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第二章:独裁の予兆!?中央政治局常務委員《フラワーナイン》の選抜

第44話:才能の暴力!?幼い少女が放つ思力

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「ハルカの選抜は、経験を積ませるためではありません。その実力が、新中央政治局常務委員《フラワーセブン》に必要と考えたからです」


 コウと主に会場にいるハクモクレン閥に向けられたフーの容赦ない一言。

 つまり、選ばれなかったのは幼いハルカよりも実力がないと言ったようなものだ。

 ハルカは、最年少で、ロサ・キネンシス市に隣接する省の書記になり、その後、北方の華の国が配合している異民族自治領の書記に就いた。
 
 自治領と言っても名ばかりで、当然、党支配下の中での自治という意味だ。
 
 オウの出身でもある北方の異民族は、オウのように勇猛さを美徳とする。
 
 古くは、その異民族が、華の国全土を支配したこともあるのだ。

 だから、何かと党とは衝突していた。

 そのような地で、ハルカは書記を任されているが、ハルカが就任して以来、これと言った問題は起こっておらず、安定しているのだ。

 実際、ハルカは、現地の異民族からも評価が高いという。

 十四歳にも満たないハルカは、すでに実績なら並の党幹部を上回るのだ。

「ハルカ、皆様に何か一言を」

 まだ会場がざわめきたっているなかでフーは、ハルカに発言を求めた。

 ハルカは、中央政治局委員《リッジ・オブ・フラワー》にすらなっていない。

 そのため、会場の後ろの方に座っていた。

 ハルカは、すっと立ち上がり、会場を見渡した。
 
 その所作だけで、会場にいる者は皆ハルカに注目した。

 薄青い流れるような髪に、大きな瞳。まだ、幼さが残るその顔は、神童というに相応しい神聖な美しさがあった。

 立ち上がる所作一つで、会場の視線を集めることが出来る。
 
 それだけで、この特別な者だけが集まったこの会場の中でもさらに特別だということが分かる。

「ハルカです。この度は、中央政治局常務委員《フラワーセブン》にご推挙ありがとうございます。もし、中央政治局常務委員《フラワーセブン》に務めさせていただけるのでしたら、これまで以上に党と国民にこの身を捧げることを誓います」

 透き通った、神聖な声が会場に響いた。

 それだけで、まるで思力を使ったのかと錯覚するくらい、会場の者はハルカに支配されてしまったかのように沈黙した。

 俺でさえ、ハルカの凄さの片鱗が分かった。
 
 ここにいる者は、思力の達人達ばかりなのだ。

 俺以上にハルカの力、潜在力を感じとっただろう。

 才能の暴力だ。

 ここにいる一部の者以外、多くの者が、まるで一般人だ感じられるくらい。
 
 それくらいハルカは群を抜いた思力を有している。

 コウでさえ、目を見開いて驚愕している。

 少しの静寂のあと、割れんばかりの拍手が会場をいっぱいにした。
 
 ブルーローズ閥が、ハルカの選抜を承認するかのように拍手を送っているのだ。

 会場前方に座る現中央政治局常務委員《フラワーナイン》の面々はブルーローズとハクモクレンで対照的だ。
 
 当然、シュウを筆頭にハクモクレン閥の者は面白くなさそうな顔をしている。

 この流れとこの空気。
 
 フーの推薦した人事案が、そのまま承認されるかのようだ。

 フーは、マーリーとヨンファの選抜というハクモクレン閥と争議点を、ハルカという神に愛されたとも言うべき才能の持ち主を出すことで、見えなくしたのだ。

(このまま、フー様の人選通りになるのでは)

 フーの自信とハルカの才能によって会場は、まるで思力によって支配されたかのようだ。

 (シー様の想定するメンバーにならないのでは)

 俺は、シーが今どのような表情なのかと思い、シーを見た。

 シーは、相変わらずの無表情……というわけではなく、微かに笑みを浮かべていた。

 (え、シー様の想定とは逆に進んでいるのに?)

 シーの笑みには違和感があった。

 なぜなら、シーはブルーローズ閥にも手動権を握られないよう新中央政治局常務委員《フラワーセブン》のメンバーを想定していた。

 このまま、フーの人選が進むのなら、それとは逆になる。
 
 ここからハクモクレン閥がどのように出るかも分からない。

 しかし、ハクモクレン閥から発せられる殺気は、ただでこの人選を通すことを許さない雰囲気だ。

 そんな中でシーは嗤っている。

 (俺《かつき》のいた世界でも、最初は、こういう人選だったな)

 俺《かつき》がいた世界にあった、華の国にそっくりな国で、シーのような立場にいた者が、同じように国のトップに立ったとき、その周りを固めるメンバーの人選は、派閥争いを反映して二転三転したことが伝えられている。

 だが、最終的に派閥を持たない者の都合の良い人選になった。

 同じような事が、この華の国でも起こるのだろうか。

 改めて、俺はシーを見た。

 (えっ……)

 俺の視線の先のシーは、俺を見返していた。

(また、あの時のような……!?)

 それだけではない。

 闇が、俺に向かって伸びてきた。

 オウやフーの時と同じよう。

 誰もそれに気づかない。

 (ま、また!?)

 俺は、俺《かつき》の世界で、ハクモクレン閥にと似たような派閥がここから、どのように挽回するか、知っている。正確には、記事を読んだだけなので、実際に起こっ事かは分からないが。

 また体の自由が効かなくなってきた。

 (シー様は俺に何を……?)

 その後、俺は、俺がこの場でとんでもないことを口走るのを聞いた。

 

 
 
 
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