齢差だ。

 で、香子が頬をふくらませる。

「悠斗くん、ソースが口元についてるよ」

 香子がナプキンを手に悠斗に顔を近づける。行儀作法に優れる秋津悠斗の口元にはついていないはずだが。

「え? そうですか」

 優しくぬぐう。

「ん、取れた」

「あ、ありがとうございます」

 香子、メラメラして対抗してみちゃったり。

 桜俊一が顔を綻ばせた。

「いやあ、若いというのはいいことですね。ここに家内がいないのが残念ですが」

 メインディッシュを食べ終えた俊一がナイフとフォークを置く。

「確か神職につかれているのですよね」

「簡単に休めないのですよ」

 桜俊一がワインを煽る。

「だが、私は秋津議員が目指す政治に微力ながらご恩返しができるものかと思います」

 秋津悠斗がデザートのスプーンを取ったが、やがて置いた。その言葉だけで何百万円もの価値があった。

「俊一さん、お嬢さんをいただいたばかりか、私のマニフェストにまで共鳴いただき、ありがとうございます」

 桜事務次官がうなずく。

「私は幸せにします。香子さんも、この国も」

      *    *

 東京都千代田区。保守党本部ビルにて。
 青年局長執務室にて、秋津悠斗と桜香子が図書館から資料を取り寄せたついでに談笑している。
 香子があたたかいココアを淹れてくれ、ふたりでソファーでくつろぐ。

 バァン!と 扉が開けられる。

「──た、大変だ!」

 ノックもせずに公設秘書の柏木神璽が雑誌を手に入ってくる。

「どうした柏木君、ノックくらい……」

「こ、この記事を見てください!」

【 秋津悠斗衆議院議員が愛するのは財務省事務次官のご令嬢!? 】(産政新聞ネット記事)
【 竹内蔵之助元総務大臣への恫喝音声流出! 保守党青年局長が民間企業に圧力か!?】(読書新聞一面)
【 与党青年局長と財務次官令嬢の熱い夜 】(江戸スポ)
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