ああ、もう

コロンパン

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ただ、ただ混乱です

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私はコーデリア様の笑顔に少し見惚れてながらも、小さく頷きました。

「え、ええ。リア様が居なくなるのは、とても寂しいです。」

「私と離れるのがお嫌ですか?」

再度確認されるようなお言葉に聞こえましたが、嫌である事には変わりありません。
私は今度は大きく頷き、コーデリア様を見つめます。

「ええ、リア様と離れたくありません!」

するとコーデリア様は満面の笑みを浮かべ、そうして殿下に向き直りました。

「ですって、殿下。アイリ様を悲しませるおつもりで?」

「・・・・!!」

横に立つコーデリア様を盗み見ると、何故かコーデリア様は勝ち誇ったお顔をなさっています。
対して殿下は悔しそうなお顔です。

お二人の間に火花が見えたのは気のせいでしょうか。
とても険悪な雰囲気がこの部屋をに立ち込めます。
私はこの場をどう収めれば良いか、懸命に頭を働かせました。

そうです。やはり一度ちゃんとお話し合いをすれば、きっと和解する筈です。
そもそも仲の良いお二人なのです。
何が原因でこの様な事になったのかを明らかにしたら、少しは冷静に物事を見つめる事が出来るでしょう。
そうすれば直ぐに仲直りが出来ます。

私は意を決して、お二人の間に立ちました。
殿下もコーデリア様も大きく目を見開きます。
私はお二人を交互に見遣り、そしてこう告げたのです。

「お二人は恋い慕う仲ですのに、そのように喧嘩をなさるのはお止め下さい。」






静寂が訪れます。
良かった。
殿下もコーデリア様も冷静になられたみたいです。

少なくともお二人の険しい表情が和らいだように思います。
安堵の息を漏らすと、コーデリア様からお声を掛けられました。

「ア、アイリ様・・・?何を仰っているのですか?」

「え?」

私にゆっくりと近づいて来られるコーデリア様の表情は、何故か引き攣れていらっしゃるように見えました。
コーデリア様は私の両肩を掴まれ、お顔を近づけます。

「私の聞き間違いであって欲しいのですが、アイリ様?
もう一度仰ってくださいますか?」

ああ、よく聞こえていらっしゃらなかったのね?
今度はちゃんと伝わる様、ゆっくりと話しました。

「殿下とコーデリア様は、お互いに、想い合っていらっしゃるのでしょう?
ですから、そのように仲違いなさるのは宜しくないと思います。」


信じられない者を見る目つきで私を見つめているコーデリア様。
何故、そのような表情をなさるの?

「うわぁ・・・。これ、不味い。不味過ぎる。」

コーデリア様、淑女らしからぬお言葉を呟きながら、殿下の方へ顔を向けます。
私も殿下を窺います。

「・・・ひっ!!」

思わず、悲鳴が漏れました。
殿下のお顔がとても、恐ろしい物に見えたのです。
私は実際に見た事はありませんが、残忍な殺戮者の様な、そんな凶悪な表情です。

「・・・アイリーンは、俺が婚約者の貴女を差し置いて、他の女性と現を抜かす人間だと思っているのか?」

「え・・・?」

大股で近づいて来られる殿下。
気が付いたら目の前にいらっしゃいました。

殿下のお高い身長から下ろされる冷ややかな目線に背筋が凍りました。

「俺をそんな愚かな人間だと思っていたのか。」

「そ、そんな・・・。私は殿下の事を素晴らしいお方と・・・。」

「素晴らしい人間が不貞を働くのか?」

殿下の鋭い言葉に息を呑みます。

「そ、それは・・・。」

殿下の目を見ていられなくなり、私は堪らず視線を落とします。
殿下を侮辱していた、そう恥じ、何も答える事が出来ませんでした。

そうです、殿下はふしだらな人間がお嫌いなのです。
ならば、御自分がその嫌悪する行いを為さる筈が無いのです。

何て愚かな考えを抱いていたのでしょう。

「あ~、もう。殿下、またアイリ様に凄んで怯えさせて。」

コーデリア様がまた私の前に立ち、殿下からの距離を保つように私ごと後退し、視線を遮って下さいました。

「・・・凄んでなどいない。」

バツの悪そうな殿下の声がします。

「凄んでるでしょ。殿下の顔がそんなに怖いのだから、凄んでるのと同じですよ。」

「だから、凄んでいないと言っている。」

「はあああ、どんだけ余裕が無いのだか・・・。」

「ど、どういう意味だ!?」

ああ、またお二人が言い合いを。
私は殿下に駆け寄り、殿下の腕に触れます。

「殿下、申し訳ございません。殿下を侮辱する発言をしてしまいました。
清廉潔白な殿下が不貞など行う筈がありませんでした。」




また静寂です。

何故でしょうか。

「ぶっ!!」

コーデリア様がお腹を抱えて笑い出しました。
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